第65話 練習試合
練習試合開始早々、判断ミスで丸腰状態になってしまったヨキ。
杖を取りに行こうにもその肝心な杖は対戦相手であるニルヴァの後方だ。
それ以前に、ヨキは杖が吹っ飛んでしまった事に困惑しており、慌てふためいて次の行動に移る事ができないでいた。
そうこうしている間に、ニルヴァの次の攻撃がヨキに迫る。
「あわわわわわわわわっ!」
「何やってるんだヨキ! この練習試合では法術も使えるんだぞ!」
「そっか! ウィンドゥ・ウィンドゥ!」
観客席で練習試合を観戦していたバンの一言で、法術を使える事を思い出したヨキはすぐさまウィンドゥ・ウィンドゥを発動させ、ニルヴァを空中に吹っ飛ばす。
ニルヴァが空中に吹っ飛ばされている間に、吹っ飛んでしまった杖を取りに向かう。
だがそこで、予想だにしない事が起きた。
「あれ、杖がない⁉ 確かこの辺りに突き刺さって、僕の杖何処行っちゃったの⁉」
杖が突き刺さった筈の場所には、何故かヨキの杖が消えていたのだ。
自分の杖が突然消えるという事態に見舞われたヨキは、自分の杖が突然消えた事に対して激しく混乱した。
肝心のヨキの杖は、キールがヨキに気付かれないようこっそりと回収していたのだ。
(ヨキは他の面子と違って急激な状況の変化に弱い。
自分が愛用している杖が無くなるというこの状況、この状況を自力で打開しない事には勝てないぜ)
キールが自分の杖を回収していたとは露知らず、ヨキは自分の杖を必死に探す。
だが見つからない杖を探し続けている内に、空中に吹っ飛ばされたニルヴァが地上に着地し、ヨキに向かって走り出した。
「いけない、ニルヴァがヨキに向かい始めた!」
「ヨキ、杖を探すよりも近くにある武器を取って!」
「この試合は、色んなぶきが使えますよ!」
ニルヴァが向かってきている事に気付いたヨキは、不意に自分の右太ももに装着されたレッグポーチが目に移り、すぐさまレッグポーチに手を伸ばして中に入れてあるレイアの手作りの投げナイフを一本取り出す。
投げナイフを手に取るとそのままニルヴァの足元目掛けて投げた。
足元目掛けて投げナイフを投げられたニルヴァは、とっさにロングソードを横に振るって弾き落とす。
僅かにできたその隙に、ヨキはすぐ近くに設置された長柄槍を手に取る。
そして振り返ると同時に長柄槍を振るいながら接近して来たニルヴァのロングソードを弾く。
ヨキは長柄槍を構えると、そのまま攻撃態勢に入る。
(なんとか槍を持てた! でも僕の杖が見つからない、探したいけどそんな余裕ないよ!)
ヨキは長柄槍を手にしたはいいが、自分の杖が見つけられないため非常に焦っていた。
だがその間にもロングソードを持ったニルヴァが体勢を立て直し、ヨキに接近する。
ヨキはキールが槍を使っている時の様子を思い出しながら、長柄槍を使ってニルヴァと戦い始めた。
ヨキは長柄槍のリーチを利用してニルヴァのロングソードの軌道をずらすが、起動をずらす事で精一杯。
攻撃を仕掛ける事ができない。
「オラオラ、どうした⁉ その程度か⁉」
(攻撃を防げても攻撃ができない。もう一度法術を使う?
けどラッド族は本気になれば、僕の風を逆に利用してくるかもだし、それならもう一度武器を持ち替えた方が良いかも…!)
そう考えたヨキは長柄槍の穂先を地面に突き刺し、棒高跳びのようにしてニルヴァの頭上を飛び越える。
ニルヴァを飛び越えて着地すると、ヨキはそのまま走り出して別の武器を取りに向かう。
ニルヴァもヨキを追って走り出すが、ヨキは振り向くと同時にニルヴァに向かって持っていた長柄槍を勢いよく投げつける。
自分に向かって飛んでくる長柄槍を見たニルヴァは横に躱し、飛んできた長柄槍を避ける。
ヨキが別の武器に辿り着くと、すぐそこまでニルヴァが迫っているという事もあったのか鉄製の盾を手に取る。
ニルヴァがロングソードで斬りかかろうとすると同時に、ヨキは盾を自分の前に移動させて攻撃を防ぐ。
攻撃を防いだはいいが、その一撃はやはり重く、思わずバランスを崩しそうになった。
「攻撃は防げたけど、防戦一方で全然攻撃できとらんやないかい!
