第61話 謎の積み荷
クロノ地方のアルティマ国とガイア地方のシャンテ国を隔てる国境の街に着くまでの間、自分達を助けてくれたキャラバンに護衛として同行する事になったヨキ達は、出発までの四刻の間、これまでの戦いで溜まった疲れを癒していた。
キャラバンに同行する事になったため当初の予定よりも国境の街に到着するのは遅れるが、馬車に乗れるという事もあって疲れは溜まりづらくなり、他の冒険者とも連携が取れるためしばらくの間はヘルシャフトの襲撃あったとしても負担は減るだろう。
「…てな感じで、しばらくはケイ達のグループが助けた行商人が所属するキャラバンに護衛って形で同行する事になったんだ」
「だから予定は大きく遅れるけど、国境までの負担はかなり減るわ。
戦闘ではアタシ達は勿論、ラヴァーズ達の負担も大分減るだろうから、安心しろとは言えないけど心配しないで」
キャラバンが予約していた宿の一室で休んでいたカトレアとスズは、前刻の夜に話を聞いていなかった年少組に眠っている間の事を説明していた。
先にぐっすり眠っていたリースとラヴァーズは勿論、睡魔のせいでちゃんと聞いていなかったレイアもその話を聞いて少しだけ安心した様子だった。
前刻の二百人近くのヘルシャフトの襲撃で道具も霊力も理力も使い切っていたため、あまり余裕がない状態である年少組にとっては、ありがたい申し出だ。
「いえ、僕としてはとてもありがたいです。
ジュジュツのバイタイとして使っているゴフのストックが五枚しかなかったので」
「僕の方もだよ。出発するまでの間に、ケムリダマと投げナイフをホジュウしておけるのは凄く助かる」
「ぼく、バシャにのるのははじめてです。バシャにのるの、ちょっと楽しみだな…」
「そういえばラヴァーズは馬車に乗るのは初めてね。
それくらいの余裕があっても誰も文句は言わないわ、っていうか言わせないから安心して楽しみなさい!」
馬車に乗るのが初めてであるラヴァーズは、少し楽しみにしていた。
そんなラヴァーズの様子を見ていたカトレアは、可愛い弟のために出発するわけでもないのに張り切っていた。
張り切るカトレアの様子を見ていたスズ達は少し困った様子で笑っていると、不意にレイアが自分の疑問を呟いた。
「それにしても、ヘルシャフトがねらってるっているツミニって、一体なんだろう?」
レイアが疑問に思ったのは、キャラバンがヘルシャフトに狙われている理由だ。
キャラバンのリーダーと話して来たキールとラピスが聞いた所によると、キャラバンの積み荷に原因があるのではないかという事で現在再確認中なのだそうだ。
その事に関してはウィアグラウツでもあまり心当たりがないらしく、ヘルシャフトの狙いが全く分からない。
逆にそれが不気味に思えた。
「どっちにしろ、ヘルシャフトが狙っている以上ケイカイしていた方が良いですね」
「だな、敵が狙っている以上、ゼッタイにロクでもないモノに決まっているよ」
ヘルシャフトが狙っている物が禄でもないものであると判断したレイアは、狙われている原因であるキャラバンの積み荷の事を警戒していた。
「ところで、ほかのひとたちはドコにいるんですか?」
「それなら皆村を見て回ったり、必要なものを行商人の人達から購入したりしてるよ。
マリとヒバリはケイの容態を確認しに行ってるよ」
「僕達の中で一番大変だったのはケイさんでしたね」
スズから他の仲間達がそれぞれ別行動をとり、マリは急性霊力欠乏症で倒れたケイの容態を確認していると聞いた年少組は、納得していた。
どちらにしても出発までの間は自分のペースで準備をしておこうと考え、年少組はもうすこしへやで休んでいる事にした。
*****
丁度その頃、マリとヒバリがベッドで眠るケイの看病をしている所に、ケイ達のグループが助けたカンドゥーラを着た行商人が朝食を手に訪れていた。
