第64話 不本意な申し込み
エナジーフルーツの収穫作業二日目。
ヨキはディモルフォセカに注意されたように収穫のペースを落としながら、エナジーフルーツを収穫していた。
だが、収穫のペースが落ちているのは、別の理由だった。
(あと二重時で白丑時。どうしよう…)
ヨキの収穫のペースが落ちる程悩んでいる理由、それは前刻の収穫作業後の事だった。
*****
『練習試合、って僕とですか?』
『ディルカやバン達ならともかく、なんでヨキとなの?』
突然ヨキに練習試合を申し込んできたニルヴァの対応に驚いたフィービィーは、何故ヨキを選んだのかと尋ねた。
それは一緒にいたバン達も同じで、仮に申し込むとしても冒険者としての経験があるバンかニヤト、もしくは戦闘経験があるディモルフォセカだ。
それなのに何故ヨキなのか全くわからないでいると、ニルヴァはヨキ達に理由を話し始めた。
『一人であれだけのエナジーフルーツを収穫できるんだ、それなりに判断力はあるだろう。
それに木から木への移動、何かしら訓練でもしてなけりゃあそこまでの身のこなしで素早く移動できる筈がないからな』
『それはヨキが山育ちで収穫作業に慣れてるからだ。
訓練とかそういうのは何もしてないし、今ここにいるメンバーの中でなら実力は一番低い方になるぞ』
『それはないな、仮にそうだとしてもあそこまでの動きはできないだろう。
他の連中でもそう簡単に昇り降りを繰り返すなんてできる事じゃねぇ、何よりお前らヘルシャフトとやり合ってんだろう?』
『確かにそうかもだけど…』
ニルヴァ視点で見たヨキの動きは周りにいる冒険者と同格、そしてヘルシャフトと戦っている事から実力も問題ないだろうと判断していた。
その事を指摘されたヨキ達は、反論する事ができず練習試合を断れなくなった。
『明日の白丑時、シースカーレットと試合を行った場所で練習試合をする。
遅れずに来いよ?』
*****
「はぁ~、どうしてこんな事になっちゃったんだろう…」
「ヨキさーん、かごがいっぱいになってエナジーフルーツがあふれちゃってますよー」
「あ、ごめんリース君」
ニルヴァと練習試合をする事が確定し、その時刻が迫っている事について悩んでいるとリースにエナジーフルーツが籠から溢れ返っていると注意された。
その事を指摘されたヨキはエナジーフルーツをこぼさないように優しく抑えながら、地上へと降りた。
「なんだかなやんでいる様子でしたけど、もしかして昨日言っていたれんしゅうじあいの件ですか?」
「うん、その事でちょっと困っちゃって…。
いくら戦いなれても、ニルヴァさんの方が絶対強いし、実力差もあるから不安しかないよ。
なんで僕なんだろう…」
何故自分が練習試合を申し込まれたのかいまだに理由がわからないヨキは、ニルヴァとの実力差に不安しかなく、かなり落ち込んでいた。
戦闘特化のラッド族であるニルヴァは間違いなく強い、インバシオンに所属していたリースもその事は知っているため、ヨキが練習試合を申し込まれたと聞いた時はリースも流石に驚いていた。
対策も全くないため、ヨキが勝てる可能性はほぼゼロに等しい。
「ホウジュツで対抗はできそうですか?」
「その事だけど、キール君に話したら難しいって言われちゃって…」
「逆にヨキが起こした風を利用されるかもしれないからな」
そう言いながら二人に話し掛けて来たのは、エナジーフルーツで一杯になった二つの籠を抱えたバンだった。
バンの表情はヨキ同様納得していないという様子でしかめっ面になっており、練習試合をどう乗り切らせるか考えていた。
「ラッド族は身体能力が高いうえ、戦闘センス抜群だ。
本気を出せばどんな吹き荒れる風でも確実に読んで、その流れを利用した攻撃を仕掛けてくる筈だ」
「キール君もその事言ってた。
僕とはかなり相性が悪い相手になるって言われて、本当にどうしよう…」
自分とかなり相性が悪い相手との練習試合となってしまった事に対し、ヨキは頭を抱えていた。
