第69話 国境に向かうための準備【ヨキside】
新年初投稿です
ギョルシル村に着いてから四刻目、収穫作業三刻目の朝、ヨキは自然と目を覚ました。
枕元に置いてある私服に着替え、眠り続けるケイの様子を確認した。
同じ客室に止まっているヒバリは未だに眠り続けるケイの看病で疲れていたのか、ケイが眠るベッドに寄りかかる形で眠っていた。
起こすのも気が引けたため、ヨキは静かに客室を出て、ロビーに向かった。
しばらくの間、ロビーのソファーに座ってのんびりしていると、玄関から散歩に出ていたと思われるマリが入ってきた。
「おはようヨキ」
「おはようマリ、散歩してたの?」
「白巳時ぐらいで目が覚めてね、二度寝できそうになかったからそのまま散歩してきてのよ」
マリはそう答えながらヨキの隣りに座ると、そのまま話を続けた。
「ケイの様子はどう? やっぱりまだ起きない?」
「うん、昨日のバンの話だと今日の朝には目を覚ますらしいけどまだ……。
ヒバリ君も疲れてたのか、ケイのベッドに寄りかかる形で眠ってた」
ヨキは起きた時に見た様子をマリに説明した。
ヨキとマリがケイとヒバリの二人の事を心配していると、そこに慌てた様子で水の入ったコップを手に走るヒバリの姿が合った。
慌てた様子のヒバリを見たヨキとマリは、ケイに何かがあったと悟りすぐさま声をかけた。
「ヒバリ君、起きてたの?」
「なんだか慌てた様子だけど、ケイに何かあったの?」
「あ、ヨキ殿マリ殿、丁度いい所に! つい先程、ケイが目を覚ましたので午じゃるよ!」
ケイが目を覚ましたと聞いた二人は、眼を見開きながらお互いに顔を見合わせ、再度ヒバリの方を見る。
少し間を置いて目に見えて分かる反応を示した。
「「ケイが起きたの⁉」」
「う、うむ。本当につい先程ではあるが、意識ははっきりとしていたでごじゃるよ」
「本当にケイが起きたんだ……。僕、ケイの所に行ってくる!」
「あ、ちょっと待ってヨキ!」
ヒバリからケイが目を覚ましたと聞いたヨキは、そのままケイが眠る客室まで走って行った。
そして自分が泊まっている客室に着くと荒々しく客室の扉を開けた。
そしてそこには、急性霊力欠乏症を発症し三刻近い間眠り続けていたケイがようやく目を覚ました姿があった。
bその姿を目にしたヨキは、すぐさまケイの元に駆け寄った。
「ケイ! 大丈夫⁉」
「おは…よう、ヨ…キ…」
「良かった、本当に良かった! さっきヒバリ君からケイが目を覚ましたって聞いて、いても経ってもいられなくて…」
「心…配…掛け…て…ごめ…んな」
「え? 何? ごめん、上手く聞き取れないよ!」
起きたばかりのせいか、何かしら喋っているようだが上手く聞き取れなかった。
ヨキはケイが何を喋っているのか聞きとろうとして詰め寄っているところに、自分の後を追う形でマリとヒバリの二人が客室に入ってきた。
ヨキがケイに詰め寄っているのを見たマリは、慌ててヨキをケイから引き離した。
「ヨキ、落ち着いて! ケイは起きたばかりなんだからいきなり詰め寄ったりされると困惑しちゃうわ!」
「ヨキ殿、ケイは今喉が渇いて上手く喋れないでごじゃるよ。
ケイ、頼まれていた水でごじゃるよ」
「あり…が…とう、ヒバ…リ」
マリに引き離されたヨキは、ケイに話したい事があったため仕方なしに我慢した。
ケイが水を飲み終え、二人から軽く説教を受けてはいたがもう話しかけても大丈夫だと判断して話しかけようとしたが、同じようにケイが目を覚ましたと聞きつけた仲間達がなだれ込んできたため、しばらくそれどころではなくなった。
ケイが目を覚ましたと聞いて騒いでいた仲間達が一通り落ち着き始めたため、ヨキはようやくケイに話しかける事が出来た。
それはヨキにとって久しぶりのケイとの会話だった。
「本当に良かったよケイ、三刻間近くも目を覚まさなかったから心配してたんだよ⁉」
「悪い悪い。俺が眠ってる間、大変だったみたいだな」
「大変なんてレベルじゃないわ。
ヨキの収穫ペースが速すぎて作業が回らなくなったり、ヨキがラッド族の冒険者と戦われたりでパニックだったんだから」
