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第83話 護衛対象防衛戦【ディモルフォセカside】

 ブックマークありがとうございます。

 先刻(せんこく)襲撃してきた盗賊達を最初の中継地点であるルテラ砦に引き渡すべく、予定よりも少し速い速度で移動しているバーナードキャラバン。

 そしてオリソンティエラに着くまでの間、一時的に姫紫君子蘭(ブローディア)の壁に所属しているディモルフォセカとカトレアは、先刻と同じように先頭を歩いていた。


「結構移動速度が速いわね」


「仕方ないさね、昨日の盗賊達を連れて移動してんだ。

 のんびり移動してる間に脱走して暴れられたら、こっちが面倒くさくなるさね」


 姫紫君子蘭の壁に所属する(ホゥ)族のベレッカは、後方の方に視線をやりながらカトレアに言った。

 視線の先には、盗賊達が持っていた荷馬車を改造した即席の牢馬車があり、その中には先刻襲撃してきた盗賊達が入れられている。


「流石にあの場所で放置って訳にもいかないとはいえ、拘束されて売り飛ばされたかもしれない身としてはあまり良い感情はしないわ」


「その前に違う意味で酷い目に遭ってたかもしれないさね。

 そういう事では運が良かったというべきだよ」


「そうだな、見かけが綺麗な連中ほど悲惨な目に遭う奴はいねぇ。

 最悪そのまましに至る事だってあるんだ」


「なんか暗いですよ? 親分(オヤビン)