約束の白丑時まであと二重時しかない、けれども対抗する術がないため勝てる見込みもない。
ヨキとしては本当に練習試合をしたくない気持ちの方が強かった。
練習試合の話をした時、仲間達の大半がなんとか断れないのかと考えたが、キールの考えは全く違っていた。
「ヨキさんが練習試合をする事になったのにはおどろきましたが、それ以上にさくやのキール君の発言の方がおどろくことしかできませんでしたね…」
「説明した後の一言が、『よしわかった。ヨキ、お前明日の練習試合受けろ、そんでもってコテンパンにして来い』、だからなぁ」
「そこは止めて欲しかった…」
そう、バンが先程言った通り、キールはヨキに今日の練習試合を受けてニルヴァを倒せと指示を出したのだ。
キールの考えはヨキが冒険者の実力者であるニルヴァを倒す、もしくは対等に渡り合う事で新参者である自分達の実力を示そうという者だ。
バンとリースもキールの意図を悟ったが、不安しかないため反対したのだが、ラピス、ヒエンもその考えに賛同し、ヨキが練習試合を受ける事を後押ししてしまった。
そして自分達の実力を示すためにキールが率先して練習試合の準備を行っていたため、そのため戦う本人は頭を抱えるばかりだ。
「とりあえずまだ時間はあります。
白丑時になる前に、かのうな限り対策を考えましょう」
「そうだな、今はエナジーフルーツを収穫する事に集中しよう」
「う~、自信がないよ~」
残された時間で可能な限り対策を考える事にはなったが、収穫作業中も全く妙案が思いつかず、時間だけが過ぎていく。
そして時刻が白子時前になった時、休憩の時間を告げるベルの音が聞こえて来た。
午前中に集まったエナジーフルーツの量は前刻よりも少ないが、それでもかなりの量を収穫する事ができた。
休憩時間に入ったヨキ達は昼食をとるために広場に移動し始めた。
その途中、フィービィーがニルヴァと練習試合をおこなった場所では、キールが他の冒険者と協力して準備を行っていた。
その表情は子供らしく何か企んでいるように笑っており、生き生きとした様子だった。
「キール君の笑顔がちょっと、いや大分怖いよ…」
「完全にヨキを戦わせる気満々だな、キールの奴」
「実力をしめすのでしたら、キール君でも良かったとおもうんですけど…」
「ヨキー、こっちにいらっしゃい、ご飯用意できてるわよー」
笑顔で練習試合の準備をするキールの様子を見ていると、食事の配膳の手伝いをしていたマリが三人を呼び寄せた。
マリに呼ばれた三人はそのまま食事をとりに向かい、マリと他の配膳の手伝いをしていた村人から食事を受け取る。
そこでバンは、マリが配膳したヨキの食事だけ量が少ない事に気付いた。
「あれ? なんかヨキの飯の量少なくねぇか?」
「本当ですね。僕たちの食事はいっぱんてきな量なのに、マリさん、はいぜんの量をまちがえてませんか?」
「その事だけど、さっきキールに言われて『練習試合に支障が出ても困るから、ヨキの食事の量は減らしておけ』って言われたのよ」
「完全に僕任せの展開なんだね」
食事にまでキールの手が回っていると知ったヨキは、もはやニルヴァとの練習試合は避けられない状況である事を思い知らされた。
落ち込むヨキの気を紛らわせようと、バンは話題を練習試合からケイの容態に切り替えた。
「ところで、ケイの様子はどうだ?」
「ケイの顔から青紫の隈はすっかり消えたわ。
多分急性霊力欠乏症は完治してる筈だけど、一昨日の夜から一向に目を覚まさないの。
今はヒバリがケイの事を見てくれてるんだけど…」
マリは急性霊力欠乏症で倒れ、体力と霊力をそれぞれ回復させる回復薬を飲ませたにも関わらず、いまだ目を覚まさないケイを心配していた。
ケイの容態を聞いたバンは、マリに説明した。
「霊力の回復に時間がかかってるんだな、多分明日の朝くらいには目を覚ます筈だ」
「そうなの? それなら安心ね…」
「ケイの事は安心だけど、僕は練習試合の方が心配だよ~」
「それなら他の皆や、冒険者の人達の意見を聞いてみたらどうかしら?
