第63話 ラッド族の戦士
バーナードキャラバンが滞在する小さな村の特産名物、エナジーフルーツの収穫の手つがいをしている最中に記憶の一部を取り戻したヨキ。
だが、取り戻した記憶の中の少年が幼い自分の名前を呼んでいたにも関わらず、ノイズのような音に邪魔されて聞き取る事ができず、思い出す事は出来なかった。
せめて名前だけどもわかれば、自分を知る誰かを見つける事ができるのではないかと思ったヨキは落胆していた。
(それにしても、僕と似た感じのあの人。あの人は一体誰だろう…?)
ヨキが一番疑問に思ったのは、自分にエナジーフルーツの事を教えてくれた、自分と似た雰囲気の少年が誰のかと思った。
記憶の雰囲気からして、幼い頃の自分と少年が親しい間柄だったという事は分かるため、自分の親戚にあたる人物なのかと考えていた。
「とりあえず、この量のエナジーフルーツを運びましょう。
これだけの量だと行き来の邪魔になるし、早めに空にしないと籠がなくて収穫が遅れるわ」
「そうだな。ヨキ、チャチャっと終わらせて一旦休憩しようぜ」
「うっうん…」
ヨキが物思いにふけっていると、ヨキが収穫したエナジーフルーツを運んだ方が言うというディモルフォセカの言葉で我に返り、そのままエナジーフルーツを運ぶ作業に入った。
ヨキが収穫したエナジーフルーツの量はかなりあったため、他の冒険者の助けを借りてエナジーフルーツの入った籠を運んだ。
かなりの量だったため、全て運び終えて空の籠が増える頃にはニ重時程経っていた。
誰もが予想外の展開だったため、思ったよりも体力が減り少し早めの休憩となった。
「ふぃ~疲れた~」
「かなりの量だったよなぁ。誰があんなに収穫したんだ?」
「予定より多く収穫できてるから、村の人達がエナジーフルーツで作ったドリンクをご馳走してくれるって」
「それは楽しみね。エナジーフルーツって甘酸っぱくっておいしいんでしょう?」
休憩に入った冒険者達は、村に戻る道中誰がエナジーフルーツを大量に収穫したのか、エナジーフルーツで作ったドリンクの事で盛り上がっていた。
その様子を見ていたヨキは、少々反省していた。
「ちょっと、張り切り過ぎたかも…」
「まぁお陰で収穫作業が進んでるし、結果往来でいいんじゃないか?
前向きに考えようぜ」
バンに励まされながら村に戻っていると、村の少し開けた場所に人だかりができていた。
一体何事かと思い至り、三人は人だかりをかき分けて何が起こっているのか確認しに行くと、人だかりの中央では五月雨を手にしたフィービィーと、ロングソードを手にした見ず知らずの暗紅色の髪をした十代後半の少年と戦っていた。
その光景を見た三人は、何事かと思っていると近くにフィービィーが戦っている様子を見ていたニヤトの姿があったため、何が起きたのか確認に向かった。
「おい、ニヤト。これ何の騒ぎだ⁉」
「おぉお前ら、ええとこに来たな! 今フィービィーが他の冒険者と練習試合しとるとこなんや!」
「良かった、喧嘩じゃなかった!」
「練習試合をするだけの元気があるって、フィービィーの体力はどうなっているのよ?」
人だかりができていた原因が、フィービィーと暗紅色の少年との練習試合だと聞いたヨキは、目の前で行われているのが喧嘩ではない事に安心していたのに対し、ディモルフォセカは昨日の今日で練習試合をしているフィービィーの何処にそれだけの体力が残っているのかという疑問しかなかった。
そんな間にも、フィービィーと暗紅色の髪の少年の戦いは続いていた。
フィービィーは自慢のスピードと五月雨を駆使して果敢に攻め入り、素早く攻撃を仕掛ける。
それに対し暗紅色の髪の少年は九〇㎝もあるロングソードを器用に動かし、フィービィーによる突き攻撃を全ていなす。
暗紅色の髪の少年は大きく振りかざした後、素早く横に振りかざす。
ヨキ達は暗紅色の髪の少年が器用にロングソードを使っている姿を見て驚いていた。
「凄い、あんなに長い剣身なのに器用に動かしてる!」
「ロングソードは確か鎧も貫く程の威力がある武器ね。
