第89話 振り回す者達とされる者達
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盗賊達の脱走及び襲撃の際、三〇人以上の冒険者が眠ったままの状態に陥った原因である加密列に酷使した鎮静効果が強すぎる眠加密列が、意図的に混入されたと証言したケイ。
突拍子もないケイの発言を聞いた冒険者達は一気にざわめきたち、同様に話を聞いていたバン達も驚きを隠せないでいた。
「意図的にって、どうしてそんな事がわかるの?」
「鷹獅子の西風の人達が持ってきたこの香草茶の袋、新品の奴だよね?
試しに開けてみて中身を確認してみたけど、これには眠加密列が入ってる様子はなかったんだ」
「新品に入ってないって事は、開封されてる方に混入したのか!」
「もしこれと同じ開封された物があるならすぐに回収するんだ!
誰かが間違って飲んでしまうかもしれない!」
ミザールはすぐに自分の使用人に指示を出し、眠加密列が混入うしている香草茶の袋の回収を命じた。
「だが、これで納得がいった」
「どういう事ラピス?」
「他の冒険者は知らないが、警戒心が高いヒエンにどうやって睡眠薬を盛ったのかずっと分からずじまいだったんだ。
睡眠薬が使われていたなら、香草茶自体に何かしら変化がある筈だからな。
だが、今の話で納得がいったんだ」
「そっか、薬が使われていたなら気付かれる可能性は高いけど、薬草自体なら怪しまれる事がない。
だから誰も気付かず飲んじゃったんだ」
ラピスの話を聞いていたラファは、最初から睡眠薬が使われていなかったため誰も気付かず飲んでしまったのだと納得した。
誰も気付かなかった結果、今回のように大勢の冒険者が眠ってしまい、ヒエンに至っては戦闘中に意識を失いそうになり命の危機に晒される事になってしまったという事になる。
「今の話が嘘じゃないなら、昼の時間帯に混入した事になるわ。
それと移動中に眠りこけた人が出たって話はないから、きっと昼食後の後片付け中。
そう考えて良いと思う」
「カトレアの言う通り、その筋書きで間違いなさそうだな。
昼間の後片付けの時に不審な動きをしていた奴はいたか?
もしくは見てないか?」
眠加密列が混入した可能性がある時間帯を特定し、その時間に不審な動きをした者はいなかったかをその場にいる全員に確認するキール。
だが誰もその質問に答えなかった。
「目撃者は、ここにはいないのか……」
「もしくは自然すぎて気付かなかった、という可能性もあるな」
「何か心当たりがあるんですか、ラピスさん」
「私達が気付かぬ内に外部の者が侵入、持ち込んだ眠加密列を混入させた線もある。
恐らく先刻の盗賊達の襲撃に紛れて侵入した可能性が高い」
最初の盗賊達の襲撃を利用して外部からバーナードキャラバンに侵入した者が存在し、その侵入者が眠加密列を持ち込んで混入させた可能性が高い。
ラピスのその話を聞いたヨキ達は信じられないと言った様子だった。
「それなら、ラピスとスズの索敵に引っかからへんか?
お前ら確か、生命力の波?でワイ達を識別してるって言うてやろう?」
「基本的にはそうだ、だが抜け道がない訳ではない」
「そうか消属性か!」
「なんだ? なんかわかったのか?」
「前に魂の属性について説明した事があっただろう?