コラヨキ、逃げるだけじゃなく自分からも攻撃し掛けんかい!」
「使い慣れてる杖が無くなっちゃったからね。(しかもその杖をキールが回収しちゃったから、尚更ねぇ…)」
ニヤトが防戦一方のヨキに激励している間、フィービィーはヨキの杖をこっそり回収したキールの方に視線を向けながら、キールの意図を汲み取る。
とはいってもこのままだとヨキが防御に徹し続けるのが確定してしまうため、自分なりにヨキへアドバイスを送る事にした。
「ヨキーッ、盾を手に入れたならちゃんと装着して!
ちゃんと取手を掴んで装備すれば片方の手でも持てるし、開いた方の手で片手剣を装備できるようになるから!」
「片手剣? えっと、えぇっと、これだ!」
片手剣と聞いたヨキは、ニルヴァからの攻撃を防ぎながら設置されている武器を確認し、自分の手の届く所にそれらしい武器を発見した。
フィービィーからのアドバイス通り、盾についている取手を掴んでバランスを安定させ、素早く片手剣と思われる剣を手に取る。
そして一気に前進し、その反動を利用してニルヴァを押しのけ、剣を振るい攻撃を仕掛ける。
ヨキが手にしたのはブロードソードだ。
攻撃力はそれ程見込めないが、初心者が扱うのであらば何ら問題はないだろう。
ヨキはブロードソードでニルヴァの二の腕や手の甲を狙いロングソードの軌道をずらし、盾でニルヴァの攻撃を弾いて反撃のチャンスを作り出す。
少しずつだがニルヴァと戦えるようになり出したため、観客席で見学している冒険者達は盛り上がり出した。
「凄いぞあの坊主、ラッド族相手に反撃したぞ!」
「ガードガード! よし、今が反撃のチャンスだ!」
「最初杖を回収されちゃった時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと他の武器を選んで戦えてるわね」
「坊や―っ! 武器だけじゃなく風も使えば案外有利かもしれないわよーっ!」
観客席で観戦している冒険者達はニルヴァと戦うヨキに感心しており、中には仲間達同様にアドバイスをくれるものも現れ始めた。
風を使えば有利になるかもしれないと聞いたヨキは、法術を発動させるタイミングを計り始めた。
だが、これまで法術を発動させたタイミングは常に相手から離れた位置。
ニルヴァとは近距離で戦っているため、その距離で法術を発動しても良いものかとためらっていたが、どちらにしても現状を変えなければ逆転できないと判断し、安全性を考えベール・ベールを発動させる。
「ベール・ベール!」
タイミングを見てベール・ベールを発動させ、ヨキがベール・ベールで発動させた風の障壁がニルヴァの攻撃を弾く。
ヨキのベール・ベールで弾かれた拍子にニルヴァはロングソードを手放し、無防備な状態に陥った。
ニルヴァがロングソードを手放した姿を見てチャンスだと確信したヨキは、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛ける。
「いっけぇーっ!」
「そう簡単にやられてたまるかよ!」
ロングソードを手放してしまったニルヴァはすぐさま近くに設置された鎖分銅を手に取ると、そのままヨキが握っているブロードソードの刀身に巻き付ける。
それを見たヨキは危険を感じ、すぐさまブロードソードを手放した。
ヨキのその予想は的中し、ニルヴァは鎖分銅を勢いよく上に振り回し、ブロードソードを空中へと放り投げた。
ヨキが使っていたブロードソードが空中に放り投げられる様子を観客席から見ていたバン達は、目を見開いて驚いていた。
「嘘だろう⁈ そこで鎖分銅かよ!」
「けれど、あそこでブロードソードをてばなしていなければヨキさんが返りうちに遭っていたかもしれませんよ」
「確かにそうかもしれないけど、さっきの剣を放しちゃったからヨキは盾しか持ってないわ。
大丈夫かしら?」
「盾でぼうぎょはできるだろうけど、早く次のぶきを手に取らないとむずかしいぞ」
ブロードソードを手放したため攻撃手段を失ってしまったヨキは盾を使ってニルヴァの鎖分銅による攻撃を必死に防ぐが、反撃する事ができない。
新しい武器を手にしようにも他に片手剣が見当たらないため、反撃する事ができない。
反撃できず防戦一方になっていると、再び観客席にいる冒険者からのアドバイスが得られた。
「坊主ーっ、ブロードソード以外にも片手剣はあるぞ!
