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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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堺 4

長らくお待たせしました、遅筆ながらまったり更新しますので気長にお付き合いくださいませ

ー32特務中隊を含めた特殊戦略打撃群は本来ならば遊撃部隊として温存する予定であった。


堺奪還に際し他の遊撃部隊と漸次投入され、敵司令部と想定される拠点を強襲する想定を立てていたが、第二・第三師団から抽出した混成機甲師団が想定より苦戦し、最悪の場合、迂回して堺に突入する手筈の第一師団が後背を取られる恐れがありと判断。


司令部の再三に及ぶ依頼を受け、やむなく32特務中隊及び26特務小隊を投入するに至る。


荒天の中、無謀な少数機の降下にも関わらず、初動において32特務中隊は重砲群を各個撃破し、目についた敵を無造作に蹴散らしていく。


彼らに続き、雲仙に同伴していた同じく特殊作戦室所属の由布型空中巡洋艦5番艦「脊振」から26特務小隊8機も降下に成功、既に反撃を受け出した32特務中隊の援護を行う。


傍から見れば至極無謀な作戦だろう。


だが、必死の出撃ではない。


あくまで長距離打撃が可能な重砲殲滅と敵陣の撹乱にある為、極力小陣地を潰しながら分隊規模で散開し、撹乱していく事が主要任務になる。


暴風雨かつ想定の埒外である陣地中央への強行降下によって生じた混乱により解放軍の反撃は鈍い。


加えて砲弾で抉られた道が土砂降りでぬかるんで遊撃部隊のテクニカルの機動が鈍くなっていること、それに伴う重砲の観測射撃が滞っていることも当然計算に入れた上で勝算を見込んでの作戦であった。


もちろん、初動の降下そのものをしくじれば敵陣の真ん中で単機孤立、そうでなくても主力部隊が呼応しなければ戦力単位で見れば僅かな彼らは包囲殲滅という形ですり潰されるのが目に見えている為、リスキーな択には違いない。


彼女らの行動は混成師団の沈みゆく気勢そのものを取り戻す時間を稼ぐ為であり、師団が前進を再開すれば重砲を喪った解放軍は決定打を欠き、防衛戦が崩壊すると統合軍参謀本部は試算している。


そして彼女らよりもたらされるのは時間だけではない。


戦闘を行う間にも戦機兵のカメラやセンサーによって防御陣地の構築等を含めた地形情報は逐一「雲仙」を通して師団に送られ、進撃を再開した際に不意の急襲による被害を軽減できる。


もっとも、第一師団単体で堺を奪還できる見込みがあればここで篠田らが出ることはなかっただろう。


混成師団でもって敵の戦力を釘付けにし、陽動するという意味でも必要な戦いであった。


ただ、堺には恐らくいるであろう兵俑機部隊の実力が未知数である以上、可能であれば混成師団も防衛戦を突破次第、堺に突入し数で圧倒したい目論見があった。


そして、敵兵俑機の初戦の出鼻を挫き、堺を奪取する事は政治的な意味でも重要視されている。


それ故に運用コストが尋常じゃない空中戦艦を前線に投入してまで無理押しをしている。


しかしながら想定よりも混成師団の被害が大きい。


ここにきて第一師団だけが前面に出て戦ってきた事による他部隊の連弩不足のツケが出てきていた。


ーそれにしても、篠田はと反撃をしてくるテクニカル数台相手にAMP-5を放ち、地面ごと耕しながら考える。


本拠地の堺の目前にある防衛ラインにしては練度も兵器の質もそれほど高くない。


下関でも中国軍から送られてきた精鋭部隊はともかく、士気が著しく低い彼ら相手にも散々辛酸を嘗めさせられてきたし、混成師団の練度の低さもあるだろう。


それなのに先日の補給線で戦闘した部隊よりもいささか統率に欠けすぎる(・・・・・)


