第80話 ありきたりな展開【ディオルフォセカside】
ブックマークありがとうございます。
出発早々、グリーンロックリザードとフルーツビーの群れに襲撃されながらも、無事に逃げ切る事ができたバーナードキャラバン。
後衛と左側の中衛に配置された冒険者達の活躍により事なきを得た。
現在ディモルフォセカとカトレアが所属している冒険者パーティ姫紫君子蘭の壁は、その名の通り防御に特化した冒険者パーティ。
そのためギョルシル村から出発して以降、キャラバンの先頭になって進んでいた。
「今のところ、後衛と左中央での戦闘以降襲撃はなさそうね」
「そうさね。でも油断は禁物だよ、敵は魔物やヘルシャフトだけじゃないさね」
「それ以外の敵って?」
「私らと同じ人だよ」
火紫君子蘭の壁のメンバー、猿族の女性ベレッカからから道中は魔物ヘルシャフトだけではなく、同じ人も敵であると告げられたディモルフォセカとカトレアは、言葉の意味がわかった。
ベレッカが言う人としての敵というのは、盗賊の事を指しているのだ。
これまでの旅で盗賊に遭遇した事は一度もなかったが、様々な商品を取り扱うバーナードキャラバンは格好の的だ。
そういった意味では、同じ人も警戒対象に値するという事なのだろう。
「盗賊に関しては、私達よりもスズの方が気付きやすそうね」
「どうかしら? スズってそれ程探知能力は強くないみたいだから、案外気付かないかも?」
ウィアグラウツの探知能力がどれだけのものなのかわからないが、これまでカトレアが観察した感じだと、スズは通常のヘルシャフトやウィアグラウツより探知能力が弱いようなのだ。
「一先ず私らは私らで警戒するよ。
誰しも初っ端から相手が盗賊かなんて見破れないさね」
「結局自分の身を守れるのは自分だけって事ね」
「ラヴァーズは大丈夫かしら?
鬼神の慈愛に預けてるとはいえ、心細くないかしら?」
カトレアが中衛に配置された冒険者パーティ、鬼神の慈愛に預けたラヴァーズの事を心配していると、突然歩みが止まった。
何かあったのかと思ったディモルフォセカは、念の為腰に下げていたトーチを手に取った。
そして前方に立つ冒険者の隙間から様子を確認すると、自分達の前を遠切ろうとしている別の行商人の団体が道を塞いでいた。
荷馬車に何かしらトラブルが合ったのか、進めないでいるようだ。
「ねぇ、なんか可笑しくない?」
「どうしたのカトレア、何か心配事でもある?」
様子を伺っていたカトレアは、何か違和感を感じたらしく指摘した。
状況を確認したディモルフォセカは、念の為何か心配なのかをカトレアに訪ね返した。
「ギョルシル村を出る前に図を確認した時、この辺は確か一本道だった筈なのよ。
行商団体って基本的に街道沿いを進むものよね?」
「言われてみれば、確かにそうね。
なんで整備されてる街道を横切ろうとしているのかしら?」
カトレアから基本的な行商団体の移動方法を聞かされたディモルフォセカは、何故横切ろうとしているかわからず警戒し始めた。
「いやぁもし分けないですね。
荷馬車の車輪が調子悪いみたいでして、少々待っていただけるとありがたいんですが……」
「それは災難でしたね、でしたら荷馬車の修理を手伝いましょうか?」
「いえいえ滅相もない! それでしたら何か買われませんか?