なんなら片手剣に限らず手斧を含めた打撃武器やジャベリンを使っても支障はない!」
「ジャベリン? ジャベリンって何⁈ どれがジャベリンか分からないよ!」
「ジャベリン知らないパターンだったか!」
「後ろに細剣があるから、それ使いなよ!」
「細剣? これかな⁈」
ヨキは観客席の冒険者に教えられ、自分の背後に設置されている細剣に視線を向ける。
そこには細身の刀身が特徴の細剣が設置されていたが、それを見たヨキは今の状況で使うべきではない気がした。
何故かは分からないが細剣を使えば先程のブロードソードの二の舞になる気がしたのだ。
(細剣を使うにしても、ニルヴァさんのあの武器をなんとかしないと…。
さっきみたいに武器を手放すきっかけを作る事ができれば…、そうだ、これなら手放してくれるかも⁉)
一つの策を思いついたヨキは飛んできた鎖分銅を上の方向へ弾くと、素早く右太もものレッグポーチに手を伸ばして投げナイフを一本取り出すと、鎖分銅を持つニルヴァの手に向けて投げた。
投げナイフはニルヴァの手に直撃する事はなかった。
が、代わりに手の甲をかすめてニルヴァを怯ませる事はできた。
その隙にヨキは背後の細剣を手に取ると、一気に距離を詰めて鎖分銅の錘が上空から落ちてきたと同時に、細剣の先端を錘付近の鎖の穴に器用に通すと、そのまま勢いよく別の方向に細剣を振るう。
手の甲をかすめ怯んでいたニルヴァは鎖分銅の柄を握る力を弱めており、鎖分銅の錘が別の方向へ飛ぶと同時に、ニルヴァの手から鎖分銅の柄がすり抜け観客席の方に飛んでいく。
「うわぁっ! こっちに飛んできた⁈」
「ウィスティリアの壁がなかったら危なかったわ…」
「観客席の皆さんごめんなさいー」
「ヨキーッ! 意識をそらしたらやられるぞ⁉」
観客席側に鎖分銅を投げ飛ばしてしまった事を謝罪していると、バンから注意されたためヨキは細剣と盾を構え直しニルヴァの方に向き直る。
ヨキが観客席に意識を向けていた隙に、ニルヴァはすぐ近くに設置されていた籠手を装備していた。
籠手を装備したニルヴァの構え方を見たヨキは、盾を装備した左手を前に移動させ防御に徹した。
その直後、ニルヴァが一気に間合いを詰めて右ストレートの攻撃を仕掛けてきた。
すぐに盾で防御したおかげで直撃を免れたが、その一撃だけでヨキは吹っ飛ばされた。
「うわぁーっ⁉」
「「ヨキ/さん!」」
「たった一回のパンチで、ヨキさんがふっとんじゃった!」
「一撃であれだけの威力、なんて攻撃力なの」
攻撃を防がれたにも関わらず、たった一撃でヨキを吹っ飛ばしたニルヴァの攻撃を見た仲間達は、吹っ飛ばされたヨキの身を案じる。
それに対し、一撃でヨキを吹っ飛ばしたニルヴァの攻撃を見たカトレアは、その威力に感心していた。
文献でしかラッド族の事を知らなかっが、実際は文献の情報以上ではないかと考えていた。
一方、吹っ飛ばされたヨキは体中に痛みを感じながらも体勢を立て直し、次の攻撃に備える。
(危なかった! さっきの構え方が少しだけバンの構え方に似てたから体術で攻撃してくるかもとは思ってたけど、もの凄い一撃だった。
もし直撃してたら絶対骨が折れちゃうところだったよ!
その証拠にさっき盾を確認したらへこんじゃってるもん!)