 牢馬車に詰め込まれている盗賊達を見ながら、複雑な感情を抱くディモルフォセカに対し、助かったのは運が良かったというベレッカ。

 その話し方から、碌な目に合わないという事だけはわかった。


 一方で、姫紫君子蘭の壁のリーダーを務めるアノンは、盗賊に捕まったものの末路に嫌な感情を見せた。

 最初に盗賊の正体を見破った事から、何か思い当たる節があるのだろう。


 姫紫君子蘭の壁の中では最年少に当たる大剣(グレートソード)を背負った小柄な体型の少女フィレイは、アノンの表情が暗い事を指摘しながらも深くは追求しなかった。


「速度を上げて進んでいるとはいえ、もうそろそろ日が暮れるわね」


「やっぱり季節の変わり目となると、日が暮れるのも早いわねぇ。

 オリソンティエラについてら防寒具とかの類も見繕いましょう」


「それはかなり助かるわ。

 元々砂漠に住む民族とはいえ、この格好だと周りから浮いちゃうから」


 いくら寒暖差に強いとはいえ、年中袖なしともなれば周りから変に見られると思ったのだろう。

 そんな時、後方からミザールの声が聞こえて来た。


「もうすぐ日が暮れそうだ、今日はここで野営にする。

 戦闘は進むのを止めて周囲の警戒に当たってくれ!」


 周りの明るさと周囲の時間的にこれ以上進むのは無理だと判断し、現在いる平原で野営をする事にしたようだ。

 すぐさま戦闘にいた冒険者達は、野営地となる平原周囲を警戒し始めた。


「こっちの方は、特に怪しいものはなさそうね」


「おーい、ブレン、マチルダ。そっちの方はどうだ?」


「こっちは魔物の姿とか見当たらないし、危険なものとかもなさそうなので大丈夫そうですーっ」


「そうかーっ。それなら早めに戻ってこーい。

 特にマチルダお前は前衛で数少ない回復役(ヒーラー)を担っているんだ、ブレンから離れるなよーっ!」


「はーいっ」


 アノンとは別の方向を確認していた姫紫君子蘭のパーティメンバーであるマチルダは、現在バーナードキャラバンの護衛任務に参加している数少ない回復役だ。


 そのため何かあってはいけないとアノンの指示に従い、短弓を構えた後衛で弓士のブレンにくっつきながらアノン達の元に戻ってきた。


「違う、確かに離れるなとは言ったがそうじゃない!」


「離れるなってくっついとけって事じゃないですか?」


「相変わらずアンタは変な所で天然が入るねぇ」


「くっつかれるの、困る……」


「この二人、さっさとくっついた方が早いですよ」


 マチルダにくっつかれていたブレンは、少々、いやかなり困った表情をしていた。

 フィレイに至っては呆れており、アノンのベレッカは、マチルダの行動に頭を悩ませたがマチルダ本人は対して気にしていない様子だった。


「凄く賑やかなやり取りね。

 冒険者パーティと言うより家族のやり取りだわ」


「確かにそうね……」


「もしかして、リンドウ(ツヴィリンゲ)の事思い出してた?」


「うん、もしあの時ヘルシャフトに襲われてなかったら姫紫君子蘭の壁の人達みたいに過ごせたのかなって……」


 そう言いながらディモルフォセカは、姫紫君子蘭の壁のメンバーを切なそうに見ていた。

 仲間達の前では割り切ったとはいえ、やはり思う所があるのだろう。


 それを考えると、どうしても虚しい気持ちを抑えきれなかったようだ。

 カトレアは何も言わずに、ディモルフォセカの方に手を置いて無言で励ました。


「おーい、ディルカ、カトレアー」


「あぁ、スズじゃない。どうかしたの?」


「いや、近くに二人の魂の波長を感じ取ったから来てみただけだ。

 周囲の確認も終わったから、そろそろ本格的に野営の準備に取り掛かるっぽい」


「わかったわ。私達もアノンさん達を呼んで準備に向かうわね」


 スズから野営の準備に取り掛かると聞いたディモルフォセカとカトレアは、姫紫君子蘭の壁のメンバーを呼び自分達も野営の準備に取り掛かった。

 その後なんの問題もなく野営の準備は進み、本刻(ほんこく)中の移動は終了した。


 野営の間もトラブルが起こった時に対処できるよう、冒険者達が交代で見張りにつき、そうでないものは休憩用に建てられたテント広場で仮眠や休息などしていた。

 そんな中、眠れぬディモルフォセカは広場から少し離れた所で歌っていた。


「♫月夜に照らされ彷徨う若人は

 喜び忘れ彷徨い歩く

 叶わぬ願いと知りながら

 明けぬ夜の砂漠歩き続ける


 夜明けに怯えただ一人

 心に空いた穴に気付きながら嘆く

 嘆いたところで何も変わらぬ

 何かが変わる事はないというのに♫」


 ディモルフォセカは夜空を見上げながら、周囲の迷惑にならない程度の声量で歌っていた。

 ディモルフォセカが歌っているのは、幼い頃に父親から教わったファイアーファントムに伝わる民謡だった。


「♫されど恐れる事なかれ

恐れではなく勇気を(いだ)