「それにヒバリがつきっきりで看病してくれてたからちゃんとお礼を言うのよ?」
ケイが目を覚ました事に喜ぶヨキだったが、ヒバリと交代してケイの看病をしていたマリとディモルフォセカは、三刻間近く眠り込んでいたケイの反応を見ながら、呆れた様子でどれだけ自分達が大変な目に遭っていたのかを話した。
そして自分達が自由に動けるよう配慮し、ギョルシル村に着いてからケイの看病に時間を費やしたヒバリにちゃんとお礼を言うようにマリから注意されていた。
ようやく落ち着いて話を進められると判断したキールから、今日一刻の説明があった。
「ギョルシル村に着いてから今日で四刻目だ。
明日にはエナジーフルーツの収穫を護衛以外の冒険者総動員でおこない、明後日の黒巳時にはギョルシル村を出る。
だから全員今日中には国境に向かうまでにそれぞれが必要な物を準備する事。
全員共通で必要になる物は収穫作業初日の内にスズが確認して準備してくれているから、全員スズに礼を言っておくようにな」
「「「はーい」」」
「ヨキ、俺達も必要な物を集めようぜ」
「そうだね。でも、収穫作業の方はどうしようか?」
「そちらにかんしては午後からの参加でもだいじょうぶだと聞いていますので、心配いりません」
「朝からの収穫作業は私達が参加するから、交代で作業と準備をしましょう」
個人的に必要な物をそれぞれで入手する事になったが、ヨキはエナジーフルーツの収穫作業はどうなるのかと少し心配していた。
エナジーフルーツの収穫作業に関してはリースが既に確認を取っていたらしく、そこにカトレアの提案も組み込み交代でエナジーフルーツの収穫作業と国境へ向かうための準備をする事になったため、ヨキは少し安心した。
「それじゃあ午前の作業に参加するのはケイ、ヒバリ、ディモルフォセカ、カトレア、ラヴァーズ、スズ。
午後からはヨキ、バン、リース、マリ、レイア、ニヤト、フィービィーで良いな?」
「あれ? ラピスさんやヒエンさんは?」
「あの二人なら収穫作業初日と二刻目に準備し終えてるから、今は護衛の方に付いてるぜ。
オイラもキャラバンのリーダーと話し合いがあるから、そっちの方に行く予定だ」
「相変わらず行動が早いなあの二人…」
ラピスとヒエンの二人が既に準備を終えていると聞いたバンは、少し呆気にとられていたがいつもの事だと思い深くは聞かなかった。
そして先程言った午前と午後のグループに分かれて行動を開始した。
ヨキはレイフォン兄弟と行動を共にし、必要な物を探し始めた。
バーナードキャラバンに所属する商人達が練習試合がおこなわれた広場とは別の広場で、ギョルシル村の住人相手に商売をしており、色々な商品が並べられていた。
「凄いね、ずっと収穫作業に参加してたからあまり見てなかったけど、色んな物が並べられてるよ」
「キャラバンは商人の集りだからな。
所属している人数が多い分品揃えも必然的に多くなるんだよ」
「キール君が言った通り、朝の内に必要な物を集めましょう。
午後からまたしゅうかくさぎょうに参加しますし、明日は一刻中エナジーフルーツのしゅうかくに参加しますからね」
そう言いながらリースはまるで生気が抜けたような様子で、遠くの方をみていた。
そうなった理由は、恐らく早すぎるヨキの収穫ペースだろう。
二刻目の収穫作業で実際にヨキがエナジーフルーツを収穫する動きを目の当たりにし、身をもって体験した事もあってやる気がだだ下がりになっていた。
リースの落ち込み具合をいたヨキとバンは、落ち込んでいる理由をなんとなく察したため困った様子で笑っていた。
原因となっているヨキ本人に至っては、収穫ペースを加減できないため申し訳なさそうにしていた。
ディモルフォセカに何度も注意を受けてペースを落とそうとするが、どうしても夢中になって早くなってしまうのだ。
「ほっ本当にごめんね、頑張ってペース落とすようにするから…」
「いや、そこは逆だぞヨキ」
「あれぇ?」