疑念を抱きながら戦闘行動を続行していると、ようやく混成師団が立て直し、進撃を再開したという通信が入る。


篠田は手近の戦車をAMP-5で片付け、近くの建物から撃って来ている歩兵をマニュピレーターで建物ごと抉り取る。


「少尉、ようやく本隊が動く。各機は健在か?」


「今の所は。ただ、戦闘可能なるも損傷機が4機、26小隊も半数が損傷しています」


「降下ポイントがまずかったか」


26小隊も降下に成功はしたものの、付近の機甲部隊と出くわし、殲滅はしたものの想定以上に損害を受けているようだ。


彼らとて32中隊と同じく補給線破壊を行なってきている。


そう簡単にやられることはないと見ているし、増援に行った所で敵の戦力も同じく集中するだけである為、ここは彼らの技量と天命に委ねることにした。


「我々とて他人の心配はできんがな」


どのみち彼女らとてそう変わらない状況である。


残弾は既に半分を切り、各自極力戦闘を避けている状態で持久しながら最低限の戦闘行為のみで粘っている。


混成師団が早めに動き出していたら呼応して更に効率のいい打撃を与えることもできなくはなかったが、今頃になってようやくといった有様だから叶わない。


レーダーの反応があり、彼女が今いる道路の隣の道に戦車数両が映る。


ビル一つ隔てた隣の道路に敵戦車が数量で待ち伏せしているようだ。


篠田機は跳躍し、ビルを飛び越えながら戦車隊の直上を取る。


そのまま両手に構えたAMP-5を腰だめで撃ちし2両を撃破、中央の一両の上に着地しそのまま踏み潰す。


踏み潰された車中の搭乗員は肉体がひしゃげて鮮血と共に弾け飛び、爆炎に包まれる。


残弾0になったAMP-5を放り捨てたタイミングで前後から対空砲を積んだテクニカルが飛び出してきて撃ち込んでくる。


無論、機銃程度の口径の弾が通る訳もない。


虚しく機体を弾かれた弾は付近の構造物や道路を抉っていく。


後方にいるテクニカルに対し、腰部ダガーを抜き、背中を向けたまま無造作に放る。


ダガーは正確に機銃を穿ち、機銃と銃座の砲手を挽肉に変えて後方の地面に突き刺さった。


やられるや否や車内の人間は車を飛び出し、散り散りに四散していく。


前方のテクニカルには腕部のM242を放ち、道路ごと耕す。


他にも数台いたようだが、隣の道路に残った僚機が片付けた。


あまりの呆気なさに嘆息する。


以前は歩兵相手の嬲りも痛快に感じたのだが、兵俑機と戦ってからはこんなもの(・・・・・)では満足できない。


それほどあの戦いは彼女にとって刺激的で鮮烈な体験だった。


「少尉、周囲状況は」


「敵影なし、しかしながらこちらの残弾も今ので・・・」


「だろうな、退くか」


弾が無ければ逃げ回るしかない。


幸いにして解放軍は混成師団の再攻勢に対し、残弾少なく逃げ回っている彼女らへの戦力を差し向ける余裕がなかった。


「26小隊もどうやら危地を潜り抜けたようです」


「それは重畳」


通信回線を特殊戦略打撃群のチャンネルに切り替える。


「降下した各員へ。全機撤退する、指定ポイントまで移動しろ。繰り返す、全機撤退だ」


通信を終え、刺さったダガーを回収しようとしたところ、()の悪寒が走った。


ほとんど無意識に操縦桿を倒し、前転してビルに寄りかかるように横倒しに倒れこむ。


頭上を掠めた敵弾が自機の付近で爆発、破片が飛散し、頭部センサー類に損傷を与える。


胸部サブカメラによって完全な視覚喪失には至らないが、これによって大幅に視界が狭まった。


「隊長、今の爆発はー」


彼女が「伏せろ」という前に敵弾は防御姿勢を取ろうとしてわずかに間に合わなかった少尉機の背部に直撃、少尉機は黒煙を上げ、倒れ伏す。


