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第71話 国境に向かうための準備【ディモルフォセカside】

 ギョルシル村に着いてから四刻目(こくめ)、収穫作業に参加して三刻目の朝を迎えた。

 窓から差し込む朝日を浴び、ディモルフォセカは泊まっている客室で目を覚ました。

 周りで同じ部屋で寝泊まりをしているカトレア達は、既に身支度を始めており、ディモルフォセカが一番最後に目を覚ましたようだ。


「おはようディモルフォセカ。皆もう起きてるわよ」


「おはようカトレア、皆早いわね…」


「そりゃあそうだよ、マリも加わってくれたとはいえヨキの収穫ペース本当に早いもん」


 宿泊している客室の少し開けた場所でストレッチをしているフィービィーは、何処か困った様子でヨキの収穫ペースの早さについて話題に出した。


 二刻間の間で一番収穫ペースが早いのは間違いなくヨキであり、その早さから収穫作業回っていた人手を検品作業と運搬作業に一部移して作業を行ってなお、現場が二刻続けて混乱に陥ったためフィービィーは今日もそのような状態になると思い気が滅入っているようだ。


「他の客室にいる皆ももう起きたのかしら?」


「ぼくたちはおきてすぐにしたくをしはじめたので、まだかくにんしてないです」


 ドレッサーの前に座りながら、カトレアに髪をブラッシングされているラヴァーズが他の客室にいる仲間達の様子を確認していない事を伝えた。

 ラヴァーズからその事を聞いたディモルフォセカはベッドから降りると、枕元に置いていた自身の服に着替え下ろしていた髪をポニーテールに結い始めた。


 するとバタバタと誰かが走る足音が聞こえてきたため、何事かと思ったフィービィーが客室の扉を開けて様子をかくにんすると、客室の前には水の入ったコップを手に持つヒバリと驚いた様子のマリがいたため声を掛けた。


「二人ともどうしたの? なんかあった?」


「あっ、フィービィーおはよう。今ヒバリから聞いたんだけど、ケイが目を覚ましたそうなの!」


「えっ! ケイが起きたの⁉」


「うむ、どうやら喉が渇いて声が出ないらしく、水が欲しいと頼んできたため水を持って戻る途中にヨキ殿とマリ殿の二人に会ったのじゃ。

 今から拙者達もケイの所に戻る故、他の客室にいる仲間達を呼んできてくれぬか?」


「OK任された! アタシ達もすぐに行くね!」


 マリとヒバリの二人が駆け足でケイのいる客室に向かう姿を見送ると、フィービィーは自分が止まっている客室にいるディモルフォセカ達に声を掛けた。


「皆今の聞いた⁉ ケイが起きたって!」


「聞いてたわ。良かった、今日も起きなかったらどうしようかと…」


「そうと決まればさっさと支度してケイの所に行きましょう」


「他の人たちにもケイさんがおきたこと伝えましょう!」


 ケイが目を覚ましたと聞いたディモルフォセカ達は、中断していた身支度を進め始めた。

 先に身支度を終えていたフィービィーはそのまま客室を飛び出し、他の客室にいる仲間達にケイが目を覚ました事を伝えに向かった。


 そして身支度を終えて客室を出ると、他の仲間達も出て来ていたためそのまま全員でケイがいる客室に向かった。

 そしてケイがいる客室に着くと同時に、一斉に中になだれ込んだ。


「ケイ! 目が覚めたのね⁉」


「体はしゃーなーの? アンタ三刻間も眠っとったんよ!」


「良かったですケイさん! お体はだいじょうぶですか?」


「おぉ! 本当に起きてる!」


「その言い方だと物珍しい様子だと勘違いされるぞ、バン」


「おはようございますケイさん、ご気分はいかがですか?」


「ケイ! 無事に目ぇ覚ましたんやな! 良かったで!」


「ケイ、おっはーっ♪」


「やっと起きたのかこのねぼすけめ!」


「やかましい! 朝っぱらから騒ぐなお前ら!」


 ディモルフォセカ達は目を覚ましたケイに声を掛けるが、次々にケイに話しかけるが、矢継ぎ早に話しかけてくるため全員の会話の内容がごちゃ混ぜになり聞き取れない状況になってしまった。

 加えて全員が騒ぎ立てるため、同じ宿に泊まっている冒険者や商人達は何事かとヨキ達が集まっている客室付近に集まりだした。


「なんだなんだ、なんの騒ぎだ?」


「誰だよ朝っぱらからうるさいなぁ…」


「なぁに? 何かあったの?」


「あぁ、スマン! 眠り続けていた仲間がついさっき目を覚まして、オイラの身内が一気に駆け付けちまった結果五月蝿くした!

