第90話 ルテラ砦でのひと悶着【ヨキside】
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盗賊脱走事件から一夜明け、なんとか最初の休憩地点であるルテラ砦に辿り着く事ができたバーナードキャラバン。
だがその雰囲気は、良好とは言えないものだった。
「やっとルテラ砦だ〜」
「着いたは良いけど、雰囲気はピリピリしたままね」
「ピリピリするのも無理ない。
プロフィールを抜き取られた面子の一部の所有物の中に眠加密列があったんだ。
そのせいで変に警戒しちまってるからな」
バンが言った通り、昨晩名簿と資料からプロフィールを抜き取られた商人と使用人、そして冒険者に対し念のため持ち物検査をしたのだが、その内数名の持ち物から眠加密列が発見されたのだ。
眠加密列が発見された商人や冒険者は全く心当たりがないと証言しているが、殆どの者が聞く耳を持たず疑いの目を向けた。
その結果、バーナードキャラバン全体が疑心暗鬼に満ちている状態なのだ。
「だが、いくらなんでもタイミングが良すぎる。
コレはどう考えても騒動を起こした犯人の仕業としか思えない」
「その犯人の術中にまんまと嵌ってしまったからな、この空気を払拭するのはそう簡単ではない」
「一番の被害者は観測する三つ目のお嬢さんでさぁ。
よりにもよって一番疑われていた時に、眠加密列が発見されやしたからね」
「多分、無実なのは、間違い。
けど、大丈夫、でしょうか?」
昨晩の状況を目の当たりにしていたヨキは、理不尽に責め立てられていた観測する三つ目の斥候の事を心配していた。
最後まで無実を主張していたものの、周りから責め立てられ、精神面でかなり消耗している様子だった。
「大丈夫、ではないだろうな。
観測する三つ目は俺達より二つ上の緑階級の冒険者パーティでかなり有名だからな。
パーティそのものが疑われているらしい」
「おまけに観測する三つ目の名前に泥を塗ったって事でパーティ内でもかなり危うい立場になっているようでさぁ。
気の毒にとしか言えやせんよ」
「なんだか物すごくふびんですね……」
「マリも、昨日の事で、未だに立ち直れて、ないから、心配、です……」
昨晩の盗賊脱走事件は、十分すぎるほどヨキ達を困惑させた。
否、正確にはヨキ達を困惑させる展開が多すぎた。
その結果キャラバンでは疑うもの、疑われるものという立場が出来上がってしまったのだ。
状況を改善しようにもそう簡単にはいかないため、リーダーであるミザールも頭を抱えていた。
「盗賊達を引き取りに来た、盗賊はコレで全員か?」
「あぁ、昨晩念入りに確認したがコレで全員だ。
牢馬車は元々盗賊達が持っていたものを即席で改造したものだ、このまま連れて行ってくれて構わない」
「了解した。
このまま盗賊達を連行するぞ!」
ルテラ砦の責任者と思われる兵士長が他の兵士達に指示を出し、牢馬車ごと盗賊達を連行した。
盗賊達を引き渡した後、バーナードキャラバンはルテラ砦内に入った。
「わぁ、砦の中って暗いイメージだったけど、結構明るいんだね」
「まぁ国を守る要みたいなものだからな。
近くの村や町に住む人にとっては緊急避難先にもなってるし、そういった人達に考慮して過ごしやすい環境になってるんだろう」
ヨキは初めて入った砦の中が自分の予想よりも明るかったため、辺りをキョロキョロと見回している。
鷹獅子の西風のリーダーであるフェムがバーナードキャラバンの使用人からなにか話を聞き、メンバーに声をかけた。
「皆、ルテラ砦には二刻間在留する事になった。
それまでの間に武器のメンテナンスや必要な物の確認をしておいてくれ」
「やっぱり昨日の盗賊達の件が響いた感じ?」
「それもあるが、紛失したプロフィールの再発行ができないか試みるのではないかと思う」
「プロフィールって、再発行、できるんですか?」
「それ専用の魔導具がアレば不可能ではないわ。
でも再発行できるのはキャラバンの分だけじゃないかしら?
