表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼルと二十歳の少年  作者: Sei
1/13

第1話 目覚め

この物語は作者が精神病棟で入院していた時に書き始めたものです。

小説を書くのは初めてなので、稚拙な表現や文体があることをお許しください。

2014年 8月7日(木) 鎌田町 午後8時 

「あったぞ、ここだ!ここに埋まってるぞ!」


 警察が登山者から近くで異臭がするとの通報を受け、山中を捜索した結果、ついに遺体が発見された。


「ひどいなこれは・・・腐敗していて原型を留めていない。四肢も切断されている。」


 この真夏日の続く中埋められていた死体の状態は悲惨なものだった。地上に掘り起こした切断された遺体は異臭を放ち、ハエがたかり、さらに四肢まで切断されていた。


 手足はどこにあるのかわからず、遺体の身元は特定できたが、近隣住民の情報も的を射たものがなかったため事件はそのまま迷宮入りとなってしまった。


横山千歳よこやまちとせ(33)

身長160.5cm

情報

1.ナイフで首を斬られ死亡。

2.現在の恋人とはすでに別れており、唯一容疑をかけられていたその恋人は2年前からフランスへ行っている事が判明したため、容疑から外され事件は迷宮入りとなった。

3.?


-------------------------------------


2020年4月6日(月) 鎌田町精神医療センター 午前7時

「はっ・・・!」


 突然起き上がったせいか、頭がクラクラしてきた。また変な夢を見た。だが夢の内容が思い出せない・・・


 気づけば朝で、俺は病院のベッドの上でいつの間にか眠っていたらしい。寝つきの悪い時はいつもこんな感じだ。窓の外では桜の花びらが朝日に照らされながら舞っていた。


 寝ぼけ眼を擦っていると、ドアからコンコンとノックの音が聞こえた。


「甘城さーん、朝ごはん持ってきましたよー。」


 ノックの返事をする前に看護師の若い女性の声が病室の中に響いた。


 山田霊花やまだれいか。透き通るような真っ白な肌に、サラサラの長い黒髪、パッチリとした二重瞼の綺麗な眼がこちらを向いた。どうやら俺を起こしがてら、朝ごはんを食べさせに来たらしい。また不味い飯を食べるのかと思うと気分が憂鬱になってくる。


 仕方なく、はい、と返事をするなり、


「そんな顔しないでくださいよ。もうここへ来て3日目でしょう?そろそろ慣れてください。」


 山田さんはぶっきらぼうにそう言い残して病室を出ていった。そっちこそ、俺の担当になって2日も経つんだから、もう少し愛想よくしてくれてもいいじゃないか、と内心腹を立てながら今日の献立に目を通した。


「・・・赤魚の西京焼き、味噌汁、白桃の缶詰、牛乳、白飯・・・。」


 メニューの名前をブツブツ呟きながら実物を確認してみる。それにしても量が少ない。


 とそこで、白飯の文字の横に(180g)と書かれた数字が目についた。朝昼晩と今日まで主食は全て白飯だったが、改めて数字を気にしたのは初めてだった。


(家ではこれの倍は食べているな・・・)


 小食を自称している割に、いざ少ない量の飯を目前にするとネチネチと文句を垂れる。


 さらに自分は偏食で食わず嫌いも多いため、病院食のおかずを残すこともしばしばあった。その度に山田さんから何か小言を言われるが、それを気にしちゃやってられない、と俺は開き直っていた。