 すぐ黙らせるから待っててくれ!」


 騒ぎを聞きつけて集まってきた冒険者にキールが事情を説明し、すぐにでも騒ぐディモルフォセカたちを黙らせようとするが、ディモルフォセカ達の事情を知っていた冒険者達は、ケイが目を覚ましたと聞いて大いに喜んでいた。


「おぉ、村に着いてから今日まで目を覚まさなかった仲間が目を覚ましたのか」


「そりゃあめでたい。よっしゃ、今から快気祝いだ!」


「とりあえず医療関係に携わってる人呼んでくるわね」


「やめろーっ! 朝っぱらから騒ぐな! 約一名除いて騒ぎ立てるんじゃない!」


 自分達なりにケイの事を心配していた冒険者達は、ケイが目を覚ましたと聞いて快気祝いに宴の準備をするために動き始めた。


 そうなる前にキールは大慌てで医療関係者を呼びに行った一人を除き、朝から宴の準備をしようとする冒険者を止める羽目になった。

 そして騒ぎが収まり、ようやく落ち着いてケイと話をする事が出来るようになった。


「本当に良かったよケイ、三刻近くも目を覚まさなかったから心配してたんだよ⁉」


「悪い悪い。俺が眠ってる間、大変だったみたいだな」


「大変なんてレベルじゃないわ。

 ヨキの収穫ペースが速すぎて作業が回らなくなったり、ヨキがラッド族の冒険者と戦われたりでパニックだったんだから」


「それにヒバリがつきっきりで看病してくれてたからちゃんとお礼を言うのよ?」


 自分が眠っている間に起きた事を聞いたケイは、笑顔で謝罪するがディモルフォセカはケイが眠っている間に起きたヨキ関連の問題に関して不満げに話した。

 収穫作業の間、ディモルフォセカはヨキと共に行動している事が多かったため、結果的にヨキに振り回される形になったのだ。


 特にエナジーフルーツの収穫作業の時は何度も収穫ペースを落とすように注意しても、しばらくしたらまた収穫速度が上がっていき、現場が回らなくなるためその度にディモルフォセカがヨキに注意をしていたのだ。

