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第70話 国境に向かうための準備【ケイside】

 ギョルシル村に着いて以降、眠り続けていたケイは小鳥のさえずりと共に目を覚ました。


(ここ、は…? 確か、メディアロルで助けたおっさんの馬車に乗って…)


 ケイは自分の身に何が起きたのかを思い出しながら、視線を動かしながら現在の自分の状況を確認した。

 周囲を確認している内に、近くのテーブルで眠りこけているヒバリの姿があったため、その姿を見たケイは自分が置かれている状況を把握した。


(そうか、俺が急性霊力(チャクラ)欠乏症を発症して、ずっと眠りこけてたのか…。

 それをヒバリか看病してくれてたんだな…)


 自分が発症した急性霊力欠乏症が原因で自分が倒れ、倒れた自分の看病をヒバリがしてくれていたのだと気付き、体を動かせるかを確認した。

 上半身を起こそうとすると、眠り続けている間どれだけ眠っているか分らなかったため、体が鈍ってしまったらしく重く感じた。


(この感じだと、声はすぐには出せそうにないな。喋る以外の方法で俺が起きた事を伝えないと…)


 おそらく声が出ないと判断したケイは、周りを見て確認して何がないかと確認したが近くには特になかったため、しばらく考えて深呼吸し、思いっきり手を叩いた。

 ケイは何度も何度も手を叩き、叩いた音を部屋中に響き渡らせる。

手を叩いた音は部屋中に響き、近くのテーブルで眠り込んでいるヒバリの耳にも届き、目を覚ました。


「ううむ、なんの音でごじゃるか…っ⁉」


 ケイの手を叩く音に反応したヒバリは、寝ぼけ眼で音が聞こえてくる方に顔を向けるとケイが起き上がっている姿が目に飛び込んできたため、しばらく呆然としていた。

 信じられないといった様子だったためヒバリは目をこすりもう一度確認すると、ヒバリの目には笑いながら自分を見るケイの姿があった。


「ケ、ケイ⁉ 目が覚めたでごじゃるか⁉」


「…おは…よう、ヒバ…リ」


「どっどうしたでごじゃる? 声が出ないのでごじゃるか⁉」


「わり、水を…一杯、くれ…な…いか?」


 なるべく声帯に負担を掛けない程度に、ケイは眠り続けた事で出にくくなった声を出しながらヒバリに一杯分の水を持って来て欲しいと伝えた。

 ケイが予想した通り、声が出にくくなっていたため最初こそヒバリに水を持ってきて欲しいという内容が上手く伝わらなかったが、興奮するヒバリを落ち着かされて根気よく話しかけて内容を伝える。


 出にくくなった声で何度も話しかける内に、ケイが飲み水を欲している事に気付いたヒバリはそのまま勢いよく客室を飛び出していった。

 そんなヒバリの様子を見ていたケイは可笑しそうに笑いながらも、いかに自分がヒバリに心配を掛けていたかという事を自覚し、恐らく他の仲間達もヒバリと同じくらい心配を掛けてしまっただろうと思った。


 特にヨキとマリの二人にはかなり心配を掛けてしまっただろうと思い、すぐにでも自分が起きた事を伝えたかったが、いかんせん体が鈍っているため無理に動いて怪我でもすれば本末転倒だ。

 なので無理には動かずヒバリが戻ってくるのを大人しく待つ事にした。


(あの感じだと、結構長い時間眠ってたみたいだな。

 多分何(こく)か経ってるだろうし、こりゃあ詫びるのが大変だなぁ~)


 そんな事を考えながらぼんやりしていると、客室の外からバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

 そして勢いよく扉が開いたかと思いきや、扉か息を切らしたヨキが客室に飛び込んできた。


「ケイ! 大丈夫⁉」


「おは…よう、ヨ…キ…」


「良かった、本当に良かった! さっきヒバリ君からケイが目を覚ましたって聞いて、いても経ってもいられなくて…」


「心…配…掛け…て…ごめ…んな」


「え? 何? ごめん、上手く聞き取れないよ!」


 水を取りに行ったヒバリからケイが目を覚ました事を聞いたヨキは、ケイの声が出にくくなっている事と自分の声の音量が大きいせいでケイが話している内容を上手く聞き取れず、思わずケイに詰め寄ってしまう。

