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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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福岡 8

ー夜半、突入部隊は作戦の定刻通り宮前の事務所ビルに対し突入を敢行。


ビルの周辺には気取られぬようにはあるが巧妙に包囲がされており、地域住民にも定期的に行われる大規模輸送を装って夜間の外出を禁じ、万に一つ逃走を図った場合も非常線を即座に張って確保できるような体制を整えていた。


彼が自身の事務所があるビルで寝泊まりをしていることまでは調べがついており、彼の住んでいるマンション付近で張り込んでいた別働隊の報告からも本日は戻っていない報告を受けている。


3班に分かれた突入部隊はそれぞれの指示された入り口から突入し、内部をくまなく捜索する。


意外に抵抗はない。


いや、むしろ無さすぎる。


ビルの中は暗く、不気味なほどに静かな状態で人の気配をまるで感じない。


本来であれば宮前直属の職員も同様に寝食しているはずであるが、仮眠所にもその姿はなかった。


彼らは不審に思いながらも確保に至らなかった場合は可能な限り証拠になりそうなものを回収して撤収するよう命じられていた為、手ぶらで帰るわけにはいかなかった。


空振りの予感を感じつつも最上階にある宮前の執務室まで来たA班は扉に爆発物がないことを確認した上で部屋に乗り込む。


「こちらアルファ班、部屋はもぬけのカラです、空振りでした」


「アルファ班了解、念の為隠し部屋もないかチェックしながら情報収集も同時並行で行って欲しい」


繋げっぱなしの通信で突入班と指揮所とのやりとりを聞きながら篠田は32型のコックピットで煙草をふかしていた。


彼女らが待機しているのは事務所ビルから1キロ程度離れた工事現場内である。


元々解体工事の現場をそのまま使わせてもらっている関係上、工事用の外壁が設けられている為、夕刻から場内に入ってしまえば中で戦機兵を立たせようとすぐには気づかれない。


問題は実際に出撃の際に外壁を破壊しないことには出られないが、彼女が出る状況というのはよほど切迫した事態なのだからやむを得ないという判断だ。


だが、宮前がすでに脱出されたのであれば篠田の出番はない。


ただ無駄にドライブをして煙草を吸って時間を潰しただけの仕事になる。


つまらないと言えばそうではあるが、彼女とて乗りこなせる自信の無い機体で未知数の敵と戦うハメになるのはあまり好ましくなかった。


「空振りのようですね。我々も出る幕がなくなったわけだ」


「そうだな、もっともこいつで戦わずに正直ホッとしているところではあるがー、」


軍曹のぼやきに返事をしているその時、通信機から遮るように激しいノイズが響き、突入部隊の通信回線から聞こえる音が無変調になる。


「こちら篠田。指揮所、何があった」


しかしノイズのみで反応がない。


外からは遅れて爆発音が響いてきた。


「隊長、これは・・・」


「恐らく宮前のビルが爆破されたんだろう、本部への連絡はどうだ」


「こちらシグマ班、緊急事態発生。本部応答せよ。繰り返す、本部・・・・。ダメです、応答なし!」


軍曹の呼びかけに無線からはノイズ音だけが虚しく響く。


おそらくはビルごと吹き飛ばす際の爆薬の中にEMPパルス弾も混ぜて起爆したのだろう。


篠田は歯噛みした。


既に突入作戦の情報は漏れていたことで、敵側の罠にまんまと乗ってしまった。


確実に統合軍内の特殊戦略作戦室に近しいスパイがいるという事実は理解できたものの、情報が一切遮断されている彼女らに今できることはない。


かといって無闇に戦機兵を動かせば先ほどの爆発騒ぎで往来に出てきた市民たちに更なる動揺を招きかねない。


通信も途絶されている今、本部からの増援も遅れに遅れて最悪脱出された場合の非常線についても張った頃には宮前は逃げ果せるだろう。


篠田はコックピット内でディスプレイに対して指を叩きながら思案するも策が浮かばない。


いつも戦う戦場で冴える彼女の合理的思考もそこに市民への配慮が含まれた途端、強い制動が働いてうまい方法を思いつかない。


一度基地に戻って直接の連絡を取るべきか。


あるいはビル周辺の死傷者救出のために動くべきか。


いつもであれば敵の殲滅を第一義とする彼女ではあるが、目に見えた敵がいない以上はどうするべきか考えあぐねていた。


ー刹那、彼女の頭部に急に差し込むような痛みが襲った。


『彼』の獲物(・・)が近くにいるときは決まってこの頭痛が起きる。


どういう因果かこの頭痛というのは、必ずと言っていいほど(・・・・・・・・・・)彼女にとっても不利益を被ったり、敵である存在から引き起こされている。


今回のそれもほぼ同じと見ていいだろう。


彼女は処方された錠剤を内ポケットから取り出して齧る。


「・・・軍曹、悪いが現場外の表道路側の音声をこっちに回せるか?」


「ええ、大丈夫ですが、ノイズが激しくて何が何やら分かりませんよ」


「いいんだ、聞かせてくれ」


「・・・了解」


怪訝に思いながらも軍曹は工事現場周辺に設置されたカメラ映像及びマイクの音声を篠田の方に共有させた。


実際に聞いてみてもなるほど軍曹の言うとおり、映像は砂嵐で音声も酷くノイズがかかっていて外の状況をわかる由もない。


しかし彼女は強烈な頭痛と、ノイズの中にある特定の電磁波の歪みが音として現れる兆候を見逃さなかった。


車両は走る際に若干のノイズを発生させる。


出入りが抑止されているにも関わらず一台だけ高速で走る車がいる。


それも事務所から離れていくような動きであることを複数のマイクから拾った音の時間差で認識した。


違う可能性も当然ある。


しかしながら車が遠ざかっていくほどに頭痛が和らいでいく。


まず間違いないだろうという確信が彼女にはあった。


「出るぞ、恐らく宮前は今から逃げるつもりだ」


「今ですか!?命令も何も降りていないのに・・・!」


「今を逃せば宮前は捕えられんよ、舫《もやい》を解け」


「・・・了解しました」


トレーラーの上面が開き、機体が顕になる。


荷台に固定するためのロック板が外れ、32型はゆっくりと起き上がった。


「お前は一度本部に戻って状況を報告しろ」


「どこに行かれるんですか?」


他の部隊も無線を聞いていれば緊急事態を察して非常線も一応は敷くだろう。


軍曹からしてみればわざわざ戦機兵を出さずとも非常線によって宮前はあえなく捕まるのが目に見えている。


だが、一つだけ抜け穴がある、篠田は直感的に理解した。


作戦前の非常線配置について陸軍が担当するところを急に海軍の横槍が入って海岸線に向かうところには海軍が人員配置させている。


「ー埠頭だよ」


そう告げると、篠田は目の前の壁を蹴破り、夜の市内に躍り出た。

バタバタな感じで投稿が遅くなってすいません・・・。あと数回で福岡編は終わると思います。

次回分は極力早めに出そうかな。

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