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ゼルと二十歳の少年  作者: Sei
3/13

第3話 邂逅

2020年4月6日(月)午後1時 鎌田町精神医療センター

 マズイ昼食を食べ終えた甘城七月は、これからどう過ごすかを思案していた。


「散歩でもするか・・・。」


 外を出歩くことはできないが、それでも病院の中はかなり広いため、ぶらぶらと院内を歩いて時間を潰すことぐらいは容易い。売店もあるし何か菓子でも買っておくか、とバッグから自分の折り畳み財布を取り出し、そのままズボンのポケットに入れ、薄い上着を羽織って病室を出た。


 外の気温はもうすっかり春だろうが、病院の中は少し肌寒かった。昼間だろうが、真夜中だろうが、中の気温は一定に保たれているため、病室を出る際には薄手の上着が欠かせない。


 これは七月が昔からやっている癖の一つだが、上着のポケットに手を入れて歩いているのを親や先生からよく注意されていた。言われれば直すが、言われなければ彼女が隣で歩いていてもポケットに手を突っ込んだままでいる。女性らしくありたいと思っているくせに、こういうところは男っぽいのだ。


 ぽつぽつと歩いているうちに売店に到着した。実はここへ来るのは今日が初めてだったりする。何か面白そうな雑誌やマンガは無いかと店内を適当にうろついていると、一冊の本が目についた。


(占いか・・・)


〔スタートダッシュ占い 今月、かに座のあなたは予想外のハプニングに遭遇するでしょう。でも、それはあなたにとって良いハプニングです。あなたの考えを変えるきっかけになるかもしれません。見逃さないように気を付けましょう。〕


 七月自身、あんまり占いは信じない方だが、テレビや雑誌で占いコーナーがあるとつい見てしまうタイプだ。良い結果の占いは一応頭の片隅にでも置いておき、悪い結果だと所詮は占いだ、と非常に自分の都合の良い解釈をする。占いなんてものはその程度の心構えで見るのが一番丁度良いだろう。


 占いの本を一通り読み終え、今週発売されたばかりの新刊のマンガがあったので、それを手に取り、適当な菓子類を見繕って会計を済ませた。


 いつもの病室で読むのもなんだか味気ないと思い、そこらへんに丁度良い椅子でもころがってないかとまた病院の中を適当にうろついたが、他の患者が既に座っていたりするため、なかなか空いていない。


(やっぱ部屋で読むしかないな・・・)


 七月は少ししょげながら自分の病室へ向かって歩を進めた。ところが、病室へ戻る道中、さっきまで一緒に看護師と座って話していたお婆さんたちがいなくなっていた。ちょうど時計も見え、外の景色も一望できる絶好のスポットだ。七月のテンションは一気に上がり、L字ソファの隅に座った。


 売店で読んだ占いのことなどすっかり忘れ、新しく買ったマンガを読み始めて15分程経った頃、時計の針は2時を指していた。すると、廊下の奥から白いワンピースを着た髪の長い少女のような子が七月の座っているところへ近寄って来た。


「・・・隣、座ってもいい?」


 子供は七月に声をかけた。


「いいよ。」


 七月はそう短い返事を残し、マンガの続きを読み進める。


 それからさらに10分程経過し、もう少しで読み終えるというところで七月は子供の存在を忘れていたことに気がづいた。隣に座っているのにやけに静かなのが妙に気味悪く思えてきた。


「誰か待っているのかい?」


 ついにその空気に耐えかねて、七月は隣でずっと足をプラプラさせている子供に聞いてみた。


「ううん。」

 子供は首を横に振った。


 この女の子、近くで見ると本当に綺麗な肌と髪だ。絹のようでいて、艶のある薄い黄色がかった肩まで伸びた髪に、真っ白を通り越してもはや透明色に見えるほど繊細な肌、すらりとした足と・・・


「・・・」


 そこで七月は絶句した。その子供には左腕が無かった。


「その左腕は生まれつき?」


 七月は咄嗟に出た自分のセリフに驚いた。何を言っているんだ俺は。生まれつき腕や足の1本無い少年少女なんてこの世に山ほどいるだろう、と自分を叱責する。


 子供は足をプラプラさせながら天井を見上げ、


「生まれた時はあったよ。」

と素っ気なく答えた。


 自分の無神経さに嫌気が差す。普通、初対面の子にその子が気にしているような身体的特徴は聞かないものだ。大昔に同じようなことをして失敗したことがあったが、性懲りもなくまたやってしまった。