ヨキは正面がへこんでしまった盾を見ながら、ニルヴァの一撃の威力に戦慄した。
とっさに防いだとはいえ、一撃で盾に大ダメージを与えたその威力は、まさしく本物だ。
ヨキが持つ正面がへこんだ盾を目の当たりにした観客席の冒険者達は、一気に騒ぎ始めた。
「見ろ、さっきの一撃で鉄製の盾がへこんでるぞ!」
「ラッド族は戦闘に特化してるとは聞いてるけど、一撃で鉄製の盾をへこませるってどういう仕組みだよ⁉」
「それよりも風使いの男の子もよく反応できたわね」
「それよりあの盾、俺が使ってるやつなんだけど…」
「盾の持ち主の方ごめんなさいーっ! (待って、もしかしてここにある武器全部借り物⁉)」
観客席の冒険者達がニルヴァの攻撃力に驚いている中、その中で現在ヨキが使っている盾が自分の物だという発言を聞いたヨキは反射的に謝罪の言葉を述べる。
それと同時に練習試合会場に設置されている武器が全て借り物ではないかという事に気付いた。
(これだけの武器をどうやって用意したんだろうとは思ってたけど、これ全部借り物なら納得できるけど、壊れちゃったらどう責任とる気なのキール君⁈)
「俺を無視するとは、良い度胸だなぁ⁉」
練習試合会場に設置されている武器が借り物だと知り困惑していると、ニルヴァは容赦なくパンチングによる攻撃を仕掛けてきた。
ヨキは瞬時に盾で攻撃を防ぎつつ、細剣による刺突攻撃を繰り出す。
両者ともに現在使用している武器の特徴を生かした攻撃を繰り出し、戦闘を続ける中、観客席で見ていたマリはふと疑問に思った事があった。
「ねぇ、今気付いたんだけど、誰か武器の使い方についてヨキに説明した?」
「どうしたの急に?」
「恵みの村が襲われる前まで、村の外に出た事がなかったからそれまで狩猟用の物以外で武器を見た事がなかったの。
だから武器の使い方なんて全然分からないし、あんなにあったらヨキだってどう使ったら良いかわからない筈だもの」
「それならバンとリースがした筈よ。
私達のグループが合流する前に旅していた訳だから、その辺りの説明はしている筈だもの」
ヘルシャフトに襲撃されるまで狩猟に使う物以外の武器を見た事がなければ使い方も分からないマリは、自分と同じように狩猟用の武器を見た事がなく、使い方も分からない筈のヨキが知らない武器を使っている事に疑問を抱いていた。
次々と武器を取り替えて戦い続けるヨキの姿を見ていたマリは、誰かがヨキに武器の使い方を説明したのかと思い、その事を尋ねたのだ。
そんなマリの疑問に対し、ディモルフォセカはヨキと共に旅をしていたレイフォン兄弟がヨキに武器の使い方や特徴を教えたのだろうと答えた。
だがそこで、マリとディモルフォセカの会話を聞いていたバンが、二人が驚く事実を告げた。
「何言ってるんだ? 俺達は武器の事教えた事ないぜ?」
「「え?」」
ヨキに武器の事を教えた事は一度もないというバンの証言を聞いたマリとディモルフォセカは、予想外の言葉に唖然とした。
マリとディモルフォセカは何かの間違いではないかと思い、思わずバンに聞き返した。
「それ、バンの勘違いじゃないの?
