第68話 勇気を抱いて
ニルヴァとの練習試合終了後、観戦していた冒険者達からやっと解放されたヨキは質問攻めとニルヴァとの練習試合の疲れも相まってぐったりしていた。
練習試合終了後に一気に大勢に囲まれるとは思っていなかったため、ヨキからすれば完全に想定外だったようだ。
「つっ疲れたぁ~」
「おつかれさまです、ヨキさん」
「マリもマリで大変やったな」
「確かにびっくりしたけど、ヨキがしっかり受け答えが出来てた事の方がびっくりだったわ」
冒険者達に質問攻めにされていたヨキは場所を移動し、マリに膝枕をされる形で休んでいた。
そんなヨキを見ていたマリは、冒険者に囲まれている間もヨキが冒険者達の質問に対してしっかり受け答えが出来ていた事をちゃんと確認しており、少し嬉しそうに笑っていた。
キールの目論見通り、ヨキは知らず知らずの内に人見知りを克服したようだ。
が、それでも大勢に囲まれるのは疲れたようで、周りにいる仲間達は少し心配そうに見ていた。
そこにエナジーフルーツで作ったジュースを手にした、ラヴァーズよりも小さな少年がヨキ達に近付いてきた。
「どうしたの僕? お姉ちゃん達に何か用?」
「くろかみのおにいちゃん、これ!」
「黒髪の兄ちゃんって、ヨキの事か。ヨキ、呼ばれてるぞ」
「え? 僕⁇」
エナジーフルーツで作ったジュースを持ってきた小さな少年がヨキを訪ねてきたと知ったバンは、すぐさまヨキに声を掛けて知らせる。
知らせを受けたヨキは起き上がり、小さな少年の方を見た。
「えっと、僕に何か用、かな?」
「これ! あげる!」
そう言うと小さな少年は持っていたエナジーフルーツで作ったジュースをヨキに差し出した。
突然の事に驚きながらも、ヨキは差し出されたエナジーフルーツで作ったジュースを受け取った。
「あ、ありがとう…」
「さっきのくろかみのおにいちゃん、すごかった!」
「凄かったって、もしかしてさっきまでの試合を見ていたの?」
「うん! けんを使ったり、ゆみを使ったり、それから風をおこしたり!」
どうやら小さな少年は冒険者達に混ざってヨキとニルヴァの練習試合を観戦していたらしく、ヨキの戦い方を魅入っていたようだ。
ギョルシル村では今回のような練習試合は頻繁におこなわれないため、小さな少年からすれば刺激的で、魅力的に見えたのだろう。
小さな少年が自分の試合を見ていたと知ったヨキは、少し驚いていた。
「そっか、見ててくれたんだ。でも最後に負けちゃったから、ちょっと恥ずかしいな…」
「ううん、くろかみのおにいちゃん、かっこ良かった!
ぼくも、くろかみのおにいちゃんみたいになれる?」
「えっ? 僕みたいに…⁇」
先程までの自分のようになりたいと言われて少し驚いたヨキは、小さな少年の質問にどのように答えるべきなのかで少し困ってしまった。
いくらラッド族であるニルヴァと対等に渡り合う事が出来たとはいえ、誰かに自慢できるほどの実力を持ち合わせていない事は、ヨキが一番分っている。
それでも、自分のようになりたいと言ってくれる小さな少年の言葉が、少し嬉しかった。
「そう、だね…。まずは、心から信頼できる仲間を探す事、かな?」
「こころからしんらいできるなかまをさがすの? なんで?」
「これは僕個人の考えだけど、一人で不安でいる時に支えてくれる、強い敵が現れた時に一緒に戦ってくれる、自分が誰なのか分らないのに一緒にいてくれる。
楽しい時もつらい時も一緒に乗り越えられる、離れていても信じ合う事が出来る。
そう思える人達がいるから、僕は安心して戦う事が出来るんだ」
小さな少年に話しかけながら、ヨキは自分の周りにいる仲間達の姿を見た。
記憶のない、臆病な自分にとって仲間達の存在は自分が変わるきっかけになった。
それだけは確かだ。
弱虫だったヨキにとって、仲間の存在は大きいものだった。
「僕は山の中にある小さな村に住んでて、緑季に入ったばかりのある日に村から離れるきっかけがあったんだ。
でも、それがきっかけで僕は村の外の世界を知って今の仲間達に出会えた。
だから君もいつか大きくなって、ギョルシル村から旅立つきっかけを見つける事が出来たなら、心から信頼できる仲間を見つけてほしいな。
きっと大変だろうけど、毎日が楽しい筈だから」
「うん! わかった! 大きくなったら、こころからしんらいできるなかまをさがすね!」
ヨキの話を聞いた小さな少年は、そのままヨキ達の元を離れて近くにいた家族の元に帰って行った。
小さな少年と話し終わった少年は、安心したのか深くため息をついてそのまま木により掛かった。
話し相手が小さな少年といえど、やはり緊張していたようだ。
「ふぅ~、緊張した~」
「なんやヨキ、小さな子供相手に緊張しとったのか?」
「緊張だってするよ。だってあんな小さな子の未来を左右するかもしれないんだよ?
