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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

100号室  

作者: しえすた

完全創作になります。


心霊や怪談が苦手な方はご遠慮下さい。

閲覧、鳥肌注意です。



看護学校を無事卒業し、研修も滞りなく済みこの病院に勤めて4年経った。


周りの環境にも慣れ、仕事も充実していた。

この〇〇病院は50年以上前に建設。

リハビリとして新館が5年前にもう1棟建てられた。


収容人数は満床で、毎日が忙しい日々だった。


血圧、体温、血糖値など各患者の体調管理は朝の始まりだった。

私は5階の消化器科の担当で、昼までに階内の病室を何回か往復してから他の看護師は昼休みに入る。


今日は急患も無いのでまだ落ちついている。

私は夜勤担当の為、17時の出勤だった。


初春でまだ外も病院内も明るい。


「お疲れ様でした。505号室の患者さんは…」


日勤との引き継ぎをしながら詰所で話し合いをする。

すると、赤ランプが点灯した。

コールを押された様で私は501号室に向かう。


「何かありましたか?」


ベットのカーテンを開け、様子を見る。

どうやら入れ歯をベットの下に落としたようだ。



「ごめんねぇ、動けないからお願いしていい?」


両足の不自由な患者さんだったので、私はしゃがんで脇の室内シューズをどかしながら腕を伸ばす。


…くしゃあぁ…


不思議だった。


触ったのは入れ歯じゃない。

毛糸よりもっと細い束の様な…感触。

何だろう、と感覚がある方へ目をやる。




「…!」


髪だ。


女性の前髪を私は掴んでいる状態だった。


ずっとこっちを睨んでいる。

ぽっくり空いた両目から赤い光が不気味に宿る。




「きゃあ…!」




思わず私は身体を退けぞり、備え付けのテレビと冷蔵庫のある棚に背中をぶつけた。




「どうしたの?」




私の行動に驚いた患者さんは心配そうに顔を覗き込む。


「いえ、あの、…そのベットの下に…」




恐る恐るベッドの下を見る。




けれど何も無い。

ただ電線が1、2本床に転がっているだけだった。


勘違いかな…?




身体中の脂汗と動悸が止まらない。

触った掌には確かな感触が残っていて思い出すだけで恐ろしかった。


幸い、入れ歯はベットの角にあったゴミ箱の外側で見つかった。


動機はずっと治まらないまま深夜の1時を迎えた。

消灯時間はもう過ぎていて、詰所にいるのは私と同僚BとCの3人。


突然、トイレに行きたくなった私は廊下と病室を挟んだ右手側のお手洗いを使う事にした。


廊下には非常灯がポツポツと続く。


お手洗いの手前にはエスカレーターと階段があり、勝手に行けない様に体半分位の柵の様な扉が備えつけてある。


私はそのままお手洗いに向かおうとした。

すると、何処からか声がする。



「誰かあぁ…ねぇ…、誰かあぁ…」


あまりに小さな響きだった。

もしかして、誰かが転んで動くなくなっているかもしれない。


耳をすますと、どうやら階段から聞こえてくる。

薄暗いので、ペンライトをかざしながら下へ降りていった。


カタン、カタン、カタン、カタン


足音と私の吐息だけが耳に入る位静かだ。


4階…3階…2階…と遂に1階まで降りた。

辺りを見渡しながら人がいないか確認する。


受付の大きなフロアから長い廊下が3つ伸びていて、コンビニも閉まっていた。



一つ目の廊下には手術室や霊安室があり、外と繋がっている。

二つ目は診察室が5カ所。

三つ目には東病棟とリハビリがある連絡口になっている。



「誰かあぁ…」


声は二つ目の奥からだ。


私はゆっくり近づいて行く。


カタン、カタン、カタン、カタン


やけに長く感じる廊下だった。

昼間ならあまり感じない場所も、今は暗くて冷たい印象しかない。


1番奥の診察室の角を曲がると使われてない部屋があった。


ドアノブには何かが何枚かベッタリ貼られていて扉も養生テープでしっかり塞がれている。


最初は、ガムテープと思った。


違う。

ドアノブは茶色に色褪せたお札だった。




「…誰かぁあ、ねぇえ…?」


扉の向こう側から聞こえる。


磨りガラスからは何も見えない。




「大丈夫ですか?今人を…」




ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!


内側から扉を叩く激しい音。


私は息を呑んだ。


「…そこに…居るのよね?…居るなら助けてぇえ…」


私は携帯電話で同僚に発信した。



すると。


ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


次は強さが増して訴える様な叩き方になった。



「…今すぐ来て!」


私は叫んだが同僚はそれ以上の剣幕で叫ぶ。


「何してるの!早くそこから逃げなよ!」


その勢いと同時に磨りガラスに誰かが張り付いた。

そこにはあの日前髪を掴んだ赤い光りを持つ女性だった。


叫ぶような口は仄暗く、ブラックホールの様な闇が渦巻いている。


私は走りだした。

エレベーターを使い5階に登る。

詰所まで10分かかる所が30分も掛かっていた。


肩で息をする私を見て同僚は詰所の扉を閉めた。


「100号室に行っちゃ行けないって師長から言われなかったの?あそこは危険だから二度と行かないで」


「100号室?」


初めて聞いた部屋番号だった。


前の師長は4年前に異動になっていて、今の師長から丁度すれ違う形で何も聞かされて無かった。

もしくは先に聞かされていると思い込んでいたかもしれない。


4年前、今使われている診察室は病室として使われていた。

だが患者がそこで自殺した為閉鎖された。

101号室は開かずの部屋になり100号室という存在しない場所が生まれた。


102号室から番号がずれて101号室に変えられ、4カ所の部屋全てに不可解な患者の死があった為診察室として改装されたのだ。


私はまだ背後に誰かいると感じていた。


そして思い出したのだ。

あの日ベッドの下にいた女性の口元は。



み、つ、け、た。




と笑いながら私を見つめていた事を。








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