「おはよう、朝早くだけどお邪魔するよ」
「おはようございますでごじゃる、ジェイコブ殿」
「おはようございます。体力回復薬の事、ありがとうございます」
「こちらこそ、メディアロルで彼らに助けられた恩返しさ。
ケイ君の体調も良くなってきていると聞いて、私も安心したよ。
二人とも朝食はまだだったと思って持って来たんだが、迷惑だったかな?」
「いいえ、迷惑なんかじゃありません。
寧ろケイの看病で朝食を取りに行けてなかったので、私達二人ともまだ食べてないのでありがたいぐらいです」
カンドゥーラを着た行商人、ジェイコブは持って来た朝食をテーブルに置きながらケイの容体が回復に向かっている事に安心していた。
これまでの戦いでちゃんと休む事ができなかったせいで、ケイは急性霊力欠乏症を発症し倒れてしまった。
幸いな事に、バンが教えた治療法で回復に向かっており、中期段階を告げる紫みのある青い隈はすっかり薄くなっていた。
下級体力回復薬を飲んだとはいえ、霊力が回復するにつれてやはり体力を消耗しているのか、ケイは今もベッドで眠っていた。
「最初は後遺症が残るかもしれないって聞いた時は本当に焦りました。
運よくジェイコブさん達のキャラバンに会えなかったら、霊力回復薬も体力回復薬も手に入らずにケイの容態が悪化していたと思います」
「あの時ジェイコブ殿達と出会えたのは、本当に運が良かったとしか言えぬでごじゃるからな」
「私の方こそ驚いたよ。君達と再会した時は人数が増えたと思ったら皆ボロボロだったからね」
「ボロボロと言えば、私達の服もすっかりボロボロになっちゃったわね…」
そう言いながらマリは自分の服装とヒバリの服装を交互に見ながら、自分達の状況を確認した。
マリが言った通り、ヘルシャフトとの戦いが続いた事で来ている服は大分傷んでおり、破けた所は縫い直されているがみずほらしい状態になっている事に変わりはなかった。
「確かヒバリ君達はガイア地方を出て、クロノ地方に向かうんだったかな?」
「はい。クロノ地方のとある場所に向かう予定で、国境の街で一度装備を揃える予定でごじゃります」
「それなら、国境の街に良い店を知っているよ。
国境という事も相まって質のいい品物が良く集まるから、装備だけじゃなく服も取り扱っているんだ。
君達が問題なければ、そこを紹介しよう」
「「ありがとうございます!」」
国境の街にある質の良い装備屋を紹介してもらえる事になったマリとヒバリは、お互いに顔を見てジェイコブに感謝の言葉を告げた。
国境の街に着いたとしても、その装備の質が良くなければ意味がないし、装備を売っている店が多ければ逆に迷ってしまう。
行商人であるジェイコブに紹介してもらえるのならば、問題ないだろう。
「ひとまず朝食にしよう。ケイ君の分は後で持って来てもらう予定になっているんだが、まだ起きない感じだな…」
「そうですね、ケイのご飯が届いてから起こした方が良いかしら?」
「そうでごじゃるな。それではセッシャ達は先に頂くとしよう」
マリとヒバリがジェイコブと共に朝食を取り始めると、客室の窓から外の様子が見えた。
宿の外ではキャラバンに属する他の行商人が積み荷を降ろして村の住民達と交易し、ギョルシル村の特産物と思われるドライフルーツと積み荷の品を交換していた。
その間、護衛として同行している冒険者の一部が見張りとして周囲を警戒していた。
ジェイコブ曰く、ギョルシル村の特産品は『エナジーフルーツ』と呼ばれており、食事には勿論、薬の材料にもなる木の実なのだそうだ。
エナジーフルーツは四つの大陸全土に生息しているが特定の場所でしか育たない器用な素材。