そうなると責任重大だよ!」
「そんな大げさな…」
「まぁでも、ある意味冒険者あるあるね」
小さな少年の未来を左右するかもしれないという事で、ヨキはかなりプレッシャーを感じていたらしくその表情は少し焦った様子になっていた。
そんなヨキの様子を見ていたバンは大げさだと思ったが、カトレアは冒険者の間ではよくある事と認識した。
ヨキは気持ちを落ち着かせようと小さな少年から手渡されたエナジーフルーツで作ったジュースを口にしたが、蜂蜜が入っていなかったため元々の味の状態だったらしく、その酸っぱさで顔をしかめた。
酸っぱさで顔をしかめるヨキを見た仲間達は、その反応を見て笑い出した。
「アハハッ! ヨキ、お前今すごくおもしろい顔になってるぞ!」
「うっうぅ、皆酷いよ~」
「ごめんごめん、でも本当に面白かったのよ?」
「すっすみません、笑ったらダメなのはわかるんですけど、つい…」
「う~」
酸っぱさで顔をしかめた自分の反応を笑われたヨキは少し悲しい気持ちになってしまった。
そして甘さを足すために蜂蜜をもらいに行こうか考えたが、自分に憧れを抱いてくれた小さな少年の思いをむげにしてしまう気がしたため、一気に飲み干した。
その後、しばらく休んだでヨキが動けるようになった後に再びエナジーフルーツの収穫作業に参加した結果、三度ヨキが早いペースでエナジーフルーツを収穫するため現場が混乱した。
「ヨキーッ! 本当にお願いだから収穫ペースを落としてちょうだい!」
「ご、ごめんなさいーっ!」
「かっ籠の受け渡しが間に合わねーっ!」
「おーいスズ、こっちのほう手伝うてや! ヨキが早すぎて間に合わへんねん!」
「無理ーっ! 俺の方も今さっきから届くエナジーフルーツの検品で動けないんだ!」
ニヤトに行き渡らない籠の受け渡し作業の手伝いを頼まれたスズだったが、エナジーフルーツを一粒一粒確認しながら断った。
前刻、スズは国境に向かうために何が足りないのかを確認し、ヨキ達の代わりに共通で必要なものを入手していたため今日から収穫作業の参加だった。
意外にもエナジーフルーツの検品が上手かったため、検品作業の主戦力になっていたのだ。
籠の受け渡し作業に行ったら逆に検品作業が遅れ、追いつかなくなってしまう。
そのためスズは検品作業を抜けるわけに行かなかった。
「おーい次の籠持ってきてくれー」
「待ってくれ、まだ籠が空いてないんだ!」
「検品急いで、次の籠が来るわよ!」
「ちょ、早すぎじゃない⁉」
「今二籠空いたから誰か持って行って!」
ヨキ達と同じようにエナジーフルーツの収穫作業に参加していた冒険者達や作業慣れしているギョルシル村の住民達も、次々に届くエナジーフルーツが入った籠に困惑しながらも、他の冒険者と協力しながらエナジーフルーツを捌いていく。
籠が空き次第すぐさま手の空いた冒険者が受け取り、収穫作業をおこなっている冒険者や村人に渡していくなどせわしなく動き回っていた。
それはヨキ達も同じだったが、いかんせんヨキの収穫ペースが速いため一番困惑していた。
「次に空いた籠があったら教えてくれ! すぐさま他の人のところに持って行く!」
「おまちどう! 空籠 持って来たで!」
「ねぇ、何処かに空になった籠は置いてない⁈」
「こちらのエナジーフルーツがたくさん入ったカゴ、むこうにもっていきますね」
「ちょっと待って! それまだ検品終わってない!」
「ヤバい、全然まわらない…」
必死になって籠の受け渡し作業を回すバン達だったが、バン達よりもヨキの収穫ペースが速いため全く追いつけていない。
おまけに検品作業も追いついていないため、完全に現場は混乱状態だ。
そこに思わぬ救世主が現れた。
「お待たせ~。次のエナジーフルーツ持ってきたわよ」