「ごめん、辛い事を思い出させたかもしれないのに、つい聞いてしまった。あ、そうだ。名前はなんていうの?」


 七月は苦し紛れに無理やり話題を変更させた。


「・・・ゼル。」


 子供は小さく呟いた。


 ゼル。どうやら純粋な日本人ではなさそうだ。


「へえ、ゼルって言うんだね!ハーフかい?」


 ゼルは少し戸惑った様子を見せたが、うん、と頷いた。


(精神病院にはこんな小さな子供も入院するんだな・・・)


 今更ながら七月は少し驚いた。事故で失くした腕のショックが相当大きかったのだろう。こんなところに入院しているということは、つまりそういうことだ。


「僕は甘城七月っていうんだ。甘~いお城に、数字の七、お月様の月、これで甘城七月あまぎなつきって読むんだよ。簡単でしょ?」


 鞄に入っていたメモ帳を使って、自分の名前を書きながらそう教えた。


 少女はうんうん、と首を縦に振りながら微笑んだ。


(なんだ、ちゃんと笑えるんじゃないか)


 七月は少し安心した。


「そうだ、お菓子をそこのお店で沢山買ったんだ。好きなのあれば何個か持ってってもいいよ。」


 がさごそと売店で購入した大量のお菓子達を袋から取り出し、ソファの上に並べる。


「私、そういうの食べれないんだ。ごめんね。」


 並べ終えた後にゼルは申し訳なさそうに言った。


「そっか。何かそういうアレルギーでも持ってるの?」


 並べた菓子類を雑にポイポイ袋に戻しながらゼルに聞く。


「まあ、そんな感じ。」


「そっか、残念。」


 そう短い返事をした後、七月はあと少しで読み終わるマンガを開いた。


 読んでいる最中にまた黙るのもアレなので、読みながら会話を続けることにした。


「そうそう、ゼルって何歳?」


 体格的にはどう見ても小学校に入りたてぐらいのように見える。


「六歳。もうすぐで七歳になるけどね。」


 意外にも予想は外れなかった。


「ほー、もうすぐで誕生日か。いいね!ならゼルに誕生日プレゼントを買ってあげないとね。」


 七月は鞄から財布を取り出し、今自分の持っているお金を計算した。


(売店の中で売ってるものぐらいならこれだけあれば十分だな。でも菓子類がダメとなると後は何があるか・・・)


 そう考えている途中でゼルが口を開いた。


「プレゼントはいらないよ。お店にほしい物何もないし。気持ちだけで嬉しい。」


「ほんとに?」


「うん。」


 小学生にそんなことを言われ、この歳になっても誕生日に親に物をねだってる自分とは大違いだな、と七月は一人で酷く落ち込んだ。


「・・・大丈夫?」


「ありがとう。大丈夫だよ。じゃあプレゼントはいらないのかい?遠慮しなくていいんだよ。お菓子以外にもほら、ジュースとか、本とか色々売ってるじゃん。」


 ゼルは遠慮しているようだ。でも、せっかくなので何かプレゼントをと思ったが・・・


「本もつまんないからいらないよ。ジュースも飲めないし。」

と一蹴され、七月は思わず苦笑する。


「わかったよ。僕が退院する日は11日だけど、ゼルの誕生日っていつ?もしかしたらギリギリ間に合わないかも。」


「4月10日。ギリギリセーフ。」


 七月は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに元に戻った。


「お!そりゃ良かった。じゃあお祝いはできそうだね。」


 うん、とゼルはニコリと笑った。


「じゃ、僕はそろそろ部屋に戻るよ。昼間はこの辺にいるから、また遊びに来てね。」

と言って帰ろうとした時、七月の目の前を看護師に押される車椅子に座ったお爺さんが横切った。

その人の顔を七月はよく知っていた。


ゼル(6)

身長90cm

情報

1.左腕を失っているが、生まれた時はあった。

2.お菓子やジュースが食べられない。

3.?

4.?

5.?

6.?

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