09 それぞれの見た前世の夢
今回、前半はちょっとシリアスです。
あの後、神楽ちゃんの協力もあり、再びおかしくなった大地を正気に戻すことに成功した。
神楽ちゃんがいてくれて本当に良かった。
私と大地だけだったら、私も今ごろどうにかなっていただろう。心の底からそう思えてならない。
「ありがとう神楽ちゃん」
「うん、どういたしまして。でもいいよね。前世は違った親子が今では幼馴染で、こうして笑ったりふざけたりしてるんだから」
そう言う神楽ちゃんには、どこか羨望の色が混じっていると感じた。
「涼珠姉ちゃんと大地兄ちゃんはもう分かっていると思うけど、ボクの前世はカグツチだったみたいなんだよね。だからかな、二人を見ていると『なんだかいいなぁ』って思うんだ」
「神楽ちゃん……」
「神楽、もしかしてお前の見た夢って……」
「……うん、ボクが原因でお母さんが死んじゃって、それを嘆き悲しんだお父さんに斬り殺されちゃう夢だった」
そう、カグツチの母イザナミの死因は、火の神であるカグツチを生んだ際の火傷とされている。
そして、嘆き怒った父イザナギによって、カグツチは神としてはあまりにも短い生を終えることになった。
「あはは……暗い話しちゃってごめんね。でも、前世がどうであれ今は幸せだと思ってるよ。確かにこんな状況でどうなるか分からないけど、涼珠姉ちゃんと大地兄ちゃんとならなんだってできる気がする」
かける言葉が見つからず、黙り込んでしまっていた私と大地の様子を察してくれたのだろう。
「ああ、そうだな! 前世は前世、今は今だもんな!」
「ふふ、さっきまでその前世に引きずられていた本人がそれを言う?」
「む、そのとおりだから言い返すことができない……覚えてろよ涼珠」
「そういえば、涼珠姉ちゃんと大地兄ちゃんはどんな夢だったの?」
いつもの私たち三人の調子に戻ってきた。そう思っていた矢先に投下された神楽ちゃんの言葉。
神楽ちゃんの表情や声質からいって別に他意はないのは明白だ。
しかし、あの夢の内容を素直に話すのは躊躇われるし、神楽ちゃんの教育的にもよろしくない。
で、あるならば!
「わ、私の見た夢はウラノスの最期だったよ……大地の前世である息子のクロノスにバッサリやられてね」
どんな夢であったかが大事であって、別に詳細に話す必要はないのだ。
「お、俺も涼珠と同じで、息子のゼウスにバッサリやられた夢だったな」
「そうだったんだ。なんだかみんな夢の内容が似ているよね。あれ? でもなんで大地兄ちゃんは最初、時間神クロノスの生まれ変わりだって言ったの? 名前は同じだけど別の神様だよね?」
「うぐ……!」
屈託のない神楽ちゃんの純粋な疑問が大地を襲う。
というか、それは私も疑問に思っていた。
私の前世がウラノスだと分かっていたのなら、気まずさからごまかしたという線も考えられるけど……目覚めた直後の発言だったし、何より私がウラノスだと打ち明けてからのあの反応からしてそれはないだろう。
「……娘たちに嫌われたんだ」
「「え?」」
「娘三柱に嫌われたんだ。別に息子に嫌われるのはいいが、娘たちから『お父さんなんて嫌い!』なんて言われたら……」
「娘?」
「ヘスティア、デメテル、ヘラの三柱……自分の子供を生まれたそばから次々に飲み込んで、最期は息子に討たれたうえ、娘たちからは嫌われるなんて信じたくなかったんだ……それにきっと、レアには怨まれてたんだろうな」
大地の悲痛な叫びが静かに木霊する。
私と神楽ちゃんはどうすることもできず、ただ静かに見守るのだった。
うん、なんかその……ごめん。「お前も自分の子供に同じように討たれるぞ」なんて予言を残してごめん。
お読みいただきありがとうございます。
前半はシリアス気味ではありましたが、長くは持ちませんでした。
クロノスが娘たちに嫌われていたというのは拙作の創作ではありますが、普通に考えれば良い感情は抱かないでしょう。