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鈴蘭の客人  作者: 稲葉 鈴
クリスタラー領
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朝食

 執事さんの指示を受けて、メイドさんたちが銀色のワゴンに乗せて朝食を運んできてくれる。

 まずはかごに山盛りになったパン。かごはそれぞれの辺ごとに置かれた。つまり四つ。昨夜とは違いホカホカと湯気を立てているから、どうやら今朝焼かれた物らしい。もしかしたら温めたのかもしれないけれど。


「エリィの国の朝食は、どんな感じなんだ? パンは食べる? 見覚えのあるパンは、あるだろうか?」


 パンのかごを私の目の前において、ベアトリクスさんが私に選ばせてくれた。

 なんか種類がたくさんある。断面が黒いのは、ライムギのパンのようだし、表面にゴマの振られた全粒粉っぽいパンもある。以前パン好きの友人に連れて行かれたパン食べ放題のレストランを思わせる。


「色んなものを食べますよ。私はあまり詳しくないので、ベアトリクスさんのおすすめをお願いします」

「私はこいつが好きだよ。歯ごたえがいいんだ」


 ベアトリクスさんが手に取ったのは、ゴマが表面に振られていて、少し厚めに切られているパンだった。彼女が言うにはこいつは、ハード系のパンなのだろう。


「じゃあ、私もそれにしてみようかな」

「余裕があるなら、そっちのロールパンもおいしいですよ。姉さんの好物とは違って、歯茎には刺さりませんから、女性にはお勧めだと思います」


 歯茎に刺さるってどういうことなの。と思いつつ、ロールパンを探す。見当たらない。私の知ってるロールパンと違うのだろうか。


「エリィの知ってるものと名称が違うのかな、これだよ」


 パンと一緒に配膳された取り皿に、ベアトリクスさんが手のひらサイズの平たいパンを置いてくれた。その前に彼女が選んでくれたパンも手のひらサイズなので、二つとも取り皿には収まった。


「私の方では、横が半分くらいで、生地を巻いて焼くので、コロンとした形になってましたね」


 私はパンを焼いたことはないので、説明がちょっと雑だけれど。いやロールパン知らない人に口頭で説明するの難しいよ!

 それから一人ひとりに、お皿に美しく盛られたハムとチーズの盛り合わせ、手のひらサイズの深皿に盛られたヨーグルトとフルーツのサラダ、上部を切られたゆで卵。ゆで卵を乗せるためだけのお皿に乗せられている。ゆで卵の殻を切るだけのナイフもこの分だとここにもありそうだ。

 ヨーグルトの中に浮かんでいるのはイチゴ。それから、イチゴのジャムも大瓶でテーブルに置かれている。


「ロールパンはこうやってナイフを入れて、半分に切るんです」


 弟さんが、自分のパンを切って見せてくれた。上からじゃなくて、側面にナイフを入れてぐるりと回す。パンは、上下に分かれた。食べやすそう。


「この上にジャムを塗ってもいいし、ハムやチーズを乗せてもいい」

「兵舎では、面倒だからとはさんで食べるものが多いかな」


 サンドイッチ伯爵、存在しなくてもやはりいつか発明はされるのである。いたらどうしよう、伯爵。

 他の人たちをちらりと見れば、皆さん思い思いにパンを取って、同じように上下に切って、ハムを乗せたりチーズを乗せたりしている。

 昨夜に引き続き、オープンサンドにして食べるのが主流らしい。

 まずはベアトリクスさんおすすめの堅いパンにナイフを入れようとする。入れようとしたんだ。ハード系のパンだから、外側の皮が硬くて、切り口を見つけられない。これは、そのままかじるのは私には難易度が高いな?