一般的な片手剣よりも剣身が長いから扱いが難しいイメージが強いのだけど、あんな器用に扱える武器だったかしら?」
ヨキは器用にロングソードを扱う暗紅色の髪の少年に感心した。
ディモルフォセカが暗紅色の髪の少年が器用にロングソードを扱っている事に対し疑問を抱いていると、バンは少年の耳を見て事に気付いた。
「ん? アイツの耳、もしかしてラッド族か?」
「どないしたんやバン、てかラッド族ってなんや?」
「今フィービィーと戦ってる奴の耳、見てみろよ。
妖精族の耳みたいに尖ってて、下向きに垂れてるだろう?」
バンは指さしながら、ラッド族と呼んだ少年の耳を見るよう告げた。
ヨキ達は言われた通りに少年の耳元を確認すると、バンが言ったように先端が尖りながらも、その先端が下に向いて垂れている事に初めて気付いた。
「本当だわ、フィービィーの対戦相手ってラッド族なのね。
かなり珍しいわね」
「ディルカさんは、ラッド族について何か知ってるんですか?」
「ラッド族は元々ガイア地方の北に住んでた戦闘民族なの。
戦闘民族と言われる通り戦う事というよりも、武器を扱う事にたけている種族なの。
基本的な武器は勿論、身の丈に合わない武器や特殊な武器簡単に使いこなす事ができるくらいの身体能力を持つ実力主義の種族よ。
ほら、フィービィーと戦っている相手の動きを見て」
ディモルフォセカはコンバット族の少年を指さしながら、ヨキに説明した。
ラッド族の少年はフィービィーとの距離が離れないよう一定の距離を保ちつつ、ロングソードを素早く動かして攻撃を繰り出す。
対してフィービィーは五月雨を両方重ねる形で攻撃を防いでいる。
一撃一撃が重い攻撃というのが見て取れる程、ラッド族の少年の攻撃が強いのだろう。
距離を開けられないと悟ったフィービィーは、素早く動き回ってラッド族の少年を撹乱しながら攻撃を仕掛ける。
だがラッド族の少年も負けてはおらず、最初に見た時同様ロングソードを器用に振るってフィービィーの攻撃をいなす。
自分達の中ではキールとラピス同様、実力のあるフィービィーと同等に戦える程、身体能力が高いのが伺えた。
「あんな感じでラッド族は戦う事が得意なのよ」
「耳が尖ってるから妖精族に間違えられやすいけど、俺達と同じ人間の部類なんだ。
妖精族は皆耳は尖っているけど、上にまっすぐ伸びてるから向きを見れば一目瞭然だな」
「そうなんだ」
ガイア地方の北方面にそのような種族がいる事を初めて知ったヨキは、忘れているだけなのかもしれないが、自分の知らない事が世界にあるのだと思った。
そんな中、ディモルフォセカはラッド族と関係のある、とある種族の名を口にした。
「そういえば、ラッド族はチャリティア族とは犬猿の中だったって聞いたわね」
「チャイム族?」
「チャイムじゃなくて、チャリティア族。
【恩恵】って呼ばれる能力を使う、癒しや付与、防御が得意なラッド族とは正反対の種族なの」
「身体能力は劣るけど、能力特化で平和主義な性格だからラッド族と対立して、五十年間も争いあってたんだよ」
「あれ? 過去形って事は、今はもう和解して争ってないって事?」
二人の話し方から争っていたラッド族とチャリティア族が和解したのかと思ったヨキは、バンとディモルフォセカにその後どうなったのか尋ねた。
そんなヨキの質問に対し、バンは顔をしかめながら答えた。
「それが二年半近く前にほとんど殺されているんだ。
両者ともに同じ時期に、全く同じ殺され方をしてたそうだ」
「殺された⁉ 展開が急すぎない⁉」
二年半近く前にラッド族とチャリティア族がほとんど殺されたと聞いたヨキは、あまりにも急すぎる展開に困惑した。
五十年近く争っていた二つの種族が、ほとんど殺されるなど前代未聞だ。
「私もその話は知っているけど、随分と詳しいわね」
「インバシオン時代にラッド族とチャリティア族のスカウトに行った仲間から聞いたんだ。
当時の組織としてはどっちも戦力として欲しかったから、仲間から省かれてるような奴をターゲットに向かったらしいけど、両方の集落に着いた時にはもう殺されてたらしい。
