02 どうみても可愛らしい女の子
なぜ神から人へと転生したのか。なぜ男から女に転生したのか。なぜ今になって思い出したのか。疑問に思うも、すぐには答えは出ないだろう。
いや、女になったことだけはなんとなく想像できるか。
先ほど夢で見たように、前世の私ウラノスの最期は息子クロノスに息子をアダマスの鎌で刈られた。その事実が因果となって男として生まれなかったのだろう。たぶん、おそらく、きっと……。
おのれクロノス! 許さん!
……息子への怒りを顕にしてみたが、結局のところ妻ガイアの怒りをかうようなことをした私自身の責任でもあるんだよなぁ。
それに、クロノスも私が最期に残した予言のとおり私同様、自分の息子――私からしたら孫――であるゼウスに討たれたみたいだし。
それでも、気持ち的には一発殴ってやりたいとこだが、それは叶わない。
前世のことを考えていても仕方がないな。気持ちを切り替えよう。
今の私は、天宇良凉珠。人間の女の子として十五年生きてきたのだ。価値観だって今世によっているし人格も確立している。前世の記憶を思い出すのが物心がつく前後だったならば違っただろうけれど。
前世が神だった記憶を持つ、いたって普通の人間の女の子。それが私だ! ……普通とはなんぞや。
さて、私自身のことでとりあえず整理がついたので、現在おかれている状況を確認しよう。
「……ここ、どこ?」
目の前には透きとおるような水が張られた池があり、池の周辺には草花が咲き誇っている。奥に目をやると鬱蒼とした森が広がっている。
あきらかにおかしい。私はこんな場所にいた覚えはない。
確か今朝は幼馴染と三人で夏の祭典に出かけて……
「凉珠姉ちゃん! よかったぁ……目が覚めたんだね」
この場所で目覚める前の行動を思い返そうとしたところで後ろから声をかけられた。可愛らしい声だ。
声のしたほうへ振り返って目に映るのは小柄な少女。
少女の髪は毛先が金髪の燃えるような赤髪で、肩にかかるほどの長さ。服装は紅白に黒を加えた三色の着物姿だが、袴の丈が膝上で、しかも肩の部分だけ露出している。いわゆる魔改造着物だ。
そんな少女が、腕を組んで木の実らしきものを抱えて、こちらに走り寄ってくる様はとても愛くるしい。
私はこの少女を知っている。とても可愛らしい顔立ちをしていることを。
私はこの少女を知っている。とても女の子らしい仕草をすることを。
私はこの少女を知っている。「火祭神楽」という名前で、二歳年下の幼馴染であることを。
私はこの少女を知っている。生物学上は間違いなく「男」であることを……。
「神楽ちゃん!」
私は走り寄ってくる神楽ちゃんに返答する。
因みに、「くんづけ」ではなく「ちゃんづけ」なのは、神楽ちゃんが小学生のころまでは本気で女の子だと思ってそう呼んでいた名残である。
真実を知ったのは、神楽ちゃんが中学の制服を着た姿を見たときだったりする。
当時は、もう一人の幼馴染である私と同い年の「玄野大地」とともに衝撃を受けたものだ。
……て、そういえば大地は? 今日は神楽ちゃんと大地と三人で行動していた。私と神楽ちゃんがいるなら大地もいる可能性は高い。
「大地兄ちゃんなら、そこでまだ気を失っているよ」
神楽ちゃんの指し示すほうへと視線をやると、少し離れたところに幼馴染の大地が横たわっていた。
お読みいただきありがとうございます。
本作はヘシオドスの「神統記」を参考にしています。
また、主人公の人格は人間「天宇良凉珠」がベースで、時々前世に引っ張られるといった感じにしています。
TSといえばTSではあるのですが、前の人格がそのまま主導権を握っている場合に多く見られるので、一応タグには「TS?」とつけています。