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鈴蘭の客人  作者: 稲葉 鈴
王都
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司祭様とのお茶会-2

「お初にお目にかかります。エリーザベト・クリスタラーと申します。本日はゲオルク司祭様に、洗礼名を賜りたく」

「おやなんと光栄な。承知しました。明日の朝までには考えておきましょう」


 本当に自分にお鉢が回ってくるとは思っていなかったのか、ぱちぱち、とゲオルク司祭が瞬いた。


「司祭様方は是非、エリィとお呼びください」

「承りましょう」

「ではそのように」


 お二人の司祭様は、優しくそう微笑んでくださった。よし、噛まなかったぞ!

 お二人とも当然私の事は知っているので、いやだからこそのこのお茶会なのだけれど。私がちゃんと名乗れたことに対して、よくできました、という視線をくれる。ちなみに両隣からも来ている。

 みんなとてもやさしい。


「私も必要だろうか? いやカール司祭には手厚いご挨拶をいただいたのだ、必要だな。

 バルリングの森の守護を仰せつかっているクリスタラー伯の長女、ベアトリクスという。よろしく頼む」

「淑女というよりは、騎士の名乗りのようですな」

「ええ。私は騎士団に所属しております」

「おやそれは頼もしい」


 カール司祭とトリクシーがにこやかに話している。騎士団に所属というか、貴方騎士団長じゃない、と思うけれど黙っておく。トリクシーはどうやら、そういうことをひけらかさないタイプのようだ。


「それでは時間もありませんし、まずはクラウス様より頂戴した問いに答えましょう」

「はい」


 クラウス先生からの問いと言えば、あれだ。私の視界の片隅で、鳴る鈴蘭。


「まず大前提として、こちらの鈴蘭は鳴りません」

「そうですよね」

「はい」


 これはあくまでも、普通の鈴蘭の話。お花の。


「ですが以前、エリィ様と同じように訴えてきたものがおりました。今から二百九十三年前にこちらにいらしたバルドゥイーン様です」


 大分! 前だった!

 私と同じようにこちらに来た人の中に入るだろうな、と思ったけれど、かなり前の人だった。もしかしたらその人から後は、残してないだけかもしれないけれど。


「その方のお側付きであった神官の手記に記載があり、私たちネルリンガーで修業をしたものはそれも読みます。写本も原本もネルリンガーにしかありませんので、お手に取ってごらんいただくことは出来ないのですが」


 ゲオルク司祭はお茶を手に取って、唇を湿らせる。


「クラウス」

「はい?」

「陛下に掛け合って、カンテラは借りられますか?」

「いや、あれは騎士団のものですから。どうでしょう」

「市井で先に見られてしまうよりも、こちらで把握しておいた方がよいかと思いますが」


 まあ駄目なら仕方がないですね、と肩をすくめて、ゲオルク司祭は私たちというか私を再度見た。


「その鈴蘭の音は、貴方を導くもので間違いはありません。鈴蘭の導き、などと呼ばれております。

 クラウスかによれば、言葉が分かるようになるなど、こちらで言うところのスキルが生成された時に、鳴っているようです。

 それを確認するものが、先ほどクラウスに、陛下に願い出るように、と言った、カンテラです」

「灯り、ですよね?」


 知識としては知っている。なんかの物語で読んだ。古い海外の児童書にはよく出てきた気がするけれど、ランタンとカンテラの違いなんて分からない。


「左様です。

 生きる道の先にも灯りをともす魔道具で、スキルの確認が出来るものになります。とても高価なもので、王の城といえど、安易に使うことは可能ではありません」

「現在この城では、騎士団が所有しています。使うのは、数年に一度ですね。そんなに頻繁にスキルの更新はありませんから」

「一応クリスタラーにもあるけれど、基本は使わないな。冒険者ギルドに行けば、使えるからね」

「何か、違うんですか?」


 どうやって使うんだろう、という疑惑もあるけれど、使いづらいからあまり使わないものを、冒険者たちは使うという。そこには多分何かきっと恐らく、違いがあるのだろう。


「頻度ですね。

 騎士団に入るようなものは、大体スキルの傾向が決まっています。その上で、どうすればそれが伸びるのか、と言ったことは体感で分かっているものが多いのです。これが出来たから、これくらいだろう、と、先輩が理解している。だからほとんど使われません」

「私もまた聞き程度だけどね。冒険者は新人になる時に必ず計測する。その後は、一人あたりはお金もかかるしそんなに何度も計測はしないけれど、冒険者になろうとする人数はとても多いんだ。だから、ギルドの職員は使用に慣れている」

「まあ、出来れば、一度城で計測を行ってから冒険者ギルドの方に伝達を行って、その上で計測するのがよろしかろうと思います」


 ゲオルク司祭の言葉はまるで、私が旅に出ると思っているかのようだ。王様から聞いたのだろうか。いやまだ確定ではなかったず。


「その鈴蘭が鳴った時、言葉が分かるようになった、と、おっしゃいましたね?」

「はい」

「その他にも、何かを理解した時に、鳴ったことと思います。それは、貴方がこの世界を満喫するために与えられた女神からの贈り物に他なりません」

「満喫するための?」

「ええ、そうですよ。エリィ様は鈴蘭の女神のお客人。招待する基準はバルバラ様しかご存じありませんが、あなた様は、バルバラ様に招待を受けたのです。

 この世界を、満喫するための招待を」


 てぃりりん。

 鈴蘭が鳴った。今までとは、音が違う。まるで、ゲオルク司祭の言っていることを、肯定するかのような。正解を、教えるかのような。


「今」

「はい」

「また、鈴蘭が鳴りました。今までとは、ちょっと、音が違うような」

「おや、そういうこともあるのですね」


 ゲオルク司祭は、またお茶を飲んだ。そういえばまだ誰も、お菓子に手を着けていない。

 いや私が手を付けづらいとかそういう話じゃなくて!


「今まで、心配されてきたことでしょう。あなたがなぜ選ばれたのかに関しては、バルバラ様しかご存じないが、元居た場所に戻れるのかどうか。この国で有名な伝承は、残られたお姫様ですから。

 確実にお返しできるかどうかは分かりません。その後の情報が私たちにはありませんから。ですが儀式は存在します。バルドゥイーン様を、お返しする儀式が」


 安心できる微笑みをたたえて、ゲオルク司祭はそういった。ほっとするのもつかの間、ゲオルク司祭は虚空を見つめて動かなくなった。

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