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鈴蘭の客人  作者: 稲葉 鈴
クリスタラー領
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食後

 和気あいあいとした朝食が終わり、食後のコーヒーには砂糖とクリームを入れて貰うように頼んだ。ブラックは飲めない。

 ベアトリクスさんのお母さんが、自分とお嫁さんたちの分はサロンへ、と指示を出し、食堂から去って行かれた。三人そろって、カーテシーというのだっけ、ドレスのスカートをつまむタイプのお辞儀をして出ていかれた。ちょっとテンション上がるよね。

 ドレスというよりはワンピースだから、実際にはしっかりつまんではいなかったけれど。

 あとで、ベアトリクスさんもあれができるのか聞いてみよう。何なら教えてもらおうかな。思い出に。


「さて」


 食堂に残った全員にコーヒーが行き渡ったところで、ベアトリクスさんのお父さんが口火を切った。さっきまでのおちゃめなお父さん、というよりは最初に挨拶してくれた威厳のある当主、という顔に近い気がする。ベアトリクスさんたちも、真剣な顔つきになった。


「昨日夕方、そして夜、王宮へ向けて伝令を出した。今日の夜には二便とも到着し、王宮と情報の共有ができる見込みである」


 近い、んだろうか。ここは一応国の南の果て、と言っていたけれど。どういうルートでいって、っていうのは分からないから、なんか考えない方がよさそうだ。


「おそらく陛下からの返答は明日、飛竜便クラネルトで届けられるだろう。ベアトリクスはそれまでバルドゥイーン様の護衛兼案内係をせよ。全てがつつがなく執り行われるまで、お前の騎士団内での任務を解除する」

「承知いたしました」


 ベアトリクスさんは、昨日ダニエルさん達がしたのと同じように、胸に手を当てて腰を折った。着席したままだったけれど。


「ベアトリクスが行う予定だった業務はイグナーツをメインにフェリクスの方で再度手配をし直すように」

「承知いたしました」


 こちらも同じように頭を下げる。

 私に関わることだから私もこの場にいる、というだけで、これは騎士団内のお話なのだろう。お母さん、私も連れて退席して欲しかったです。


「さて、バルドゥイーン、エリィ殿。何か我々に要望があれば承ろう」

「できれば使用人の皆様にも、エリィと呼んでいただけると」


 バルドゥイーン、耳慣れないというか聞き慣れないというか、自分を呼ばれているのだと、どうしてもまだ思えない。ので、出来ればエリィと呼んでもらえるといいなと昨日からお願いしている。


「ふむ」


 顎に手を当てて、考え込まれてしまった。そんなに大変なお願いなのだろうか。


「アーベル」

「はい」

「バルドゥイーン殿に関わる人間は厳選し、その中でも彼女に近く接する者にはエリィ嬢と呼ぶことを許すように手配しろ。彼女を名で呼ぶことが出来るのはごく近しいものだけ、かつ彼女に話しかける時のみとする。

 これ以上の譲歩はできかねますが、よろしいか」

「私にわかるように話しかけていただける、というのであれば問題ありません」


 多分、シャルロッテさんとか、ビアンカさんとか、ギーゼラさんが、私に用事があって話しかける時にはエリィと呼んでもいいよって意味だと思う。

 紹介されていない人に、馴れ馴れしくされるのは好きじゃないから、むしろありがたい配慮だ。


「よろしくお願いします」


 もう一度、頭を下げておく。


「エリィ、頭を下げないで欲しい。昨日少し説明したが、君は私たちの女神のお客人なんだ。君にとっては私たちは君を助けた、って思うんだろうけれど、ええと、親の所に来た客人には、親切にするものだろう? そんなものだと思っていただければ」


 言いたいことは分かる。

 完全に理解はしていないと思うけれど、それでも彼女たちの気持ちは、なんとなくわかる。多分気まずいとか、座りが悪いとか、そういう事なのだろう。


「それでも、親切にされたらお礼をして、頭を下げるものだと思うのです」

「ははっ、バルバラ様と同じことをおっしゃる」


 左隣に座った、次兄さんが笑い飛ばしてくれた。

 してもらって当然と、思ってはならないと。多分、私は子供の時から親にそうやって躾けられている。いや私だけじゃなくて、大抵の人がそうだと思うんだけれど。だから、親切にしてもらったら、お礼を言う。そのお礼を受け取ってもらえないのは、こっちはこっちで座りが悪い。

 という。話を。どうやらバルバラ様もしているらしい。


「我々は君の事を、業務上必要な時はバルドゥイーン殿と呼ぶ。役職名のようなもので、その方が我々の間では通りがよいので、ご理解を」

「ええと、バルドゥイーン、の、エリィ、みたいに名乗った方が、色々分かってもらいやすい、と思えばいいのでしょうか」

「ご理解が早くて助かる。そういうことになる」


 役職名、と言われるとなんとなくわかる。つまり、バルドゥイーンは固有名詞なわけだ。ハムは翻訳? されたけれど、おそらく品種であろうベッカーはベッカーだったのだから。


「またすまないが、王城と情報の共有が成り、君の処遇が決まるまでは城内にいてもらいたい。ベアトリクスがともにいるから大丈夫だと思うが、不心得者がいないとも限らないからな」

「例えば、どういう……?」

「我が国においてバルドゥイーン殿の伝説と言えば、王太子殿下との結婚物語だ。女神の加護を持つ姫君を娶ったことで、国は栄えた、めでたしめでたし。という話の性質上、君とお近づきになりたがる騎士がまあ多分それなりにいるものでな」

「伝説関係なしに、女性とお近づきになりたいならず者みたいなやつもいるから、トリクシーから離れちゃ駄目だ」


 お兄さんたちが、真顔でそんな忠告をくれる。なにそれ怖い。

 だから私は、素直に頷きを返しておいた。


「昨日は大変だったのだし、今日はゆっくりして欲しい。ああそうだ、午後には昨日森でボニファティウスたちが見つけたエリィ殿の荷物類の確認をしてほしい。ベアトリクス以外にも、騎士団のものが立ち会いたいが、よろしいだろうか」

「はい、大丈夫です」


 ものによっては女性の方がいいかもしれないが、まあ男性でもいいだろう。ベアトリクスさんがいてくれるのなら、ベアトリクスさんにこっそり用途を説明してもいいのだろうし、もしかしたら全部あるかどうかの確認だけかもしれないし。


「旦那さま、発言をお許しください」

「どうした、アーベル」

「洗濯係のブルーノより、バルドゥイーン様のお召し物についてお伺いしたいことがある、と上がってきております。午後になりますが、お時間頂戴できますでしょうか」


 昨日、渡してもいいと言ったパンストの事だろうか。それともスーツの事だろうか。私を守ってくれたジャケットの事だろうか。


「承知した。騎士団の確認の後に、来るようにと伝えよ」

「ありがとうございます」


 執事さんは当主様に頭を下げて、それから私にも頭を下げてくれた。だから私も軽く、座ったままだけれど頭を下げておいた。


次回更新は1月28日19時です


ボニファティウスなのかボンファティウスなのか私の中でも表記揺れが出ていてちょっとわかりません

メモの字が汚いのが全部悪い

*ボニファティウスであることが判明しました。一応変更してありますが、ミスがあってもご了承ください。

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