 そこに水を持って戻ってきたヒバリと、ヨキと同じようにヒバリからケイが目を覚ました事を聞いてきたであろうマリが客室に入ってきた。


「ヨキ、落ち着いて! ケイは起きたばかりなんだからいきなり詰め寄ったりされると困惑しちゃうわ!」


「ヨキ殿、ケイは今喉が渇いて上手く喋れないでごじゃるよ。

 ケイ、頼まれていた水でごじゃるよ」


「あり…が…とう、ヒバ…リ」


 マリは興奮のあまり詰め寄っているヨキをケイから引き離し、その隙にヒバリが持ってきた水をケイに手渡した。

 ヒバリから水の入ったコップを受け取ったケイは、そのまま中に入っている水を少しずつ飲んでいく。

 気を利かせてくれたのか、柑橘系の果汁を少し加えられた状態で持ってきたらしく柑橘系の果物の甘酸っぱい味が口の中に広がり、渇いた喉を潤した。


「プハァッ! あー、あー、うん、大丈夫そうだ」


「ケイ、大丈夫なの?」


「あぁ、心配掛けて悪かった、もう大丈夫だから」


「大丈夫な訳ないでしょう、ギョルシル村に着いて霊力回復薬(チャクラポーション)体力回復薬(スタミナポーション)を飲んでからずっと眠り続けていたのよ!」


「そうでごじゃる。容態が回復したとはいえ、今日までの間皆大変だったでごじゃるよ!」


 ヒバリとマリの様子を見たケイは、普段は落ち着いている二人が目覚めたばかりの自分に対して説教をする程、自分が長い間眠り続けていたのだという事を悟ると同時に、自分が眠っている間に想定外なトラブルに巻き込まれていたのだという事を理解した。

 自分が眠っている間に何があったのかを詳しく聞こうとしたが、話を聞く前に客室の扉から次々と仲間達が入ってきたためそれどころではなくなった。


「ケイ! 目が覚めたのね⁉」


「体はしゃーなーの? アンタ三刻間も眠っとったんよ!」


「良かったですケイさん! お体はだいじょうぶですか?」


「おぉ! 本当に起きてる!」


「その言い方だと物珍しい様子だと勘違いされるぞ、バン」


「おはようございますケイさん、ご気分はいかがですか?」


「ケイ! 無事に目ぇ覚ましたんやな! 良かったで!」


「ケイ、おっはーっ♪」


「やっと起きたのかこのねぼすけめ!」


「やかましい! 朝っぱらから騒ぐなお前ら!」


 ケイが目を覚ましたと聞いて駆け付けた仲間達は、次々にケイに話しかけるが、矢継ぎ早に話しかけてくるため全員の会話の内容がごちゃ混ぜになり聞き取れない状況になってしまった。

 加えて全員が騒ぎ立てるため、同じ宿に泊まっている冒険者や商人達は何事かとヨキ達が集まっている客室付近に集まりだした。


 結果同じように駆け付けていたキールが騒ぎ立てる仲間達に怒鳴り散らし、強制的に黙らせた。

 その後キールによって落ち着きを取り戻したケイは、改めて自分が眠っている間に起こった事を仲間達から聞いた。


 以前助けたジェイコブが所属するバーナードキャラバンの護衛として国境へ向かう事になった事、エナジーフルーツの収穫作業の際にヨキの収穫ペースが速すぎて現場が混乱した事、ヨキがラッド族であるニルヴァとの練習試合をおこない、結果ウェポンマスターの素質がある事が判明した事、それらの事が起こった三刻間の間、自分が眠り続けていた事。


 自分が三刻も眠っている間にヨキ達が大変な目に遭っていた事を聞いたケイは、少々困惑しながらも仲間達の元気そうな姿を見て安心していた。

 特にアトラースであるヒバリには眠り続けている間世話になったため、頭が上がらなかった。


「本当に良かったよケイ、三刻も目を覚まさなかったから心配してたんだよ⁉」


「悪い悪い。俺が眠ってる間、大変だったみたいだな」


「大変なんてレベルじゃないわ。

 ヨキの収穫ペースが速すぎて作業が回らなくなったり、ヨキがラッド族の冒険者と戦われたりでパニックだったんだから」


「それにヒバリがつきっきりで看病してくれてたからちゃんとお礼を言うのよ?」


 自分が眠っている間にヨキを中心に想定が異な事が起こった事、ヒバリがつきっきりで自分の看病をしてくれた事をディモルフォセカとマリから聞かされたケイは、苦笑しながらも隣に座るヒバリに感謝の気持ちを伝えた。

