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鈴蘭の客人  作者: 稲葉 鈴
クリスタラー領
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就寝そして翌朝

今回ちょっと短め

 私一人なら食べ終わるのにとても時間を要しただろう量は、三人分だとするとすぐに終わる。美味しかった。

 シャルロッテさんに手を引かれ、私はこれまで見たこともないほど大きなベッドへと連れていかれた。三人くらい余裕で寝れそう。学生時代、友人たちと泊まった女子会プランのラブホのキングサイズベッドよりでかい。

 横もだけど、縦が。


「明日の朝は起こしに参りますので、それまでゆっくりお休みください。ご朝食は、ご当主様ご一家とご一緒に、と伺っております」

「貴族のマナーは、存じ上げないのですが!」

「庶民の出身であるということはベアトリクス様から伝わっておられると思いますので、お気になさらなくてよろしいかと」

「しますよ!」

「わかります。しなくていいと言われても、気になりますよね」


 ベッドによじ登り、おそらくは羽根布団だろう上掛けの間に潜り込む。枕もふわふわだ。そば殻枕を愛用していたけれど、これは駄目だ。体が贅沢に慣れてしまう。


「お休みなさいませ、バルドゥイーン様。明日はお召し物をご用意して伺いますね」

「おやすみなさい」


 優しく、胸の所をポンポンと叩かれる。寝かしつけられるのなんていつぶりだろう。子供の頃、風邪をひいたのが最後じゃなかろうか。ちなみにそれがいつかはさっぱり覚えていないし、本当に寝かしつけて貰ったのかも定かではない。

 ドラマとかアニメの記憶と混同していない自信もない。


 疲れていただろうし、混乱もしていただろう。あのよく分からない赤い四本腕のクマさんの夢すら見ずに、私は目を覚ました。

 興奮はしていただろうけれど、それ以上に何もかもをリセットしたかったのだろう。一旦リセットしないとやってられないと、脳みそも体も考えたとしても不思議ではない。私もリセットするのに大賛成である。

 なんでこんなことを悠長に考えているのかというと、あれである。小説とかでよく見る、見覚えのない天井。あれを私は体験していた。

 普通に生きていたら、救急車で運ばれる途中で意識不明になって、病院で目を覚ました、くらいしか起きえ無さそうなあれである。

 昨夜、私は天井を覚える間もなく眠りについたようで、目が覚めてしばらくは訳が分からなかった。

 そして、思い出してしまったので、現実逃避をしていた。要するにそういう事である。おはよう、私。

 寝返りを打って横を向けば、確実に我が家ではない。いやそもそも我が家はこんなにいい布団ではない。多分部屋に入らないんじゃないかな、このベッド。組み立て式とか圧縮とかそういう力を使って部屋の中に入れることはできても、それだと生活スペースがなくなりそう。


「おはようございます!」


 ところで今は何時かな、朝かなと考えていたところで、シャルロッテさんが入ってきた。今日も元気である。

 ハンガーラックを数人がかりで部屋の中に持ち込んで、自身はさっさと窓まで歩いて行ってカーテンを開ける。シャッと小気味のいい音を立ててカーテンが開くと、明るく柔らかい陽の光が入ってきた。


「お屋敷のこちら側からは、街がよく見えるんですよ。窓辺までいらっしゃいませんか」


 歩けるだろうか。昨日の夜は、あんなに足が痛かったのだ。今だって痛い気が……体重をかけていないからだろうか、痛くない。

 それに気をよくした私は、起き上がり、そっと床に足を下した。


「あ、痛くない!」

「昨夜治療したじゃないですか」


 あきれ顔のシャルロッテさんのそばまで歩いて行きながら、私は首を横に振った。


「私のいたところでは、こんなにすぐは治りませんでしたよ」


 ちょっとした傷なら、翌朝にはいたくないこともあったけれど、昨日の靴擦れはちょっとではない。翌日も足が痛むのを覚悟するレベルだった。間違いなく。


「あれ、そうなんですか。じゃあバルドゥイーン様はこちらの薬が体に合うんですねぇ」

「ああそうか、拒否反応とか出る可能性もありますよね」


 アレルギー、こっちでどれだけ浸透しているか知らないけれど、それで拒否反応が出る可能性だって皆無ではなかったわけで。今更それに思い当たってちょっと背筋が寒くなった。特にこれといったアレルギーがなくてよかった。花粉症くらい受入れる。

 窓の外は、異国の街並みが広がっていた。いやまったくもってその通りなのは分かっていたはずなのだけれど。昨日もカリーナの上から見てはいたし。


「わぁ……!」


 それでも、声は出てしまう。

 お城のさらに奥にある丘の上から見るのと、お城から眺めるのとではこうも違うのか。距離があるから、活気があるとかそういうことは立ち上る煙からしか分からない。それはオレンジ色で統一された屋根の間から幾筋ものぼっているけれど、それが家々の煙なのか、それともパン屋さんとか鍛冶屋さんとか、そういった店の煙なのかは分からない。

 ここから遠目に見える街並みは、異国情緒抜群で、自分が自分の意思ではなく、異国に来たのだと否応もなく感じさせられた。

 私の知ってる街並みとの違いに困惑はもちろんあるが、でも不思議と、私はもう帰れないのだ、という確信はなかった。


「本日は、四着準備しました」


 私が窓の外を見て呆けている間に、シャルロッテさんは部屋にある他の窓のカーテンも開け、何なら窓も開けて換気もしてくれていた。彼女が有能なのか、私がぼんやりしているのかは考えないことにしておこう。昨日の今日だしまだ許されるはずだ。あと朝だし!


次回更新は1月19日19時です

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