最後のロアに属する消属性は消す力なんだ」
キールがいう消属性が消す力と聞かされたヨキ達は、キールが何を言いたいのか分からずお互い顔を合わせながら困惑した。
恐らく事態が混迷化した事と関わりがあるのだろうという事は辛うじてわかるのだが、その意味を理解できなかったのだ。
そんな時、バンが消属性について話し始めた。
「消属性は物、魔法、気配といった感じのもの自由自在に消す事ができる属性だ。
スキル持ちの熟練度によっては危険物や禁忌魔法みたいな危険なものまで自在に消せるんだよ」
「えぇっと、とりあえず指定した対象を自分で消せる属性、って認識でいいかしら?」
「大体はそんな認識。
それでキールとラピスが言いたいのは、眠加密列を混入させた犯人は消属性、もしくは消属性の精霊石が材料になってる道具を使って生命力を消してたんじゃないかって事だよ」
「「「生命力を消す?」」」
「そないな事したら死んでまうで!」
消属性で生命力を消したというバンの発言に対し、ヨキ達は余計に理解が出来なくなった。
ニヤトが言った通り、生命力を消すという事は死ぬ事を意味している。
そのため、何故生命力を消す事がラピスとスズの索敵から逃れる事になるのか、バンはその答えを説明し始めた。
「生命力自体を消すんじゃない、正確には生命力の波長を消すんだ」
「それが索敵から逃げるのにどう繋がるんや?」
「生命力って言うのは生きる上で必要なエネルギー源みたいな物なんだ。
それが俺達を俺達たらしめる物、つまりは魂から発せられている状態、わかりやすく言うならラジオから常に音楽が流れている状態なんだ。
ラジオは音量を小さくする事は出来るけど完全には消せない、音を全部消したとしてもそれは理論上死を意味する事になる。
だけどそこに指定したものを消す事ができる消属性が発動した場合、周りからは聞こえないだけでラジオ自体からは音楽が同じ音量で流れてる状態なんだ」
「音量を下げる必要がない状況が作れるって言うのは分かるけど、それなら風属性や音属性でも性質上できるんじゃない?」
「フィービィー、ラジカセはあくまで例えよ。
その二つじゃ生命力を消す形で隠すのは無理だわ」
風属性と音属性でも同じ事はできるのではないかというフィービィーだったが、カトレアに指摘された事で不可能である事が判明した。
カトレアはバンに向かって、自分なりの答えを出した。
「つまりバン達が言いたいのは、移動可能な即席の防音壁を作って生命力という音漏れが起こらないようにした、って事で良いのよね?」
「あぁ、その認識が一番あってる。
犯人が消属性を使って生命力を隠したなら、ラピス達でも気が付かないし、人数が増えたり減ったりしても誰も気にしない筈だ」
「ミザール、今すぐキャラバンのメンバーと護衛に参加した冒険者を確認できる物はあるか?」
「使用人と商人の名簿とギルドから受け取った冒険者達の資料がある。
これは一度全員を集めて人数を確認した方が良さそうだな……」
眠加密列を混入させた犯人を特定するべく、一度全員を集めて人数とメンバーを確認する必要があると考えたミザール。
近くにいた使用人に名簿と資料を持ってくるよう指示を出した後、冒険者のまとめ役であるアンガスに冒険者達を集めるよう指示を出そうとした直後、他の現場にいた冒険者が慌てた様子でヨキ達の元に来た。
「牢馬車付近の茂みで倒れていた冒険者が意識を取り戻したぞ!」
「倒れてたって事は眠過密列の被害者?」
「多分、僕達のグループが見つけた人の事だと思う。
盗賊に襲われて、頭を殴打した」
ヨキは自分とリンダが応急手当をし、ラピスの疑似茂みで匿った冒険者が目を覚ましたのだと考えた。
だがその時、知らせに来た冒険者が驚きの証言をした。
「その冒険者は何か牢馬車の鍵が壊されるような事は見てないか?
そうか不審者の姿は?」
「それが、その冒険者の話によると見張っている間、突然牢馬車の鍵が目の前で壊れる現象が起きたそうです。
しかも壊れた瞬間、牢馬車の扉前には誰もいなかったそうで」
「誰も立っていないのに眼の前で突然壊れた⁉
どういう事だそれは⁉」
報告を受けたアンガスは、誰もいないにも関わらず牢馬車の鍵が突然壊れたと聞いて困惑し、報告に来た冒険者に追求する。
冒険者も困惑しながら報告を続けた。
「話によると盗賊達が鍵を破壊した訳ではないらしく、まるで見えない何かが壊しているのではないかという光景だったそうです。
同じように見張りに着いていた冒険者は何故か目を覚まさなかったため、風魔法で牢馬車から離れた草原に避難させ、壊れた鍵を氷魔法で凍らせて扉を閉じていたそうです」
「頭を殴られた人以外の冒険者が見当たらなかったのは、彼が草原に避難させたからなのね。
どおりで見つからなかった訳だわ」
「魔法という事は魔法使いだな?
