第8話 ディモルフォセカの花言葉
3月9日修正しました
レイトューンでヘルシャフトを襲う鬼女がスピリットシャーマンではないかと考えたケイとヒバリは、事件現場である夜空橋で鬼女と邂逅した。
だが鬼女の正体は、昼間にレイトゥーンで鬼女の情報を集めている時に出会った少女、ディモルフォセカだった。
ケイとヒバリが鬼女の正体がディモルフォセカだと知ったその日は、ヘルシャフトを襲っていたディモルフォセカ以外でケイとヒバリしか夜空橋にはおらず、レイトゥーンの住人から被害は出なかった。
だが、ヘルシャフト側はまたしても被害が出た事によって更に警備を厳重にした事でレイトゥーンの住人達は、鬼女へ不満を募らせていた。
それから三日程経っても鬼女は現れず、ケイとヒバリはディモルフォセカに会う事はなく、ヒバリはあの日の夜が夢のようにしか思えないような気分だった。
だがケイは違った。ケイは鬼女の事を調べるのをやめ、一人でディモルフォセカの居場所を探していたのだ。
「ケイ、何故ディルカ殿を探しているでごじゃるか?」
「気になるんだ。ディルカは間違いなくヘルシャフトに家族を殺された。
嘘をついてるとは思えない」
「どうしてそう言いきれるでごじゃるか?」
ヒバリは不思議そうにケイに訪ねた。するとケイはディモルフォセカから聞いた家族を殺されたという事に確信があるらしく、自分の考えを話し始めた。
「前にマリの事話したろ? ディルカは昔のマリに似た部分があるんだ。
ディルカの瞳の中には家族を失った真実を受け入れられない気持ちが残っていて、その苛立ちをヘルシャフトにぶつけてる感じなんかないかな?」
「仮にそうだとしても、何故ディルカ殿は同じレイトゥーンの住人までも巻き込むのでごじゃろうか?」
「その辺に関してはディルカの事を知る人を見つけて、話を聞く事ができればわかると思うんだ。
だからまずは、ディルカを知ってる人を見つけた方が良い」
ディモルフォセカの事を知るレイトゥーンの住人を見つけ、話しを聞く事ができればディモルフォセカがレイトゥーンの住人達を巻き込んでまでヘルシャフトを襲う理由がわかるのではないかと考えたケイは、ヘルシャフトに警戒しながらディモルフォセカの事を知るレイトゥーンの住人を探した。
中々ディモルフォセカの事を知るレイトゥーンの住人を見つける事ができず、気付けば夕方になっていた。
それでもケイは諦める事無く、近くの花屋に入りディルカの事を聞き始めた。
「すみません、ディルカっていう女の子を探してるんですけど、知りませんか?」
「ディルカ? ディルカってこの花の名前と同じ、赤毛のポニーテールの女の子かい?」
それを聞いた花屋の老婆が、不意に店の前にあった花を持ってきてケイとヒバリに見せた。
その花はディモルフォセカの名前と同じ名前の花だった。
ディモルフォセカの事を知る人物が現れた事に、ケイとヒバリは驚きながらも老婆の問いに答えた。
「はっはい、そうです。ディルカの事、知ってるんですか?」
「一応あの子の育ての親じゃ。とは言っても、今は別々に暮らしてるんじゃがねぇ。詳しく話そうか?」
「ほんとですか⁉ ありがとうございます!」
「立ち話も何じゃし、上がりんしゃい」
ディモルフォセカの事を知る花屋の老婆に招き入れられたケイとヒバリは、店の中に通された。
花屋の老婆に招き入れられたケイは、花屋の老婆にディモルフォセカの家族が本当にヘルシャフトに殺されたというのが本当なのかを尋ねた。
「あの、ディルカ殿の家族は、ヘルシャフトに殺されたとは本当ですか?」
「あぁ、あの子は元々この街の近くの家に家族四人で暮らしておってな、いつもあの家を訪ねると笑顔で出迎えてくれてのぉ。
笑顔が絶えない、幸せな家族じゃったわ」
「そうだったでごじゃるか」
「そうじゃ。そうでなければ訪ねる度に、笑顔で出迎えてはくれんよ。
今でもあの笑顔は忘れられんよ、私自身幸せな気持ちになれた。じゃが」
「「?」」