 君と過ごした確かな時を

 例えそれが定められた事だとしても


 そこには確かな繋がりがあった

 嘘偽りのない確かな繋がり

 だからこそ夜明けに怯える事なかれ

 明けぬ夜はないのだから♫」


 ファイアーファントムの民謡を一人静かに歌うディモルフォセカ。

 そこにテント広場で休まず出歩いていたニヤトとタメゴローがやって来た。


「ニャパッ! 歌声が聞こえる思たらディルカやないか」


「あら、ニヤトじゃない。それにタメゴローも」


「なんや、もしかして眠られへんのか?」


「そうともいえるし、そうともいえないわね」


「どういうこっちゃ?」


 ニヤトの質問に対し、ディモルフォセカは謎かけのような内容で答えた。

 答えの意味が分からなかったニヤトは、首を傾げながら答えの意味をディモルフォセカに尋ねた。


「眠りたいけど、色々考えちゃってね、どうしても目が冴えてしまうの」


「そうやったんか、確かにここまで来るまでに色々あったさかいな」


「えぇ、だから気分転換に歌ってたのよ。

 流石に人前では歌う気は怒らなかったわね」


 ニヤトもなんとなくディモルフォセカの心情を察し、深くは聞かなかった。

 そんな時、突然タメゴローがとある方向に向かって威嚇行動を取り始めた。


「ヴ〜ッ」


「どうしたのタメゴロー?」


「なんや、向こうでなにかあったんか?」


「ナァウ、ナァウ!」


 突然威嚇行動を取るだけでなく、更には普段あまり鳴かないタメゴローが唸り声を上げたため、ディモルフォセカは何事かと思った。

 何か異変を感じたのだと悟ったニヤトは、タメゴローに話しかけた。


 タメゴローは真剣な表情で何が起きたのかをニヤトに伝える。

 そしてタメゴローが感じた異変について聞いた瞬間、ニヤとは驚きの声を上げた。


「なんやと、盗賊達が牢馬車から逃げ出した⁉」


「嘘でしょう⁉」


 牢馬車から盗賊達が逃げ出したと聞いたディモルフォセカは、先程までタメゴローが威嚇行動をしていた方向を確認するが、距離があるため事実か確認できない。

 ディモルフォセカとニヤトは急いでテント広場に戻ると、そこは既に戦場と化していた。


「ニャパッ! ほんまに盗賊が脱走し取る⁉」


「しかももうテント広場にまで来てるなんて、ここには戦えない人達もいるのに!」


 冒険者と盗賊達が戦っている状況を目の当たりにしたディモルフォセカは、商人を含む非戦闘員の避難がどうなっているのかが気になった。

 万が一非戦闘員が巻き込まれれば、人質にされてこちらが不利になる。


 どのようにして動くべきか考えていると、ディモルフォセカの背後から一人の盗賊が襲いかかってきた。

 だが、その事に気付いたタメゴローがディモルフォセカの腕の中から飛び出し、盗賊の顔を引っ掻いた。


「シャーッ!」


「ギャアッ! 何しやがるこの野良猫!」


「タメゴローは野良猫ちゃうぞド阿呆!」


 タメゴローに顔を引っ掻かれた盗賊は、顔を抑えながら足元にいるタメゴローを蹴り飛ばそうとするが、その前にニヤとの飛び蹴りが顔面に直撃したため、そのまま戦闘不能になった。


「大丈夫かディルカ⁉」


「平気よ。それにしても、相変わらず無茶な事をするわね」


「これくらいどうって事あれへん!

 ワイはこのまま非戦闘員の避難に当たるさかい、ディルカはカトレアと合流して盗賊達を制圧してや!」


「わかったわ、ニヤトとタメゴローも気を付けて!」


 ニヤトはタメゴローを連れて非戦闘員の避難誘導に向かい、ディモルフォセカはテント広場で休んでいるカトレアとの合流を急いだ。

 テント広場の中央につくと、そこでは盗賊から逃げ遅れた非戦闘員を守りながら戦う冒険者達の姿があった。


 その中にはカトレアと姫紫君子蘭の壁のメンバーの姿もあり、ディモルフォセカはホルダーにかけていたトーチ(炎の礎)を手に取り、カトレアと戦う盗賊を背後からトーチの炎で絡めとり、勢いよく広報に投げ飛ばした。


「カトレア、大丈夫⁉」


「ディモルフォセカ遅い! 何処行っとったんよ!」


「少し離れた所で休んでいたのよ!

 他の場所にいる非戦闘員の人達の避難はニヤトが向かったわ、早くここにいる人達も避難させないと……」


「まさにその通りね! ラヴァーズとマリも逃げ遅れてしもうたけぇ、なるべく早うおさめたいのよ!」


 そう言いながらカトレアは非戦闘員がいる方向を指差した。

 そこには不安そうな様子でジェイコブにしがみつくラヴァーズと両手を握りしめながら戦う冒険者達を見守るマリの姿があった。


「ジェイコブさん⁉ 確か荷馬車の確認をしてた筈なのに、なんでここ(テント広場)にいるの⁉」


「他の非戦闘員の避難誘導してる内に逃げ遅れたみたいっす!」


「全員気を抜くな!

