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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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開戦

ー中国共産党を支持する中国軍本隊、中国系移民者及び同調する極左日本人の義勇軍を有する「国共解放戦線」は秘密裏にクーデターの準備を整えていた。


目的は太平洋進出のための橋頭保及び、

先の震災で南海トラフ域に隆起した新鉱物「トラフダイト」である。


これらの鉱物資源は当然のことながら現行兵器に使われているどんな鉄や複合材よりも頑丈かつ多用途であり、

現代戦における兵器開発において革新的な技術発展が見込めるものである。


元々は南海トラフ大震災の混乱に乗じて一部地域を制圧する見込みだったが、

これらの鉱物資源の重要性を鑑みるに、素早く日本本土の侵攻を行わないと戦力バランスが逆転するという党本部の焦りもあった。


解放軍らは中国からの密輸による武器供給で数個師団クラスの戦力を有し、

新兵器「EMP爆弾」を全国各所で起爆させ、蜂起を開始。


超広範囲にEMPパルスを発生させるその新型爆弾によって電子機器に壊滅的な打撃を受けた自衛隊は

満足な逆襲もままならず、逆にEMPパルスによって自衛隊の索敵及び航空戦力を無力化され、

ゲリラ的な全国区での集団蜂起によって防衛戦力を次々と駆逐されていった。


加えてこの蜂起に際してかねてより呼応していた中国より本土からの人員派遣がなされたものの、

こちらは海自の決死の働きにより上陸最小限に留めることに成功。


しかしながら二の矢として放たれた通常弾道ミサイル及びそれらに偽装した核ミサイルの飽和攻撃は、

対応に追われていた海自及び陸自の防衛システムの限界を超え、次々と本土に着弾。


EMP爆弾に加えて特にミサイルの集中攻撃を受けたことで、航空自衛隊は空戦戦力が壊滅し、瓦解。


これにより首都及び各県の主要都市を放棄せざるを得なくなった。


初戦の大戦果に士気の高い解放軍は次々と関東圏を着実に浸透突破し、

避難民の盾となるべく自衛隊は通常ならば練度の劣るような解放軍相手に屈辱の撤退戦を繰り広げていた。


それから数カ月、南下していく自衛隊を尻目に海自の防衛網の穴を衝き、

続々と強襲揚陸艦にて中国軍本隊も合流し、更に増強した解放軍は難民を保護しながら南下する自衛隊に対し、大阪・堺にて後顧の憂を断つべく殲滅を目論む。



比較的損害の少なかった西部方面隊及び富士教導隊の増援があったものの、

圧倒的物量で押し切る解放軍に対し、絶体絶命の危機に陥る自衛隊。


その最中、一機の巨大な影が空を覆う。


西部方面隊所属の秘匿兵器、空中母艦「阿蘇」だった。


航空管制及び航空母艦そのものも兼ねるまったく新種の概念から生まれた艦種である。


EMP対策を施した阿蘇は戦闘機を同じく出せない解放軍に対し、

250メートル級の巨体から大小の艦砲を解放軍に向けて叩き込む。


阿蘇の威容と猛烈な艦砲射撃によって、一時は前線を押し戻すことに成功したが、

味方地上部隊の損害は深刻で、どのみち可及的速やかに撤退させる必要が出てきた。


「阿蘇」は垂直離着陸も可能かつ、巨体にものを言わせた積載量で残存兵力と避難民を収容可能ではあった。


が、降下してしまえば火砲の一部のみしか稼働できず、かつ収容するまでに地上の彼らを護衛しきれない。


阿蘇乗艦の方面隊指令は一つの決断をした。


もう一つの秘匿兵器、「戦機兵」を救出のための時間稼ぎとして使用すると。


解放軍の前では、牽制射撃をしつつ地表に降下する「阿蘇」下部から大型ワイヤーが降りてくる。


そこには、十数機の人型ロボットが吊るされていた。


急ごしらえからか、機体は塗装されていない地金そのものの灰色。


トラフダイトで構成された装甲は一県無機質な印象を与えるがその15mもある巨体は見るものを、

特に相対している人間相手に強烈な畏怖を覚えさせた。


戦備えをした野武士のような彼らは各々様々な武装を抱え、

地上部隊を蹂躙せんとする軍勢の波に果敢にも飛び込んでいった。


ー数時間後、全地上員の収容が完了した「阿蘇」は飛び立ち、

下方に吊るされたロープに「戦機」たちがつかまり、ロックで固定される。


先ほどまで戦闘していた眼下の風景は、敵の屍と残骸が無惨に転がっていた。


かろうじて生きながらえた解放軍の一人が、夕焼けを背に去っていく巨人たちを指さし、こう呻いた。


「日本鬼・・・」


ーこの日、自衛隊は大阪防衛自体は失敗したものの、

残存兵力及び避難民を回収、また、新兵器二種の実戦投入によって敵部隊を掃討。


戦術的勝利をおさめ、既に避難の完了している中国四国を超え、九州へ帰投した。


一方解放軍は近畿地区の制圧という戦略目標は達したものの、

精鋭の3個師団を壊滅させられ、また、敵の新兵器の脅威に対しての対抗策を練る必要に迫られた。


先の戦闘データから導き出された結論は、

「トラフダイト」を用いて作られた新兵器に対し、現行戦力ではおおよそ同等に戦えるものはなかった。


また、肝心の鉱物地帯も米軍と海自の護衛艦軍の連合艦隊が常に監視しており、

兵器に使用できる採掘量を満たせないままであった。


ーそれから数年、西部方面隊を中心とした自衛隊は、日本国統合軍として再編され、

「空中戦艦」及び「戦機兵」によって戦力は拮抗、解放軍の侵攻は中国地方にて停滞を続けることになる。

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