「切ろうか?」

「お願いします」


 見かねたのだろう、ベアトリクスさんが手を差し伸べてくれる。そして私は遠慮なくそれにすがることにした。慣れてる人に頼って何が悪いというのか。

 ベアトリクスさんはパンを上下、上下? ではなく、半分に切って、柔らかい部分に切れ込みを入れる形にして、渡してくれた。


「バターを塗って、ハムとチーズを挟んで食べるのが好きなんだ」

「昨夜もいただきましたけれど、美味しかったです」


 シャルロッテさんが作ってくれたのが、確か同じだった。

 それを伝えたら、ベアトリクスさんは嬉しそうに笑ってくれたし、おそらく私とベアトリクスさんの会話を聞いていた、ご家族の方にもこれを好む人がいるのだろう。あちこちから笑顔を向けられた。美味しいものは人のつながりを強くする、って言葉をどこかで聞いたけれど、こういう事なのね。


「昨夜は何を食べたか分からないけれど、皿に盛られているハムとチーズは種類があるから、気を付けて」

「え、どれとどれが同じなんですか」


 見ただけでは、私には判別がつかなかった。


「基本は全部ブタなんだけれど、こっちは、白豚ベッカー、これが赤豚ファクラー。ベッカーはこの中では一番小型で穏やかな品種で、肉も柔らかい。ファクラーはアイベンシュッツと同じく六本脚に赤い毛皮で、噛み応えがある。ハムもおいしいけれど、サラミもおいしいよ。」


 説明を聞きながら見てみれば、どちらも肉の色が違う。うっすらと違う訳ではなく、ちゃんと色とかが違った。ベッカーは白っぽいピンク色で、ファクラーは赤っぽいピンク色だった。


白豚ベッカーに合わせるなら、白山羊ハースのチーズがおすすめだよ。その、外側が白く硬くなってるやつだ」


 カマンベールチーズに似たやつを、向かいに座ってるから長男の方のお兄さんがすすめてくれた。他のご家族を見回してみるけれど特にこれといって反証が飛んでこなかったので、クリスタラー家の皆さんは同じ気持ちらしい。もしかしたら、国とか大陸とかで、共通の見解なのかもしれない。


「それじゃあこっちのファクラー? は、もう一つのチーズと併せるのがいいんですか?」

「個人的には、ジャムをすすめる」


 厳かに返事をくれたのは、ご当主様だった。なんてお呼びすればいいのか、後でベアトリクスさんにこっそり聞こう。案外おちゃめな人な気がしてきた。


「エリィ、もう一つのハムとチーズよりも、ジャムを塗って食べてみてほしい。そのパン、ジャムもよく合うんだ」


 薦められたの、ジャム単体だったのか! 確かにイチゴのジャムは、コンポートと言った方がいいくらいしっかりイチゴの形が残っていて、おいしそうではある。けれど、フルーツサラダもあるし、ちょっといいかなと思ってはいた。


「そのイチゴは、裏の森で騎士団の皆さんが摘んできてくださったもので、とても珍しいジャムなんですよ。今日の良き日に開封するのも納得です」


 次男さんの奥さんが、おっとりと教えてくれる。裏の森、ってことは昨日私がアイベンシュッツに追いかけられたあの森か。思わずベアトリクスさんを見たら、頷かれてしまった。あの森か!


「バルリングの森は、私たちクリスタラー領の騎士のみが入るようにと定められている都合上、どうしても私たちで摘まなければならないんだ。それに、毎年群生地は変わるし、森の住民たちも美味しいから寄ってくるしで、割と争奪戦だよ」


 騎士なのだろう、ベアトリクスさんの兄弟たちと、お父さんが頷いている。お母さんと女性陣は笑っているから、どうやら戦利品に舌鼓を打つのがお仕事のようだ。

 スプーンでこんもりとイチゴを掬って、パンに乗せる。私は個人的に厚くではなく、薄く端まで伸ばすのが好きなので、落ちないように身は中央に、汁の部分は端まで塗る。ジャムの瓶はそれからベアトリクスさんと、弟さんへと回って行った。



次回更新は1月26日19時です


あーイチゴのジャムうまそう

自分で書いておいてなんだけどとても食べたい

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