本来のペースと理想的なペースが逆転している事を指摘されたヨキは、どうしてそうなったのか分らないため少々混乱した。
そんなやり取りをしていると様々な用紙を取り扱っている露店を見つけた。
様々な用紙を取り扱っている露店を見つけたリースは、すぐさま露店の方に駆け寄り、並べられている用紙を確認し始めた。
「良かった、ジュジュツのバイタイに使う呪符を作るのに使えそうな用紙があった!」
「そういえばリースは呪術の媒体に必要な呪符がそんなに残ってなかったな」
「お、可愛いらしい嬢ちゃんだね。何かお求めかな?」
「すみません、僕は男です」
「早速女の子に間違えられちゃってるよ、リース君」
ギョルシル村までの道中で何度もヘルシャフトと抗戦した事により、呪術の媒体として必要な呪符を大量に消費した事により手持ちの呪符が残り六枚しかなかったため、呪符を作るのに必要な用紙を見つける事が出来た事に喜ぶリース。
が、用紙を取り扱っている露店の商人に少女と間違えられたため、自分が少年である事を伝える羽目になった。
齢一〇歳といえどやはり同年代の少女と間違えられるのは嫌らしく、かなり落ち込んでいた。
落ち込むリースを見て苦笑しながらも、ヨキは用紙を買うかどうかをリースに尋ねた。
「ところでリース君、その用紙どれぐらい買うの?」
「そうですね、国境までごえいするとなるとそれなりの量が必要になります。
かと言ってたくさん買いすぎてかさばるのも良くはありませんね」
「せいぜい五〇枚前後分がベストな量だな。
多く買っても逆に荷物になるし、仮に余分に買うとしても二〇枚ぐらいが限度になるな」
「法術と違って呪術を発動するのは大変なんだね…」
「そうですね、ジュフを作る時にミスをしてしまうかもしれないので、この用紙をこの長さ分下さい」
リースは呪符を制作中にミスをするかもしれない事を考え、縦一五㎝、横七㎝幅の呪符七〇枚分の長さを指定して購入する事にした。
用紙を取り扱っている露店の商人は懐から鋏を取り出すと、リースが指定した長さを正確に切り取ると切り取った分の用紙を丸めて広がらないように紐で固定すると、それをリースに渡した。
「お待ちどう! お会計は七五〇メニーだよ!」
「ありがとうございます」
「良かったね、リース君」
「そういえば墨の方はまだ残ってるのか?」
「そちらに関しては問題ありません。
あと二回分のこっていますし、スミだけはどうしても専用の物でなければダメなので見つからなければ今回はあきらめます」
呪符を作る際に使用する墨だけはどうしても専用の物でなければ効果がないらしく、呪術師としてそれだけは妥協できないようだ。
リースが用紙を取り扱っている露店の商人から用紙を受け取ったのを確認すると、三人はそのまま他の露店を見て回った。
食品を取り扱っている露店があれば、武器を取り扱っている露店、布を取り扱っている露店もあり、同じ種類の品を取り扱っている露店もあるため、ヨキはどうしても目移りしてしまいどの露店を見るべきかでどうしても悩んでしまう。
「ん~、どうしよう…」
「どうかしましたか、ヨキさん?」
「どのお店も僕には魅力的で、どれを買おうかでちょっと迷っちゃって…」
「無理に買う必要はないと思うぜ。
ヨキにとって本当に必要な物だけ買った方が得だろうし、どうしても気になるって言うなら別だろうけど」
本当に必要な物、もしくはどうしても気になる物と言われたヨキは、国境の街までの間自分にとって何が必要なのかがよくわかっていないし、あちこちで開いている露店に並べられた商品にどうしても目移りしてしまうため、限定する事が出来ない。
どうするべきかで悩んでいると、前方から男性の声が聞こえてきた。
「避けろ坊主達!」
「えっ? ギャアーッ!」
突然聞こえてきた男性の声に何事かと思い前方を向いた途端、ヨキの目の前に一本の投げナイフが飛んできたためヨキは悲鳴を上げながら開脚でとっさにしゃがみ、ギリギリの所で飛んできたナイフを買わした。
そして何故かヨキ目掛けて飛んできたナイフはヨキの背後にあった木の幹に突き刺さった。
