お城の中のとある客室に
お久しぶりの再開です。
個人的にはずっとカクヨムの方にコツコツアップしていたので鈴蘭の客人自体とはお久しぶりではないんですが。
何年も前に書きだしたはずなのに、それほど手を加える必要がなくて驚いています。
戻って来たお城での日々がまた始まります。
今回はそれほど長逗留にはならず、クリスタラー領に戻って、冒険を開始したいと思います。
思っては! いるんだ!!
お城の中のとある客室に案内された私とトリクシーは、とりあえずソファへと座る。
白い木製の丸テーブルを囲むように、一人掛けの布張りのソファが三脚。私と、トリクシーと、クラウス先生が座ったらそれで一杯だ。まあ、ナターリエさんはすすめられても座らないだろうけれど。
今回お部屋にいてくれたのはナターリエさんだけで、ニコラさんにはまだ会っていない。彼女が私たち突きから外されるとは思えないので、多分今いないだけなのだろう。
「さて、まずはそちらのお話から伺いましょうか」
クラウス先生に、冒険者ギルドに行って、カンテラを持ったことを説明した。まさかカンテラで能力を測るとは思わなかった。
それから私のスキルについてと、冒険者ギルドでいただいた助言について。あああと、スリングショットのスキルをゲットしたことを伝えた。
多分、私が石をセットしてぶんぶん振り回している間に、トリクシーが倒してしまうだろうという想定も一緒に話した。話さなくても全員そう思うでしょうけれど。
そんなところかなあ。ちゃんと馬に乗っています、とも伝えた。バルタザールは根気良く付き合ってくれる、良い馬でした。
「では、こちらから」
クラウス先生は頷きながらこちらの話を聞いてくれた。特にメモを取っていないのは、覚えられる範囲内だったからと想定の範囲内だったからだろうと思う。それはそう。
「まず、エリィ嬢が母国に帰還されるには、島にある神殿で儀式を行う必要がある。ここまでは良いですね?」
「はい」
「それは白の月に行われるので、それまでに到達する必要もある」
「はい」
「島からは受け入れる、と返答があったそうですので、それについては問題がありませんが」
「が」
そこで切らないでいただきたい。
いやまあなんとなくは分かるんですが、その。やっぱり、こう。不穏な気配がする。
「誰もがやはり、バルドゥイーン様を自国にお迎えしたい、という返答で、調整が難航しているようです」
「ならやはり勝手に通るしかないですね」
「そうなりますね」
ひょい、と、トリクシーが肩をすくめた。クラウス先生も同じようにする。仕方がないので、私もそうした。
そもそもそうなるだろう、というのは誰の目にも明らかだったために、私は冒険者の資格を取ったのだし。確か。多分そう。
「ここ、白と黒の大陸は、小国家群とも呼ばれています。いくつもの小さな国々がひしめいていまして、いくつかの国からは通行許可証が出ています」
それは後程まとめて渡してもらうことが出来るという。ただ、その準備にもう少し日付が必要だそうで。少なくとも今日は一泊。
晩餐会は私が緊張していたのが見て取れたので、もう少し格式を落とした夕食会の開催としてくれるそうだ。
各式を落とした、と言われても、私は貴族ではないので緊張はするわけですが!
「陛下は父の友人だから、まあ、そんなに緊張しないで」
「無茶いう」
「遠縁のおじ様だと思ってもらうしかないんだけれど」
「陛下方も、異国のお話は伺いたいでしょうから」
クラウス先生も苦笑している。お気持ちは分からなくはない。私が殿下方のお立場なら聞いてみたいと思うでしょうし。
「本日の午後は、他にはそうですね、植物園に行きましょうか」
それから、と、クラウス先生は流石に手帳を取り出した。
「ああ、司祭様がたが面会を要望されておりますから、明日にでもお茶会を」
「今日ではないんですね?」
「今日にしますか?」
お昼ご飯を食べてからお城に来ているので、やろうと思えばこれからお茶会を開催できなくもないと思う。強行軍寄りだけれど。その後夜に晩餐会じゃなくて夕食会があるらしいし。
「明日にしてくれ」
「ではそのように」
悩む私をよそに、トリクシーが明日に決定する。まあ司祭様たちも明日がいいらしいし明日でいいんだけれど。
「明後日にはおそらく出立の準備も整うでしょう。もう少し遅くなるようであれば、クリスタラー領に伝令を向かわせましょう」
ちなみに、明日の空き時間はお城にいる馬じゃない生き物に乗ることになった。鳥である。走る鳥に、空を飛ぶ大きな鳥、角の生えた鳥なんてのもいた記憶がうっすらある。
「では、本日の夕食会のお召し物についてです」
す、と、壁際からナターリエさんが進み出てくる。と言ってもそれほど、いや広いんだけど、壁際がとても遠い、ということはないので、会話は容易だ。忘れそうになるよね。部屋の広さ。なんかもうずっと部屋も廊下も広い場所にしかいない。帰ったら狭いって思って生きそうだ。
「前回の晩餐会の時はドレスをお召しになられましたが、今回はもう少し気楽な会にされたいとの事です」
「とてもありがたいよ」
隣のトリクシーがほう、とため息を吐いた。私もあのドレスは辛かったけれど、トリクシーも辛かったようだ。まあ今まで回避して生きてきたのだし、私よりも辛く感じたかもしれない。
ナターリエさんはトリクシーのアカデミー時代のご友人だそうだから、その辺りの事もよく分かっているだろう。彼女に向けてほほ笑みを多分投げて、それから私の方を向いた。そんなに角度はないのだけれど。
「ベアトリクス様は騎士服でもよく」
騎士服は礼装に値するからだそうだ。これは、あとからトリクシーに聞いた。まあそうじゃなければ騎士の皆さんが式典とかに出れなくなってしまう訳で。
もちろん式典なんかに出る用の騎士服と、普段トリクシーたちが着ている実戦用の騎士服とはまたちょっと造りが異なるらしいけれど、その辺りは分からない。
「エリィ様も、今ご着用頂いているようなお召し物で構わないそうです」
今私が着ているのは、トリクシーすなわち伯爵令嬢が王城に着て行っても問題がないような外出着である。多分。お屋敷の皆さんが選んでくれたものなので、私には分からない。各式とか、そういうやつ。ブランドとか、そういうの。
友達と遊びに行く時と冠婚葬祭は違うじゃない。そういうあれ。が、私には分からない。ので、皆さんから差し出されたものの中から適宜選んで着ているだけである。
「また屋敷からそこそこ持ってきているだろう。ナターリエの方で選んでくれ」
「承りました」
トリクシーの指示に、ナターリエさんは腰を折って返答する。私は彼女が頭を上げてから、こっそり会釈を返した。多分、本当は、駄目なんだろうけれど。どうぞよろしくお願いいたします。の気持ちを込めて。
リアクションブクマ評価ありがとうございます。
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