大したものはありませんがお目にかかれるものがあるかもしれませんよ?」
立ち往生している行商人団体の商人と対話している姫紫君子蘭の壁のリーダーが荷馬車の修理を申し出たにも関わらず、何故か相手は何か買わないかと提案してきた。
この対応にはディモルフォセカも違和感を覚えずにはいられなかった。
「流石にこれは変よ。ここはお言葉に甘えて荷馬車の修理をするべき展開なのに」
「ベレッカさん、アノンさんに声掛けたほうが良いわよ」
「慌てるんじゃないよアンタ達、リーダーの手腕を見守ってな」
商人の対応に違和感を感じたディモルフォセカは、トーチを握る手に力を込める。
カトレアも前方に視線を向けながら、ベレッカに姫紫君子蘭の壁のリーダー、アノンに警告するべきだと進言した。
それに対しベレッカは落ち着いた様子でアノンの様子を見守っていた。
そして一刻みも経たない内に、自体が一変した。
「それなら今ここで荷馬車の中身を見せてくれよ?
ここで商売したいっていうんだ、中々の品物が積んであるんだろう?」
「いやぁ、こちらも商売上商品を見せびらかすわけにはいかないんですよぅ」
「おいおい、それじゃあさっき言った事と矛盾してるじゃないか。
それじゃあまるで、荷馬車の中を見られたら都合が悪い用に聞こえるぜ?
例えばそうだな、こちらの積荷を狙った小悪党とか、なぁ?」
アノンがそう指摘した瞬間、会話をしていた商人の表情が歪んだ。
そしてアノンが話をしていた商人は唐突に腰に刺してあったらしい曲刀を抜刀しアノンに斬りかかったが、斬りかかられたアノン本人は余裕そうに躱すと、斧槍を構えた。
「バレちゃあ仕方がねぇ、野郎ども! かかれぇーっ!」
行商人団体の正体は盗賊だったらしく、リーダーと思われる男の掛け声と同時に荷馬車の中から仲間と思わしき盗賊達が飛び出してきた。
見た感じだと人数は三十人前後、その人数を見たディモルフォセカとカトレアは目を見開いた。
「一つの荷馬車にあれだけ隠れてたの⁉」
「他の場戦利品を放り込むように取ってあるんだろうさ。
アレだけの人数ならそう多くはないから、問題ないさね」
「アレだけいるのに多くないんか⁉」
眼の前に立ちはだかった盗賊の人数を見てさほど多くないと言ったベレッカの言葉に驚いたカトレアは、思わず言葉を鈍らせた。
そこに騒ぎを聞きつけたスズが様子を確認しに来た。
「おい、そっちで何があったんだ? ちょっと騒がしいぞ!」
「ちょっとじゃないわ、商人のフリをした盗賊団が襲ってきたのよ!」
「え、マジで⁉ 魔物じゃないのか⁈」
盗賊が攻めてきたと聞いたスズは、また魔物が襲ってきたと思いこんでいたらしい。
相手が盗賊だと知ってかなり驚いていた。
「盗賊はアタシらが相手するから、早く持ち場に戻りな、坊や」
「え、いや、でも……」
「驚いとる暇があったらさっさと知らせに行きんさい!」
「はっはいーっ!」
言葉を鈍らせた状態のカトレアに怒鳴られたスズは、たまらずその場を後にした。
そしてディモルフォセカはトーチに霊力を流し込み、いつもの形状で炎を灯す。
そしてカトレアとともに盗賊を討伐しようとするが、既に戦闘が始まっており、盗賊側の方が被害が出ていた。
「アタシ達がスズと話してる数刻みの間に戦闘が始まってたみたいね」
「一応臨戦態勢は解かないでおきな、いかなる時も油断しちゃあいけないよ」
(そうは言っても、私達までいるかしら?)
ベレッカから臨戦態勢は解かないように言われたディモルフォセカだったが、自分達の手助けがいるようには見えなかった。
数刻みの内に始まった冒険者と盗賊の戦闘は、一見冒険者側が有利のように見える。
そのため何をどう警戒しておくべきなのかで少々困っていた。
すると持ち場に戻った筈のスズが、再びディモルフォセカ達のもとに戻ってきた。
「大変だ! 中央右から他の盗賊が攻めてきた!」
「嘘でしょう⁉ 眼の前にいる連中だけじゃなかったの⁉」
中央右側からも盗賊が攻めて来たと聞かされたディモルフォセカは、目の前にいる人数だけではなかったと知り困惑した。
「他の所で待ち伏せしてたっぽい! フィービィーとニヤトが気付いてくれたお陰で奇襲は防げたけど、あっちの方が人数が多いんだ!」
「そがいな事は直接言いに来るんじゃのうて全員に行き渡るように話しんさい!