 ようやく落ち着いて話を進められると判断したキールから、今日一刻(ひとこく)の説明があった。


「ギョルシル村に着いてから今日で四刻目だ。

 明日にはエナジーフルーツの収穫を護衛以外の冒険者総動員でおこない、明後日の黒巳(こくみ)時にはギョルシル村を出る。

 だから全員今日中には国境に向かうまでにそれぞれが必要な物を準備する事。

 全員共通で必要になる物は収穫作業初日の内にスズが確認して準備してくれているから、全員スズに礼を言っておくようにな」


「「「はーい」」」


「ケイは目が覚めたばかり、体が鈍っているでごじゃろうから午前はエナジーフルーツの検品作業に参加してはどうでごじゃろうか?」


「そうね、収穫ペースの早すぎるヨキは午後から参加するみたいだから、リハビリも兼ねてのんびり作業が出来るんじゃないかしら?」


「ん~、そうしてくれるのはありがたいけど、今の俺の状態だと戦力外だぜ⁇」


「今回はあくまでリハビリ目的、本格的に参加するのは明日からでも問題ないわ」


 ケイはずっと寝たきりだったという事もあるため、リハビリを兼ねてそれほど動く心配のないエナジーフルーツの兼任作業に参加する事にした。


 その後、午前の作業に参加するのはケイ、ヒバリ、ディモルフォセカ、カトレア、ラヴァーズ、スズ。

 午後からはヨキ、バン、リース、マリ、レイア、ニヤト、フィービィーの二グループに分かれる事になった。


 ラピスとヒエンの二人は護衛の方に回っており、キールもバーナードキャラバンのリーダであるミザールとの話し合いがあるという事で、この三人は収穫作業には不参加のようだ。


 ケイは三刻ぶりの食事を口にすると、しばらく休んでから農園内にあるエナジーフルーツ畑に向かった。

 エナジーフルーツ畑では既に他の冒険者が集まっており、エナジーフルーツの収穫が始まっていた。


「ここがエナジーフルーツがなっている農園よ。

 それで黄色い桜桃(チェリー)みたいな木の実がエナジーフルーツで、明日まで収穫の手伝いをする予定なのよ」


「へぇ、大人数で収穫する辺りかなりの量だとは思ってたけど、予想以上に生ってるんだな…」


「セッシャも収穫作業に参加するのは今回が初めてでごじゃる。

 お互い初心者同士、気軽に作業に取り組むでごじゃるよ」


 エナジーフルーツの木になっているエナジーフルーツの量を見たケイは、自分の予想よりも多く生っていた事に驚きながらも手際よくエナジーフルーツを収穫している大勢の冒険者達に感心していた。


