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◆悪役霊嬢は深夜十二時、推しの上で愛を囁く◆  作者: ナユタ
◆本編◆

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20/33

♞幕間♞狼の群れでいたいんだよ。

今回は副長視点です(*´ω`*)


「一身上の都合で急遽やることが出来た。そこで三日以内にこの部隊の任を降りようと思っている。その為に次の隊長にお前を選びたい」


「は……え? 朝からそれ本気で言ってるんスか?」


 何やかんやと気まずいことがあった翌日、その相手である上司が数日間体調不良で欠勤し、弁明をする暇もなく回復して出勤した際に朝イチで呼び出されたら、誰だって自分のクビを確信する。


 だからこそ、今目の前で涼しい表情のままとんでもない話題を切り出した八歳下の上司の言葉に、思わず耳を疑った。


「ああ。本気だ。だからその口調を明日にでも改めるようにしてくれ」


「いやいやいや、何を馬鹿なこと言ってるん……ですか。隊長がいなくなったら部下達が納得しませんって」


「そうでもないだろう。ここに配属されてから今日に至るまで、俺は仕事の指示をするだけで、部下達の相談に乗ってやった記憶もない。部下達がいつもお前を頼りにして相談に行っていることくらい知っている」


「あー……それは、ちょっと隊長には相談出来ないことが多いっつーか……」


 生真面目で融通のきかない上司を前に、馬鹿で下品な部下達から持ちかけられた相談内容の数々を思い出して言葉を濁せば、何を理解したというのか、こちらを観察していた上司が一つ頷いた。


「俺は“取っつきにくい上司”で“御しにくい若造”だからな。むしろ辞任は喜ばれるだろう。実際に書類を五枚ほど騎士団に提出すれば通るらしい。ここにあるから後で暇な時にでも目を通して、後任者のところにサインをしておいてくれ」


「いや、だから、そんな一方的に言われたところで“ハイ、そうですか”とはならんでしょうが。もっとちゃんと腰を据えて詳しく聞かせて下さいよ、隊長」


ダルク副長(・・・・・)。俺は一身上の都合だと言った。話は以上だ。持ち場に戻れ」


 かつてオレは毎回流刑地に着任させられたような顔でやってくる、下級貴族の愚息の補佐として副長を任されていた。何年も続くような奴は稀で、大抵が半年、保って二年という状態で、実質はオレが隊長のようなもの。


 お上品な巡回ルートしか回れない奴等とは違うと、そう思うことで自分達のちっぽけなプライドを守っていた。


 十九歳でそんな流刑地に飛ばされてきた気の毒な男爵家の令息がいた。それが現在上級貴族だけで構成された騎士団の連中からも一目置かれ、鍛練と捕縛の容赦のなさから鬼と恐れられた上司……アラン・レイモンド。


 男爵家の出身ながら平民だけの部隊を束ねる隊長は、生真面目すぎて取っつきにくい代わりに貴族連中特有の傲りもない、そんな面白味はないが、平民上がりのガラの悪い俺達を纏めるには、これ以上なく適任の男だった。


 初めて判断を委ねられる“上司”に、オレ達の士気も上がり、最近では小馬鹿にされる回数だって減っていたってのに――。


 ずっと仕事しか寄る辺のない奴、仕事しか興味のない奴と陰口を叩かれてきた男が、あっさりと仕事を切り捨てると言った。今更その穴を埋めることがオレに出来ると疑わないのは、部隊であんただけだと思うんだがな?


***


 現在時刻は深夜の一時二十分。

 場所は独身寮の自室だ。


 普段ならまだ同僚達と飲み歩いている時間帯に、オレは女を待っていた。とびきり見目が良くて、ろくな噂のない、身持ちも性格も最悪な女だ。


「遅い。約束は一時のはずだろ」


『少し遅れただけでしょう。女の身支度くらい待てないの?』


 正当なこちらの言い分を鼻で嗤って髪を掻き上げる仕草だけでも、無駄に色香をばらまく女の名は、アメリア・バートン。その正体は子爵令嬢という御大層な肩書きを持った娼婦だ。


「はん、どうだか。隊長にちょっかいかけに行ったりしてないだろうな」


『とんだ言いがかりね。今日も……ああ、もう昨日ね。ともかく、きちんと出勤していたでしょう? お前も一緒に見たじゃない』


「あれは昼間のことだろうが。オレが言ってるのは、この時間帯になるまでどこで何をしてたんだよってことだ」


『何故お前にそんなことを教えてやらねばならないの? お前がどれだけ怪しもうが、どの道殺されてやるんだから同じでしょうに』


 居丈高に顎を反らして紫水晶のような瞳を細める、二日前に手を組んだばかりの毒婦の言葉に、すでに昨日のこととなった朝の隊長とのやり取りを思い出して、この場で女が匿われている離れに火を放ちに行きたくなったが――。


『ね、お前が今何を考えているか、当ててあげましょうか?』


「……何?」


『今夜火を放ちに行こうとしても無駄よ。今屋敷の中にはやんごとない身分の方が滞在中で、その私兵が屋敷の周りを見張っているから。お前はあっさり捕まって、賊として殺されるだけ。野良犬らしく犬死ね』


 クスクスと楽しげに声を立てこっちを見下しそう言う女は、腹立たしいほどに美しい。思わず上司との不毛なやり取りを思い出し、腹の底に渦巻く苛立ちをこの女にぶつけたくなったが、それではこいつを喜ばせるだけだと飲み込む。


『ふふ、怖い顔。それが嫌なら昼間の打ち合わせ通り、九日後の深夜、二日前に会った場所で待ってることね。家人の配置も何もかも、包み隠さず教えてあげるわ』


「はん、心踊らねぇ逢引もあったもんだ」


『あら、私はとっても楽しみよ? 逢引の相手がお前なのは残念だけど』


 自身を燃やされる日を指定して、歌うように囀るイカれた女。


 しかし隊長がおかしな行動を取り出した理由は考えるまでもなく、この女の事件(・・)を一人で追おうって魂胆だろう。


 二日前にオレがあの場に潜んでいたのも、隊長がいない間に何か尻尾を出すような動きがあるかと張っていたせいだ。揉め事の種になった相手の動きを職務外の時間に探るのは癪だったが、それで隊長の気が済めば安いもんだと踏んでいた。


 ――らしくねぇと思った。


 無駄を好まず、特定のものに肩入れせず、情に引きずられない公平性を持っていたあの上司が、こんな叩けば埃どころか火の粉しか生まない女にそうまで肩入れすることも。その上司に肩入れしてこの件を嗅ぎ回る自分も。


 何が気になるんだ、何が臭う。

 気になるならゴミ溜め生まれらしく嗅ぎ回れ。

 率いる狼を失えば、オレ達はまた元の野良犬の集団に戻っちまう。

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