04 神楽ちゃんはやっぱり可愛い
愛と美の女神アフロディーテといえば、絵画「ヴィーナスの誕生」や女性像「ミロのヴィーナス」のモデルともなった女神である。
そんな美の象徴ともいえる女神――前世の私ウラノスから見たら娘――のコスプレをした私。
美術作品のように全裸や上裸な訳もなく、古代ギリシャ女性の服装をベースに、現代風なのかファンタジー風なのかにアレンジしたような白を基調としたドレスを纏っている。さらに、腰まで届く銀髪のウィッグに碧眼になるカラーコンタクト、額にはサークレットを着けているのだ。
実際のアフロディーテが、私のコスプレ姿のような格好をしている訳ではないだろう。前世の私も見たことはないし、今世においてはなおさらだ。このコスプレもゲームに登場するアフロディーテの姿。
すなわち、私はゲームに登場するキャラクターのコスプレをしているのであって、娘のコスプレをしている訳ではないのだ。
「どうしたの涼珠姉ちゃん?」
私が衝撃的な事実になんとか折り合いをつけようとしていると、神楽ちゃんが心配そうに声をかけてきた。
いけないいけない。神楽ちゃんと今日の行動について確認していた最中だった。
それなのに、いきなり私が黙り込んで「うんうん」言っていれば、どうしたことかと思うだろう。
「なんでもないよ、神楽ちゃん。ちょっと自分のことで折り合いをつけていただけだから。それより、ごめんね。話の途中で黙り込んじゃって……」
「ううん、気にしてないよ。どこか具合が悪くなっちゃったのかと思ったけど、ボクの勘違いでよかったよ!」
なんて良い子なんだ神楽ちゃん。前々からそうだったけど、こういう状況になって改めて気づかされる。
そんな神楽ちゃんに心配をかけたり、不安な思いをさせては駄目ね。
事あるごとに前世に引っ張られる感じがあるけれど、神楽ちゃんにとってのいつもどおりの私でいよう。
「心配してくれてありがとう。お姉ちゃんは元気が取り柄だからね! 大丈夫よ!」
言いながら力こぶを作るポーズをする私を見て、神楽ちゃんは笑ってくれる。
やっぱり神楽ちゃんには笑顔が似合う。それに私も元気が湧いてくる気がする。
よし! 今日の行動確認をとっとと終わらせることにしよう。
「それじゃあ、さっきの話の続きをしようか。コスプレ衣装に着替えたところまで確認したよね」
「うん、それで少し会場を散策した後に大地兄ちゃんが『会わせたい人がいる』って言って……」
「待ち合わせの場所に行ったら、まさか出迎えてくれたのがコスプレ姿の須賀さん夫婦だったとはね」
須賀さん夫婦とは、一昨年に引っ越してきたご近所さんだ。旦那さんはワイルドな感じ、奥さんはお淑やかな美男美女の夫婦で近所では有名だ。
「ボク、びっくりしちゃったよ。しかも二人とも凄い似合っていたよね。それで、一緒に広場のほうに移動して……」
「やたらと注目を集めちゃったのよね……五人揃って同一作品キャラクターのコスプレで統一感はあったけど、原因はあの二人ね。立ち居振る舞いからして、キャラクターそのものって思わせるような凄みがあったし」
「本当に凄かったよねぇ。でも、凉珠姉ちゃんも似合ってるし、凄い綺麗だよ!」
神楽ちゃんの屈託のない褒め言葉に、素直に嬉しく思う私。その一方で血涙を流す前世の私。
「ふふ、ありがと。神楽ちゃんも似合っているし、とっても可愛いよ!」
「えへへ、ありがとう。でもボク、かっこよくもなりたいな」
神楽ちゃんの言葉の表面上は願望めいたものだが、どこか決意を感じさせるものを私は感じた。
だったら、私がかける言葉は……
「そっかぁ、神楽ちゃんがかっこよくなったら、もう無敵だね! お姉ちゃん、協力するよ!」
神楽ちゃんの「かっこよくなりたい」という思いを後押しすることだ。
まあ、私の言葉を聞いて嬉しそうにしている神楽ちゃんはどう見ても可愛い。神楽ちゃんにはその可愛さはそのまま失わないで欲しいな。
お読みいただきありがとうございます。
四話にして未だ目覚めぬ大地……話が進まなくてすまぬ。