 ようやく落ち着いて話を進められると判断したキールから、今日一刻(ひとこく)の説明があった。


「ギョルシル村に着いてから今日で四刻目だ。

 明日にはエナジーフルーツの収穫を護衛以外の冒険者総動員でおこない、明後日の黒巳(こくし)時にはギョルシル村を出る。

 だから全員今日中には国境に向かうまでにそれぞれが必要な物を準備する事。

 全員共通で必要になる物は収穫作業初日の内にスズが確認して準備してくれているから、全員スズに礼を言っておくようにな」


「「「はーい」」」


「ケイは目が覚めたばかり、体が鈍っているでごじゃろうから午前はエナジーフルーツの検品作業に参加してはどうでごじゃろうか?」


「そうね、収穫ペースの早すぎるヨキは午後から参加するみたいだから、リハビリも兼ねてのんびり作業が出来るんじゃないかしら?」


「ん~、そうしてくれるのはありがたいけど、今の俺の状態だと戦力外だぜ⁇」


「今回はあくまでリハビリ目的、本格的に参加するのは明日からでも問題ないわ」


 ヒバリの提案でリハビリを目的に検品作業に参加してはどうかと言われたケイだったが、ずっと寝たきりだった自分が参加しても戦力外になるのではないかと指摘した。


 ヒバリの提案を聞いていたディモルフォセカは、ケイがエナジーフルーツの検品作業ヘの参加に賛成した。

 ケイの検品速度が遅かったとしてもあくまでリハビリが主体であり、何よりヨキのように周りを困惑させる心配はないと思い、何処か安心していた。


 その後、午前の作業に参加するのはケイ、ヒバリ、ディモルフォセカ、カトレア、ラヴァーズ、スズ。

 午後からはヨキ、バン、リース、マリ、レイア、ニヤト、フィービィーの二グループに分かれる事になった。


 そして三刻間ぶりの食事をとったケイを待ち、ディモルフォセカ達はギョルシル村の農園内にあるエナジーフルーツ畑に向かった。

 エナジーフルーツ畑では既に他の冒険者が集まっており、エナジーフルーツの収穫作業が始まっていた。


 初めてエナジーフルーツ畑に訪れたケイは、物珍しそうにエナジーフルーツを見ていた。

 ヒバリもケイの看病に当たっていたこともあり、エナジーフルーツ畑に来るのも収穫作業に参加するのは今回が初めてであるため、ディモルフォセカが二人にエナジーフルーツの簡単な説明をした。


「ここがエナジーフルーツがなっている農園よ。

 それで黄色い桜桃(チェリー)みたいな木の実がエナジーフルーツで、明日まで収穫の手伝いをする予定なのよ」


「へぇ、大人数で収穫する辺りかなりの量だとは思ってたけど、予想以上に生ってるんだな…」


「セッシャも収穫作業に参加するのは今回が初めてでごじゃる。

 お互い初心者同士、気軽に作業に取り組むでごじゃるよ」


 久しぶりの外の光景がエナジーフルーツ畑とそこで作業する冒険者達の姿だったケイにとって、所々に実る大量のエナジーフルーツは本当に珍しかった。

 そしてそのエナジーフルーツを収穫する冒険者達の姿に関しているようにも見えた。


「それじゃあアタシとヒバリが収穫に回るから、ケイがスズと一緒に検品、ラヴァーズはディモルフォセカと一緒に籠の運搬をお願いね」


「わかったわ。ラヴァーズ、行きましょう」


「はい!」


「それじゃあ俺達も検品作業に参加しよう」


「おう、ご指導よろしく頼むぜ?」


 収穫、検品、運搬するグループに分かれ、ディモルフォセカ達はそれぞれの作業現場に向かった。

 ディモルフォセカはラヴァーズを連れて空の籠が置いてある場所まで移動すると、収穫作業をしている冒険者の元まで空の籠を持っていた。


「空の籠をお持ちしました。そちらの籠と交換しますね」


「あぁ、ありがとう」


 ディモルフォセカはエナジーフルーツで満たされた籠を受け取ると、自分が持っていた空の籠を冒険者に渡した。

 ラヴァーズも同様に空の籠を渡してエナジーフルーツで満たされた籠を受け取った。


 バーナードキャラバンのリーダー、ミザールによりラヴァーズ、ラピス、スズの三人がウィアグラウツであるという説明が全員に通達されていたため、ラヴァーズは宙を飛びながら籠の受け渡しを行っていた。


「次のカゴおもちしました!」


「ありがとう! こんな高い所まで来て偉いねぇ!」


 小柄で飛べるという事もあり、ラヴァースはエナジーフルーツの木々の枝を上手く通り抜けて木の上で作業している冒険者の元まで籠を届ける事が可能なため、そちらの方をメインに運んでいた。


 エナジーフルーツの木の上で収穫作業をしている冒険者からすると、一々空の籠を取りに降りる必要が無いためかなりありがたかった。

 特に女性冒険者の間では小さなラヴァーズが一生懸命籠を運搬する姿は癒やしになっていたらしく、自分の元にラヴァーズが籠の受け取りに来た際は笑顔でラヴァーズの頭を撫でていた。


(良かった、特に問題なく作業は回っているみたいね…)