起きていた見張りはその魔法使いだけか?」
「はい、その魔法使いの冒険者の証言通り、姿が見えなかった冒険者達は眠った状態で草原にいるのを発見しました。
その後盗賊達が逃げ出さないよう一人で対処していたようですが、頭に衝撃が走りそれ以降覚えていないそうです」
牢馬車の見張りがヨキ達が見つけた魔法使いの冒険者以外眠ってしまったという事がわかり、やはり頭を殴られた事で気絶していたようだ。
だがその報告を聞いたフェムは、目を見開いて追求した。
「待ってくれ、その冒険者が殴られるまで盗賊は脱走してなかったという事か?」
「あ、あぁ、次々壊れる鍵を必死に凍らせて対処していたらしいから、脱走していなかったそうだ」
「待て、その話が本当なら矛盾する部分があるぞ」
「矛盾する部分? どういう事や?」
自分達が保護した魔法使いの冒険者の行動パターンを聞かされたフェムとラピスは、自分達が想定していた部分と矛盾する部分がある事に気付いた。
その時非戦闘員の避難誘導に当たっていたため、状況を知らないニヤトは二人に追求したが、その時リンダも矛盾する部分が何処なのかに気づき、思わず声を上げた。
「どうしたのリンダ、何かわかったの?」
「頭の傷! 頭の傷よメルビィ!」
「頭の傷だけじゃわからないわ、落ち着いてちゃんと説明して」
「私達が見つけた魔法使いの頭の傷、アレは盗賊達につけられたものじゃないのよ!」
「何言ってるのよ、そんな筈……あっ!
そっか! タイミングの問題ね!」
リンダが頭の傷は盗賊が着けたものではないと聞いた瞬間、メルビィもようやく矛盾する部分に気付き、頭の傷ができたタイミングが矛盾しているのだと気付いた。
二人のやり取りを見ていたヨキとバンも、その事に気付き驚いた表情をしていた。
眠過密列入りの香草茶を飲んで眠っていたリースを起こすため別行動を取っていたソーンとゴンスケも、話を聞いただけで内容を理解した。
「なるほど、そういう事ですかい」
「もしそうだとすれば、大変な事になるぞ」
「なんや? なんかわかったのか?
ワイにもわかるように説明してや」
「そうだよ、そんなやり取りじゃぜんぜんわかんないぞ」
鷹獅子の西風とヨキ達のやり取りを見ていたニヤトとレイアは、何に気付いたのか説明を求めた。
それは周りも同じようで、すぐに説明を求めた。
そしてその説明に答えたのは、ヨキだった。
「僕達が魔法使いさんを見つけた時にはもう頭に傷がある状態で、盗賊さん達もほとんど脱走した後だったんだ。
でも、今の話が本当なら魔法使いさんが気絶するまでの間、盗賊に襲われてない事になっちゃう!」
「どういうこっちゃ?」
「あぁ~、つまりその魔法使いが気絶する直前まで盗賊は一人も脱走してなかったって事だよ!」
「ちょっと待って! それってつまり……」
「魔法使いさんは盗賊さん達以外の誰かに襲われた事になるんです」
ヨキ達が保護した魔法使いが盗賊以外の者に襲われたと聞かされた瞬間、その場に衝撃が走った。
それはヨキ達も同じで、話を聞くまでずっと盗賊に襲われたとばかり思い込んでいたのだ。
盗賊以外の誰かが犯人という事は、必然的にバーナードキャラバン以外の誰かが犯人という事になる。
コレは早急に対処しなければならない。
そう思った矢先、使用人と商人の名簿と冒険者の資料を取りに行っていた使用人が戻ってきた。
「旦那様、名簿と資料をお持ちしました!
ただ……」
「どうした、何かあったのか?」
「名簿と資料、どちらも一部のプロフィールが抜き取られた形跡があります!」
「なんだと⁉」
名簿と資料から一部のプロフィールが抜き取られた形跡があると聞かされたミザールは、使用人から名簿と資料を抜き取り、急いで確認する。
名簿と資料を確認したミザールは、表情を青くした。
「確かに、どちらからも一部プロフィールが抜き取られている。
だが何故だ?
名簿も資料も厳重に、しかも別々の金庫に保管していた筈……」
「金庫の方に関しては、鍵が壊された形跡はありませんでした。
無論ピッキングの形式もありません」
「金庫は無事、でもプロフィールの一部が抜き取られてる?