冒険者の分はギルドにいくつもの申請をしないとできない筈だし……」
そう言いながらリンダは難しそうな表情でヨキに教えた。
プロフィールさえアレばその情報を元に本人かどうかの確認が取れ、多少なりとも疑いは晴れるのだろう。
だがリンダの言うギルドとバーナードキャラバンは別組織であるため、冒険者の個人情報をそう安々と他組織に渡す訳にはいかないのだ。
そう考えると頭が痛くなるような問題だ。
国境であるオリソンティエラまで大丈夫だろうかと考えていると、前方の方から誰かが言い争うような声が聞こえてきた。
「コソコソ喋ってんじゃねぇよ三流風情が!」
「ぴゃぅあっ! な、何⁉」
「どうやら俺達よりも前に冒険者が口論になっているようだ」
「どう考えても昨晩の影響ね。
リーダー、少し様子を見てくるわ、ちょっと待てて」
そう言うとメルビィは槍を短く持つと、声が聞こえた方向に向かっていった。
突然の事に驚いたヨキは、気が動転したまま辺りをキョロキョロと見回している。
そんなヨキの様子を見かねたリンダは、自分の荷物から飴玉を一粒取り出しヨキの口の中に放り込んだ。
「落ち着きなさいみっともない、ほらコレ食べて。
それで深呼吸」
「……甘くて美味しいれふ」
リンダが自分の口の中に放り込んだ飴玉が蜂蜜のように甘く、そちらに意識が向いたヨキは落ち着きを取り戻してそのまま飴玉の味を堪能し始めた。
だがその直後に大きな物音が辺りに響いた。
「んむぐっ⁉」
「今度はなんだ⁉」
「もしかすると状況が悪化したかもしれん、俺達も確認しに行こう」
「おや、どうしたんですかいタソガレ君?」
「あ、飴玉、飲み込んじゃった、まだ舐め始めたばかりなのに……」
バンが何事かと驚きの声を上がるが、状況が悪化した可能性があると考えたソーンは、メルビィが戻ってくるのを待つより自分達も確認しに行くべきだとフェムに提案した。
それに対しヨキは物音に驚いた拍子に、リンダが口の中に放り込んだ飴玉を飲み込んでしまったらしく、酷く落ち込んでいた。
その様子から酷く気に入ったのだろうとゴンスケは呆れた様子だった。
「あっ! メルビィさんが戻ってこられましたよ!」
「メルビィ、前方の様子はどうだ?」
「ちょっと面倒な事になってる、前にいるパーティとラッド族の冒険者が一触触発状態なの」
「ラッド族という事は、問題を起こしているのはニルヴァさんですか?」
ラッド族という言葉を聞いてリースがまっさきに思い浮かんだのは、ヨキと練習試合をしたラッド族のニルヴァだ。
練習試合以降会っていなかったが、ニルヴァが問題を起こしているとは思わなかったようだ。
「原因はわかるか?」
「どうやら観測する三つ目の斥候の子と同じ最重要容疑者の一人になってたみたい。
その事を近くにいた冒険者がコソコソと話してたのが気に食わなかったのかも」
「意図せず焚き付けたって事か。
全く、面倒な事をしてくれたな……」
「そのまま放置しておくとその場であばれだすかもしれません、ねんのため僕達も向かいましょう」
ニルヴァが問題を起こした原因が相手側にあると知りフェムは頭を抱えた。
それとなくニルヴァの性格を把握しているリースは、このままではニルヴァが暴れるかもしれない事を危惧し、ソーン同様現場に向かう事を提案する。
こういう場合は冒険者のまとめ役であるアンガスに任せるべきなのだろうが、戦闘に特化したラッド族であるニルヴァを放置する事の方が面倒になると判断。
現場に向かう事にした。
そして現場につくと、臨戦状態になっている一組の冒険者パーティと険しい表情でパーティを睨みつけ今にも長剣を抜きそうなニルヴァ。
そして両者の間に割って入ってギリギリ塞き止めているニヤトとタメゴローの姿があった。
「ええ加減に落ち着かんかいお前ら!
こんな所で喧嘩おっぱじめようとするんやない!」
「シャーッ!」
「そうは言うが、ソイツは昨日盗賊を逃した犯人かもしれないんだろう!
ソイツの荷物から危険な薬草が見つかったって聞いたぞ⁉」
「持っとっただけで犯人扱いせんといてや!
眠加密列があっただけで犯人扱いするなって注意されてるやろう⁉」
「どけ、ぶっ飛ばした方が早い」
「シャーッ!」
タメゴローは威嚇する形で、ニヤトは声を荒らげて落ち着くよう呼びかけるが、状況的に限界だ。
そんな状況を目撃した鷹獅子の西風はすぐさま冒険者パーティの目の前に飛び出した。
「何してるんだお前達!
ここはシャンテ国の兵がいるルテラ砦だぞ⁉」
「それ以上騒ぎ立てるよなら、こちとら容赦なく射抜く事になりまさぁ」
「貴方達も高位階級の冒険者パーティでしょ?
