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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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宇部 2

ー32特務中隊に与えられた作戦は宇部市内にある解放軍補給基地への強襲だった。


この補給基地は最前線になる下関への物資を蓄積しており、解放軍の前線を維持する要所になっている。


最前線の膠着状況はもう半年以上になる。


戦機兵での優位性をもってしても下関の軍勢は多く、精強である為、しばしばの奪還作戦を行ってきたが、いずれも制圧には至らなかった。


主要因は解放軍歩兵部隊の総数に対し、統合軍の歩兵戦力はその半分にも満たないことである。


戦機兵がどれだけ優秀であろうと、拠点制圧や占領は歩兵の領分であり、戦機兵の攻撃に対して解放軍は巧みに分散配置された部隊によって反撃戦力を常に保持していた。


いわばモグラ叩きの状態で、一区画を掃討し、歩兵が乗り込み制圧したとしても、一昼夜のうちに別の区画からの攻撃によって奪還されてしまうのだ。


当然戦機兵部隊でも対応するものの、既存の建物や廃墟に隠れた部隊をしらみ潰ししている最中に別の部隊がまた仕掛けてくるといった有様で容易に区画維持ができなかった。


都市部そのものを破壊してしまう戦術を執るならば殲滅は可能ではある。


だが、未だに生活する住民がいること、戦後の復興の問題を踏まえてもなるだけ民間への被害を抑えた戦いを強いられていることも要因になる。


また、数年の戦闘によって解放軍でも戦機兵に対応する戦術構築がされており、特に夜間に少なくない犠牲が発生していた。


統合軍本部も事態を重く見て攻勢を一時中断し、九州本土防衛として散発的な対応をせざるを得なくなったため、膠着が続いている状況である。


32特務中隊はいわゆる搦手での作戦遂行の特殊部隊として運用され、少なくない戦果を挙げてきた。


当該中隊に配備されているのは主力の21型の特殊部隊改修モデルである「22型」だった。


現行主力機である「21型」をブラッシュアップした「22型」は、主に特殊部隊による運用を想定とされており、脚部にはホバー機構、装甲部にレーダー波反射塗料を塗装した上で排気部位も特殊加工されたものを使うことで隠密性を高めている。


これにより解放軍の拠点レーダーには22型は映らず、漆黒の塗装のために目視確認もままならない。


無論、様々な監視方法を複合すれば特定自体は可能なのだが、第一線以外の兵士の練度は低く、基地周辺の監視部隊はことごとくが反応なし、あるいは霜降山の兵士たちのように始末されていった。


篠田は5キロ地点にて部隊のうち2機をそこに留め、指定タイミングでの拠点砲撃を下知し、配下の9機を従えて静かに進む。


留めた二機は腰部にアタッチメントされた榴弾砲の射撃準備に入る。


目標は目前の補給基地内監視塔及び同塔の周辺施設。


協力関係にある米軍スパイ衛星の情報により、大まかな基地内の施設配置は把握している。


「目標補足完了、いつでも撃てます」


「了解、30秒後に攻撃開始でよろしく」


後方2機の打撃支援担当からの連絡に篠田は簡潔に返す。


篠田以下10機の22型は風雨の中を滑走してゆく。


暗闇かつ荒天の中、基地側から一台の車両が走ってくる。


恐らくは連絡の途絶えた監視部隊の確認だろう。


こういった仕事にはしばしば日本人義勇兵(と解放軍では呼称されるが実態のほとんどはほぼ強制の徴兵である)が任される。


篠田は一瞥するなり、躊躇いもなくトリガーを引いた。


戦機兵の制式ライフルから放たれた銃弾は人間からしてみれば砲弾のようなサイズである。


瞬く間に車はハチの巣になり、爆散する。


吹き飛ぶ直前にたまたま投げ出された兵士が道路上で血まみれになりながら足を抱えてのたうち回っていた。


恐らく投げ出された際に骨折でもしたのだろう。


苦悶の表情を浮かべる眼下の兵士に対し、篠田の22型はM242の照準を兵士に向ける。


兵士は驚愕の表情を浮かべる間もなく、人間だった「もの」に成り代わった。


篠田の口元が歪み、自然と口角が上がる。


彼女の悪癖ではあったが、統合軍に入隊して1年余りで数々の戦功を挙げ、部隊を任されるにまで至った手腕のために誰も咎めはしなかった。


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