ディモルフォセカの家族の事を幸せそうに話していた老婆だったが、その途中から険しい表情をしていた。
ケイとヒバリは花屋の老婆が険しい表情をした理由がわからず、不思議そうに見ていた。
花屋の老婆は険しい表情で話を続けた。
「あの子の家族は母親以外全員が不思議な力を持っておった。
それを知るのは私とあの子の母だけで、他の者達は知らんのじゃ」
それから老婆が話したのは、ディモルフォセカのつらい過去だった。
ディモルフォセカは幼い頃から炎を操る力を使えたらしく、父と母、弟と四人で暮らしていた。
老婆の話に出て来るディモルフォセカの不思議な力というのは、ケイと同じスピリットシャーマンとしての力だと二人は悟った。
「人間というのは、他者との違いに敏感だからねぇ、それもあってあの子の家族は距離を置いて暮らしていたんじゃろう」
「婆ちゃんは、その辺りは気にしない人なんだな」
「そうさね、私は気には留めなかったさ。
じゃが、その違いが原因であんな悲劇が起こっちまったんだろうねぇ」
老婆がディモルフォセカの話をしている最中に時折笑顔が綻び、老婆の話に出て来るディモルフォセカは家族と幸せに暮らしていたのだろう。
ところがある日、ディモルフォセカの家族はヘルシャフトに襲われたのだ。
両親が庇ってくれた事と、気を失っている所を遊びに来た花屋の老婆に助けられたおかげで、ディモルフォセカはたった一人助かったのだそうだ。
当時のレイトゥーンの住人達は、ディモルフォセカの家族に起こった事を自己と判断し、誰も殺されたとは思う事はなかったそうだ。
当時のディモルフォセカは、自分の家族は事故で死んだのではなく、殺されたのだと訴えたが誰も信じてはくれず、それからディモルフォセカは時間が許す限りヘルシャフトを倒そうと修行をしているのだそうだ。
「今晩、あの子はヘルシャフト狩りを始める」
ディモルフォセカの過去について話し終えた花屋の老婆は、不意にディモルフォセカが今日の夜にヘルシャフトを襲撃するとケイとヒバリに告げた。
花屋の老婆からその事を告げられたケイとヒバリは、何故その事を知っているのかを訊ねた。
「どうして知ってるんですか、ディルカがヘルシャフトを襲う日を⁉」
「昔、ディルカの父親から聞いた事がある。
不思議な事に、ヘルシャフトは満月と半月、三日月の夜は夜目が効かなくなるのだそうな。
その事もあってヘルシャフトはそれらの月が出る日を苦手としている、ディルカはその日を狙って行動しておるんじゃろう」
「それで毎晩現れないのでごじゃったか。それならばこの三日間、ディルカ殿に会えなかった事にも納得じゃな」
「そうと決まれば夜空橋に向かおう。ディルカはきっと、夜空橋にいるし、何より俺と同じスピリットシャーマンに違いない」
老婆の話を聞いたケイとヒバリは、もう一度ディモルフォセカに会うために再び夜空橋に向かおうとすると、スピリットシャーマンという言葉に反応した老婆が、スピリットシャーマンというのが何なのかをケイとヒバリに尋ねた。
「なんだいそれは?」
「ヘルシャフトに対抗できる一族の名前さ!」
ケイはそこまで言うと、ヒバリと共に花屋を飛び出した。
花屋の老婆の話を聞いている内に辺りはすっかり暗くなり、ディモルフォセカが動き出していても可笑しくない時間帯になっていた。
レイトゥーンの町並みを照らしているのは、花屋の老婆が言っていたヘルシャフトが苦手とする半月。
ケイとヒバリは急いで夜空橋へと向かった。
*****
その夜、夜空橋で薄紫を基調とした踊り子風の民族衣装を身に纏ったディモルフォセカが、ヘルシャフトを襲撃していた。
ディモルフォセカの周りには既に数十個の宝石が落ちており、襲撃してきたディモルフォセカを相手に応戦していたヘルシャフトの人数は援軍を含めて十五人、明らかに人数差でディモルフォセカの方が不利だった。
だが、ディモルフォセカは人数差などハンデにもならないというようにトーチから出る炎を振るい、ヘルシャフトを圧倒していた。
「このっ!」
