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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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宇部 5

ー内線を呼び出す音で微睡んでいた篠田は現実に引き戻された。


どうやらタバコを吸った後にそのまま眠りについたのだろう。


室内に吊るされている時計を見るとタバコを吸い終わった時間からおおよそ15分ほど経っていた。


彼女は大きく伸びをすると、なおも鳴りやまぬ内線の受話器を取る。


相手は年若い彼女専属の整備兵だった。


「大尉、部屋におられましたか」


「ああ、出撃前の最終点検だったな」


「はい、格納庫までお願いします」


「わかった、すぐ行く」


椅子から居眠りしている間にずり落ちた士官服を肩にかけ、彼女は格納庫に向かう。


すれ違う「雲仙うんぜん」の乗組員たちが立ち止まり、乗艦である彼女に敬礼するのを適当に返礼しつつ艦底部後方に向かう。


味方にあまりいい評判を受けない32特務中隊とその隊長である篠田だが、少なくとも隊内では特段疎まれているわけではない。


32中隊の実質専用艦に当たる「雲仙」内は彼女の悪辣な戦い方に畏怖する者も少なくないが、同時に現場指揮官として特殊作戦を何度も成功させた手腕も認められ、敬意を抱かれている。


何せ相手は侵略者である。


彼らのほとんどは解放軍の侵攻によって友人や家族を失ったものが多く、解放軍に対する恨みは根深い。


故に虐殺じみた篠田の行為にも表にこそ出さないものの、称賛を送る人間は九州でも少なくない。


彼女からしてみればほとんど「趣味」の一環で、享楽のための殺戮ではあるものの、傍から見れば苛烈な復讐鬼として映るようだった。


彼女が乗艦している「雲仙」は、解放軍が掃討された地域にほぼ出現していることから、「バカガラス」と揶揄され解放軍から目の敵にされている。


ーその「雲仙」は、統合軍の兵器群としては「空中巡洋艦」にカテゴライズされる。


名称の由来は島原半島に存在する「雲仙岳」という山名及び地域名から来ており、全国的には過去に火砕流を起こした火山であり、「普賢岳」という別名がある。


空中巡洋艦1番艦「由布」と同時期に製造し、2日遅れで就航した艦で、戦間中に隠匿性を向上させた改修が施されている。


外見は翼部フロートを除き、デルタ翼になった超巨大な飛行艇というのが最も近い形状かもしれない。


夜間特殊作戦用に従事することが主な任務のため、塗装はレーダー反射塗料を添加された黒色で統一され、巨体に見合わず隠密性も比較的高い。


昼間に遠方から見ると巨大なカラスのように見えなくもなく、「バカガラス」という呼称は言い得て妙だ。


多彩な電子システムを搭載しており、様々な電子妨害にも対応し、戦機兵と共同作戦の際にはAWACSとしても運用可能である。


熱核エンジンを主機とし、胴体後部及び両翼に3基のメインスラスターを備え、姿勢制御用に各所に小型スラスターも多数搭載している。


装備は、105mm榴弾砲を胴体下部に格納式で2門、胴体丈夫にはVLSとしてMk41改28セル、両翼には多目的CIWS「ファランクスⅡ」が両翼の上下合わせて12基と前面にハイドラロケット弾発射装置が三門ずつ搭載されている。


米軍の空中要塞と言われるAC-130でもここまでの重武装はなく、その巨体と航空機にあるまじき大火力はまさに「艦」と呼ぶにふさわしいものだった。


余談だが、空中戦艦1番艦として「阿蘇」が実戦投入される以前から「空中空母」という概念自体は存在した。


第一次大戦と第二次大戦の間、ヘリウムガスで浮かぶ硬式飛行船に小型艦載機の発艦能力を持たせた米軍開発の「アクロン号」がそれにあたる。


空中空母というカテゴリーは当時としても画期的ではあったが、如何せん飛行船であるが故、搭載量や装甲部分については脆弱にならざるを得ない。


また当時の硬式飛行船では気候や特に風に対する影響が強く、当該飛行船も事故により喪失している。


他にも戦後に大型輸送機に対してパラサイトファイターを搭載する案なども出たが、輸送機の重量過多及び子機になるパラサイトファイターの着艦が困難という技術的な問題、そして過大な予算に見合わないため廃案になった。


結局兵器というのはどこまでいっても運用及び量産コスト、そして兵器としての合理性の問題に尽きる。


そういう意味では空中母艦と戦機兵という存在は、日本近海で現状無制限に採掘かつ、少なくとも日本では安易に加工できるトラフダイトの存在によってコスト、合理性がはじめて成立しうる兵器だった。


ー篠田は格納庫にたどり着いた。


格納庫の中には予備機も含めた戦機兵十数機が並んでおり、各々の最終調整が行われていた。


「5番機右腕の軋みはもう直ったか!?」


「発艦ワイヤーの最終点検は完了しました!」


「7番機前のコンテナをどかせ、機体が動かせない!」


出撃前の格納庫の中は騒然としており、整備兵とパイロットの怒号が響き渡る。


彼女は喧騒の中、自機の方へ進みより、機体の横に立ってタブレットを叩く整備兵の前に立つ。


タブレットから整備状況を確認していた整備兵は目の前に立つ篠田に気付くと、姿勢を正して敬礼する。


「大尉、お待ちしておりました」


「調子はどうだ?」


彼女も返礼しつつタブレットをのぞき込む。


「はっ、前回の戦闘でAM-15の砲身が耐用限界になりましたので、前回帰投時に交換作業を行っています」


AM-15というのは戦機兵の主兵装である制式ライフルであり、AR-15ライフルをそのまま戦機兵サイズに拡大化したモデルである。


戦機兵の兵装には単純に拡大化したものが多い。


新規兵装を作るよりもコストが安く、既存のノウハウが活かせるためにこういった人間用の武器のアップサイズモデルが用いられることが多い。


だが、単純にサイズを大きくしたといえど大型化することによって特に砲身の極端な加熱や耐用限度について発生する問題もついて回り、一概にローコストとはいい難い状況である。


「ああ、いや今回はそいつはいい。こいつを二挺持ちで使う」


彼女が機体の隣の武器ラックにある戦機兵用サブマシンガンを指さす。


「AMP-7ですか・・・、お言葉ですが、二挺持ちでの精度と射程は保証できませんよ」


「どのみち踏み込んで撃てばライフルもマシンガンも変わらんだろ?」


毎度のことながら身も蓋もない彼女の言い分に整備士は肩をすくめる。


「了解しました。予備のマガジンは腰のラックに?」


「そうだな、二本ずつつけといてくれ」


「了解です。ほかに何か指定はありますか?」


「いやない、直前の作戦の確認やるからあとはよろしく頼むよ」


整備士に背を向け、手をひらひらさせながらその場を後にする。


彼女の唐突な提案は今に始まった話ではないが、どのみち人の話を素直に聞くようなタチでもない。


整備兵はため息をつきながらも作業に取り掛かる。

今回は空中母艦について記載しました。


デザインが私の稚拙な文章のせいでぱっと想像つかない方は

某ジ〇リのギ〇ントあたりを想像してもらえれば幸いです。


戦機兵についても細かな設定は作っていますが、

沿革と説明だけで延々終わらなさそうなので次の機会に

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