 相手はスキルを封じられているとはいえ、何をしでかすかわらかないぞ!」


「アンガス殿の言う通りだ、気を抜かずに対処するぞ。

 だが後方から離れすぎるな、非戦闘員に被害を出す訳にはいかない」


 冒険者達のまとめ役であるアンガスは非戦闘員を守る冒険者達に指示を出しながら、脱走した盗賊達の制圧を試みる。

 それに対しアノンは自分のパーティーメンバーに、後方にいる非戦闘員を確実に守る動きを取るように指示を出した。


「マチルダはメンバー全員に防御力を上げるスキルを付与。

 ブレンはマチルダを守りながら俺達の援護を、フィレイはディルカとカトレアをフォローしながら迎撃、俺とベレッカで近付いてきた連中を問答無用でぶっ飛ばす!」


「「「了解!」」」


「行くよ、【音操作、即興曲(アンプロンチュ)()(フィルム)】」


 マチルダは指揮棒を模した武器を取り出すと、ディモルフォセカ達に向かってスキルを発動させた。

 するとディモルフォセカ達の体に、目では認識できない音の膜が発生した。


「これって、音波で出来た膜?」


「これで物理攻撃は軽減できるよ。

 でも気を付けてね、あくまで軽減できるだけだし、魔法とか法術とかの攻撃となると即興曲の膜じゃ軽減できない」


「とりあえずタイミング見てアシストお願い、アタシ達はこのままリーダーの指示通りに動くよ!」


 マチルダの支援を受けたディモルフォセカ、カトレア、フィレイの三人は一定の間隔を開けて盗賊達の追撃に当たった。

 先頭で戦うアノンとベレッカは自分達に近付いて来た盗賊達を次々と問答無用で吹っ飛ばしていき、そうならずに通過してきた盗賊達は、中衛に立つディモルフォセカ達によって迎撃されていく。


「スマッシュ・スマッシュ!」


「でりゃあーっ!」


「しつこい連中は、お呼びじゃねぇんすよ!」


 次々接近してくる盗賊達を止まる間もなく追撃しては、戦闘不能にして次を対処を繰り返す。

 一件動きを止めて休みたくなる状況。

 だが、ディモルフォセカは先刻の事で一度でも動きを止めれば危険であるという事を学んでいた。


(動きを止めるな、動き続けろ、周りをよく見て、落ち着いて観察して……)