「それじゃあアタシとヒバリが収穫に回るから、ケイがスズと一緒に検品、ラヴァーズはディモルフォセカと一緒に籠の運搬をお願いね」


「わかったわ。ラヴァーズ、行きましょう」


「はい!」


「それじゃあ俺達も検品作業に参加しよう」


「おう、ご指導よろしく頼むぜ?」


 収穫、検品、運搬するグループに分かれ、ケイ達はそれぞれの作業現場に向かった。

 リハビリを兼ねて検品作業に参加する事になったケイは、スズの案内の元、検品現場を訪れた。


 検品現場では既に大量のエナジーフルーツが届いており、村人が一つ一つ丁寧に検品して仕分けていた。


「凄い量だな。これ全部検品するのか?」


「今日はまだマシだよ。昨日一昨日なんかヨキがもの凄い速さで収穫するもんだから全員混乱するし、マリが参加してやっとスムーズに作業が進んだようなもんだよ」


「ようし、そうと決まれば張り切って検品するか!」


 ケイは張り切った様子で近くの椅子に座り、エナジーフルーツの検品を始めた。

 ギョルシル村の住民から検品方法を教わり、周りより少し遅いペースで出荷できるもの、傷んでいる物、虫に食われている物とに仕分けていく。


 一籠分のエナジーフルーツの検品が終わると、空になった籠を運搬掛かりである冒険者に渡し、新たにエナジーフルーツが入った籠を受け取ると再び検品作業を始める。

 一定のリズムでこの作業を繰り返し、収穫作業は効率よく進んでいく。


 これを言って問題は起こっていないため、ギョルシル村の住民や作業に参加している冒険者達は皆安心した様子で作業をしている事から、かなりヨキに翻弄されている様子が窺えた。

 そしてこれ言ったトラブルが起こる事なく、午前の作業が終わった。


「これで午前の作業は終わりだな。ケイ、調子はどうだ?」


「無理しなかったていうのもあるかもだけど、大分動けるようにはなったかな?」


 検品作業をしている間、少しずつ体を動かしていたケイは大分体の鈍りが解消され動けるようになっていた。

 おかげで普通に歩いても問題ないくらいに回復していた。


 午前の作業を終え、収穫、運搬するグループに分かれていた仲間達と合流したケイは、広場で昼食をとり、そのままヒバリと共に行商人達が露店を開いている広場で必要な物を探し始めた。


「セッシャは刀や手裏剣と言った物を手入れできる打ち粉と拭い髪と言った道具を購入するつもりでごじゃるが、ケイは何か必要な物はありそうでごじゃるか?」


「そうだなぁ、必要なのは包帯と清潔なガーゼと医療用の針と糸に切り傷とか打ち身とか火傷とか風邪とか熱とか腹痛とか解毒とか頭痛とかに効果がある薬草、念のため麻酔効果のある薬草が欲しいな」


「予想以上に必要な物が多いでごじゃるな」


「当たり前だろう? オリソンティエラまでの道中長いんだ。

 その間に魔物とか猛獣とか野党とかあと間違いなくヘルシャフトとフォルシュトレッカーに襲われるだろう」


「襲われる前提での購入でごじゃるか⁉」


 ケイがオリソンティエラまでの道中、確実にキャラバンが襲われる前提で薬草や医療道具の購入を考えていると知ったヒバリは少々困惑していたが、自分達の立場やキャラバンがヘルシャフトに狙われる原因となった謎の積み荷の事もある以上、かなりの怪我人が出ると見越しての事だろうと納得した。


 それから露店を見て回り、薬草を取り扱っている露店を見つけては条件に合う薬草を購入し、見つからなければ他の薬草を取り扱っている露店に足を運んで条件に合う薬草を探して回った。


艾葉(ガイヨウ)地白草(ジハクソウ)連銭草(カキドオシ)石斛(セッコク)嫁菜(ヨメナ)野百合(ヤビャクゴウ)が五〇束、菊花(キクカ)の頭部、(エンジュ)槐花(カイカ)菱実(リョウジツ)が四〇個、猿梨(サルナシ)の果実が一〇〇入り一瓶、枇杷(ロクウォート)の葉が八〇枚、牡荊(ホケイ)牡茨実(ボケイジツ)が二二個と牡茨茎(ボケイケイ)が三〇本と牡茨葉(ボケイヨウ)が七〇枚、大烏瓜(オオカラスウリ)栝楼根(カロコン)栝楼仁(カロニン)栝楼実(カロジツ)がそれぞれ一〇個ずつ。

 とりあえず解熱効果と解毒効果と火傷と風邪と頭痛と腹痛と切り傷に効く薬草は大体揃ったかな?