しかも老若男女、子供を含めた全員が首を切り落とされてた状態で発見されたんだ、一番酷いのは妊婦の腹に剣で何度も突き刺したような跡があったって話だ。
助かったのは長年にわたって続く戦に嫌気がさして逃げ出した奴や追放された奴、用事があって運よく集落を離れてた奴といった、簡単に数える程の人数だけだったらしい」
「何それ怖すぎるよ! お化けもびっくりしちゃうくらいに怖すぎるよ!」
「そんな酷い殺され方なら、新聞にも載せられないわね」
あまりにも惨い殺され方だったと聞いたヨキとディモルフォセカは、思わず顔面蒼白になった。
詳しい詳細は伏せられていたとはいえ、そこまで酷ければ以前フォルシュトレッカー・リラが起こしたシャンテ国第四騎士団虐殺事件同様、新聞に載せられない程の酷さである事は明白だった。
生き延びたラッド族とチャリティア族も、簡単に数える程度にしか残っていないとなると、両部族共に復興は不可能だろう。
「両者共に同じ殺され方って事は、犯人は同一人物なの?」
「多分な。それも両方に強い恨みを持った奴と見て間違いないと思う」
「なんやごちゃごちゃ話しとるけど、そろそろ決着がつきそうやで!」
「楽観的過ぎるよ、ニヤト君…」
話が難しすぎて途中から聞いておらず、フィービィーとラッド族の少年の練習試合に意識が向いていたニヤトは決着がつきそうだと話し掛けた。
先程バンから話を聞いていたヨキは、ニヤトの楽観的な様子に呆れ果てていた。
だが、実際にニヤトが言った通り、決着がつきそうになっていたのも事実だった。
「なっかなかやるね。この試合、アタシが勝たせてもらうから!」
「スピードしか取り柄がない奴に負ける程、俺はやわじゃねぇ!」
フィービィーは五月雨を持ち直すと、一気にラッド族の少年目掛けて走り出した。
対してラッド族の少年は、ロングソードを構えて自分目掛けて突っ込んでくるフィービィーを迎え撃つ体制を取る。
フィービィーはラッド族の少年目掛けて右手の五月雨を突き刺し、ラッド族の少年はロングソードでその攻撃を受け止める。
攻撃を防がれたフィービィーはロングソードを右手の五月雨で抑えたまま、左手の五月雨を逆手に持ち直して体を大きく回転させ、ラッド族の少年の背中目掛けてカウンターを仕掛ける。
が、ラッド族の少年はロングソードを片手で持ち、大きく横に振るう。
その反動でフィービィーはバランスを崩し、転倒する。
そしてラッド族の少年はロングソードを片手に持った状態で転倒したフィービィーの喉元に向ける。
「勝負あり、だな」
フィービィーとラッド族の少年との練習試合は、ラッド族の少年の勝利で終わった。
負けたフィービィーは悔しそうな表情をしていた。
「う~、負~け~た~」
「凄い、あんなに早いフィービィーさんに勝っちゃった」
「いやぁ、試合が始まってから猛スピードで動き回るフィービィー相手に動ぜず攻撃防いどったから、どうなるかわからんかったけどあのあんちゃんの勝ちかぁ。
練習やけど中々白熱した試合やったでぇ」
「基本両手で扱うロングソードを片手で軽々と扱う腕力、臨機応変に対応する瞬発力、流石は戦闘特化のラッド族だな」
フィービィーに勝利したラッド族の少年を見ていたヨキ達は、その身体能力と瞬発力に感心していた。
負けたフィービィーはと言うと、勝てる自信があったようで、自分が負けた事に対してふまんがあるのか小さな子供のように駄々をこねていた。
流石に迷惑がかかると思ったディモルフォセカは、フィービィーのもとまで行き、移動させる事にした。
「お疲れ様フィービィー。一応ここは通路だから、移動しないと他の人達の邪魔になるわよ」
「う˝~」
「フィービィーさん、ふてくされるの良くないですよ。
村の人達がエナジーフルーツで作ったドリンクをご馳走してくれるそうですよ」
あとからやって来たヨキがエナジーフルーツで作ったドリンクを話題に出しても、フィービィーはテコでも動きそうにない程、不貞腐れていた。