「だっだいじょうぶですかヨキさん⁉」
「こっ怖かった~! いきなりすぎて当たるかと思ったよ~っ!」
「昨日も思ったけど、お前本当に体柔らかいな」
「兄さん、今注目すべきはそこじゃありません。ヨキさんのあんぴ確認です」
とっさに開脚しながらしゃがんだため、事なきを得たヨキだったが突然ナイフが飛んできたため、涙目になりながら怯えていた。
一方バンはというと、開脚しながら座っているヨキの姿を見て先刻のニルヴァとの戦いで見たヨキが攻撃を躱す際に仰け反った姿を思い出し、ヨキの心配はせずヨキの体の柔軟さに感心していた。
そのためヨキを心配していたリースに的確に指摘され、注意されていた。
そしてヨキの背後にあった木の幹に刺さったナイフを見ながら、何故ナイフが飛んできたのかと考えていると、先程ヨキ達に危険を知らせたと思われる男性冒険者がヨキ達の元に慌てた様子で駆け付けてきた。
「すまない、大丈夫か⁉」
「大丈夫だけど、大丈夫じゃないです」
「いっ一応無事、なのか?」
ヨキ達の無事を確認しに来た男性だったが、ヨキのよく分らない返事を聞いて少し困惑してしまった。
駆け付けてきた男性冒険者が何か心当たりがある言動を取っていたため、すぐさまリースは確認を取り始めた。
「すみません、さきほど飛んできたのはトウテキ用の投げナイフとお見受けします。
なぜ投げナイフが飛んできたのかご存じなんですか?」
「あぁ、そうだった。さっきまで俺の連れがどのナイフを購入しようか考えていた際に調子づいて、うっかり君達の方にナイフを飛ばしてしまったんだ」
そう証言しながら男性冒険者は自分の仲間がいる方向を指さした。
ヨキ達が男性冒険者が指さした方向を確認すると、申し訳なさそうにヨキ達の事を見ている青年冒険者と、その青年冒険者を叱る女性冒険者の姿があった。
ヨキは女性冒険者の姿を見て思わず声を上げた。
「あ、あぁーっ!」
「どうしたんだよヨキ、いきなり大声出して⁈」
「何かあったんだですか⁉」
「昨日僕が折っちゃったレイピアの人!」
そう、ヨキが女性冒険者を見て思わず叫んだのは、先刻の練習試合中に折ってしまったレイピアの持ち主だったのだ。
青年冒険者を叱っていたレイピアの女性もヨキの存在に気付き、ヨキに声を掛けてきた。
「て、あら? 昨日私のレイピアを折っちゃった子じゃない」
「本当にごめんなさい! まさか試合中に、刀身部分が、折れるとは思ってなくて…」
「そうね、相手がラッド族だったとはいえもう少し大切に使って欲しかったわ」
ヨキからレイピアを折ってしまった事への謝罪を受けたレイピアの女性は、納得はしている物の不満そうな様子でヨキと話していた。
貸し出していたとはいえ折られるとは思っていたなかったため、使う側からすればかなり困るのだろう。
「ところで、あの、折っちゃったレイピアは?」
「それなら今宿に置いてあるわ。一応予備のレイピアもあるし、オリソンティエラに着いたら修理に出すわ」
「オリソンティエラ?」
「アルティマ国とシャンテ国の国境を隔てている国境の街の名前だよ。
聞いてなかったのか?」
「今初めて知ったよ⁉ もしかして知らなかったの僕だけ⁉」
自分達が向かう国境の街の名前がオリソンティエラだと聞いたヨキは、一度もその名前を聞いた事がなかったため思わず困惑した。
バンとリースの様子から二人も知っている雰囲気であったため、自分一人が街の名前を知らなかった事に軽くショックも受けていた。
そんなヨキ達の様子を見たレイピアの女性は、少し意外そうな表情をしていた。
「さっきから思っていたけど、私と話している時とその子達と話している時とで喋り方が違うわね?」
「それは、その、元々は人見知り、だったので、その反動みたいな物だと、思って下さい」
「そ、そうか。所でお前さんらは何か買いに来たのか?」
「はい、オリソンティエラまでの道中にこじんてきに必要な物をこうにゅうして回っているんです。
それで他には何が必要になるか見て回っているんです」
「それならここのナイフとかどうだ?