教えた事を忘れてるだけで実際には教えていたとか…」
「それはあり得ません。僕たちが旅を始めてから一度もヨキさんにぶきの使い方をでんじゅした事はありません。
むしろ、杖以外はよゆうがないと思って杖術のとっくんしかしてません」
「でも、ヨキはあぁして武器を持ち替えて戦えてるわ」
バンの証言に加え、更にリースの証言も加わったためヨキが二人から武器の使い方や特徴を教わっていないのは確かだと確信した。
レイフォン兄弟からその話を聞いたマリは、ヨキが武器を何度か持ち替えて戦えている事に更に疑問を抱いた。
見た事もなければ使い方も分からない武器を、当たり前のごとく使う事など到底不可能だ。
「二人が言ってる事が本当だとすると、どうしてヨキはあそこまで武器を扱う事ができるの?」
「僕たちもわかりません。マリさん、何か心当たりはありませんか?」
「心当たりって言われても、分からないわ。あっ、でも…」
リースに何か心当たりはないかと尋ねられ、一度は分からないと答えたまりだったが、ふと何かに気付き、悩み始めた。
その様子に気付いたディモルフォセカは、マリに何に気付いたのか尋ねる。
「何かあったの、心当たり?」
「心当たり、って良いのか分からないけど、私とケイがヨキを見つけて2年が経った頃の話になるの。
六年前の桜季頃、盗賊が恵みの村に襲われた事があったの」
「とうぞくにおそわれたんですか⁈」
「えぇ、幸い人数が少なかった事とケイが悪戯で仕掛けた罠のおかげで被害が出ずにすんだのだけど…」
「盗賊を捕まえる罠って、それ大丈夫な奴かよ?」
「続けて」
マリから恵みの村がヘルシャフトに襲われる前に、盗賊に襲われていた事とケイが悪戯で仕掛けた罠で盗賊を迎撃していた事を聞かされたバンは、そちらに意識をそらしてしまう。
そんなバンを無視してディモルフォセカはマリに話を続けるように指示を出す。
マリはディモルフォセカに言われた通り、話を続ける。
「確かに盗賊を捕まえる事はできたけど、その時一人だけケイの仕掛けた罠に引っかからなかったのよ。
その後盗賊は村の納屋に逃げ込んだんだけど、運悪く納屋には農具の片付けをしていたヨキが一人でいたのよ」
「それってどう考えてもヨキさんが一番危ないじゃないですか!」
「よく無事でいられたわね。その時はまだ法術は使えなかった筈でしょう?」
「それが伯父さん達が駆け付けた時には、納屋に逃げ込んだ盗賊はボコボコになってたのよ」
「…ごめんなさい、マリ。貴女今なんて言ったの?」
思いもよらぬマリの証言を聞いたディモルフォセカは、自分の聞き間違いかと思いもう一度マリがなんと言ったのか尋ねた。
だがディモルフォセカの思いも虚しく、マリは当たり前にように同じ証言を答えた。
「だから伯父さん達が駆け付けた時には、納屋に逃げ込んだ盗賊はボコボコになっていたのよ」
「どうしてそうなった⁉」
「聞き間違いじゃなかった…」
ケイの父親であるミトを含めた恵みの村の大人達が駆け付けた時には、納屋に逃げ込んだ盗賊は既にボコボコになっていたというマリの証言を聞いたディモルフォセカは、愕然とした。
同様に聞いていたバンも、状況がいきなり一変した事に対して困惑していた。
リースも慌てた様子でマリにある事を問いただす。
「待ってください待ってください、たしかなやの中にいたのは逃げこんだとうぞくと当時のヨキさんだけですよね⁈
その時のヨキさんはどういう状況だったんですか⁉」
「その時のヨキは右手に子供でも持てる大きさの鋤を持った状態で、すごく泣いてたけど不思議な事に無傷だったのよ」
「え゛っ、それって…」
「もしかしなくても、盗賊をボコボコにしたのは、ヨキ…⁇」
泣きながら鋤を右手に持ち、何故か無傷だったと聞いたリースとディモルフォセカは、納屋に逃げ込んだ盗賊をボコボコにした犯人が、当時のヨキではないかと思った。
だがその証言を聞いたバンはリースとディモルフォセカの二人とは違い、一人何か考え始めた。
バン達がヨキが武器を何度か持ち替えて戦えている事に疑問を抱いている内に、ヨキとニルヴァの練習試合は進んでいた。
ヨキは刺突攻撃だけではなく、時折斬撃を交えて攻撃していた。
ヨキは一度も立ち止まる事なく刺突攻撃を続け、ニルヴァの格闘術を盾で防ぎながら戦闘を続ける。
(さっきから腕を止めずに攻撃してるのに、一度も僕の攻撃が当たらない。
それにこの鉄の盾もニルヴァさんの攻撃を受け続けたせいで、もう限界が近い、というよりもこれ借り物なのにどうしよう!)