そんなフィービィーを見たヨキとディモルフォセカは、別行動を取っているキールを呼んでこようか考えていると、先程までフィービィーと試合をしていたラッド族の少年がヨキ達の元にやって来た。
「何こんな所で座り込んでいるんだ。さっさと移動しろよ」
「こんな所じゃないよ、さっきまで試合会場だった場所だよニルヴァ」
「ニルヴァ?」
「ファナ=ニルヴァ、目の前にいる人の名前だよ」
ファナ=ニルヴァ、フィービィーにそう呼ばれたラッド族の少年を見たヨキとディモルフォセカは、ラッド族の少年が不貞腐れるフィービィーを呆れ顔で見ている様子を見て苦笑した。
「とりあえず移動しましょう、エナジーフルーツで作ったドリンクは人気があるから飲めなくなるわ」
「まだ収穫作業も残ってるから、早く移動しましょう、ね?」
「ほ~い」
「態度ワリィなお前」
エナジーフルーツで作ったドリンクが売り切れるのと、エナジーフルーツの収穫作業がまだ残っているという事で、不貞腐れていたフィービィーはようやく動き出した。
フィービィーの態度の悪さを見たニルヴァは呆れてはいたが、小さな子供を見る目で仕方がないなと考え移動を開始。
ニルヴァに至っては完全に呆れ果てていたが、ヨキ達の後を追う形で移動を開始した。
村の広場では村人達が収穫の手伝いをしていた冒険者達にエナジーフルーツで作ったドリンクを配っていた。
「おーい、こっちだこっちー」
「お前ら遅いで、もたもたしとったらドリンク無くなってまうわ」
「ごめん、ちょっと話してたから来るのが遅くなっちゃった」
「売り切れる前にお前らの分も貰っといたぜ」
そう言いながらバンは手に持っていた盆の上に乗せられた、エナジーフルーツで作ったドリンクをヨキ達に差し出した。
ディモルフォセカとフィービィーは嬉しそうにコップを手に取るが、ヨキは少し困った顔をしていた。
「どうしたのヨキ? 飲まないの?」
「そういう訳じゃないけど、エナジーフルーツって熟してても酸っぱいんだよね…」
「安心しろ、そう言うと思って蜂蜜も貰って来た。
ヨキは甘党な所があるからな、酸っぱいって理由で飲もうかどうかでためらうんじゃないかと思ったんだよ」
「あっありがとう」
そう言いながらヨキはコップと蜂蜜が入ったハニーディスペンサーを手に取ると、早速エナジーフルーツで作ったドリンクに蜂蜜を加えた。
しっかり混ざったのを確認すると、ヨキはコップに口をつけてドリンクを飲んだ。
「ん~、凄く美味しいね!」
「なんせ熟したエナジーフルーツだけを使ったドリンクだからな、蜂蜜レモンとはまた違う甘酸っぱさが上手いんだよな」
「それに村の人達が気を利かせてホットドリンクにしてくれたみたい。
本格的に寒くなってきたこの時期には丁度良いわね」
「緑季真っ盛りに冷たい状態で飲んでも美味しそうだね!
ここでカフェでも開いたら絶対人気が出るし、一気に観光地になるね!」
「それやとめっさ儲かりそうやな~」
ヨキ達がエナジーフルーツで作ったドリンクを堪能していると、村人の一人から五刻み後にエナジーフルーツの収穫作業を再開するという連絡があった。
小さな村とはいえエナジーフルーツの木自体は合計一二五本、そして一本の木に八千粒近くの実がなる。
収穫用の籠一つに五百粒のエナジーフルーツが入るようになってはいるが、それでも収穫に時間がかかる。
そのため大勢での収穫が必須だ。
「五刻み後に収穫再開か。これは忙しそうになるな」
「ヨキ、休憩前にも言ったけどペースを落として収穫して。
本当に回らなくなりそうだから」
「はい、気を付けます」
ディモルフォセカに収穫するペースを落とすように注意されたヨキは、休憩前に他の冒険者達が中身の入った籠を運ぶのに苦労していた事を思い出し反省していた。
練習試合をおこなっていたフィービィーとそれを見ていたニヤトは、何があったのか知らないため少し不思議そうにしていた。
そしてディモルフォセカが言っていた意味を、身をもって知る事になる。
「なんなんやこの量はーっ⁉」
「どうしたのニヤト、うわぁっ!