魔法使いがおるなら情報をたえられる魔法が使える筈じゃろう!」
「ヒィーッ! 何言ってるかわかんないけど、魔法使い探してくるーっ!」
「魔法使いに情報を届けられる人がいるかも知れないって!
もし見つけたら情報を全体に届けてもらって! 後持ち場に戻った方が良いわよーっ!」
「わかったーっ! 次から気をつけるーっ!」
言葉が訛っているカトレアにまたしても怒鳴られたスズは、顔面蒼白になりながら情報伝達ができる魔法使いを探しに持ち場に戻っていった。
「大丈夫かしら、スズ?」
「大丈夫、いざって時にはやってくれる筈よ。
それよりアタシ達も戦闘に参加しましょう、もしかしたら盗賊の方にもスキル持ちがいるかも」
「嬢ちゃん達、大丈夫さね?
準備が良いならアタシの後についてくるんだよ!」
「「はいっ!」」
ベレッカに声を掛けられた二人は、そのままベレッカの後ろについて盗賊との戦いに参加した。
既に倒れている盗賊の姿も何人かおり、余裕のある冒険者は倒れている盗賊を拘束している姿もあった。
「凄く手慣れてる、流石はベテランね」
「ディモルフォセカ、感心してる暇はないわ、よっ!」
ディモルフォセカが手慣れた手付きで盗賊を拘束している冒険者に感心しているのに対し、カトレアは近くに落ちていた木の枝を近くで冒険者と戦っている盗賊目掛けて蹴り飛ばした。
枝は盗賊の頭に直撃し、盗賊は思わず頭を抑えながら動きを止めてしまい、その隙に冒険者の追撃にあって戦闘不能になった。
「ありがとう、ナイスアシスト!」
「どういたしまして! とりあえず、無闇やたらに突っ込むよりも可能な範囲でフォローしたほうが効率良さそうね」
「そうね、中途半端に参加しても邪魔になるだけだし……」
「一先ず下っ端連中を優先的に倒すよ! 敵の頭はベテラン連中に任せるさね!」
自分の方に襲いかかってきた盗賊をぶっ飛ばしながら、下っ端の盗賊に標的を絞らせた。
盗賊全てを相手にするよりも、戦う相手を絞れば無駄に体力を消費させる事はないと考えたのだろう。
ディモルフォセカの炎は盗賊の弓に燃え移ったが、何故か弓は燃えず、やがて炎は消えて無傷な盗賊と弓だけが残った。
それを見たディモルフォセカはとても驚いていた。
「弓が、燃えない⁉ どうして? 確かに炎は弓に燃え移ったのにっ!」
「ディモルフォセカ危ない!」
盗賊の弓が燃えなかった事に動揺していると、カトレアがディモルフォセカの背後目掛けて飛び蹴りをかました。
ディモルフォセカの背後には手斧を持った下っ端の盗賊が迫っており、その事に気付いたカトレアが助けに入ったのだ。
「ダメじゃないディモルフォセカ、今は盗賊相手にボサッとしたら駄目なのよ!」
「ごめんカトレア、盗賊の弓が燃えなかったからつい動揺しちゃったの!」
「弓が燃えない? それって付与が施された弓だわ!」
「エン……なんて⁉」
ディモルフォセカが付与という聞き慣れない言葉に戸惑っていると、カトレアが付与について説明し始めた。
「だから付与よ! 一定の対象に耐性や効果を付けられるスキルがあるの!