「すまないなお嬢さん、今は持ってくるのを待ってほしい」
「ごめんマリ、まだ他の籠の検品が終わってないから空いてる籠がないんだ!」
「あら、そうなの? ちょっと見せて」
エナジーフルーツの検品作業が進まないため空の籠がないと聞いたマリは、検品途中のエナジーフルーツが入った籠を手に取ると空いている場所に座り、エナジーフルーツの検品を始めた。
傷んでいるもの、虫食いのもの、熟しているものとに次々と分けていき、籠が空になると次の籠に取りかかり、次々に検品していく。
その速度は現在主戦力になっているスズよりも早く、あっという間に空の籠が増えていった。
「これだけ籠を空にすれば十分に足りる?」
「凄ぇな! よし、すぐに空になった籠を収穫作業をしてる連中に渡すぞ!」
「次のエナジーフルーツがもう来たよ!」
「マリ、悪いけどこっちの作業手伝ってくれ!」
「えぇ、分ったわ」
マリが検品作業に参加した途端、作業の流れがスムーズに進み始めたため混乱していた冒険者達も落ち着いて籠の受け渡し作業が出来るようになった。
混乱状態を脱した冒険者達はマリが検品し終えた空の籠を受け取り、収穫作業をしている冒険者達や村人達に渡していく。
そして収穫作業二刻目の予定が終わる頃には初刻の時とは違い、収穫作業も順調に進んだためヨキ達の目の前には検品し終えたエナジーフルーツの山があった。
「いやはや、今日は収穫だけじゃなく検品作業もはかどりましたな、村長」
「初日の一七六五〇〇粒を軽く超えてしまいましたな、園長」
「たった一刻で四四五〇〇〇粒収穫できるなんて、とんでもないな…」
「その内二五〇〇〇〇粒は今日の練習試合でラッド族と戦ってた風使いの新入りが収穫したらしいぞ。
たった一人で五〇〇籠分も収穫って凄いよな」
「それ以上に今日収穫した分の四割を一人で検品した女の子の方が凄いわよ」
ヨキが一人で五〇〇籠分のエナジーフルーツを収穫していたのもそうだが、マリが一人で大量のエナジーフルーツを検品していた事に対してもかなり驚かれていた。
だが、ギョルシル村の住民達からすれば、大量のエナジーフルーツが既に検品済みというのはありがたい状況だった。
後は箱に詰めれば終わるからだ。
マリもヨキと同じで恵みの村での経験を生かす事が出来たのだろう、マリの表情はまだまだ余裕という表情をしていた。
大量のエナジーフルーツを収穫して現場を混乱させてしまったヨキは、周りにいる冒険者達やギョルシル村の住民達に謝っていた。
その刻の夜、食事の場には商品としては出せないエナジーフルーツを使った甘味が大量に出されていた。
女性陣は勿論の事、年少組や甘党のヨキも大いに喜んでいた。
いつもならここまでのエナジーフルーツを使う事が出来ないのだが、ヨキが大量に収穫した事とマリが見事なまでに検品しきったため、いつも以上にエナジーフルーツを使う事が出来たようだ。
「このケーキ美味しい!」
「あま~い」
「幸せ~」
「ねえさん、このゼリーおいしいよ」
「ありがとうラヴァーズ。だけどデザートばかり食べてちゃダメよ」
大量のエナジーフルーツを使った甘味を食べる事が出来たため、女性陣や年少組は喜んで食した。
ラヴァーズにエナジーフルーツのゼリーを渡されたカトレアは、甘味ばかり食べるのは良くないとしっかり注意していた。
そしてヨキは、一人離れた所で先に取っていた甘味に舌鼓していた。
「むぐむぐ、どのデザートも甘いから、食べやすいなぁ」
エナジーフルーツ独特の酸味がないため、甘いだけでなく自分的に食べやすい甘味はありがたい存在だった。
だが、甘味を食べている間ヨキは自分の事を考えていた。
(ギョルシル村にいられるのは今日を含めてあと四刻。