「【音操作、程良く早い(アレグロモデラート)助奏(オブリガート)】、【音操作、そよ風の追想曲(カノン)】!」


 ディモルフォセカは動きを止める事なく、けれども相手の動きをよく観察してなるべく法術に頼らず攻撃を続ける。

 マチルダもタイミングよくアシストし、更にブレンの弓に自身の音を付与する。


 マチルダは音操作と呼ばれる能力を使うアビリアだ。

 アビリアは使用者の個性により能力の型が左右される傾向にあり、マチルダ自身の性格上、必然的にアシスト型に偏っている。


 そのため攻撃や防御などはあまり得意ではないが、代わりに音の付与や回復といった周りを支援する事は得意なのだ。

 自分の弓にマチルダの音を付与されたブレンは、矢筒から三本の弓を手に取りあてがうと、(やじり)を盗賊達に向けた。


「三連矢、行くぞ!」


 ブレンは三人の盗賊目掛け、三本の矢を放つ。

 それと同時に弓に付与されたマチルダの音が自動的に矢に付与され、三人の盗賊の足をかすめると同時に、破裂したかのような傷が出来上がった。


「ギャアッ! 痛ぇ、痛ぇよ……っ!」


「お、俺の足がぁっ!」


「畜生、一体何が起きやがった⁉」


 ブレンの矢を受けた三人の盗賊は、自分達の足に何が起きたのか理解できないでいた。

 一件残酷に見えるが、足を負傷させる事で、行動できなくし戦意を喪失させるには十分な威力だった。


 カトレアも問答無用で盗賊達の顔面に蹴りを入れ、次々と顔面崩壊させている。

 接近戦は不利だと考えた盗賊達は、近場に落ちている小石を拾い、カトレア目掛けてひっきりなしに投げつける。


「あわわっ! 物理攻撃が軽減されとるたぁいえ、こがいなひっきりなしに投げつけられたらたまったもんじゃないわよ!」


「お姉さん、そこに落ちてる小鍋をこっちに投げて!」


「小鍋? 小鍋で何するんよ⁉」


「良いから良いから、アタシを信じて!」


「あぁもうっ! どうにでも、なれ、よっ!」


 訳もわからず小鍋を投げるように言われたカトレアは、ボールのように右足で小鍋を蹴り上げ、そのままフィレイの方に蹴り飛ばす。

 ヘルシャフトとの戦いで鍛えられた蹴り技は伊達ではない。


 一方で小鍋が自分の方に飛んできているフィレイは、両手剣の刃が自分の顔の横に来るように構え、力強く足を踏ん張る。


「人様を襲う悪者には、痛い痛いのがお似合いっすよ!」


 そう言うとフィレイは飛んできた小鍋に向かって両手剣を大きく振る。

 小鍋が両手剣の側面に当たる直前、フィレイは両手剣を僅かに左下に傾けた。

 そして両手剣を小太りな盗賊目掛けて大きく振るう。


 その直後、小鍋が両手剣に直撃し勢いよく小太りな盗賊の方に目掛けて吹っ飛ぶ。

 吹っ飛んだ小鍋はぽっこりと出た小太りな盗賊の腹部に勢いよく直撃し、その衝撃で小太りな盗賊の意識も吹っ飛んだ。


「只々ぶった斬るだけが両手剣って訳じゃないっすよ」


「凄いわ、近くにある物を利用して攻撃手段に用いるなんて」


 フィレイが両手剣の側面と小鍋を利用して盗賊を戦闘不能に用いた方法を見たディモルフォセカは、動きながらもフィレイの戦い方に感心した。

 これまでの冒険で培ってきたのだろう技術で、問題なく盗賊を倒してのけたのだ。


「あれなら私でも出来そう!」


 フィレイの戦い方を見たディモルフォセカは、視界に入っていたバケツの取手をトーチの炎で掴むと、トーチを勢いよく横に振るう。

 するとトーチの炎の先にいた盗賊達の顔に炎が直撃すると同時に、後追いする形で掴んでいたバケツが盗賊達の顔を直撃した。


「アデッ⁉」


「ヒギャッ⁉」


「なんっダェッ⁉」


「おぉ、良い感じで倒れた」


「なんかドミノ倒しみたいだね」


「これで大体の盗賊を戦闘不能に出来たわね、あと少しで……」


 テント広場に現れた盗賊の大半を戦闘不能にできたため、制圧まで後少しという時だった。

 突然背後から轟音が聞こえてきたため、何事かと思ったディモルフォセカは振り返って確認した。


 ディモルフォセカの視界に映ったのは、非戦闘員達が立っていた場所に出来上がった波紋状の大きなクレーターだった。

 それを見たディモルフォセカは思わず驚きの声を上げた。


「な、何よこれ⁉」


「お、親分(おやびん)

 後ろの方におっきなクレーターができてます!」


「なんだと⁈」


「コイツはまさか、盗賊共の仕業かい⁉」


 ディモルフォセカ同様、波紋状のクレーターが出来上がっている事に驚きを隠せないでいる姫紫君子蘭の壁のメンバー達。

 だが波紋状のクレーターを見たカトレアは、クレーターが出来上がった事よりもラヴァーズの安否の方が気になった。


「待って、ラヴァーズは?