 ディモルフォセカは周りの様子を見ながら問題なく収穫作業が滞りなく進んでいる事に安心していた。

 自分達が作業に参加した途端に作業が回らなくなり始めるため、一時はどうなるかと思っていたがやはりヨキの収穫ペースの速さが原因だったようだ。


「ディルカ殿ー。セッシャの使っている籠が一杯になったゆえ、空の籠こっちに持ってきて欲しいでごじゃる」


「ちょっと待ってて、今そっちに行くから!」


 近くから空の籠を求めるヒバリの声が聞こえてきたため、ディモルフォセカはニヤトの方に向かった。

 ヒバリからエナジーフルーツで満たされた籠を受け取ると、自分が持っていた空の籠をニヤトに渡した。


「はいこれ、新しい籠よ」


「ありがとうでごじゃる、これでまた作業が進められるでごじゃるよ」


「そういえばヒバリは午後はどうするの?」


「うむ、ケイと一緒に露天を見て回り必用な物を探すつもりでごじゃるよ」


 午後からのヒバリの予定を聞いたディモルフォセカは、ケイの事だから薬草を大量に買い込むのだろうと予想が付き、思わず笑ってしまった。

 それから午前の作業は滞りなく終わり、広場で昼食をとる事となった。


「皆お疲れ、そっちは特に問題なさそうだったな」


「えぇ、落ち着いて作業が出来てたわ。やっぱりヨキが原因だったみたいね…」


「あはは。所でスズ、ケイの様子はどうだった?」


「検品作業でちょくちょく動いてたのもあって体感は大分戻ったようには見えたぜ?

 この後はヒバリと一緒にオリソンティエラまで必要になる薬の材料を買い込むって言ってたぜ?」


 スズからケイの様子と午後からの予定を聞いたディモルフォセカは、薬草を買い込む気満々なケイの反応を聞いたディモルフォセカ達はケイらしいと笑っていた。

 その話を聞けたため、ケイ自身は大分回復したという事が分かり安心もしていた。

 昼食を終えたディモルフォセカはカトレア達とは別行動をとり、広場で開かれている露天ではなくギョルシル村の雑貨店に入った。


(私の必要な物はこれだけね、流石にラヴァーズの前でこれは買えないわね…)


