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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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福岡 9

ー夜半の市内、外壁を破壊して道路上に出たところで火の手が上がる方向を32型のモニターで見ながら篠田は静かに黙祷する。


突入部隊には以前に射撃訓練で彼女に2丁拳銃を披露した彼も参加している。


前日にも射撃訓練所で出会って二、三会話した際に、彼は突入部隊として出動すると聞いていた。


死んだと断定はできないが、少なくとも生きている確率は低いだろう。


彼らの墓前に宮前の首を供えてやらなければ死んでも死にきれないだろう。


踵を返し、港方面を見遣る。


港に着く前に捉えるに越したことはない。


32型のスラスターを噴かし、アクティブソナーを走らせる。


相変わらずEMPパルスの影響で磁気が乱れてはっきりと映らないが、港方面に動く動体を掴んだ。


何両か随伴がついているようだが、非常線を易々と抜けていく。


それも下山が海軍に当たらせるといった警備ラインばかりだ。


こうも露骨にやるのは怒りを通り越して笑いすら込み上げてくる。


下手をすれば海軍と事を構える必要がでてくるのも想定しなければならない。


嘆息した後、一気にスラスターを噴かす。


たとえそうであっても、彼女は戦うつもりだった。


戦友の死を無碍にしたくないのもあるが、それよりも自分を茶番劇の舞台に引き摺り出しておいて添え物としてしか使わなかった采配が何より気に食わない。


宮前を捕らえられないなら失態を詰られ、命令違反を覚悟で動いている現状で捕縛したとしても誹りは免れない。


どのみち彼女からすればどっちもどっちに等しかった。


「まだ幕は降りちゃないさ」


ーその頃、下山准将は東シナ海近海で警戒配備している「むらさめ」艦長室で葉巻を吸いながら事態の推移報告を下士官から受けていた。


「EPMパルス弾を含んだビル爆破によって突入部隊は壊滅、宮前殿は同時刻に行動を開始して回収地点に向かっています」


「追跡と包囲網は?」


「パルス弾の影響で不確かですが恐らく皆無、包囲についても陸軍管轄の非常線は発動していますが、我々の配置した検問所ルートを通過することで難なく抜け出して来ています」


「当然、根回しした結果だよ。下がって良い」


下士官は敬礼して部屋を出る。


この話を知っている者は海軍の中、こと「むらさめ」の中でもごく一握りである。


下山が自身のシンパである下士官を解放軍スパイと称して宮前と接触させ、下士官経由で宮前に車と脱出ルートを与えた。


無論宮前がまさか海軍の将校が一枚噛んでいるなんてわかるわけがない。


用意した車は統合軍でも使用している軽装甲機動車であり、宮前とその秘書には事前にルートも伝えてある。


ついでに言うなら検問所に配置した海軍人員には「当該車両は極秘任務に参加している為、速やかに通す」旨を命令書で通達している。


よもや今夜のお尋ね者が乗っているとは彼らも思わないだろう。


下山の目的は特殊戦略作戦室の信用失墜である。


解放軍は下関攻略戦において補給ルートのことごとくを潰されて敗走を余儀なくされた主要因として重く見ており、それ故に物資の余力が十二分にある関西圏まで一気に戦線を下げている。


関西以東に関しては補給線における防衛措置もある程度の目処が立っているが、できれば昨今の佐野が指揮している「吸血部隊」含めた戦機兵部隊の補給線破壊活動を抑制させたい。


下山が見るに兵俑機によって物量含め極力市街地の破壊を避けたい統合軍は苦戦は必至と見ている。


しかしながら佐野の事だ、別の方法で持って補給を妨害するのは十分に考えられる。


可能であれば特殊戦略室付きの特務部隊を潰し、解放軍には後顧の憂いを断った上で盤石な勝利を収めてもらいたい。


とはいえ、いくら戦いにくい根回しを行ったとは言え下手な情報を持った宮前を逃がすつもりもない。


彼が篠田や特殊戦略作戦室直属の部隊に殺されるなら最良。


首尾よく埠頭に着いて船舶に乗り込んだとして、沖まできた段階で船舶に仕掛けた爆薬で消すつもりであった。


仮に彼が捕縛されて事になれば、いずれ巡り巡って火の粉が降りかかるのは紛れもなく自分自身だからだ。


おまけに篠田が独断行動を起こし、こちらの罠にかかって戦死すればもっといい。


どうせ妙に勘の鋭い彼女の事だ、宮前の動きを読んで埠頭までくるだろう。


理屈として語れる根拠はない。


ただ、佐野の配下であることと先日の会談で妙な悪寒を常に感じ続けていた。


言い得ぬ不安感というか、ただそこにいるだけで敵対視している相手を底冷えさせるに足る妙な雰囲気を持ち合わせていた。


孤児ごときが軍人になるのも烏滸がましいが、それ以上に自身に不愉快な感情を持たせたことを何よりも疎ましく思っていた。


32型という欠陥機に乗せることを根回ししたのも下山の差金である。


なるほど機体そのもののポテンシャルは高いが、結局は机上の空論の機体であることはよく知っていた。


また、倉庫にある段階で機体にある仕掛けを施させている。


そうなれば彼女は何もできずに嬲り殺しに遭うことだろう。


自分こそが解放軍の勝利の立役者となる。


そう信じてやまない表情で窓からはるか先にある埠頭方面を見やる。


「まあ、精々頑張ってくれたまえよ、愚民諸君」


ほくそ笑んだ下山は葉巻の煙を一気にふかす。


海面は雲間から顔を出した半月を照らしている。


不気味なほど静かな洋上には「むらさめ」の他にはいない。


ただ、その直上十数キロ地点には「むらさめ」に未だ感知されていない空中巡洋艦「雲仙」が雲の中に潜んでいた。

終わる終わる詐欺になりつつありますね・・・ごめんなさい。

福岡編の締めは構想ができているんですが文章がうまいこと書けてないのでもうしばらくお付き合いください。

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