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虚ろな夕暮れ  作者: 白石平八郎
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萩 2

ー山口県萩市市街にある補給基地上空の雲中から突如現れた32特務中隊は、空を走るサーチライトをかいくぐり、基地に迫る。


篠田以下、各々の機体が降下しながら構えた多連発無反動砲が兵舎と武器弾薬集積所のある建物に向けて一斉に火を噴いた。


彼女らが降下してから雲下に出てものの30秒、空に何らかの降下する物体を認めた歩哨が無線を送るより早く、親弾の砲弾から無数の子弾が分裂し、火の雨となって彼らの頭上に降り注ぐ。


度重なる後方拠点襲撃の報は既に入っており、兵士たちは通常装備のままの就寝及び平時より多い数部隊を用いた索敵をローテーションで行っていた。


毎晩のごとくサーチライト及びレーダーによる索敵を厳にしていたのだが、ほぼ直上からの強襲降下と真っ先に兵舎を狙われたことで大混乱に陥る。


その日は曇天であること、黒色の22型が闇に紛れて目視できなかった事に加え、ステルスコーティングさによってレーダーでギリギリまで捕捉すらされず、32特務中隊の奇襲は見事成功した。


篠田機は降下しつつ使い切った無反動砲を無造作に放り投げると、基地内に着地した。


「目の前で這いまわっているガラクタ共と武器弾薬集積所を先に潰せ」


腰を抜かして座り込んだり、狼狽して意味もなく戦機兵相手にただのライフルをこちらに撃ってくる兵士、彼女の言うところのガラクタ(・・・・)を対人機銃で取り除きながら篠田は下知する。


前回と異なり、集積物より先に人員殺傷を先んじたのは建前としては「複数回の襲撃で警戒してあるだろう解放軍兵士たちの戦意及び戦力を先に削ぎ、反撃能力を喪失させてから本目標の物資資源破壊及び略奪」としていた。


作戦立案した特殊戦略作戦室はあくまで徴発された元民間人の戦意を削ぐことを目的としていたが、降伏した兵士まで殺す事は言っていない。


篠田の悪癖は捕虜殺害にも些かのためらいもなく当然のように行うところにあった。


もっとも建前としては当該中隊の行動は公にはできない関係で可能な限りの証拠隠滅を行うための殺戮であるとしている。


秘匿作戦であるため、当然捕虜を回収する余裕はない。


それでも彼女の性格をして、虐殺行為そのものが目的ではないのかと隊員たちは疑っている。


彼女の目的と手段が入れ替わっている戦い方に疑念を抱く隊員は少なくないものの、誰も声を上げなかった。


それ以上に老若男女問わず行われた解放軍の凄惨な虐殺行為よりマシだと己に言い聞かせながら、あるいは家族や近しい人たちを殺された報復として彼らも徹底的に殺していった。


その行為そのものを行っている時点で彼女や解放軍と同じ穴の狢であるということを彼らはあえて考えないようにしていた。


戦時下である以上、「仕方のないこと(・・・・・・・)」だし、彼女を諫めたところで無益な殺生をやめるとは到底考えられなかった。


そうして上層部の事実上の黙認を得た32中隊の面々は次々と視界に入った動くものを捉えては撃った。


そこにあるのは日本奪還といった立派な題目ではなく、血で血を贖う修羅の巷のそれだった。


ー篠田が歩兵を次々と嬲り殺しにしている中、一機の攻撃ヘリ「ハイトゥン」が至近から篠田の背後を衝き、照準を合わせる。


建物の間を縫って唐突に出てきたハイトゥンであるが、篠田は既にレーダーで情報は認識していた。


が、彼女は目の前のガラクタ遊び(・・・・・・)の方が優先されていただけに過ぎない。


レーザー照射されたことの警告音がモニターに表示されてから数コンマ秒、篠田機は振り向きざまにハイトゥン側に滑り込み、左腕搭載のAMP-7をフルオートで叩き込む。


HJ-8対戦車ミサイルを放つと同時にハイトゥンは無数に穿たれ爆ぜる。


放たれたミサイルは急な滑り込み動作に誘導が追い付かず、篠田機のいた場所の空を切り、向かいにあった建物に直撃、爆発と共に構造物が粉々に砕けて飛散する。


すかさず立ち上がり、右腕の二丁目のAMP-7で死角から彼女を狙っていた80式改戦車の上部装甲を穿つ。


いかに型落ちした第二世代の改修戦車であろうと元々あった装甲はさらに補強され、加えて爆発反応装甲(=Explosive Reactive Armour)を増設していることから同世代はおろか、一定の距離を保てば第三世代の有する砲の直撃にも耐えうる仕様である。


しかしながら戦車は当然ながら対地上兵器に対する装甲配置を行っているのが常であり、それゆえに上部装甲は地上から狙われない部分のため、装甲は他より明確に薄い。


昨今の事情を鑑み、80式改若干ながら補強はしているため、攻撃ヘリの小口径機銃程度なら防げるものの、戦機兵の有する武装は総じて既存の機銃の中でも大火力のため、紙のように容易く貫通していく。


斉射を受け、戦車内部にいた兵士たちの体は大口径弾が全身を抉り抜いて一瞬で肉片となり、ある者の頭部は割られたスイカのように弾け飛び、車内を血煙に染める。


篠田はせせら笑いながら爆発炎上する戦車から逃げ回る随伴歩兵に向けてAMP-7を向けた。


今日の遊び(・・)は始まったばかりだ。


本文に入れそこなったので補足情報入れておきます。


・解放軍による32特務中隊の実在認識

現状、解放軍から半ば都市伝説のように扱われていた「神出鬼没の掃討虐殺部隊」と呼ばれていた彼女ら32特務中隊は、

この所の連続襲撃によって解放軍にも彼女らの実在を確信せしめ、中国経由で臨時政府に明確な虐殺行為として抗議文が届いている。


とはいえ、解放軍も虐殺を行っているため当の臨時日本政府は黙殺。

党本部広報は各国の心象操作のために各国に対しても惨状を訴えたものの、

「貴国が支援する集団の凄惨な虐殺行為に対する報復ではないのか」と逆に糾弾され、相手にもされなかった。


・戦機兵の対戦車戦術

戦機兵は万能の兵器だが、人型である以上、防御力は同じ時代の主力戦車より低い。


トラフダイトという強力な装甲は確かに既存概念よりも高強度には違いないものの、

それでも現代戦において進化してきた戦車砲では、直撃すれば戦機兵と言えど無事では済まない。


しかしながら戦車の砲塔で上下左右に動き回る戦機兵を捉えるのは至難の業で、

遮蔽物を利用しながら接近された場合に戦車には対抗する術がない。

電子機器の性能差、兵器そのものの高さによる視界の有利性もあって先に発見されてしまい、

過剰なまでの火力で殲滅されてしまう。


仮に戦車が戦機兵に勝てるとするならば、戦機兵の機動が著しく制限されるような閉所、

あるいは砂漠や何もない平野部のような開けた場所での車両を徹底的に隠匿し、

待ち伏せ狙撃に徹した戦法を採るならば、戦機兵部隊に少なくない損害を与えることも不可能ではない。


実際に市街地戦での戦車のゲリラ的戦術によって戦機兵部隊は損害を被り、

平野部での戦闘では解放軍の戦車連隊の巧妙な待ち伏せによって21型で構成された一般部隊は撃退されてしまったこともある。


その戦訓から、戦機兵は開けた場所での戦闘は常に広めに分散し、早期発見及び不規則な戦術機動を心掛けるように厳命されている。


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