「少尉、大丈夫か」


何度か呼びかけるが彼の通信からはノイズしか聞こえず、応答がない。


「味方の心配をしてる場合か?」


オープン回線でその男(・・・)の声が入ると同時に強めの頭痛が彼女を襲う。


この障る痛みは『彼』関係の相手だろう。


「こんなところで会えるとはなぁ、堀田(・・)ぁ!」


数百メートル先に降り立った兵俑機に乗っているその男は、彼女が知らない相手(・・・・・・・・・)の名前を叫んでいた。

・特殊戦略打撃群

関西奪還に際して臨時編成された特殊戦略作戦室直属の戦機兵部隊のみで構成された連隊規模の遊撃部隊。


統合軍司令部直轄の通常部隊とは異なり独立指揮権を有し、対応が難しい任務に臨む。


部隊の特性上、構成員はほとんど実戦からの叩き上げかつ最精鋭の第一師団にも比肩しうる操縦技能を有している。


・空中戦艦/巡洋艦の名称

以下の通り。(左から1番艦)

戦艦

阿蘇、高千穂、比叡、霧島、桜島

巡洋艦

由布、雲仙、開聞、皿倉、脊振、国見、市房、鶴見、宝満


ちなみに通常一隻の空中戦艦は2年、巡洋艦であれば10ヶ月前後で建造可能。


大規模な物資支援及び建造用機械の提供を受けた上で、戦時特例法に伴う技術者を大規模動員し急ピッチの建造によって短期間で数を揃えることが出来た。


現在は定数が揃った為、部品や装甲板などの修理整備用に用いる部材のみ製造している。


・解放軍の対戦機兵戦術

統合軍は新参兵が多いものの士気は高く、戦機兵を有している。


一方で解放軍は現地で徴用兵がほとんどである。


元々復讐や奪還に燃える志願兵が揃った統合軍と現地で逃げ切れずに捕縛され無理やり徴用された統率にも欠ける彼らには歴然とした差がある。


無論、中国軍部隊主体で訓練は行うが、そもそもの士気の低さで督戦をしなければまともに機能しない雑軍であることは拭えなかった。


そこで下関の停滞による睨み合いのタイミングにおいて統合軍の反抗作戦に対抗する為に拠点防御を主軸として戦術が構築された経緯がある。


防御戦においては必ずしも練度の高さは必須ではなく、極端な話、周到な防御陣地を構築することで武器の操作が出来る人間がいれば相応以上の力を発揮し抵抗出来得る。


骨子となる基本戦術は戦機兵が進撃してきたところを周到に配置した陣地及び野砲を牽引したテクニカルで脚部などに集中砲火して行動不能にするか、テクニカルからの観測情報を元に重砲群でもって遠距離から一方的に砲撃するといった内容だ。


野砲自体はWW2前後のものとさして変わらないが、砲弾の進化により、野砲程度でも現行戦車や戦機兵に撃破までは至らないものの、比較的脆弱な関節部分に直撃させれば部位破壊程度なら十分可能。


問題は待ち伏せ前提である為、撃退はできても侵攻は難しい事にあった。


機動戦になれば戦機兵に分があり、戦機兵相手には到底叶わないことも理由に挙がる。


・解放軍の主力兵器

中国軍から受領された兵器群が主力であるが、緒戦に於いて大打撃を受けた事により最も有用な戦車や戦闘機、攻撃ヘリの残余が少なく、党本部からの追及を恐れて被害を過少報告したことで補給も少ない状況である。


自走砲やピックアップトラックを改装して野砲や対空機銃を搭載・牽引するテクニカルで代用しているところであるが、複数台で足止めが成功した上で集中砲火を叩き込まないと撃破がままならなず、戦機兵と連携している歩兵相手にも容易く撃破されることから集中運用以外で戦果を出せていないのが現状。

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