05 右ストレートでぶん殴る
さて、脱線してしまったので話を戻さないと。
「それで、しばらくの間は五人で行動してたよね。あまり動かずにみんなで写真撮影をして」
「最初は緊張したけど、みんな一緒だったから楽しかったよ。それで、休憩しにボクたち三人がいったん離れて……」
「そうそう、何か食べ物でも買おうかって話しながら歩いてたら……」
「うん、急に足元が光って……その後の記憶がないや」
「神楽ちゃんもやっぱりそうか……私もその後の記憶がないし、目が覚めたらこの場所なのよね」
神楽ちゃんと意見が一致しているということは、最後に見た光が何か関係しているのは間違いないだろう。
普通に考えれば、気を失った私たちを連れ去った何者かによって、この場所に放り出されたというのが現実的だけど……。
周囲に他の人が大勢いる状況で三人まとめて連れ去るとか、人ではなく神かそれに類する存在による犯行か。
前世の記憶を思い出してなかったら、神の犯行なんて真面目に考えなかっただろうな。
あと考えられるとしたら、なんらかの超常現象に偶然巻き込まれたぐらいかな……。
「あの光に何か原因があるにしても、私たちがこの場所にいる理由が故意にしろ偶然にしろ、ここがいったいどこなのか把握しないとね」
「うん、そうだね。そのためにも、早く大地兄ちゃんが起きてくれるといいんだけど……」
神楽ちゃんの言うとおり、大地が起きないことには、たいして行動を起こせない。
改めて大地を起こそうと試みるも、起きる様子は見られない。
仕方がないので、私たちがいる池の周辺でできることをして、大地の目覚めを待つことにした。
大地が起きるのを待つこと体感で数十分、ようやく大地に変化が見られるようになった。
何やら悪夢でも見ているのかうなされている。
「今なら起きるはず……神楽ちゃん!」
私の言葉に「うん!」と答える神楽ちゃんと二人で、大地に声をかけたり体をゆすったりする。
しばらく続けていると「ガバリ」と勢いよく大地が跳ね起きた。
「「大地(兄ちゃん)!」」
「その声は……凉珠と神楽か」
私と神楽ちゃんの呼びかけに、大地は反応を示して俯いていた顔を上げた。
こちらを向く大地の顔を見ると、どこか困惑したような表情を貼りつけている。
「大地兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、ただちょっと、変な夢を見てな……ファンタジーなんだが妙にリアリティがあるというか……っ!」
大地は言葉の途中で急に頭を抱えて蹲り、痛みに耐えるようなうめき声を上げ続ける。
私と神楽ちゃんは、大地の急な苦しみように驚愕し、心配の声をかけ続けた。
しばらくして、痛みが引いてきたのか大地のうめき声が治まった。しかし、大地は顔を上げることなく、右手を目元に当て俯いた状態で沈黙を保っている。
大地が目を覚ましてからのこの一連の流れ、身に覚えが……いやいや、まさかね。
とりあえずは大地が落ち着いたことで余裕が戻ったのか、そんなことを考えていると、
「フフフ……ハハハ、ウァーハッハッ!」
大地が突然奇声を上げて、勢いよく立ち上がった。
まあ、大地が奇声を上げるのはちょくちょくあることなので大丈夫だろう。
そう思って私は大地に声をかけようと近寄り……
「我が名はクロノス! 時間しグヘッ!!」
気づいたら大地が吹っ飛んでいた。
「だ、大地兄ちゃん! 凉珠姉ちゃん、なんで大地兄ちゃんを殴り飛ばしたの!?」
神楽ちゃんの言葉に「え?」と思った私は、右腕が前に突き出され拳が握られているのに気づいた。
私は右ストレートで大地の顔をぶん殴っていたのだ。
お読みいただきありがとうございます。
この作品はコメディなのか? いいえ、異世界ファンタジーです。一応……。