収穫再開してからまだ十刻みしか経ってないのにもうニ十籠分集まってる!」
「やばいぞ、このままだとさっきの二の舞だ。
手の空いてる連中は次の籠が増える前に今ある分を運んでからにしろ、また回らなくなるぞ!」
「私、何度かエナジーフルーツの検品した事があるわ。
村の人達の手伝いに回るわね」
「おーい誰かこっちに来てくれーっ!」
エナジーフルーツの収穫作業が再開して早々、他の冒険者はやっと一籠集め終わったか二籠目半分にも関わらず、ヨキだけ二十籠分のエナジーフルーツを収穫していた。
事情を知らないフィービィーとニヤトは驚き、事情を知る冒険者達は作業が回らなくならない内に対応するなど、再びてんやわんやな状況になっていた。
「ヨキーっ! お願いだからもっとペースを落として!
また他の人達が困ってるから、もっと収穫のペースを落として!」
「冒険者の皆さんごめんなさいーっ!」
再び収穫のペースが速い事を指摘されたヨキは、言われた通りにペースを落とそうとする。
だがひとたび収穫し始めると、段々ペースが速くなっていき、先程と同じように大量のエナジーフルーツが入った籠で溢れ返ってしまう。
そのため別の場所で収穫作業をしていた冒険者の一部も運ぶ作業に回る羽目になり、運ぶ側も検品する側も慌てふためいた。
「誰かー、空の籠持って来てくれー」
「籠一杯になったから、次の籠渡してくれる?」
「ねぇ、誰かエナジーフルーツの検品に自信がある人他にいない?」
「空の籠が足りない、どこかに置いてないか⁉」
エナジーフルーツが入った籠で溢れ返る現場で、なんとか状況を回そうと冒険者達は奔走する。
特に運ぶ作業に関してはラッド族であるニルヴァを中心とした力に自信のある冒険者達がエナジーフルーツの入った籠を運び、辛うじて回っているという状況だった。
それから時間が経ち、白子時前を迎える頃には、他の冒険者が収穫したエナジーフルーツを含めても二二三籠、最初に収穫した分を合わせて三五三籠分のエナジーフルーツが収穫された。
その内一二〇籠分はヨキが収穫したものだ。
白申時の間にヨキが収穫した七〇籠分を合わせ、合計一九〇籠分のエナジーフルーツを一人で収穫した事になる。
だがその分、エナジーフルーツを検品するのが大変だ。
「いやはや、初日の午前で凄い量を収穫できましたな、村長」
「午後は検品作業に精を出しましょうかな園長」
「午前だけで一七六五〇〇粒、物凄い量だな」
「その内九五〇〇〇粒は一人で収穫したらしいぞ。
しかも収穫に適した分だけ取って、無くなったら次の木に飛び移って移動するそうだ」
収穫作業初日の午前のみで十万以上のエナジーフルーツを収穫できたため、村人達も冒険者達も一人で大量に収穫したヨキに感心していた。
一方、大量収穫に貢献したヨキは三度ディモルフォセカに注意されていた。
「ヨキ、一人で沢山収穫し過ぎよ。
十万を超えてしまって、午後は全員で検品に集中する事になるくらい予定が大幅に変わったみたいよ。
本当にお願いだからペースを落として」
「ごっごめんなさい~」
「実りの街で薬草採取してる時も手際が良かったからな~」
「っというか、ケイとマリの二人も加わったら今以上の数になるんちゃうか?」
「確かに増えそうだね。二人には収穫じゃなくて、検品か運ぶかに回ってもらった方が良いかもしれないね」
ディモルフォセカに収穫するペースを落とすよう何度も注意されてしまい、ヨキは深く反省していた。
ヨキが一人で収穫したエナジーフルーツの量を見たフィービィーとニヤトは、ここにはいないケイとマリの二人が加わったら、今以上になるのではないかとひそひそ声で話していた。
そこに全てのエナジーフルーツが入った籠を運び終えたニルヴァがヨキ達の元に近付いてきた。
「おい」
「あれ? ニルヴァもう作業終わったの?」
「ついさっき運び終えた。それよりもそこの黒髪、お前に用がある」
「? 僕ですか?」
ディモルフォセカに注意されている途中で話しかけられたヨキは、何事かと思っていた。
ニルヴァとはフィービィーが参加した練習試合が終わった後、ほんの少し会話した程度であるためそれ程面識はない。
エナジーフルーツの収穫作業のペースが速すぎる事に対する苦情かと思ったが、ニルヴァは誰も予想しなかった内容を口にした。
「明日の白丑時、お前に練習試合を申し込む」