武器だけじゃなく日常にも使える万能ナイフだし、使い勝手が良いぜ」
男性冒険者に質問されたリースは、オリソンティエラまでの道中に個人的に必要になる物を探していると答えた。
その話を聞いた青年冒険者は自分が元々見ていた露天を進めてきた。
その露天には、様々な形や大きさをしたナイフが並べられていた。
どうやらナイフ専門の露天らしく、食卓用から戦闘用のナイフ、専用の研石まで揃っていた。
「へぇ、中々良いナイフが揃ってるじゃん」
「オォ、坊主。よくわかってるじゃないか。
こちとら商売がてら毎日商品を手入れしているからな、使い勝手の良さは保証するぜ」
「リース、ヨキ、お前らも見てみろよ」
バンに促される形でヨキとリースは露店に並べられているナイフを見始めた。
二人の目から見ても並べられているナイフはどれも良い物であり、研石の方も中々質の良いものだった。
しばらくナイフを見ていたヨキは、ふと思い出したように自分のポーチの外側ポケットから一本のナイフを取り出した。
「すみません、このナイフなんですけどこちらにある研石で研いだら、綺麗になるでしょうか?
旅の間手入れが出来なくて…」
そう言いながらヨキは取り出したナイフをナイフ商人に見せた。
そのナイフはヨキが薬草を採取する際に使っているナイフであり、長い間使い回したせいかナイフの刃は細く、かなり錆びており、何より刃こぼれも酷かった。
ヨキからナイフを受け取ったナイフ商人はしばらくナイフを見ていたが、その後渋い顔をして話し始めた。
「コイツは酷いな。錆びてるだけならまだ良いが、この刃こぼれは酷い。
それ以前に、相当使い込んでるなこのナイフ。
見た感じだと三、四年は経ってるか?」
「いえ、五、六年くらい使ってると思います」
「なっかなか使い込んでるなそのナイフ」
「そりゃあ酷い有様になる訳だ」
ヨキがナイフを使い込んだ年数を告げた途端、ナイフが酷い有様になった理由を聞いた商人と冒険者達は納得した。
五、六年近くも使い込んでいれば刃も少なくなり、耐久性も自然に減っていく。
ヨキから年数を聞いたナイフ商人は、顔をしかめながらヨキにある事を告げた。
「坊主、残念だがこのナイフは寿命だ。
錆びを落として刃こぼれを直せても、ここまで細いとなると刀身が折れちまうよ」
「そうですか…」
「そういえばこのナイフ、僕達が初めて会った時から持っていましたよね。
ヨキさんにとっては何か思い入れがあるナイフなんですか?」
薬草採取に使っていたナイフが寿命だと告げられたヨキは、あからさまに落ち込んで。
ヨキの落ち込み具合から、リースは薬草採取に使っていたナイフに何か思い入れがあるのかとヨキに尋ねると、ヨキはその理由を話し始めた。
「このナイフ、僕が恵みの村で過ごして一年経った時におじさん達、ケイの両親が僕用にあつらえてくれた物なんだ。
その時の僕にとっては初めての誕生日プレゼントだから、ずっと愛用してたんだ」
「あれ? 六歳になってなんで初めての誕生日プレゼントなんだ?」
「兄さん、ヨキさんの個人じじょうをお忘れですか?」
「あ、そうだった」
自分にとって初めての誕生日プレゼントと聞いたバンは自分の感じた矛盾に顔をしかめるが、リースに遠回しにヨキが記憶喪失である事を指摘されたため、ハッとなってそれ以上は何も言わなかった。
レイフォン兄弟のやり取りを見ていたヨキはほっこりと和んでいたが、やはりナイフを修復する事が出来ないとわかり、少し落ち込んでいた。
(分ってはいたけど、このナイフにはずっとお世話になってたからなぁ。
出来ればもう少し使っていたかったな…)
「坊主、これを機に新しくナイフを買い換える事をオススメするぜ。
そのナイフは記念に持ってな。実用出来なくともお守り代わりにはなるだろう」
「はい、そうします。基本ナイフを使うのは薬草を採取する時なので、薬草採取に向いているナイフはありませんか?」
「そうだな、薬草採取ってんならこの山菜掘りナイフが良いだろう。