「こちらの方が圧倒的有利な筈なのに、何故っ⁉」
「そんな事、お前達が知る必要はない。チェック・ダ・ロック!」
自分達を圧倒するディモルフォセカに動揺するヘルシャフト達は、全く攻撃が当たらない事に対して焦り、ディモルフォセカはヘルシャフト達が動揺して隙を見せたのを見逃さず、容赦なく封印の法術を唱えた。
冷静に対処していたヘルシャフト達は咄嗟にかわす事ができたが、動揺していた者達はディモルフォセカが振るうトーチの炎から逃れる事はできず、全員封印された。
残るヘルシャフトの人数は六人となっていたが、ディモルフォセカは油断する事なくヘルシャフトに襲い掛かり、残ったヘルシャフト達も封印されまいと応戦する。
ディモルフォセカは夜空橋の地形を利用し、トーチを振るい、法術を使い、まるで踊るようにヘルシャフトと対等に戦い、一人、また一人とヘルシャフトを封印していく。
そして最後の一人を封印し終えた時、近くから自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
「「ディルカ/殿!」」
花屋の老婆から話を聞いたケイとヒバリは、無事にディモルフォセカに会う事が出来た。
ディモルフォセカの周りにある宝石を見てぎりぎり間に合ったのだと安堵していたが、問題はここからだった。
夜空橋に来たケイとヒバリに対し、ディモルフォセカは明らかに敵意を向けていた。
「またアンタ達なの? 本当にもの好きね」
「ディルカ殿。ディルカ殿がヘルシャルフとを襲う理由はすでに把握したでごじゃる!」
「把握した? それってどういう意味よ」
「お前の事を知ってる人にあって、何があったのか聞いて来たんだ!」
ケイとヒバリはディモルフォセカを知る人物に会い、ディモルフォセカに何があったのかを聞いて来たと伝えた。
それを聞いたディモルフォセカは目を見開き、驚いたように見えたが、次の瞬間にはトーチの炎をケイとヒバリに向かって振るった。
ケイとヒバリは咄嗟に躱してトーチの炎から逃れたが、ヒバリはいきなりディモルフォセカが攻撃して来た事に困惑し、ケイは鞄と背中の間に隠していた斧を取り出してディモルフォセカの攻撃に備えた。
ディモルフォセカはケイとヒバリに鬼女の正体が自分である事がバレただけではなく、自分の過去まで知られた事に対し怒りを露にしていた。
「いい加減にしなさいよ! 勝手に首を突っ込んできただけじゃなく、私の過去まで調べて何がしたいのよ⁉」
「おっ落ち着くでごじゃるディルカ殿! セッシャ達はただ…」
「五月蝿い、黙れ! スマッシュ・スマッシュ!」
怒りで興奮しているディモルフォセカをお落ち着かせ、話をしようとしたヒバリだったが、ディモルフォセカは完全に頭に血が上りヒバリの言葉に耳を傾けず、スマッシュ・スマッシュを唱えヒバリに攻撃した。
自分に向かってくる炎の衝撃波を見たヒバリは、川沿いに設置されている手すりを踏み台にして高く飛び、攻撃を躱したまでは良かったが、ディモルフォセカは容赦なくケイとヒバリに攻撃を繰り出してきたため、防戦一方になっていた。
「アンタ達に私の気持ちなんてわからない! なのに知ったような口を言うな!」
「そりゃあ俺達はディルカの気持ちなんて理解してやれねぇよ!
だってこの間会ったばっかりで、お互いの事ぜんぜん知らないんだから!」
「何さらっと開き直ってごじゃるかケイ⁉」
「無理に取り繕うよりも潔く話した方が良いだろ!」
あまりのケイの対応に思わず反応したヒバリだったが、取り繕うよりも正直に話した方が良いと攻撃をかわしながら言ったケイはディモルフォセカの方へと向かって少しずつ進んでいた。
そんなケイが気に食わないのか、ディモルフォセカは攻撃対象をケイだけに絞り、集中攻撃を繰り出した。
「しつこいにも、程があるわよ! スイング・スイング!」
「しつこいくらいじゃなきゃ話は聞いてくれないだろ!」
そう言いながら、ケイはスイング・スイングで攻撃力が増したトーチの炎を斧で受け流した。