こんな事して恥ずかしいとは思わないのかしら?」
鷹獅子の西風は睨みを効かせながら、相手冒険者パーティを牽制する。
鷹獅子の西風に睨まれた冒険者パーティは思わず怯み、言い訳を始めた。
「そっそうは言うがソイツが怪しいのは間違いないだろう⁉
今回の依頼で唯一人ソロなんだぞ⁉」
「ソロなら自分の荷物を預ける必要なんてないし、うまい具合に隠し持って立っておかしくないじゃない!」
「そもそも、パーティを組んでもないのに依頼を受けるなんて、あからさまに怪しいじゃないか⁉」
「ソロって言っても問題なく受けれてるって事は、それだけの実力の持ち主だって事が証明されてる証。
それもわからないようなら一方的に決めつけてるアンタ達の方が問題だわ」
冒険者パーティの言い訳を聞いていたリンダは、その内容にほとほと呆れ果てていた。
自分達の方が問題だとリンダに言われた冒険者パーティは俯き、そのまま黙り込んだ。
ニルヴァと言い争っていた冒険者パーティが大人しくなり、なんとかなりそうだと思った瞬間、冒険者パーティの一人が顔を真赤にしながらある事を言った事で状況が悪化した。
「なっ何言ってるのよ! 私達は悪くない!
悪いのは憎たらしいラッド族じゃない!
ソイツらは昔っから戦う事しか能がない野蛮な連中で沢山の同胞を殺して来た悪魔よ!
だからソイツが悪いに決まってる!」
「あ゛ぁ⁉
人が黙ってるのを良い事に好き勝手言いやがって、調子に乗んな!」
まんまと相手の挑発に乗ってしまったニルヴァは、とうとう鞘から長剣を抜いて相手の冒険者に斬り掛かろうとした。
だがそうなる前に小石がニルヴァの手元めがけて直撃し、ニルヴァは驚きのあまり長剣を落とした。
「誰だ、邪魔するのは⁉」
「い、一回落ち着いて、下さい。
それ以上、騒いだら、周りの人、に、迷惑、ですっ!」
どうやらヨキがとっさに地面に落ちていた小石を投げつけ、ニルヴァの攻撃を未遂で終わらせたようだ。
だが当の本人はニルヴァに睨まれ、かなり怯えている。
一方で冒険者パーティの方は、ニルヴァを挑発した冒険者の女を含め、全員蔦で縛り上げられていた。
鷹獅子の西風が注意を引いている隙に、ラピスが対応したようだった。
「お前達もこれ以上騒ぎ立てるな。
キャラバンの空気を悪くしているという事がわからないのか?」
「うっ五月蝿い! 私は悪くない!
悪いのはラッドムガッ⁉」
「さっきも騒ぎ立てるなといった筈だ。
コレ以上騒ぐようなら、わかっているよな?」
ラピスは口元を凍らせて冒険者を黙らせ、挑発した冒険者に向けて殺気を放つ。
殺気を向けられた冒険者は何度も首を縦に振り、ラピスの警告に従った。
その後駆けつけたシャンテ国の兵士に冒険者パーティを引き渡し、やっと騒ぎが収まった。
両者の間に割って入ったニヤトとタメゴローは、肩の荷が下り大きくため息を吐いた。
「ほへ~、やっと開放されたで」
「大丈夫だった? ニヤト君」
「サンキューなヨキ。
お前らが来てくれんかったら止めきれへんかったわ」
「ウニャア♪」
タメゴローは嬉しそうな鳴き声を上げながら、ヨキの足元にすり寄る。
猫であるタメゴローも先程までの争いはストレスに感じていたのだろう。
一方、鷹獅子の西風とヨキ、ラピスと違い仲裁に入らなかったレイフォン兄弟は、連行された冒険者パーティを見て何か話していた。
「兄さん、先程ニルヴァさんをちょうはつしていた女性……」
「間違いない、しかも純血の方だ。
厄介な事になったな……」
「なんやなんやお前ら、揃いも揃って助けに入らんと何見とんのや?」
「どうかしたの二人共?