壊れかけている盾の事を気にしつつも、細剣による攻撃が一度も当たらない事に焦るヨキ。
だが、その事を気にしている内に、ニルヴァに細剣の刀身を捕まれると同時に刀身をへし折られてしまった。
「ポッポッキリ折れたーっ⁉」
「ちょっと! 何人の細剣折っちゃってくれてるのよ⁉」
「うわぁーっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
細剣が折れると同時に観客席から折れた細剣の持ち主と思われる女性冒険者のクレームが聞こえてきたため、ヨキは思わず謝罪の言葉を述べる。
細剣を折られると思っていなかったヨキは、完全に想定外な展開であったためテンパっていた。
ヨキがテンパっている内に、ニルヴァはへし折った細剣の刀身を投げ捨てるとヨキに向かって拳を突き出す。
その事に気付いたヨキはとっさに盾で攻撃を防ぐが、その直後にニルヴァは右足によるハイキックを繰り出す。
気付きながらも鉄の盾では防げないと感じたヨキは、とっさに折れた細剣を左頬に移動させ、護拳でニルヴァのハイキックを防いだ。
(盾じゃ間に合わないと判断して、護拳で攻撃を防ぎやがったか!)
「ッウィンドゥ・ウィンドゥ! でやぁあーっ!」
ニルヴァのハイキックを防いだナキは、柄全体にウィンドゥ・ウィンドゥをかけると、そのまま勢いよく細剣の柄を反対方向に振るいニルヴァの右足をはね除ける。
ニルヴァはそのままバランスを崩し、とっさに受け身を取る。
ヨキは僅かにできた隙を利用し、今度は自身にウィンドゥ・ウィンドゥをかけて移動速度を上げる。
そして移動した先で鉄の盾と細剣の柄を手放したヨキは、周りが驚く武器を手に取った。
その武器を手にしたヨキは、すぐさまニルヴァの元まで戻り攻撃を繰り出す。
向かってくるヨキを返り討ちにしようとしたニルヴァだったが、ヨキが手にしている武器を目の当たりにしてとっさに攻撃を躱した。
ヨキが繰り出した攻撃は地面に直撃すると同時に、攻撃が直撃した箇所には小さなクレーターのような物ができあがっていた。
それを見ただけでヨキが使っている武器が、どれだけ攻撃力が高いかが一目で分かる。
そしてヨキが現在手にしているのは、ヨキの背丈と頭部くらいの打撃部分が付いた大型戦鎚だ。
ニルヴァが怯んだのを見たヨキは、そのまま大型戦鎚による攻撃を繰り出し始めた。
「お、おぉーっ! なんや凄いやないかヨキの奴!
いつの間にあんな戦い方ができるようになったんや!」
「大型戦鎚を使うのなんて初見の筈なのに、ちゃんと使い方を理解してる?
どうなってるの?」
「ねえさん見て! ヨキさんがすごく大きなかなづちをふりまわしてる!」
「金槌じゃなくて大型戦鎚よ。
でも信じられないわ、あんなに重そうな戦鎚を軽々と振り回すなんて…」
「ヨキったらいつの間にあんな武器の使い方を覚えたのかしら⁇
危なくてこっちが心配だわ…」
ヨキが大型戦鎚を使って戦い始めた姿を見た仲間達は、何故ヨキが大型戦鎚の使い方が分かるのか分からず困惑していた。
そんな仲間達の疑問に答えたのは、マリの証言を聞いて考え込んでいたバンだった。
「そうか分かったぞ!」
「どうしたんですか兄さん?」
「バン、何か分かったの⁇」
ヨキが見た事も扱い方も分からない武器を使いこなしている理由が分かったと聞いた仲間達は、謎を突き止めたバンに一斉に視線を向けた。
そして謎を解き明かしたバンは、自分が辿り着いた答えを仲間達に告げる。
「ヨキがいろんな武器を使いこなせるのは、ある素質を持っているからなんだ」
「そしつって、なんのことですか⁇」
「人が生まれ持った性質、いわば才能の事よ。
ディモルフォセカなら幻術使いの、リースなら呪術の素質がある事で、それに適した戦い方ができるのよ。
それより、ヨキが武器を扱える素質ってなんなの?」
カトレアが素質について簡単に説明すると、ヨキが武器を扱える理由となっている素質がどんな物なのかをバンに訪ねた。
そしてバンはある素質の名を口にした。
「ヨキが持っている素質は、ウェポンマスターの素質だ」
ご覧いただきありがとうございます。
もしよろしければコメントなどお気軽に頂けたら幸いです。