四刻後の早朝には出発して国境の街、国境を越えればルナ地方のアルティマ国に入れる。
その後は風神龍の大峡谷に向かう事になるけど、僕、記憶を取り戻しても大丈夫なのかな…)
ヨキは国境を越えてアルティマ国に入国したあと、当初の目的の通り風神龍の大峡谷を目指す事に不安を覚えていた。
その理由としてはアクセプト町で自分が起こしたという、力の暴走だ。
看病をしてくれたケイとマリの二人から聞いた話によれば、キールが風神龍の大峡谷を話題に出している間正気を失っており、発狂したと思いきや力を暴走させて周囲にいた人物を吹っ飛ばした挙げ句、最終的に覚えていないという質の悪いトラブルを引き起こしてしまった。
自分がしでかした事を聞いたヨキは、自分が記憶を取り戻しても大丈夫なのかと不安に思っていた。
(風神龍の大峡谷の事を聞いた途端、僕は可笑しくなった。
その時の事は覚えていないけど、僕自身が無自覚に思い出したくないと思っているのかもしれない…。
もしそうだとしたら、どうすれば良いんだろう…)
「おーいヨキー」
自分は記憶を取り戻しても大丈夫なのか、ヨキが不安に思っている所に用意された食事を手に持ったバンがやってきた。
バンが来た事に気付いたヨキは、口の中に残っていた甘味を飲み込むとバンに声を掛けた。
「バン、向こうで食べてたんじゃなかったの?」
「まぁそうなんだけどな、お前がここで食べてるのに気付いて他の料理を持ってきたんだよ」
そう言いながらバンは自分が持ってきた料理の器をヨキに渡した。
バンから手渡された料理の器には、エナジーフルーツを使って作ったと思われるドレッシングを掛けたサラダが入っていた。
ヨキが甘味しか食べていない事を見越してか、サラダの中には鶏肉のササミも入っていた。
ヨキはバンからサラダの入った器を受け取ると、手を着ける事なく見つめていた。
「……」
「どうしたんだヨキ? なんか苦手な物でもあったのか?」
「あっいや、そういう訳じゃないんだ。ちょっと考え事というか、なんて言うか…」
「なんだよ、悩みか? 悩みがあるんだったら相談に乗るぜ」
受け取ったサラダをぼんやりと見つめていたため、心配されたヨキはバンに相談に乗ると言われた時にどう話すべきか悩んだが、悩んでいても仕方がないと思い、思い切って今自分が思っている事を相談する事にした。
「実は、記憶を取り戻しても大丈夫なのかな、って思ってたんだ」
「どういう事だ? ヨキは自分の事を思い出したいんじゃないのか?」
「確かにそうなんだけど…。アクセプト町で僕が起こした力の暴走の事、覚えてるよね?」
「あぁ、次の目的地が風神龍の大峡谷に決まった時の事か」
「あの時はびっくりしたよな」っと笑いながらバンはアクセプト町でヨキが起こした力の暴走の事を思い出していた。
何故ヨキが力の暴走を起こしたのか理由が分らないバンは、今までのヘルシャフトとフォルシュトレッカーとの戦いによるストレスが爆発したのだろうと考えていた。
お気楽そうな様子のバンを見たヨキは、バンが何か勘違いしていると気付き、記憶を取り戻す事が不安である理由を話し始めた。
「僕、記憶を取り戻すのが怖いんだ」
「記憶を取り戻す事が怖い?」
「アクセプト町での事を聞いて、ずっと考えてたんだ。
風神龍の大峡谷の事を聞いて発狂したのは、もしかしたら僕自身自覚してないだけで記憶を取りモスコとを拒んでるんじゃないかって。
昨日、エナジーフルーツの特徴を教えてくれた人がいた事を思い出しても平気だったけど、でも、このまま記憶を取り戻していったら、その記憶を受け入れられなくて、また力が暴走するんじゃないかって、不安なんだ。
僕自身、僕が誰なのか知りたい。でも今は、記憶を取り戻す事が怖い。