冒険者の人達なら、私達よりもいろんな経験をしているから、何か良い意見をもらえるかもしれないわ」
「そうですね、じっさいに行動している人達にきけば何かヒントになるかもしれません」
練習試合に向けてニルヴァに対抗するべく、他の仲間達やバーナードキャラバンの護衛をしている冒険者達に、意見をもらえばどうかとマリに勧められたため、ヨキ達は昼食時間の間に仲間達や冒険者達に話し掛けて情報を集めた。
槍のリーチで隙を着けないか、ロングソードでの刺突には気を付けろ、一気に走り込んで懐に入り込め、投擲武器の類で撹乱はどうかと、様々な意見が得られた。
あえて武器を変えるという手もあるのだろうが、ヨキとしては使い慣れた杖を使った方が安心できる。
逆にあえて使いなれていない武器に持ち替えた事で逆に負ける可能性もある。
それならば投擲武器の意見を取り入れてはどうかと、バンが助言した。
そこでレイアから手作りの投げナイフを五本借り、すぐ手に取れて相手からわかりずらいようレッグポーチをヨキの右太ももに装着する。
「ヨキ、違和感はないか?」
「うん、大丈夫そうだよ。これなら問題なく動けると思う」
「レイア君から借りれた投げナイフは全部で五本。
しようするタイミングはちゅういして下さい、相手に当てられなくてもかくらんには十分やくだつはずです」
「当てられそうなら手の甲を狙え。
少なくとも、痛みでロングソードをまともに握れなくなって勢いが軽減される、足元を狙えば一瞬だけ足止めになる」
バンとリースから投擲ナイフを使うタイミングや狙う場所の助言を受けたヨキは、杖を握りしめて練習試合が行われる場所に向かった。
だが、練習試合が行われる場所は予想外の事になっていた。
「何これーっ⁉」
「「本当になんじゃこりゃぁ/なんですかこれはぁ⁉」」
三人の目に映ったのは、丁寧に整えられた地面と、その地面を円状に囲むように設置された幾種類もの武器だった。
他の冒険者や村の住民達もこの異様な試合会場に目を奪われ、次々集まってきている状況だった。
「待ってこれどういう状況なの⁉ 色んな武器が沢山置いてあるよ⁉」
「何がどうしてこうなった⁉」
「おう、ようやく来たか」
「キール君、これはどういう状況なんですか⁉」
練習試合会場の準備をしていたキールの姿を見つけたヨキ達は、目の前に見える幾種類もの武器が設置されている理由がわからず、キールに詰め寄った。
練習試合会場の準備をしていたキールは、不敵な笑みを浮かべながら幾種類もの武器が設置されている理由を説明し始めた。
「この会場は武器を自在に選べるようにした。
相手は戦闘特化のラッド族、どうせなら一つの武器だけじゃなく色んな武器を使っての試合にしようと思ってな。
安心しな、取りやすくなってるからヨキでも簡単に取れるようにはしてある」
「全然安心じゃねぇよ! それだとラッド族の方も取れちまうだろう!」
「折角バンとリース君にも対抗策考えてもらったのにこれじゃあ意味ないよ!」
「いちおうお聞きしますが、ぶきのもちこみは…?」
「それなら全然問題ない。もうすぐ時間だ、ヨキはさっさと試合会場に入れ」
「うわーん助けてーっ!」
どう考えてもヨキの方が不利にしかならない練習試合会場に、キールはヨキを連行した。
キールが設置した練習試合の武器を目の当たりにしたヨキは完全に戦意喪失しており、キールに連行されながら思わずバンとリースに助けを求めた。
だが実際に戦うのはヨキ一人であるため、意味をなさなかった。
そして約束の白丑時を迎える頃には、練習試合会場には仲間達を含めた沢山の人々が集まっていた。
(どうしよう、本当に大変な事になっちゃった…)
ヨキは両手で杖を握りしめながら、自分が思っていた以上の事態に発展してしまった事に激しく動揺し、冷や汗をかいていた。
周りの声は十分過ぎる程ヨキのプレッシャーになっていた。