どういう事?」
「なんだってプロフィールが抜き取られてるんだよ⁉」
「それよりもなんでそんな事になったんだ⁉」
プロフィールが抜き取られたと聞かされた冒険者達は、一体どういう事なのかと再び騒ぎ始めた。
プロフィールが抜き取られたという事は、一定の人数分の情報が流出した事になる。
情報が流出したと聞かされたヨキ達もかなり困惑したが、翡翠の渡り鳥のリーダーであるガントゥは、プロフィールが抜き取られた理由に気付いた。
「もしかすると、プロフィールを抜き取られた面子の中に犯人がいるかも知れないな……」
「自分の正体がバレないように、ですね」
「もしくはプロフィールを抜き取られた連中に容疑を向けるため、だな」
「そっか、怪しむだけならそれだけでも十分だね」
キールとガントゥはプロフィールが抜き取られた意図に気付き、ラファとフィービィーはその意味を理解した。
シファはしばらく考え込んでいたが、少ししてその意味を理解した。
「なるほど、プロフィールがなかったら身分を証明しきれないし、別の誰かに容疑を向ければ自分は疑われないって事だね?」
「本当にそれだけなら良いんだがな」
「何か心配事ですか、ラピスさん?」
キールとガントゥの考えはあながち間違いではないとは思うラピスだったが、どうにも腑に落ちない点があるようだ。
ラピスは再度鷹獅子の西風に確認を取る。
「念のためもう一度聞かせてくれ、香草茶以外で怪しいものはなかったか?」
「いや、念入りに調べたが特に不審なものは見当たらなかったんだ」
「至急、ジェイコブを呼んできてくれ。
少し確認したい事がある」
「私ならここにいます」
声が聞こえた方を見ると、サブリナに付き添われたジェイコブの姿があった。
すぐ開放されたとはいえ一時的に人質にされていたため、負傷していないか確認していたようだ。
「ジェイコブ、聞きたい事がある。
常日頃から何か身に付けている物はないか?
あるならそれを見せてほしい」
「それでしたらこちらのペンダントですね。
時折幻術を使って都合よく交渉を進めようとする商売相手がいたり、何かしらの異常を引き起こす商品も取り扱うので異常耐性が付与された護符としての役割を担ってくれています」
「「「異常耐性のペンダント⁉」」」
ジェイコブが異常耐性が付与されたペンダントを持っていた事を知ったヨキ達は、スズが言っていた精神攻撃が勘違いではないということがわかり愕然とした。
大勢の非戦闘員が混乱し逃げ惑う中、ジェイコブが避難誘導を行えるほど冷静だったのはそのペンダントに付与された異常耐性が効果を発揮していたからだ。
それを聞いたラピスはやはりそうかと呟いた。
ラピスの呟きを聞いたフェムは、何か心当たりがあるのかとラピスに問う。
「やはりという事は、何かわかったのか?」
「あぁ、今回の脱走事件は外部の者、ヘルシャフトの勢力が意図的に引き起こしたものだ」
「ヘルシャフト、予想よりしかけてくるのが早いですね」
「でも、それにしては妙じゃない?
コレまで何度かヘルシャフトの襲撃に遭ってきたけど、こんなまどろっこしい方法は初めてよ」
「言われてみれば、これまで白昼堂々と襲ってきてたね」
盗賊達が脱走した原因はヘルシャフトによるものだとラピスから聞かされたメルビィとシファは、これまでの襲撃方法と明らかに違うため納得がいっていないようだった。
その疑問を聞いた瞬間、ヨキ達の頭をよぎったのは、フォルシュトレッカーの存在だった。
(確かにフォルシュトレッカーなら、怪しまれる事なくキャラバンに潜入できる)
(プロフィールを抜き取った理由は、素性を知ってる俺達にバレないようにするため。
消属性なんて希少な属性を使ったのも、魂の波長を知ってるラピスとスズに波長バレするのを防ぐためって事か)
(今回の騒動で例の積み荷を奪取するつもりだったんだろうが、肝心の荷馬車をキールが守っていた事で一時的に諦めたという事か)
(鍵を壊したのはリラ?
いいえ、もしかしたらツヴィリンゲ、リンドウかもしれない。
あの子なら短時刻だけ幻術を使って姿を消す事も奇襲する事もできるわ)
(じゃが、何故バーナードキャラバンを狙うのでごじゃろうか?)