 あとは打ち身に効く薬草と麻酔効果のある薬草を探さないと。

 あ、でも感染症の心配もあるな、あとで集めた薬草に感染症にも効果がある奴がないか確認しておかないと。

一応当薬(トウヤク)も買っておこう。結構苦いけど腹痛だけじゃなく胃痛とか食欲不振、下痢にも効くある意味で万能薬だし。

でも万能薬っていうならもう艾葉があるし、十薬(ジュウヤク)も捨てがたいなぁ」


 ケイは次々に薬師ならではの言葉を口にしては自分のペースで事を進めていき、これまで集めた薬草だけでは納得がいかないらしく、まだ薬草を集めるつもりでいるようだ。


「ケッケイ、おぬし何を言っているでごじゃるか? なんだかよく分らぬ言葉が次々と出て来ている気がするのじゃが…」


「あぁ、さっきまで言ってたのは生薬名っていって薬の原料になる前の薬草の名前、とりあえず薬草専用の専門用語みたいに思ってくれた方が理解しやすいと思うぞ。

 薬を調合する時に薬草やその部位の呼び方が変わってくるんだよ。

艾葉はお前もよく知ってるヨモギ、連銭草はカキドオシって名前の野草の事なんだ」


「当たり前のように説明されてもセッシャには理解できないでごじゃるよ⁉」


「理解できなくても仕方ないさ、なんせ薬師の間じゃ薬草はこっちの用語で呼ばれるのが日常茶飯事、本格的な薬師でもないなら知らなくて当然だから気にすんな。

 ついでに言うならヨキとマリも知ってるから安心しろ」


「セッシャらが理解せぬ内に話が進みそうで逆に不安でごじゃるよ!」


 生薬名で薬草の名前を呼ぶため、どの薬草がそういった生薬名呼ばれているのか理解しているケイ、ヨキ、マリの三人で話が進みそうになり、生薬名を理解していない自分達が生薬名で指定された薬草を採ってくれと言われると間違って毒草を採ってしまうかもしれないという不安がよぎり、ヒバリとしては逆に不安になった。


 ケイに取って個人的に必要になる物が薬草メインになる事を理解していたヒバリだったが、ここまで本格的に集めるとは思っていなかったため、更に薬草を集めるつもりでいるケイをどのようにして止めるべきなのか分らず困惑していた。


「打撲には水虎尾(ミズトラノオ)繋縷(ケイロウ)大崗茶(ダイコウチャ)辺りが妥当か、麻酔を作るとなると附子(ブシ)とか曼陀羅華(マンダラゲ)は避けたいな、ラヴァーズやニヤトがうっかり口にしたら完全にアウトだ。

夢法師(ユメボウシ)泡沫花(ウタカタバナ)願星(ネガイボシ)の蜜があれば安全なのが作れるんだけどなぁ」


「もうセッシャの頭の中は一杯一杯でごじゃる…」


「おぉ、ケイ君とヒバリ君じゃないか!」


 薬草を探し続けるケイに振り回されるヒバリに声を掛けてきたのは、かつて自分達がメディアロルでヘルシャフトから助け、ヘルシャフトの戦いで消耗しきった自分達を助けてくれたジェイコブだった。

 ジェイコブは他の商人とは違い、広場で露店を開いてはいないようだ。


「ついさっき君の友人達から君が目を覚ましたと聞いてはいたが、実際に見るまでは少し信じられなかったよ。

 ギョルシル村に着いてからずっと眠り続けていたのだから」


「ギョルシル村に来た最初の朝から何重時経っても起きぬお主のために何度も見舞いに来られていたでごじゃるからな。

 ちゃんと礼をいうでごじゃるぞ」


「そっか、ありがとうジェイコブさん」


「メディアロルでは君達に助けられたからね、あの時の恩を返せて良かったよ。

 所で凄い量の薬草を買い込んでるね」


 自分が眠り続けている間、ジェイコブが見舞いに来てくれていたとヒバリから聞いたケイは、ジェイコブに感謝の言葉を述べた。

 メディアロルで助けられた恩を返せて良かったと答えたジェイコブだったが、その視線はケイの腕の中にある大量の薬草に向けられていた。

 流石のジェイコブもケイが購入した薬草の量に困惑していたようだ。


「あぁ、この薬草達か? ギョルシル村に着くまでのヘルシャフトとの戦いでほとんどの薬草を使い切っちまったから消費した分とオリソンティエラまでの道中で必要になる分を買い込んでるんだ。

 法術使っても良いけど法術頼りになりすぎるのは良くないし、あとは打撲に効く薬草と一応麻酔効果のある薬草に包帯と清潔なガーゼと医療用の針と糸をいくつか買うだけ…あぁ!」