「ヨキー、頑張れよーっ!」
「ドカーンと一発ぶちかませ―っ!」
「無茶言わないで! ヘルシャフト以外の誰かと戦った事なんてキバ君とフォルシュトレッカーの人達としかないのに!」
観客席にいるニヤトとフィービィーから声援を送られたが、戦意喪失しているヨキには逆効果になっていた。
ヨキの心境を察したのか、バン、リース、マリの三人は戦意喪失しているヨキを心配してながら見ていた。
ディモルフォセカとレイアに至っては、無邪気にヨキを応援するニヤトとフィービィーの二人を見ながら呆れており、カトレアはラヴァーズを膝に乗せながら険しい顔をしていた。
カトレアの膝に乗っているラヴァーズも、不安そうな表情をしていた。
「ねえさん、ヨキさんだいじょうぶかな?」
「難しいわね、元々ヨキは人見知りする性格らしいから。
昨日会ったばかりの相手となるとためらいが出て、思うように動けないかも」
「僕が作った投げナイフを五本かしてるけど、あまりやくに立たないかもしれないな…」
カトレアはヨキの元々の性格も考慮し、ヨキが緊張で普段のような動きはできないと判断し、恐らく勝てないと考えた。
投がナイフを貸したレイアも、ヨキの状態を見てあまり役に立たないかもしれないと思っていた。
キールは周りに被害が出ないよう、ベール・ベールで観客席と練習試合会場を隔てるようにウィスティリアのカーテンを作り出し、安全を確保していた。
ウィスティリア自体透き通っており、練習試合会場に立つヨキとニルヴァの姿がしっかりと見えるため、見る分には問題ない。
逆にその神秘的な雰囲気から観客席にいる冒険者や村人達から好評だった。
ヨキからすれば完全に退路を断たれたようなものだった。
「ちゃんと遅れずに来たようだな」
「できれば来たくなかったです…」
ニルヴァはヨキが来た事に対し満足げに笑っていたが、ヨキとしては普通に連中試合そのものを無かった事にしたかった。
そして連取試合の審判としての役割を担ったバーナードキャラバンのリーダー、ミザール・バーナードがキールのベール・ベール越しに練習試合のルールを確認する。
「今回の練習試合のルールを確認する。
ルールは至ってシンプル、両名は手持ちの武器、及びこの場に設置された武器を使用、試合中も武器の変更は可能だ。
魔法や能力といった類いの使用制限はなしとする。
両者の実力を測るため時間制限はなし、勝利条件は対戦相手を動けなくする、気絶させるといった戦闘不能状態にする」
(時間制限なし⁉ どう考えても僕の方が不利な条件だよ!)
時間制限なしと聞いたヨキの表情は、一気に青くなった。
その条件を聞いて困惑したのは、観客席で見守るバンやリース、ディモルフォセカといった実力のある仲間達も同じだった。
「兄さん、今の説明…」
「リースも気付いたか、この条件だとヨキが一番不利だ!」
「ねえさん、なんでヨキさんがフリになるの?」
バンやリースが練習試合のルールを聞き、ヨキが不利だとすぐに理解していたが、最年少のラヴァーズは何故ヨキが不利なのか理解できず、カトレアに理由を訊ねた。
カトレアはラヴァーズが理解しやすいよう、わかりやすく説明し始めた。
「確かにヨキは旅を続けて実力をつけたわ。
だけど相手はヨキと違って相手は実力のある冒険者、体力だってヨキよりあるだろうし、愛用しているロングソードだけじゃなく周りにはキールが設置させた武器が沢山、対戦相手からすれば試合中好きな時に武器をも使えられるわ。
それに戦う事が得意なラッド族、武器の扱いにも慣れてる筈だから色んな方法で戦える。
それに対してヨキは杖を使った戦い方しかできない、法術で風は操れるけどその風を逆手に取った戦い方も相手は知っている筈。
武器が沢山あっても使い方わからないなら使えないわ」
「そっか、ぶきのしゅるいでつかい方がかわっちゃうんだ」
「時間制限があればまだチャンスはあったかもしれない。
