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03 気づいたら娘のコスプレをしていた件

 艶やかな黒髪、濃紺色のインナーに、所々金糸の幾何学模様の入った黒いローブコートを纏う幼馴染の大地。

 クラスメイトからは、「黙っていればイケメン」と言われる顔立ちと長身も相まって、その姿はなかなか様になっている。


 大地のそばに行き、肩をゆすったり頬を軽く叩いたりしながら声をかけてみるも反応はない。

 念のため、外傷がないか確認したり脈を測ってみたが問題はなかった。ひとまずは安堵する。


「凉珠姉ちゃんも目が覚める前は大地兄ちゃんと同じだったから、きっとすぐに目を覚ますよ! それで、いつものようにボクたちを笑わせるか、呆れさせてくれるよ!」


「そうだね……大地のことだから、寝起き早々にまた変なことを言うに違いない」


 神楽ちゃんは私を励まそうとしてくれている。私が不安にならないように、先ほどから暗い顔は見せずに明るい表情だ。


 最初に行動を起こしていたのは神楽ちゃんだ。言葉のとおり、神楽ちゃんは私と大地を起こそうとしてくれたのだろう。

 しかし、私たちが目覚める気配はなく、そのうえ知らない場所ときた。不安に思ったに違いない。

 それでも、自分にできることを考えて行動に起こしている。明るく振舞っていること、腕に抱えられた木の実がまさにそれだ。


 ほぼ毎日顔をあわせているのに、いつの間にかこんなに精神面が成長していただなんて……

 私は孫の成長を喜ぶおじいちゃんの心境に――いけない! そこは姉の心境でしょ!

 油断すると前世の私がこんにちは! するようだ。


 ……ともかく、私も神楽ちゃんに負けないよう、しっかりしないとね。




「神楽ちゃん、木の実採ってきてくれてありがとね。だけど、大丈夫だった? ここは今のところ安全そうだけど……森のほうは、何があるか分からないからね」


「えへへ……どういたしまして。うん、大丈夫だったよ。この池が見えるとこまでしか行ってないから安心して」


 私のお礼の言葉に対して、照れ臭そうに頬をかきながら返答する神楽ちゃん。可愛い。

 危険な目にあっていないか心配だったけど、安全マージンを取ったうえでの行動だったようで安心する。


 和やかな雰囲気になったところで、大地がまだ目覚めていないけれど、先に二人で現状の認識合わせをすることにした。


「神楽ちゃん、一応訊くけど……この場所に心当たりある?」


 神楽ちゃんは首を横に振りながら「ないよ」と返答する。

 目が覚めたらいつの間にこの場所にいたというのは共通している。短時間だけど周辺の散策をしたところ、私たち三人以外には誰もいないと教えてくれた。

 それから、持ち物の確認をしたが、お互いに手持ちはコインケースと電源の入らないスマホのみ。大地のも勝手ながら確認させてもらったが同じだった。これでは連絡の取りようがない。


 いつまでも悩んでいても仕方がないので、ここで目覚める前の行動を振り返ることにした。


「今日……でいいかは分からないけど、朝早くから、私たち三人で夏の祭典に出かけたよね?」


「うん、それで会場に着いてから、大地兄ちゃんが作ったこの衣装に着替えたよね」


「そうそう、手作りなうえに無駄にクオリティが高いし、着心地もいいのよね。私たちが似合いそうなキャラクターも提案してくるし、コスプレにかける熱意がどれだけ強かったのか……」


 私は言葉の途中で驚愕の事実に気がつき、「はっ!」としてしまった。


 大地が三人分のコスプレ衣装を仕立て上げた事実に? 違う。

 私もコスプレ衣装を現在進行形で身に着けている事実に? 違う。

 私が「愛と美の女神アフロディーテ」のコスプレをしている事実に? それだ!


 アフロディーテは、前世の私ウラノスが息子クロノスに息子を刈り取られ、その男の象徴が海に落ちて誕生した女神である。

 愛と美の女神なのにそれでいいのかと思ってしまうが、重要なのはそこじゃない。


 つまり、ある意味「自分の娘のコスプレをしている」という事実に、私は戦慄したのだった。

お読みいただきありがとうございます。


とりあえず一言……どうしてこうなった?

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