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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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福岡 3

ー党本部の目論見では解放軍を現地ゲリラ勢力として育て、各国への根回しを行うことで自分たちの手を汚さずとも日本を奪ることが可能と判断していた。


事実、各国の首脳部に深く浸透した中国由来のカネは他国の様々な部分において中国にとって有利な制度を忍ばせていった経緯がある。


が、党本部が思う以上に共産圏に対する風当たりは今も強く、ましてや他国の内政干渉まで推し進めてきた反発の皺寄せがカネや利権だけでは賄いきれなくなってしまっていた。


それでも、彼らは日本全土を制圧してしまえば瑣末な問題だと楽観視していた。


実際問題として解放軍は間もなく本州から追い落とさんとしている。


どれだけ空中空母や戦機兵などといったEMPパルスを無効化する兵器群で圧倒しようと、中国本土からの増援及び現地徴発を含めた解放軍の圧倒的な兵力の中では局地的な敗戦でしかない。


しかし、九州の解放軍部隊が西部方面隊によって殲滅された事実を軽んじていた。


彼らは本州の主力及び難民たちを九州で受け入れる為に早急に防衛戦の準備を行い、迎撃構築を固めていった。


そして、主力と難民が避難完了した後、戦機兵部隊が殿を務め、解放軍の追撃部隊の前衛を完全に駆逐、そして苦肉の策である関門橋及び関門トンネルを爆破解体することによって海軍を持たない解放軍は停滞した。


そうして執拗な追撃によって伸び切り、消耗した前衛部隊の補給線は九州の橋頭堡確保の為の戦力補充を行うにもあまりにも細く、下関には連日の追撃戦で消耗し弾薬を使い切った部隊が残るのみであった。


一時的な攻勢を中断し、ここにきて解放軍は下関で補給のために数週間の停滞を余儀なくされる。


当然、日本にとっては非常に都合が良い展開だ。


そうこうするうちに日本は福岡に臨時政府を立ち上げ、再編成された統合軍によって門司の戦力は更に増強、より堅固な防衛体制によって解放軍の快進撃は完全に停止した。


下関と門司は本当に目と鼻の先の領域であるが、盤面は動かない。


解放軍に海軍が存在しないことも大きいが、肝心な渡河用のボートすら絶対的に不足していたことも大きい。


占領地域の船舶を徴発し、たびたび攻勢に出るものの、都度、統合軍の決死の水際防御によって撃退されていく。


程なく統合軍が戦機兵部隊の量産に成功すると、解放軍の通常船舶での散発的な上陸行動は自殺行為に等しくなり、著しい出血を伴った。


無論、攻勢をかけない日も毎日のように九州方面に対して定期的な砲撃を行う。


しかし、即座の配置転換が容易な戦機兵には当たらず、むしろ砲撃するたびにこちらの砲陣地を把握され、ことごとく逆襲の砲撃によって潰されていく。


弾薬とてタダではない。


中国本土からの鼠輸送や占領地域による製造によって賄いはできるものの、砲撃を行うリターンと反撃のリスクを鑑みて下関市街地を盾に長距離砲の攻撃に留まるのみであった。


解放軍は補給線を築き上げたタイミングには既に完全な膠着状態に陥り、日課として行う砲撃に使う弾薬の足しにしかならなかった。


ドローンによる攻撃もジャミングによって大多数が無力化、あまつさえコントロール権を奪われて逆襲される事態が多発。


こちらについては解放軍のドローン運用の認識が、人員よりも高価なもの・・であるということもあり、徐々に展開を控えた経緯もある。


早急に全土を侵攻したい彼らは当然九州沿岸の各所からの侵攻策も検討されていたが、海軍のいない解放軍に大量の艦船からの上陸作戦は非常に困難であり、米海軍や他国の艦船が宣言こそしないにせよ、九州沿岸を頻繁に行き来して警戒網の一端を担うことで牽制をかけている。


ーもっとも、統合軍にとっても本州奪還の為の逆襲は難しかった。


戦機兵は河川程度なら十分踏破はできるものの、海上においては気密処理の関係で運用が厳しく、海戦装備への換装をしたとて戦闘後には海水処理の為、全機オーバーホール点検を行う必要があった。


そのうえ、仮に大打撃を与えたとて、次から次へと物資と人員が補充される事もあり、どの攻勢も決定打には至らず、前線の将兵が歯噛みする状況が続いていた。


もちろん、ただ手をこまねいていたわけではない。


空中空母からの降下によって下関の後背を衝く形で幾度となく散発的な攻勢に出てはいたが、前述した通り、解放軍のゲリラ的な防衛によって歩兵を伴わない戦機兵は大苦戦する。


戦機兵は大きな歩兵の枠として期待していた部分もあったが、都市部の制圧においてはついぞ歩兵の役割を果たせなかった。


下関という土地のそれ自体は大して防御に適さない。


しかし、民衆感情及びリソース源となる有力議員たちの頑なな要望により、極力市街地への被害を避ける方針を取らざるを得ない統合軍は攻めに攻めあぐねた。


人型であるが故に容易とされた市街戦もあくまで建築物の被害を念頭に入れない場合の話であり、やむを得ない場合を除いた建造物の破損を避ける戦闘は搭乗員たちに著しい疲労とプレッシャーを与えていた。


散発的な強行攻撃をした際に統合軍は戦機兵の単独運用による市街地での完全制圧は困難と判断し、以降の運用を大幅に見直す事になった。


見直しが行われた直後の戦機兵と歩兵の混成部隊を編成した大規模な奪還作戦の第一回。


量産したての戦機兵部隊とその促成兵では歩兵との連携が未発達だった為、市街地に入った途端、相互に独立行動を取ったタイミングで巧妙に配置された解放軍の歩兵や火砲部隊に各個撃破されていき、大損害を被る前に撤退を余儀なくされた。


その一ヶ月後、前作戦の失敗を見直しが完了しないまま、第二回大規模奪還作戦は発せられた。

次回ちょこっと過去の戦闘描きます、のんびりお待ちください


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