それがない以上、体力差もあいまってヨキの方が不利だわ(体力の消耗を抑えるために対人戦の訓練をしてこなかったのが裏目に出たわね…)」
カトレアは体力の消耗を抑えるために、旅の間に対人訓練をしてこなかった事が裏目に出てしまった事を実感した。
これまでの旅で戦ってきたのはヘルシャフトとフォルシュトレッカーばかり。
それ以外の実力者と戦う機会は全くなかった。
一方、練習試合のルールを聞いたフィービィーはある事を悟った。
「はは~ん、キールったらワザと意地悪なルールにしたな」
「なんやフィービィー、なんでキールが出て来るんや?」
「ワザとヨキを強い実力者と戦わせて、度胸と自信を着けさせる算段だよ。
ヨキは雷嫌いだけじゃなく人見知りも抱えてるからね、この試合で度胸と自信を着けさせて人見知りを治すつもりだよ」
「なんや荒療治な方法やな」
(あえて不利な状況下を作り出し、実力のある相手をぶつけて戦わせる。
実力者相手に勝つ、もしくは対等に戦えればヨキに度胸と自信がついて人見知りを治せる。
借りに勝てなくてもラッド族相手に対等に戦える事が示せれば、新参者のオイラ達の実力を示す事ができる。
これまでの旅の成果を見せる時だぜ、ヨキ)
フィービィーが気付いたように、キールはミザールにワザとヨキが不利になるルールを提示した。
ヨキの人見知りは多少緩和されてきているが、見ず知らずの相手に話し掛けた後はその反動で可笑しくなる。
正気に戻るのも多少時間がいるため、そんな状態でヘルシャフトの襲撃を受ければひとたまりもない。
ヨキがニルヴァに練習試合を申し込まれたと聞いた時、これはチャンスだと考えた。
ラッド族であるニルヴァとヨキを戦わせる事で、自分達の実力を示す。
それと同時にヨキに度胸と自信つけさせる事で、ヨキの人見知りを治すきっかけを作るきっかけを作ろうと考えたのだ。
ミザールはヨキとニルヴァの様子を確認し、練習試合開始を宣言する。
「これより、黄昏ヨキとファナ=ニルヴァ両名による練習試合をおこなう。
両者武器を構え、始め!」
ミザールの宣言と同時にニルヴァはロングソード(両手剣)を素早く鞘から抜くと、そのままヨキに斬りかかった。
ヨキはとっさにロングソードの軌道に合わせて杖で防御する。
だが、その一撃は重く、ヨキから反撃するのは簡単ではなかった。
(何これ、凄く重い一撃だ!
こんな一撃を受けながら、フィービィーさんは戦っていたの⁉)
ヨキは必死に踏ん張って耐え抜くが、ニルヴァはそのままの状態でヨキを突き飛ばした。
その反動でヨキは後方に飛ばされるが、すぐに体勢を立て直して次の攻撃に備える。
その直後、一気に距離を詰めて来たニルヴァが下から上に向けてロングソードを振るい、ヨキはもう一度攻撃を防ごうと杖を構えた。
ヨキの防御体勢を見ていたバンは、焦った様子でヨキに声を掛けた。
「ヨキ、ダメだ! その体勢で受け止めたら…」
バンがヨキに何か伝えようとしたが間に合わず、ヨキは杖を横に構える形でニルヴァの攻撃を受け止めた。
それがいけなかった。
ニルヴァの攻撃を受け止めた直後、その勢いに耐えきれずヨキは思わず杖から手を放してしまった。
ヨキの杖はそのまま吹っ飛び、ニルヴァの後方に突き刺さった。
「へ? …えぇええええええええっ⁉」
「クソ、やっぱりこうなったか!」
「あの防御体勢で下から上への攻撃を受けたらその反動で杖が吹っ飛ぶのも当然だよ!」
「そんな事より、ヨキがむぼうびになっちゃったぞ⁉」
観客席から見ていたバン達は、ヨキが杖を横向きに構えた時点で杖が吹っ飛ぶ可能性を予測し、それが現実になった事に非常に焦った。
ニルヴァの後方に杖が吹っ飛んでしまったのを見たヨキは、自分にとってはあまりにも突然の事に酷く困惑する。
練習試合開始早々、自分の判断ミスでヨキは一気に窮地に立つ事になってしまった。