 肩まで伸びた長い髪をヘアゴムで束ね、軽く顔を洗い、化粧水をつけ、歯磨きをする。それらをこなした後に朝ごはんを食べるというのが俺のいつものルーティンだ。


 傍から見ればどこもケガをしていないし、髪の長いただの大学生に見えることだろう。それもそのはず、ついこの間まで俺は大学生だったのだから。


 俺は一年生の始めから授業にも、大学生特有のノリにもついていけてなかった。大学は休みがちになり、親に隠れて行ったふりをしていた。正直、いずれバレるとは思っていた。


 バレるのも時間の問題だ、と大学を休む度、自分にそう言っていた。案の定、学期末の成績発表で隠れて休んでいたことがバレてしまった。母親にはこっぴどく叱られた。


 母親は学校を休んだことに対してではなく、自分が親に学校へ行っていると嘘をついていたことに対して怒っていたのだ。その日を境に、俺のうつ病は悪化していった。父親は俺が幼い頃に離婚して、それからは母親が子供達を育てていた。


 その母親からはよく、「すぐにバレる嘘をつくな」と言われてきた。


 それは、俺が小学校へ入学してから、よくつまらない嘘をつくようになったからだ。例えば、歯磨きをしていないのに、したと答えたり、上履きは洗ったのかと聞かれれば、洗っていないのに洗ったと答えたりと、こんな具合にいろいろなつまらない嘘をついてきた。どれもこれも後になって調べればわかるというのに、だ。


 俺には年の離れた兄が二人いる。今になって思えば兄たちがつまらない嘘をついているところを見たことがない。少なくとも俺の前では正直者の兄達だった。


 そんな兄達を横目で見ながら俺はだんだんと捻くれていった。その証拠がこれだ。今年で二十歳になろう者がまだつまらない嘘をついている。小学生の頃から何も成長していない。


 むしろ悪知恵がついたぶん、以前よりもタチが悪くなっているじゃないか、と母親に叱られながら俺は自責の念に駆られた。


 それからというもの、大学は休学していた。高校三年の秋から辛うじて続けていたスーパーのアルバイトも、うつ病の悪化によって辞めざるを得ない状況になり、ついに俺は“何もしていない引きこもり”となってしまった。


 そしてこの春、世の中は入社式、入学式で盛り上がっているにもかかわらず、俺は静かに病院で過ごす羽目になったのだ。


 ちなみに去年の夏から今年の冬にかけて自殺未遂を二回している。


 一度目は寝室で練炭を焚いて死にかけになっていたところを親に助けられ、二回目は首吊りを試みたものの、死ぬ恐怖には勝てず未遂に終わった。幸いにも練炭での後遺症は残っていなかったが、できればそのまま死にたかったというのが本音だ。


 死にたかった理由については前述のとおり、状況を見れば大方予想はつくと思うが、それとは別に大きな理由がもう二つあった。むしろこっちのほうがメインといっても過言ではない。


 一つは、女性願望が非常に強かったということだ。まさに今の自分の見た目がそれを顕著にあらわしていると言える。俺は女性に強い憧れを抱いているが故に髪を伸ばしているのだ。


 ではなぜ死ぬ選択をしたのか、それは、自分が死ぬことで別の人間に転生できる(女性として生まれ変われる可能性がある)と信じてやまなかったからだ。


 少なくとも生物上男として生まれれば、死ぬまで男として生きなければならない。これが確定しているため、それなら死んだ方がマシ、という結論に至ったわけだ。


 これは小学生の頃から考え、悩んでいた。それでも俺は、この秘密を大学生になるまで誰にも話さなかった。自分が練炭で死にかけてようやく本心を母親に打ち明けたのだ。


 そして二つ目は、自分の収集癖に嫌気が差していたからだ。何を集めているかは家族も知らない。何なら墓までもっていきたいレベルだが、悪癖だとわかっていてもやめられないのが嫌だった。


 中学二年生の春、深夜三時に家を抜け出してマンションの最上階から飛び降りようとした時でさえも、翌日は何事もなかったかのように振舞った。そのぐらい俺は自分の秘密を人には話さないタイプの人間だったのだ。


甘城七月あまぎなつき(19)

身長183.2cm

情報

1.重度のうつ病患者。偏食で自分の収集癖に嫌気が差している。

2.つまらない嘘をよく吐く。秘密主義。

3.?

4.?

5.?

6.?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