あそこにゃあラヴァーズがおった筈じゃろう⁉」


 カトレアが言った通り、波紋状のクレーターが出来上がった場所には非戦闘員達が集まっていた。

 よく見るとクレーターの周りには氷の破片が散らばっており、恐らくマリがベール・ベールを発動させたのだという事が分かった。


 そのおかげか波紋状のクレーターの周りには非戦闘員達が倒れており、幸いな事に怪我人はいないようだ。

 だが、完全にベール・ベールで防ぎ切れた訳ではないらしく、何かしらの反動で地面に叩き付けられたようだ。


「ラヴァーズ、ラヴァーズは何処⁉」


「わーっ!」


 カトレアがラヴァーズの姿を探していると、突然ラヴァーズの叫び声が聞こえて来た。

 カトレアがラヴァーズの叫び声が聞こえて来た方向を確認すると、そこにはブレンに抱きかかえられたラヴァーズの姿があった。


「なんだ? 男の子が飛んできた⁈」


「ブレン、この子商人さん達と一緒にいた子だよ!」


「ラヴァーズ! 良かった、無事だったのね⁉」


「(待って、今ラヴァーズが飛んできたって言わなかった?)

 まさか!」


 マチルダとブレンに保護されたラヴァーズの姿を見て安心したカトレアだったが、ラヴァーズが飛んできたという発言を聞いたディモルフォセカは、急いでマチルダとぶれんがいる場所とは反対方向を確認した。


 そして視線の先には、親骨の縁が刃状になっている扇をジェイコブの喉元に押しつけている一際厳つい盗賊の姿があった。


「ジェイコブさん!」


「動くな! 少しでも動いてみろ、コイツの頸が胴体とサヨナラするぞ‼」


「マズいさね、商人を人質に取られちまったよ!」


「あの扇、付与武器か⁉ それにアイツは盗賊達の頭じゃねぇか!」


 どうやらジェイコブはラヴァーズを庇って盗賊に捕まったらしく、更に最悪な事に、ジェイコブを人質にしたのは盗賊達の頭であり、その手に持っている扇は取り上げた筈の付与武器の一つのようだ。


「ご、ごめんなさい。

 僕すぐににげなかったせいで、ジェイコブさんが僕の代わりに……」


「謝らないで、悪いのは君とあの人を人質にした盗賊だよ!」


「困った、下手に矢を射れない」


 自分が逃げ遅れたせいでジェイコブが捕まってしまった事に対し、泣きながら謝罪するラヴァーズを抱き寄せながら慰めるマチルダ。

 ブレンは盗賊の頭の狙撃を試みるが、ジェイコブと盗賊の頭との距離が近すぎるため不要に手出しが出来ない。


(どうする? 一か八か攻撃する?

 ダメ、ジェイコブさんに当たる危険がある以上下手に攻撃できない!

 それなら見せたい幻を見せるミラージュ・ミラージュで怯ませる?

 それもダメ、下手に刺激してジェイコブさんを危険に晒す事になる。

 こうなったらトリック・トリックで……)


 ジェイコブが人質に取られ、内心かなり焦っているディモルフォセカは一か八かトリック・トリックの発動を試みようとした。

 だが次の瞬間、盗賊の頭の頸が突然あらぬ方向に向いた。


「「「……え?」」」


 その場にいた全員が何が起きたのか理解できず、困惑していた。

 そして盗賊の頭の体から力が抜け、その間にジェイコブが脱出すると同時に盗賊の頭が倒れた。


 そして盗賊の頭が立っていた後方に人影がある事に気が付いたディモルフォセカは、人影の正体を見て驚きを隠せないでいた。

 後方に立っていた人影の正体は、無表情で立っているマリだった。

 ご覧いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、mystery様。ようこそいらっしゃいませ。  今話は、タメゴローやマチルダが活躍して、これまで以上に愉快で痛快な戦闘シーンが楽しかったです。小鍋が両手剣でホームラン⭐︎された…
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