スイング・スイングを受け流したケイを見たディモルフォセカは、自分の攻撃が受け流された事に驚きながらも攻撃する手を緩めなかった。
ディモルフォセカの攻撃対象から外れたヒバリは、近くの建物の屋根に避難してケイとディモルフォセカの攻防を見守る事しかできず、ケイの援護に回ろうにも状況が悪化する危険があったため下手に動けないでいた。
「ディルカ殿は完全に冷静さを失っている。炎も段々と勢いづいて来ていて危険、どう対処するつもりでごじゃるか、ケイ」
「いい加減に諦めなさいよ! フレイム・フレイム!」
頭に血が上っているディモルフォセカは、炎の鞭を大きく振るいながらフレイム・フレイムという法術を唱えた。
するとトーチの炎が触れた場所から火の手が上がり、みるみる内に夜空橋の周辺は炎で包まれていく。
その光景を見たヒバリは、このままではレイトゥーンの住人から被害者が出ると危惧し、すぐさま夜空橋周辺に住む住人達の避難に当たった。
(この炎、さっきよりも熱い。ディルカの奴、周りへの被害考えずに俺を倒そうとしてるな)
夜空橋周辺を包む炎を見たケイは、ディモルフォセカが完全に我を忘れ、周りへの被害を考えず自分に攻撃している事に気付いた。
一刻も早く何とかしなければならなかったが、ヒバリが住人達の避難に当たってくれている事もあり、ケイは焦る事なく、目の前にいるディモルフォセカを見据えていた。
そして周りへの被害を考えていないディモルフォセカの行動に、ケイはある事を確信した。
(最初は人間側から被害が出ないように牽制して追っ払ってたと思ったけど、ディルカがレイトゥーンの住人まで巻き込んだのは…)
「なんでよ、なんで諦めないのよ⁉」
全く諦める気配のないソラに対し、苛立ちながらも取り乱すディモルフォセカはトーチを振るい周囲の炎の火力を上げ、諦めさせようとした。
だがケイは周りの炎に襲われながらも、怯む事なくディモルフォセカの元へと進み続ける。
そしてケイは、進みながらディモルフォセカに対し、鬼女としてヘルシャフトと戦っている間のレイトゥーンの住人への攻撃や今の状況について指摘した。
「ディルカ! お前、ヘルシャフトだけじゃなくてレイトゥーンの人達の事も恨んでるだろう⁉」
「っ⁉ 黙れぇ!」
ケイにヘルシャフトだけではなく、同じレイトゥーンの住人達の事も恨んでいると指摘されたディモルフォセカはトーチをケイに目掛けて振るった。
だが、レイトゥーンの住人達を恨んでいると指摘された事で動揺していたのか、ディモルフォセカの攻撃はケイに直撃する事はなく、ディモルフォセカが動揺している事に気付いたケイは、やはりそうかと思った。
レイトゥーンの住人達に被害が出ないようにするだけなら、ヘルシャフトのみがいる時を狙えば良いにも関わらず、ディモルフォセカは夜空橋にこだわり尚且つ大怪我をする危険がある炎で追い払い、レイトゥーンの住人達を困らせていた。
あえてレイトゥーンの住人達を巻き込むような事をしたのは、レイトゥーンの住人達を恨んでいるからだとケイは考えていたのだ。
「ディルカがレイトゥーンの人達を巻き込んでまでヘルシャフトと戦っていたのは、誰も家族を殺された事を信じてくれなかったから!
どんなに訴えても、誰も耳を傾けてくれなかったからだろう⁉」
「五月蝿い! アンタに私の何がわかるっていうのよ!」
「さっきも言った通りなんもわからねぇよ! でもお前のやってる事はただの八つ当たりじゃねぇか!」
「そんなの、私の言葉を無視したこの街の連中が悪いのよ! スマッシュ・スマッシュ!」
ケイに自分のしてきた事の理由を指摘され続けるディモルフォセカは、ケイに目掛けてスマッシュ・スマッシュを唱えた。
自分に向かって迫りくる炎の衝撃波に、ケイは立ち止まり、斧の先端を炎の衝撃波に向ける。
「ヘルシャフトと戦うのは勝手だし、何度も言うけどお前の気持ちだってわからない。
けど、お前の戦い方は間違いだらけだって事はわかってる、だったら俺も勝手にお前を止める!