ディモルフォセカが燃やせなかって事は、その弓には炎耐性の付与が施されてるの!」
「つまりあの弓は、私じゃ壊せないって事⁉」
盗賊が持っていた弓に炎耐性の付与が施されている可能性があるとカトレアから聞かされたディモルフォセカは、自分ではその弓を壊せない事に困惑していた。
これまで戦ってきたヘルシャフトが使用している武器などは簡単に壊す事ができたため、いつものように法術で壊す事ができると考えていたのだ。
しかし、裏を返せばディモルフォセカはヘルシャフトとしか戦ってこなかったという事でもある。
その弊害が盗賊相手に顕になってしまったのだ。
「落ち着くんだよ! 燃やせないのなら物理的に壊しゃいいんだ!」
「えっ⁉ でも付与が施されてるから壊せないんじゃ……」
「それは炎に対しての時だけさね!
付与と言っても内容や付与の組み合わせによって違ってくるんだ、物理耐性まで付いてなけりゃあ物理や相性の悪い属性、炎以外の攻撃で十分壊せるもんだよ!」
「付与武器なんて普通に高価なものよ、複数の付与が施された武器なんて早々流通してない。
あの弓は炎以外の攻撃なら十分壊せる!
ディモルフォセカ、あの弓を取り上げて地面に叩きつけるのよ!」
ベレッカから付与武器に対する対抗手段を聞いたカトレアは、複数の付与が施された武器はそう出回る事はないという考えに至り、炎以外の攻撃で壊せると判断した。
そう判断したカトレアは、弓を取り上げ地面に叩きつけるディモルフォセカに指示を出した。
カトレアから指示を出されたディモルフォセカは、トーチの炎を盗賊が持つ弓に絡みつかせると、勢いよくトーチを引っ張った。
突然トーチの炎が絡みついた事に驚いた下っ端の盗賊は、引っ張られた反動で弓を手放してしまう。
弓を取り上げる事に成功したディモルフォセカは、そのままの勢いで弓を地面に叩きつけた。
カトレアの考えは当たっており、地面に叩きつけられた途端、弓は粉々に壊れてしまった。
「やった、壊れた!」
「油断しないでディモルフォセカ、盗賊達はまだ付与武器を隠し持ってるかもしれないわ!」
カトレアがそう警告した直後、ディモルフォセカの背後から糸状に伸びた水が飛び出してきた。
炎耐性が付与された弓を破壊できた事で浮かれていたディモルフォセカは、すぐには反応できず水上の糸に縛られてしまった。
「キャアッ! 何これ⁉」
「言った傍から⁉ それは水系統のスキルが付与された付与武器よ!」
「どうしよう、水属性の付与武器じゃ私と相性が悪すぎるわ!」
水属性のスキルの付与武器の使い手によって動きを封じられてしまったディモルフォセカ。
自分の炎属性とは相性が悪いため、すぐに状況を打破する事ができなかった。
水上の糸に縛られたディモルフォセカを見たカトレアは、水上の糸が伸びている先を確認して使い手を探そうと試みるが、水上の糸は地面から出現しており、地面の中を経由しているためすぐに見つける事ができないでいた。
「地面を経由してるせいで使い手を見つけられない。
ディモルフォセカ、ダメ元で法術を使ってみて!」
「上手く発動できるかわからないけど、わかったわ! フレア・フレア!」
ダメ元でフレア・フレアを発動させるディモルフォセカだったが、やはり属性同士の相性が悪い事もあるようで自身に巻き付く水の糸は消せなかった。
どころか、フレア・フレアの威力も落ちているように感じた。
「やっぱりダメ、この水を消すどころか法術の威力が落ちてる!」
「あぁもう! 水スキルの付与武器の持ち主は何処におるんよ⁉」
「アンタ達何焦ってるんだい?
