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鈴蘭の客人  作者: 稲葉 鈴
クリスタラー領
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着替え

今日もちょっと短め

 ハンガーラックに目をやれば、五着が吊るされている。そばまで寄ってみてみれば、白いブラウスが一着に、水色のスカートが一着。おそらくは膝丈程度と思われる黒いズボンが一着。それから緑色のワンピースに。


「なんか一着おかしいの混じってませんか」

「せっかく庶民が貴族の家に来たわけですから、ご興味おありかしらって」

「あるかないかで言ったらありますけれど、遠慮したいですね」


 着てみたい、と、思わないわけではないけれど。これからその貴族に会うのにこのドレス、と言っていいものは違うんじゃないかと思う。勿論これを着るように、と指定されたのであれば、仕方ないといそいそ着るけれど。


「ちなみに実際着るとなると、コルセットをこれでもかとぎゅうぎゅうに締めますので、お覚悟ください」

「遠慮したいですね!」


 そんな事をお喋りしながら、残りのブラウスとスカートズボンとワンピースを見る。スカートもズボンもワンピースも、裾に丁寧に刺繍が施されているし、ブラウスの袖回りも同様だ。


「こちらのお洋服はすべて、ベアトリクス様のお洋服です。どれもまだ手を通されていませんので、お気になさらず」

「ベアトリクスさんは、衣装持ちなんですか?」

「一応当家で唯一のお嬢様ですから、それなりにドレスもお持ちですが、基本は騎士服で過ごされていますね」

「それなら、ズボンははきそうですけど」


 動きづらい、とかあるのだろうか。


「そちらのズボンは単に、まだおろしていないもの、というだけです」

「さすがにそれをお借りするわけには」

「じゃあスカートになさいます? ベアトリクス様スカートもワンピースも着ないので、もう昨日の夜からみんなでどれをバルドゥイーン様に来てもらおうかって盛り上がっちゃって」


 その緑色のワンピースは、もう少し薄い緑色の襟が付いていて、緑色の刺繍糸で鈴蘭が刺してあった。共布で作られたクルミボタンが付いた、前開きのワンピースだ。

 胸の下の辺りに共布のベルトがあって、そこから下がふんわりとしたスカートになっている。ハンガーラックに吊るされた状態で見ると、単色のワンピースなのだけれど、前二か所、後ろ二か所にスズラン柄の下のスカートが見えるように切り込みが入っていた。

 なにこれ可愛い。


「それになさいますか? キルヒナーさんも喜ばれますね」

「どなたですか?」

「お嬢様専門のデザイナーさんで仕立て屋さんです。お嬢様のためにいつも新作を作るんですが、着て貰えていなくて」

「それを、私が着ても? 本当に?」

「バルドゥイーン様に着て頂くのも十分にほまれですし、もしかしたら色違いをベアトリクス様が着てくれるかもしれないじゃないですか」


 そんな事はないだろうけどって、小さくシャルロッテさんが付け加えた。それを私は聞いた。聞いたからな。

 まあ実際、ワンピースやスカートが嫌いなひとが友人が着ているから、という理由だけで着ることはめったにないので、シャルロッテさんの反応の方が正しいだろう。


「昨夜お預かりした下着を元に、お身体に合うと思われるサイズの下着をお持ちしております。こちらをご利用ください。あ、こっちももちろん新品です」

「ありがとうございます。下着はさすがに、お下がりは」

「いやですよねー」


 ころころと笑って、シャルロッテさんは一式を渡してくれた。ドレスだったら手伝いが必要だろうけれど、このワンピースなら必要ない。


「お着替えが終わる頃に、また伺いますね、と言いたいんですが、今朝は傷の状況だけ確認させてくださいね」


 ハンガーラックを運んできてくれた人たちは、私が服を選び終わるまで待っていてくれていた。彼女たちは私たちにお辞儀をすると、またハンガーラックを持って出ていく。大変そうだし、明日からは何とか言ってお断りした方がいいのだろうか。ハンガーラックだけお断りすればいいのかな。


 下着たちはまとめてソファに置いて、シャルロッテさんは私を浴室の方へと誘う。薬が残っていたら、水差しで流せるように、との気遣いのようだ。ついでに顔も洗わせてもらおう。そうしたらきっと、もっと目が覚めるだろう。

 浴室に置いてあった、昨日は気が付かなかった椅子に座って、まずは靴下を脱ぐ。そこまでは自分でできるけれど、足の裏の布と、それを押さえている包帯はシャルロッテさんに剥がしてもらう。


「うん、綺麗になってますね」


 痛くない時点でそんな気はしていたけれど、目視でそう告げられるとほっとする。そのまま、ズボンをまくり上げてすねの包帯を外してもらう。

 続いて腕も確認してもらい。二人で顔を見合わせて、ほっと一息ついた。どこもたった一晩で綺麗に治ってくれている。跡すら残っていないのはちょっと怖いけれど、きっと、なんか、こう、魔法とかそういうものが存在するのだろう。

 無かったら怖いから、聞かないことにしておくけれど。

 シャルロッテさんはタオルを水に浸して、足の裏と、脛と、腕を拭いてくれた。私にはよくわからなかったけれど、やはり少し薬が残っていたようで、それをふき取ってくれた。


「ありがとうございます。助かりました。ギーゼラさんや、ビアンカさんにもお礼をお伝えください」

「報告するように言われてますから、その時一緒に伝えておきますね」


 着替えが終わるころまた来ますね、と声をかけて、シャルロッテさんは部屋を後にした。私にまかれていた汚れものとかをかごにひとまとめにして、退室していった。


次回更新は1月21日19時です

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