キャノンズ・キャノンズ!」
ケイは炎の衝撃波に向かってただ二つ使える法術の内の一つ、キャノンズ・キャノンズを唱えた。
ケイが唱えたキャノンズ・キャノンズは、斧の先端から勢いよく放水砲が放たれ、ケイに迫る炎の衝撃波をかき消し、その先にいるディモルフォセカに直撃した。
放水砲が直撃したディモルフォセカは、キャノンズ・キャノンズの威力で空中に投げ出され、そのまま川に落ちた。
ケイはキャノンズ・キャノンズを発動させたまま、夜空橋周囲に燃え広がるディモルフォセカの炎を消火し、これ以上燃え広がらないようにした。
夜空橋周辺に住むレイトゥーンの住人達の避難誘導をしていたツバメは、炎が消えていく様子を見て、ケイがディモルフォセカを止める事に成功したのだと確信した。
「炎が消えていく。という事は、ソラがディルカ殿を止めたのでごじゃるな!」
「もう炎は燃え広がってないな。あとは…」
炎を完全に消火した事を確認したソラは、ディモルフォセカが落ちた川の方を見た。
一方、ケイのキャノンズ・キャノンズで吹っ飛ばされ、川に落下したディモルフォセカは、幸い川の深さが深すぎず浅過ぎなかったため、溺れる事も怪我をする事もなく川の中で膝を付いて咳き込んでいた。
そこへ炎を消火し終えたケイが川へ飛び込み、ディモルフォセカに近付いて来た。
「どうだ。頭、ちょっとは冷やせたか?」
「なんで私の炎を消せたの⁉ アンタ、一体何者なの⁉」
「ディルカ、お前はファイアーファントムなんだろ? 俺はアクアシーフの生まれ変わりなんだ」
「えっ?」
自分がアクアシーフの生まれ変わりだといったケイの言葉に驚いたディモルフォセカは、先程までとは違い落ち着いているようだった。
ケイはファイアーファントムとアクアシーフの生まれ変わりという言葉に反応したディモルフォセカの様子から、ディモルフォセカは自分がスピリットシャーマンであると自覚している事に気付いていた。
ディモルフォセカは、自分と同じスピリットシャーマンに会えるとは思っていなかったらしく、そのまま固まっていた。
「俺さ、ついこの間まで山中の村で家族や従姉、幼馴染と暮らしてたんだ。
その従姉も小さい頃に親を亡くしてさ、その現実を受け入れられなくて周りの人達に冷たくしてたんだよ。
それでも、その従姉は立ち直れたんだ。
いい加減立ち直れとは言わないけどさ、小さな子供みたいな事、する必要はないだろ?
花屋の婆ちゃん、お前の事心配してたぜ?」
ケイにそう言われたディモルフォセカは、ケイが何を言いたいのかがなんとなくわかっていた。
今までの自分の行動は、小さな子供のようなわがままな部分を含めた自分勝手な復讐だったと、ケイにその部分を指摘されているような気がした。
「……ディモルフォセカ」
「えっ…?」
「ディモルフォセカの花言葉、知ってる? 花言葉は、『明るい希望』。
私の両親は、私に明るい希望に溢れた未来を歩んでほしいって思ってたのでしょうね。
でも、家族を失ってから、私には明るい希望なんて見えないのよ」
ディモルフォセカは、自分の名前の由来が花言葉からきている事、家族を失ってから希望が見えないという事をソラに告げた。
「私はヘルシャフトを倒したい、私の言葉を信じてくれなかった、この町の人間が許せない!
でも、子供じみた復讐はもうやめる。アンタ達と行くわ」
「ディルカ…ありがとう」
レイトゥーンの住人を巻き込んだ攻防戦の末、無事和解したケイとディモルフォセカ。
そこへ夜空橋周辺に住むレイトゥーンの住民達の避難誘導を行っていたヒバリが、ヘルシャフトがこちらに向かってきている事を伝えに来たため、お互いにヘルシャフトと戦うだけの体力が残っていなかった事もあり急いで夜空橋から離れた。
翌日、ケイとヒバリはディモルフォセカと共に、夜が明ける前にレイトューンを旅立つ事になった。
「本当に行くのかい?」
「うん、昨日の夜、派手に暴れすぎちゃったから、多分目撃者もいるでしょうし…。
ごめんなさい」
「そうかい、寂しくなるねぇ。でも、アンタが決めた事なら、私は止めないよ。
その代わり、無事に帰ってきておくれ」
「おばあちゃん……。行ってきます」
花屋の老婆に別れを告げ、三人はレイトゥーンから旅立った。
ディモルフォセカが封印したヘルシャフトは花屋の老婆に預けてきたが、その数は間違いないなく百個を超えていてケイは興奮していたが、ヒバリは驚いた。
ディモルフォセカが鞭として使っていたトーチは父が守っていたファイアーファントムの宝と言える『炎の礎』が形を変えたものらしい。
レイトゥーンから旅立つ際、ケイは何故夜空橋にこだわり続けていたのかをディモルフォセカに問うと、ディモルフォセカにとって夜空橋は家族との大切な思い出の橋で、その橋をヘルシャフトが我が物顔で踏み入るのが許せなかったのだそうだ。
その日から夜空橋に鬼女が現れる事はなかった。