こういう時こそ落ち着いて周りの様子を見るんだよ!」
ディモルフォセカとカトレアが水スキルの付与武器お使い手が見つからない事に対し焦っていると、動けないでいるディモルフォセカに近付いて来た盗賊をふっとばしながらベレッカがアドバイスを送った。
こういう時こそ落ち着けと言われても、動けないためできる事が限られているディモルフォセカからするば落ち着く事ができなかった。
一方で、カトレアは焦りながらも周りを確認したところ、ある事に気付いた。
「あれ、もしかして……? ディモルフォセカ、自分以外にもディモルフォセカと同じ状況になってる人はいる⁈」
「私と同じ状況の人? 言われてみれば、私と同じように拘束されてる人が見当たらないわ」
「多分だけど、ディモルフォセカを拘束してる付与武器は対象一人しか拘束できないかもしれないの!
しかも地面から出て来てるって事は、使い手自身も動けない状況にあるかも!
距離もそんなに開けられないなら、近くにいる筈よ!」
「それじゃあ一度も動いていない盗賊が私を拘束している犯人?
私の近くにいて一度も動いていない盗賊……」
「お探しの相手ならあそこにいるさね」
カトレアの推理を頼りに、自分の近くに一度も動いていない盗賊はいないか辺りを見渡していると、ベレッカが目線でとある方向を示した。
その方向を確認すると、二人の盗賊が冒険者と交戦しているのに対し、手助けをしている様子のない水色の宝玉が付いた杖を持つ盗賊がいた。
その杖をよく見てみると、杖の先端についている宝石から水が出ており、その水の先が地面に潜っている。
それを見たディモルフォセカは、その杖を持った盗賊が自分を拘束している犯人だというのを理解した。
「カトレア、見つけたわ! 大きな岩の所、観測する三つ目が交戦してる!」
「あんなすぐ近くにいた! もうちょっとだけ待ってて、付与武器を壊すか取り上げるかしてくる!」
「気を付けて!」
ディモルフォセカを拘束している盗賊を見つけたカトレアは、すぐさま付与武器を持っている盗賊の方に走っていった。
その間、ディモルフォセカはなんとか拘束を解けないか試みた。
「ホーティット・ホーティット! あ〜ダメ、ただ暖かくなっただけだわ。
こうなったら安直に、リベレー・リベレー!
やっぱりダメ、拘束されてるだけだから解けない!」
思いつく限りの方法で水上の糸による拘束を解こうとするが、やはり上手く行かない。
その間にも大分制圧されたとはいえ、盗賊の一部が拘束によって動けないディモルフォセカに近付いて来た。
「おい、あそこで動けない女がいるぜ?」
「おぉ、全体的に細いが中々上玉じゃねぇか」
「あぁ、これはかなりまずいかも……」
自分の方に近付いてくる盗賊達を見たディモルフォセカは、このままではマズイと思いながらも拘束が解けない以上動く事はできない。
どうすれば良いのだろうと考えていると、傍にいたベレッカが盗賊達の前に立ち塞がった。
「アンタ達、そんな汚い手で若い娘に近付くんじゃないよ」
「なんだこのオバはんは? アンタ見てぇな年増は及びじゃねぇえよ」
「そうそう、俺達はそっちの別嬪さんに用があるんだよ」
「セリフがテンプレすぎるの言ってる相手が相手だから余計に気持ちが悪いさね」
「ベレッカさん、今のは相手を余計に刺激してますよ⁉」
ディモルフォセカに近付こうとする盗賊達の台詞に、わざと吐き気を催しそうな表情で挑発したベレッカ。
ベレッカの意図が分からずディモルフォセカは困惑していると、盗賊達はベッレカの挑発で機嫌を悪くした。
「あぁ? 何うざったらしい事言ってやがんだ?」
「事実を言ったまでさね。誰がどう考えても、アンタらみたいなのの相手はお断りって事だよ」