 ディモルフォセカが一人で行動した理由は、個人的な理由があったようだ。

 雑貨店で自分に必要な物を購入したディモルフォセカは、そのままギョルシル村の中で散歩を始めた。

 周りの風景を眺めながら散歩をしている内に、エナジーフルーツの収穫作業にも商人の護衛にも付いていない冒険者達が練習試合を行っている場所にたどり着いた。


「ここでも練習試合をしているのね…。私も少し参加させてもらうかしら?」


 冒険者達が練習試合を行っている様子を見たディモルフォセカは、自分も練習試合に参加しようと思い近くにいた冒険者に声を掛けた。


「すみません、私も練習試合に参加させていただいてもよろしいですか?」


「あぁ、参加希望者? それなら丁度一人対戦相手が足りなかったからあそこにいる双剣使いの男の人の相手をしてくれる?」


 ディモルフォセカに声を掛けられた冒険者は、中央に立っている双剣を携えた中年の男性冒険者を指さしながら、ディモルフォセカに告げた。

 自分の対戦相手を教えられたディモルフォセカは、腰に掛けていたトーチ(炎の礎)を手に取ると中央に向かった。


「俺の練習相手は嬢ちゃんか。名前はなんて言うんだ?」


「ディモルフォセカ・ガーネットです。炎の幻術と法術を使います」


「俺はラルフォ・ウィントってんだ。見ての通り双剣を使う。

 嬢ちゃんとは収穫作業の時に顔を合わせてるな」


「収穫初日…。あ、ヨキが速いペースで収穫とている事を教えてくれた…」


 ラルフォと名乗った中年の男性冒険者の顔を見たディモルフォセカは、収穫初日にあっている事を思い出した。

 ヨキがニルヴァと練習試合をする事になったのもあったが、初日以降合っていなかったためすぐには気づけなかった。


「ごめんなさい、すぐには気付けませんでした」


「まぁあったばっかりですぐに覚える事の方が無理だな。

 早速で申し訳ないが手合わせ願うぜ」


「こちらこそ、お願いします」


 そう言うとディモルフォセカはトーチから炎を灯し、ラルフォとの練習試合を開始した。

 ディモルフォセカはトーチを大きく振るい、トーチの炎を大きくしならせる。

 自分に迫る炎に対し、ラルフォは冷静に炎をかわ()す。

 この程度の動きならば問題ないという事なのだろう。


「単純な動きは慣れてるってことね。それなら、イリュージョン・イリュージョン!」


 基本的な攻撃ではすぐにかわ躱されると考えたディモルフォセカは、イリュージョン・イリュージョンを発動させてラルフォの周囲に巨大な肉食植物の幻影を作り出す。

 ディモルフォセカが作り出した肉食植物の幻影が、一斉にラルフォに襲い掛かる。


 イリュージョン・イリュージョンは別属性の攻撃を幻影として実体化させる法術。

 幻影を得意とするファイヤーファントムが自分と相性の悪い相手に使う法術だ。

 肉食植物の幻影に襲われたラルフォは、動じることなく肉食植物の触手を躱して対処する。


「(今の内に他の法術で攻撃を仕掛けないと…!) スマッシュ・スマッシュ!」


「そうは問屋が、降ろさないってな!」


 ラルフォが肉食植物の幻影の触手を躱す事に集中している隙に、ディモルフォセカはスマッシュ・スマッシュで追撃する。

 だが、ラルフォは触手に双剣の片割れを突き刺すと炎の衝撃波が迫る方向に移動させ、炎の衝撃波をふせいだ。


「嘘でしょう⁉ そんな防ぎ方あり⁉」


「攻め方が甘いぜ、嬢ちゃん」


 触手の幻影を利用して炎の衝撃波を防いだラルフォは、そのまま触手の幻影を薙ぎ払うとその流れで肉食植物の幻影を切り刻んだ。

 物理的に自分の攻撃が破られたディモルフォセカは、驚きながらも次の法術を発動させる。


「イリュージョン・イリュージョンがだめなら、トリック・トリック!」


 イリュージョン・イリュージョンが通用しないと判断したディモルフォセカは、次にトリック・トリックを発動させた。

 トリック・トリックは敵と認識した相手にのみ攻撃が通じ、相手の攻撃をすり抜ける幻影。


 ファイヤーファントムが最も得意とする法術であり、ディモルフォセカが最も使う法術だ。

 ディモルフォセカはトリック・トリックで幾千もの炎の針の幻影を作り出し、ラルフォに向けて放つ。


 だが、ラルフォは自分に向かって飛んでくる炎の針を双剣で斬り落としていき、ディモルフォセカに接近する。

 接近してくるラルフォの姿を見たディモルフォセカはトーチを振るい牽制するが、ラルフォはトーチの炎を躱す。


 牽制は意味がないと判断したディモルフォセカはすぐにフレア・フレアを発動させて攻撃を仕掛けるが、ディモルフォセカの考えを読んでいたかの如く、自身の脚力で炎を飛び越え、ディモルフォセカの背後に回る。

 ラルフォはディモルフォセカの背後に回ると同時に、ディモルフォセカの喉元に双剣の剣先を突き付ける。


「勝負あり! 勝者、ラルフォ・ウィント!」


「悪いな嬢ちゃん、勝たせてもらったぜ」


「まさか、私の幻影を逆手に取られるなんて…」


「確かに嬢ちゃんの幻影の精度はかなり高いみたいだが、それを上手く使いこなせていないみたいだな」


 自分の幻影を逆手に取られるとは思ってもみなかったディモルフォセカは、ショックで落ち込んでいると、ラルフォがディモルフォセカに幻影を上手く使いこなせていないと指摘した。