 大量の薬草を購入している経緯を説明していたケイは、突然大声を上げた。

 突然大声を上げたケイに驚いたヒバリとジェイコブは何事かと思い、ケイに声を掛ける。


「どうしたでごじゃるかケイ⁉」


「もしかして、何か問題が?」


「いけない、蜜蝋と植物油とチンキ剤も必要だ!」


「「……はい?」」


 ケイの口から蜜蝋と植物油とチンキ剤も必要だと言う台詞が飛び出してきたため、ヒバリとジェイコブは呆気にとられた。

 二人は三つの材料の意味を理解できなかったが、ケイ個人としては焦った様子で声を上げる程必要な物であるのだろう。

 ヒバリは戸惑いながらもケイに三つの素材の意味を尋ねた。


「ケッケイ、先程言った素材?には一体どんな意味が…?」


「医療用の軟膏を作るのに絶対不可欠な材料だ!」


「軟膏を作るつもりでごじゃるか⁉」


 蜜蝋と植物油とチンキ剤、三つの素材が医療用軟膏を作るために必要な材料だと聞かされたヒバリは、ケイが医療用の軟膏を作るためにそれらも追加で購入するつもりでいる事に気付き、顔面蒼白になった。


 ただでさえケイが買い込んだ薬草の量は既に逆を超えている。

そこに医療用の軟膏を作るのに必要な材料まで購入するとなると、ケイが使っている鞄では完全にキャパシティオーバーになるのは必然だ。


 入りきらなかった分の薬草を持たされるという結末が目に見え、自分の武器を手入れするための道具もまだ購入できていないため、ヒバリは全力でケイを止める事にした。


「ケッケイ、軟膏を作らずとも煎じ薬で事足りるのでは?」


「馬鹿野郎、煎じ薬は風邪とか腹痛の際に飲む薬だ!

 傷の手当をするなら軟膏の方が色んな幹部や傷の治療をする際にめっちゃ役立つんだ!

 なんなら皮膚疾患にも使える!

 植物油は確かこの先の露店に売ってあったな?

 すぐにでも十薬を買ってチンキ剤を作らないと、いやダメだ、年齢のせいで作るのに必要なウォッカを入手できない!

 しまった! 消毒のアルコールも買っておかないと…」


「これ以上荷物を増やすなでごじゃる! まだ包帯や針と一体療用道具を手に入れてないでごじゃろう!」


 止めるどころか更に購入する物が増えてしまったため、もうどのようにしてケイの暴走状態を止めれば良いのかヒバリには分らなかった。

 ここまで医療関係の物で暴走するケイを見たのは初めてだったため、もう困惑するしかない。

 ケイの暴走状態を見かねたジェイコブは、チンキ剤に関するある提案をしてきた。


「あぁ、その、チンキ剤なら私の知人が取り扱っているから、事情を説明して購入できるよう紹介しようか?」


「いいの? よっしゃ! これで十薬と薫衣草(クンイソウ)鹿子草(カノコソウ)を使ったチンキ剤があれば問題なく医療用軟膏を作れるぜ!」


「チンキ剤の種類が増えてるでごじゃる! それ以前にそれだけの量を一人で持つ事の方が無理でごじゃるよ!」


「いや、必要な物全部買ったらこの後薬草の半分を軟膏にしたり煎じ薬にして一部をヨキとマリに渡すぞ?」


「自分の従姉と幼馴染みにまで持たせるなでごじゃる!」


 当たり前のように答えるケイの反応にヒバリはもう叫ぶ事しか出来なかった。

 その後、ヒバリも自分の武器を手入れするための道具を購入する事が出来たが、ケイは宣言したとおり必要な物全てを買い揃えるとすぐに宿に戻って煎じ薬と医療用軟膏を作り出した。


 更に同じように買い物を終えて戻って来たディモルフォセカたちを巻き込んで、三分の一の薬草を煎じ薬と医療用軟膏に加工、収穫作業から帰ってきたヨキとマリの二人に加工した薬の三分の一ずつを渡したのは言うまでも無い。

 ご覧いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、御作を読みました。  ケイの乱心に吹きました。  うん、飲む薬と軟膏は違うよね(゜∀゜)  今回も世界観に落とし込みつつ、登場人物が何をできるのか、どうやるのかが表現されていて…
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