薬草だけでなく名前の通り山菜を採るのにも使えるし、日常生活なら園芸にも使える万能ナイフだ。
ただし、戦闘には向いてないから気をつけな」
そう言いながらナイフ商人が進めてきたのは、全長一七㎝の山菜掘りナイフだった。
両刃の片側が鋸状になっており、堅い植物を切るのに向きのように思える。
刃身の断面は緩い曲線形状になっているため、土を掘って根ごと薬草を採取するのには助かる代物だ。
山菜掘りナイフの大きさ的にも持ち運び可能な大きさだったため、ヨキは進められた山菜掘りナイフと共に研ぎ石も一つ購入する事にした。
「それじゃあ、この山菜掘りナイフと専用の研ぎ石を一つお願いします」
「あいよ、ナイフの方は七〇〇〇メニー、研ぎ石の方は五〇〇〇メニーで合計一二,〇〇〇目ニーだよ」
「ありがとうございます」
ヨキは山菜掘りナイフと専用の研ぎ石を受け取ると、自分の所持金から指定された金額を渡す。
ヨキは受け取った山菜採りナイフをポーチの外側ポケットにしまい、研ぎ石をポーチの中にしまうと、これまで使っていたナイフを布に包んだ。
「結局そのナイフはそのまま持っておくのか?」
「うん、商人さんの言うとおりお守り代わりに持っておこうと思って…」
「それならオリソンティエラの鍛冶屋に持って行ったらどう?
確か使えなくなったナイフとかを加工して、アクセサリーにしてくれる場所が合った筈だけど」
「アクセサリーか、それなら持ち運びやすそうだな」
「オリソンティエラに着いたら、探してみましょう」
これまで使っていたナイフを加工してアクセサリーにしてはどうかとレイピアの女性に提案されたため、レイフォン兄弟はその提案に賛成した。
ヨキとしてもこのまま持ち運ぶよりも、アクセサリーにして持ち運んだ方が今後困る事はないと思い、レイピアの女性の提案を受け入れる事にした。
「バンは何か必要な物はないの?
僕は山菜採りナイフと研ぎ石、リース君は呪符用の用紙を買ったけど…」
「そうだな…」
ヨキに自分は何か必要な物はないかと聞かれたバンはしばらく考えていたが、特に思い当たる事がなかったため買う必要はないかと考えていた。
すると偶然文房具関連の物を売っている露天が目に入ったため、バンはすぐさまその露店まで行き、数本の鉛筆と縦二五センチ程のスケッチブックを二冊購入して来た。
「あれ? バンって絵を描く趣味なんてあったっけ?」
「いや、特にはないけど夢の風景でも書いとけば何か分るかと思ってさ」
そう言いながらバンは購入したスケッチブックを見ながら、購入した経緯をヨキとリースに説明した。
自分がヘルシャフトにとって勝利の鍵であるとされる理由は、ソービ=キセキとして過ごす夢の中に答えがあるかもしれないと考え、夢に出てきた風景を書き写して置けば手がかりになるかもしれないと考えたようだ。
唯一ソービとしての記憶を共有できるヨキもバンの考えに気づき、それ以上は何も聞かなかった。
その後ヨキ達は宿に戻り、リースは呪符作りに専念し、バンは購入したばかりのスケッチブックに早速夢の中の風景を書き写し始めた。
「うわぁ、僕が見たバンの夢の風景と全く同じだ。バンって絵を描くの上手だね」
「前はここまで上手くはなかったけどな。これもアクセプト町での影響だと考えてた方が良いかもな」
ヨキはバンが描いている風景画を見て感心するが、バンはアクセプト町で着けられた成長の吸盤の影響がスキル以外にも出ている事に気づき、他にも何か影響が出ているかもしれないと考えた。
リースも呪符を完成させ、ヨキ達が個人で必要な物を購入し、オリソンティエラへ向かう準備が整った。
その後、午後からのエナジーフルーツの収穫作業に参加したが、やはりヨキの収穫ペースが速かったためマリが来るまで現場は混乱したという。
ご覧いただきありがとうございます。
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