「え、そんな筈ないと思うんですけど…」


「違う違う、そういう意味じゃないんだ。

 嬢ちゃんの場合、幻影の精度が高すぎて本物に近い状態なんだよ。

 そのせいでさっきみたいに幻影にも関わらず、突き刺したり切り落としたりといった物理で防げちまったんだ」


「つまり、私の幻影はほぼ実態を持っている状態で、実態を持っていたせいで逆に有利にしてしまったってこと…?」


 自分の幻影がほぼ実態を持っていた事で相手に攻撃を防ぐ術を与えてしまっていたと知ったディモルフォセカは更にショックを受けた。

 幻影による戦法を得意とするディモルフォセカにとって、自分が作り出した幻影によって逆に追い詰められてしまう羽目になったのが余程ショックだったのだろう。

 そこでラルフォは、落ち込むディモルフォセカにアドバイスをした。


「これはあくまで俺個人の意見だが、まずは幻影の実体の切り替えを自分でできるようになるべきだな。

 さっきの試合見たく、相手が攻撃を防ごうとした時にのみ実体を失くし、攻撃を当てる時にのみ実体を与える、幻影を利用したカウンター攻撃だな。

 こいつを習得すればかなり先手を取りやすくなる筈だ。

 それからスキル頼みにならず、物理攻撃の幅も増やしておいた方が良いだろう。

 見た感じ、嬢ちゃんはちょいと法術に頼り過ぎてる傾向にある。

 実戦じゃあスキル頼りは余程の実力者でもないかぎり論外だ、自分のスキルを封じられる事態に陥ったら完全にやられるからな。

 昨日の坊主みたいに柔軟な体してるんだ、それを活かさないのはもったいない」


 ラルフォは的確にディモルフォセカが修正するべき所、これから習得するべき事を的確に指摘し、ディモルフォセカに伝える。

 実際に対戦した時間は短かったものの、その短い間でディモルフォセカの動きを観察し、良い所、悪い所を把握したようだ。


「まぁ俺が言えるのはこのくらいだな。今の戦闘スタイルをどう改善していくかは嬢ちゃん次第だ」


「どう改善していくかは、私次第?」


「おーい、そろそろ収穫作業交代してくれー」


「おぉ、わかった。じゃあな嬢ちゃん」


 他の冒険者がエナジーフルーツの作業をかわってほしいと声を掛けて来たため、ラルフォはそのままエナジーフルーツ畑に向かった。

 自分の戦闘スタイルの欠点を指摘されたディモルフォセカは、どのように戦闘スタイルを変えていくか考えた。


(私の戦闘スタイルはスキル特化に寄っている、逆に言えば近接戦では若干弱い。

 確かに近接戦が弱いのは問題かもしれない、これはカトレアに少し相談して改善した方が良いのかもしれない…)


 自分の現在の戦闘スタイルに問題がある事を自覚したディモルフォセカは、戦闘スタイルを改善するためにカトレアに相談しようと考え、宿に戻る事にした。

 宿の戻る道中、自分と同じように宿に戻る途中だったカトレア達と合流した。


「あら、ディモルフォセカ。ディモルフォセカも宿に戻るところ?」


「えぇ、皆も宿に戻る所?」


「あぁ、俺は念のため非常食を買い足しといたんだ。多いに越した事は無いと思うからね」


 そう言いながらスズは自分が持っている紙袋を見せながら、購入した物を説明した。

 そしてスズのように露店を見て回ってきたカトレアとラヴァーズも、少量だが必要な物を購入したようだ。


「カトレアも何か買ったの?」


「ぼくたちがかったのは、さいほう用の糸と布です!」


「オリソンティエラまでの道中、また服がボロボロになるだろうからね。

 応急処置程度にしかならないでしょうけど、ないよりかはマシだと思うのよ」


「いざ戦闘になるとどうしても破けちゃう物ね。

 話は変わるのだけれど、宿に戻ったら私の戦闘スタイルの事で相談があるんだけど良いかしら?」


「戦闘スタイルの改善か変更ね? わかったわ、宿に戻ったら考えましょう」


 ディモルフォセカから戦闘スタイルについてと聞いたカトレアは、その一言で相談の内容が戦闘スタイルの改善か変更であると悟った。

 自分の相談したい内容を一言で理解したカトレアの反応を見たディモルフォセカは、流石は自分の親友だと思った。


(レイトゥーンの学校で初めて出会った時、凄く変わった口調で喋るからちょっぴり引いたけど、話をしてみたら不思議時があったのよね。

 カトレアと出会えた事は、スピリットシャーマンである私にとっての運命だったのかもしれない…)


 そう思いながら、ディモルフォセカはカトレア達と共に宿へと戻った。

 その後、宿に戻った途端大量の薬草を調合しているケイとそれを手伝うヒバリの姿を見た時はひどく驚いており、その作業に自分達もまき込まれたため、相談どころではなくなったのだった。

 ご覧いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  仲間の多くが戦力の底上げを図っていますが……  ディマルフォセカちゃんは、戦闘スタイルの改善ですか。  実体をもつ幻影だけで十分、というか、そこまで行くと…
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