なにか気になる事でもあった?」
ヨキとニヤトはどうしたのかと二人に声をかけた。
レイフォン兄弟は少し険しい表情をしながら、自分達が気付いた事を話し始めた。
「先程ニルヴァさんをちょうはつしてた冒険者の女性は、チャリティア族の生き残りです」
「チャリティア族って、確か前に言うとった皆殺しにおうたていう」
「それ、間違いないの?」
「俺達も実際にあった事はないが、赤紫の髪とひし形の瞳孔をした緑目っていう特徴が一致してるから間違いない。
しかも髪と瞳の濃さからして純血の方だ。
混血だったら無理やり納得させて大人しくさせれるけど、純血の方がラッド族との因縁が深いから周りを無視して突っかかってくるぞ」
ラッド族とチャリティア族の因縁を知るバンは、ただでさえ盗賊脱走事件の件があるのに二人が今後接触するような事があれば間違いなく状況が悪化する事を理解した。
その話を聞いたヨキ達も、今後ニルヴァと先程のチャリティア族を接触させたら大変な事になると理解し、何かしら対策しておいた方が良いと考えた。
「どうしたお前達? そんな深刻な顔して……」
「フェムさん、実は殺気の冒険者の人の事で少し相談したい事が」
「カクカクシカシカ」
「マルマルウマウマ」
「なるほど、相手側にチャリティア族がいたのか。
コレは厄介だな……」
どうやらフェムもラッド族とチャリティア族の因果関係については知っていたらしく、かなり困った様子だった。
先程の騒動の原因が、ただニルヴァが最重要容疑者の一人だからではなく、一族同士の因果関係によるものの可能性が出てきたのだ。
こんな時に一族同士のいざこざを持ち出さないでほしいと言うのが、フェムの本音だろう。
それはバンとリースも同じ意見なのだが、あまり状況を理解していないヨキとニヤトは、ニルヴァに声をかけていた。
「ニルヴァ、さん。少しは、落ち着きましたか?」
「チッ」
「あからさま不機嫌になりよった」
ヨキに落ち着いたかどうかを尋ねられたニルヴァだったが、自分とチャリティア族との問題に口を出された事であからさまに不機嫌になっていた。
「そんな、不機嫌に、ならなくても……」
「なんやその態度。
誰のおかげで助かったと思うてんねん?」
「るっせぇ。コレは俺達の問題だ」
これはあくまでもラッド族とチャリティア族の問題だと言い張るニルヴァ。
だが先程のいざこざで、周りの空気全体が重くなっている事に変わりはなかった。
一族同士の問題に関しては特に理解できていないヨキとニヤトからすれば、今まさにその問題がじゃまな物になっていると思った。
「その問題、のせいで、全体の、空気、が、悪くなって、るんです」
「ただでさえめんどい事になってるんや、少しは頭を冷やさんかい」
「チッ! クソがっ!」
ヨキとニヤトに指摘されたニルヴァはそのままその場を去って行った。
ニルヴァをそのまま見送ったヨキは、緊張が解けたのか小刻みに震えだした。
「こっ怖かった〜」
「大丈夫ですかヨキさん?」
「ニルヴァさんにガン飛ばされて怖かったよ〜」
「いや、面と向かって文句言えただけでも十分すごいと思うぞ?」
面と向かってニルヴァに文句を言えた事に対し、十分凄い事だとヨキを褒めるバン。
だが、ニルヴァの気迫で怯んでいたヨキは、そのまま涙目になっていた。
いくら他人と喋れるようになったと言っても気が弱いままであるため、ヨキからすれば先程までの争いは十分すぎるほど修羅場だったのだ。
ヨキ達の様子を見ていたフェムは、やはり放置という訳にはいかないと考えた。
「メルビィ、一緒に来てくれ。
先程までの事をバーナードさんとアンガスに報告する。
ソーン達はヨキ達を連れて先に休んでいてくれ」
「わかったわ」
「あんな様子じゃすぐには動かなさそうですけど、その辺りはどうしやしょう?」
そう言いながらゴンスケが指さした先には、本格的に泣き始めたヨキの姿があった。
レイフォン兄弟とニヤトが慰めているが、泣き止む気配は見えない。
「リンダ、すまないが飴玉が残ってたら食べさせてやってくれ。
それで落ち着く筈だ」
「仕方ないわねぇ。コレ、滅多に手に入らないんだからね」
そう言いながらリンダは飴玉が入った小瓶を取り出すとそのまま泣きじゃくるヨキと困り果てるバン達の元に向かった。
リンダと入れ違いで、シャンテ国の兵士に冒険者パーティを引き渡したラピスがフェムの元に近付いて来た。
「フェム、先程の事で報告に向かうならあと一人同行させた方が良い」
「どういう事だ?」
「状況からして下手をすると、二人だけで行動している事さえ不審がられるやもしれん」
「それなら貴方が同行する?
ギョルシル村で会議にも参加してたし、問題ないと思うんだけど」
「いや、私はここに残って周囲の様子をもう少し確認する。
代わりに戻って来たら二人位程パーティメンバーを貸してくれ。
キールと話がしたい」
ラピスは同行せず、その場に残って状況を確認すると告げた。
ラピス個人として何か気になる事があるらしい。
「なるべく早めに戻る。ソーンも来てくれ」
「わかった」
(砦に着いた事で少しは落ち着くかと思ったが、そう上手くはいかないか。
砦にいる内にヨキを鍛えておきたいが、その前にキールの意見を取り入れておきたいな……)
自分が考えていたよりも状況が悪い事に一種の不安を感じたラピス。
その不安が、最悪な形で実現しないことを祈るばかりだ。
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