誰にも気付かれず、隠密に事を進める事ができるフォルシュトレッカーの存在はうってつけだ。
それと同時に、ヘルシャフト達がバーナードキャラバンを必要に狙う理由も重要になる。
積み荷の正体を知る者達は、何がなんでも積荷を渡してはいけないという焦りが生じ、積み荷の正体を知らぬ者達は、何故必要にバーナードキャラバンを狙うのか分からず頭を悩ませていた。
どちらにしても、フォルシュトレッカーが引き起こしたこの事件は冒険者達の結束を揺るがすには十分すぎるほど大きすぎた。
*****
そして事態の収拾を行うバーナードキャラバンから離れた場所では、ヨキ達の読み通りフォルシュトレッカーがいた。
【千里眼】を発動し様子を確認していたシュッツェは、キャラバンの状況を逐一報告してた。
「ヘルシャフト様方の干渉を確認したようですが、我々の存在に関しては抹殺対象と一部を除いて気付いてはいないようです」
「俺達の干渉に気が付かれたのは痛いが、全員ではないだけまだ救いがあるな」
「っていうか、盗賊の頭がやられちゃったのは想定外だねぇ。
ここいらじゃそこそこ手がかかるっていうから使えると思ったんだけどなぁ〜」
シュッツェの報告を聞いていたクレープスとヴァーゲは、自分達の関与が一部にバレてもさほど気にしていない様子だった。
特にヴァーゲに至っては、盗賊の頭がマリによって葬られたことに関して宛が外れたような言い方だった。
「わざわざ潜入してキャラバンの情報を流したり取られても特に問題のない付与武器渡したってのに、こんなあっさりやられちゃうなんて使えないよ。
あーあぁ、コレじゃ台無しだよ」
「それを言うならもっと早く見張りを気絶させといてよ。
リラが【透明な手】で頑張って鍵壊してる所見られちゃったんだから!」
ヴァーゲは自分がけしかけた盗賊達があっさりと返り討ちにあった事で、自分の苦労が水の泡とかした事を大げさに表現していた。
それに対しリラはもっと早く魔法使いの冒険者を気絶させておけと文句を言う。
盗賊達を脱走させる際、香草茶に眠過密列を混入させ見張りの冒険者を眠らせた上で、少し離れた所から【透明な手】で牢馬車の鍵を破壊するという手筈になっていた。
実際は一人香草茶を飲んでおらず、結果的に牢馬車の鍵を破壊している所を目撃されてしまったという訳だ。
リラとしてはかなり痛いミスだったのだろう。
「別に良いじゃん、見られたのは【透明な手】で壊してる所だけでリラ自体は見られてないんだしさ」
「良くない! ヴァーゲのせいでリラ達の事がバレちゃったんだから!
それに主様に頼まれた積み荷も持ってこれてないじゃん!」
「無茶言うなよ!
あの箱スゲェ希少な素材使われてるから一人で運び出すには時間か掛かるし、積まれてる荷馬車にナチュラルトレジャーが居座ってたんだから無理に決まってんだろう⁉」
バーナードキャラバンから離れているとはいえ、ヴァーゲとリラはそのまま言い争いを始めてしまった。
二人の言い争いを見ていたクレープスは、任務に支障をきたしてはいけないと考え二人の頭に拳骨を落とした。
「いい加減にしろお前ら。
離れてるとはいえ油断するな、その油断が命取りになる。
シュッツェ、その後の様子はどうだ?」
「現在アイスアサシンは未だに戦意を喪失中、キャラバンの使用人が眠過密列が混入した香草茶の袋を雇い主本人の元へ運んでいます」
「そうか、ヴァーゲ、念のため聞くが脱出する際の細工は問題ないな?
お前とシュッツェはユングフラウともう一人が来るまでの繋ぎでしかないんだ」
「言われなくてもわかってるよ。
脱出する際に細工したのは何も名簿と資料だけじゃないからね。
俺達が離脱するまでの間、あちらさんには存分に疑心暗鬼になってもらうつもりさ♪」
そう言いながらヴァーゲは眠過密列のみが入っている袋を見せながら笑っていた。
何故ならヴァーゲは、バーナードキャラバン全体が混乱するには十分すぎるほどの置き土産をおいてきていたのだから。
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