どうしたら良いのか分らないよ…」
ヨキは無自覚に記憶を取り戻す事を拒み、そのせいで力の暴走を引き起こしてしまった。
万が一記憶を全て取り戻す事が出来たとしても、その記憶を受け入れる事が出来ず再び周りをまき込んで力の暴走を起こしてしまうのではないか、そう不安に思ってしまったのだ。
その結果、記憶を取り戻すべきなのか取り戻さないべきか、分らない状態になってしまった。
ケイとマリの二人と無事に再会できた今、ヨキの個人的な目標は自分の記憶を取り戻す事のみになったにも関わらず、その目標を達成する事に対して迷いが生じたためヨキが悩んでいると、バンは迷う事なくこう答えた。
「とりあえず、今は思い出せるだけ思い出せばいいなじゃないか?」
「もの凄く無責任っぽい答え方だね⁉」
「だってヨキが記憶を取り戻す度に俺もヨキの記憶覗いてる訳だろう?
俺が見た感じじゃ記憶のほとんどが楽しそうな思い出だったぜ?」
「言われてみれば、確かにそうかも…」
これまでいくつか記憶を取り戻し、そのほとんどが楽しそうに過ごす幼い頃の自分の姿があった事をバンに指摘されたヨキは、落ち着いて思い返し初めて気付いた。
だが、僅かながらに恐怖を感じる記憶がない訳でもない。
初めてヘルシャフトと戦った時に思い出した、幼い頃にヘルシャフトに襲われたという記憶と、おそらく風神龍の大峡谷の事を聞いた事がきっかけで思い出したと思われる、六翼のヘルシャフトの陰の記憶。
これらは同じ時の出来事の記憶だと思われるが、六翼のヘルシャフトに関しては地面に映った影だったため、何者であるかは分らずじまいだ。
その事を考えると、ヨキはどうしようもなく恐怖を感じたため、なるべく思い出さないようにしていた。
「これから取り戻す記憶が必ずしも良い思い出ばかりじゃないかもしれないのは確かだ。
けど、なくした記憶の中には、大切な人と過ごした思い出があるのも事実だ。
ヨキにだって本当の家族がいる筈だし、本当の家族との記憶は絶対取り戻したいだろう?
もし嫌な事を思い出したら俺が前に進めるようにお前の事を引っ張ってやるからさ」
バンは自分なりに考えた答えをヨキに伝えた。
バンの答えを聞いたヨキは、自分が覚えていないだけで自分にも本当の家族がいるのだという事に気がついた。
父親と母親がいなければ、自分は今こうしてここにはいない。
本当の家族が着けてくれたであろう自分の本当の名前も、まだ思い出せずじまいのままだ。
その事をバンに指摘されたヨキは、記憶を取り戻すべきか取り戻さないべきかという迷いを断ち切った。
「……僕、やっぱり記憶を取り戻したい。
僕の本当の家族の事、僕が誰なのか、なんで僕が記憶をなくしたのか、その理由を知りたい!」
「そうこなくっちゃな! 今日はしっかり食べて休んで、国境に向けて準備しないとな」
「うん!」
バンに励まされ、失われた記憶を取り戻す事への恐怖を断ち切ったヨキは渡されたサラダを口にした。
エナジーフルーツ独特の酸味はある物の、他の調味料と組み合わさる事で上手く調和しヨキでも食べやすかった。
(記憶を取り戻すのは確かに怖い、だけど怖がってばかりじゃいられない。
勇気を出して、一歩ずつ進んでいこう…。
記憶を取り戻したその先に何かあるのか分らないけど、それでも僕が僕である事は変わらない筈だから!)
改めてきおくを取り戻す事を決めたヨキは、その心に勇気をいだき夜空を見つめた。
記憶を取り戻した結果、何が起こるか分らない。
分らなかったとしても失った思い出を取り戻すため、自分が何者であるかを知るために、少しずつ前に進む事を決意した。
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