「調子に乗りやがってこのクソアマが! 野郎共、やっちまえ!」
ベレッカのさらなる挑発で怒りが頂点に達した盗賊達は、一斉にベレッカの方に飛びかかり始めた。
「ベレッカさん!」
「安心おし、ここからが姫紫君子蘭の壁の見せ所だよ」
襲いかかってくる盗賊を目の当たりにし、不安そうにベレッカを見つめるディモルフォセカ。
それに対しベレッカは落ち着いた様子で声をかけると、籠手を着けた拳を握り身構える。
盗賊とベレッカの距離が縮まっていき、やがて先頭に立っていた盗賊がベレッカに飛びかかった瞬間、ベレッカの右拳が盗賊がの腹部にクリーンヒットした。
そしてそのまま、盗賊は後方の方に吹っ飛んでいく。
「は? ……はぁーっ⁉」
「腹殴られただけて吹っ飛んでいったぞ!」
「気を付けろ! あのオバはん獣人だ!」
「はん、獣人舐めちゃあいけないよ!」
ベレッカが獣人だという事に気付いた盗賊達は、最初こそ躊躇いを見せたが周りがどんどん制圧されていくのを見て焦り、なりふり構っていられなくなっていた。
「おいどうすんだ? 他の連中が次々と捕まってるぞ⁉」
「やむを得ねぇ、あの赤毛の女だけでも捕まえるぞ!
売り飛ばせば今回の損害くらい補える筈だ!」
「えぇいやってやらぁ!」
盗賊達は何がなんでもディモルフォセカを手中に収めるつもりでいるらしく、武器を構えて一斉にベレッカへ飛びかかった。
一方のベレッカは落ち着いた様子で飛びかかって来た盗賊達の対処に当たる。
短剣を持った盗賊の攻撃を交わし、その腕を掴むとそのまま背負い込む形で地面に叩きつけ、手斧を持った盗賊に対しては回し蹴りで蹴り上げた右足の踵を手斧の刃目掛けて蹴り飛ばす。
長槍を持った盗賊に対しては槍の柄を片手で掴んだと思いきや、長槍の持ち主である盗賊ごと持ち上げて手斧を持っていた盗賊目掛けて叩きつけた。
身体能力の差もあるだろうが、三人の盗賊を相手にベレッカの圧勝だった。
「す、凄い。というより、防御重視じゃなくて攻撃重視?」
「攻撃は最大の防御さね。相手の攻撃の勢いを利用して、反動を返したに過ぎないよ。
色んな攻撃方法で使えるから姫紫君子蘭の壁じゃあ当たり前さね」
盗賊達の攻撃を利用し、自分に有利になるように事を運ぶ。
攻撃を最大の防御へと変える、姫紫君子蘭の壁の戦い方を目の当たりにしたディモルフォセカはその発想に感心した。
そんな時、ディモルフォセカを拘束していた紐状の水が消え去った。
拘束が解かれた事に気付いたディモルフォセカは、カトレアがいる方向を確認すると、盗賊から水スキルの付与武器を取り上げたと思われるカトレアの姿があった。
その周囲には倒れている盗賊を拘束する観測する三つ目と姫紫君子蘭の壁のリーダーであるアノンの姿もあり、全員で共闘し盗賊達を拘束したようだ。
「良かった、カトレアも無事に盗賊を制圧できたのね」
「あっちだけじゃないさね、どうやら全体的に終わったみたいだよ」
ベレッカが入った通り、周囲では他の冒険者達が襲い掛かって来た盗賊達を制圧し終わっていた。
それは前衛における戦闘が終了したという証明だ。
それと同時に、全体に一人の男の声が広がる。
《こちら中央右防衛担当、魔導の記録所属のウォーウェン。
三十刻み程前に襲撃してきた盗賊達の制圧に成功した!》
中衛右に配置された冒険者から、中央右の防衛に成功したという報告が上がった。
それは盗賊達の襲撃を完全に防ぎきったという勝利宣言。
前衛と中衛右による盗賊との攻防戦は、完全に終わったのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
もしよろしければコメント、いいねお気軽にいただけたら幸いです。