生息地も限られておりエターナル大陸ではこの村も数少ない原産地の一つとされているのだそうだ。
そんな中、他の行商人とは別に一人の行商人が積み荷の一部を確認しており、その隣にはキールの姿があった。
「あら、あそこにいるのってキールよね? それにあの隣の人、誰かしら?」
「本当でごじゃるな、他の冒険者は周辺の警護に当たっているのにキールは何をしておるのでごじゃろうか?」
キールが見覚えのない行商人と共に積み荷を確認している姿を見たマリとヒバリは、キールの行動に対して不思議がっていると、ジェイコブがキールと共にいる行商人を見て少し驚いていた。
「あれは、バーナード氏じゃないか」
「バーナード? あちらの行商人をご存じでごじゃるか?」
「ミザール・バーナード氏、キャラバンのリーダーだよ。
今朝から一人で積み荷を確認してはいたが、君達の友達と一緒にいるのはかなり珍しいな。
基本的には専属の護衛と一緒に確認するのに…」
キールがキャラバンのリーダー、ミザールと一緒にいると聞いたマリとヒバリは、キールがと一緒にいる理由を悟った。
ジェイコブが所属するキャラバンがヘルシャフトに狙われている、その原因である可能性がある積み荷を特定したのだろう。
マリとヒバリが考えた通り、キールはミザールに見せられた積み荷を見て険しい顔をしていた。
「おいおいおいおい、なんでこんな物騒なもんが紛れ込んでるんだよ…」
「やはり、その積み荷が原因なのか…」
現在キールの目の前にあるのは、直径一mの木箱に入った五十㎝の黒銀の箱だった。
一見何の変哲もない箱のように言えるが、キールの視点から見ると全く普通ではなかった。
木箱の中にある黒銀の箱は特殊合金でできており、更に特殊合金の箱が入っている木箱の材料と錠前の材料も、普通の木材ではなかった。
「精霊銀と漆黒鉄、夜空鉱石に滅魔銀使った超特殊合金の箱に、精霊樹の木材でできた木箱に御霊鋼でできた錠前二つって、普通ありえないぞ?
特に木箱、かなり年代の精霊樹が使われてるじゃねぇか⁉」
最初に二つの箱を見せられた時、一目見てキールは材料として使われている素材がどれも希少価値の高い物、特殊効果がある物ばかり使われている事に気付いた。
普通の資材ではない箱の存在を知っていたミザールも、キールの反応を見てキャラバンがヘルシャフトに狙われている原因がその積み荷だと確信した。
希少鉱石を使った超特殊合金の箱、精霊樹と呼ばれる樹の木材でできた木箱、そして御霊鋼と呼ばれる鋼でできた錠前、それらが使われている程厳重に保管されている箱の中身は余程ヘルシャフトにとって重要なものなのだろう。
超特殊合金の箱の中身を確認せずキールは精霊樹の木箱の蓋を閉じると、周りの様子を確認してどういった経緯で目の前の積み荷を入手したのかを訊ねる。
「この箱、正確には中身はどうやって手に入れたんだ?
これが自分達じゃ扱いきれない代物だって事は、アンタ自身が一番分かってる筈だろう」
「いや、それは商品じゃなくて預かり物なんだ」
「預かり物? どういう事だ?」
ヘルシャフトに狙われている原因である積み荷が、キャラバンで扱っている商品ではなく預かっている物だと聞かされたキールは、どうしてそうなるに至ったかを訊ねた。
「一ノ月程前の事になるんだが、別の大陸から来たという冒険者のグループにあったんだ。
その時に自分達は他にもやらなければならない事があるから、自分達の代わりにこの積み荷を国境の街にいる仲間のもとまで届けて欲しいと頼まれたんだ。
ヘルシャフトに狙われるようになったのは、それからなんだ」
「何考えてんだその冒険者どもは…。
兎に角この積み荷はなるべく他の連中に触れさせない方が良い、間違いなく中身は恐ろしいくらい危険なものだ」
キールが超特殊合金の箱の中身が恐ろしいくらい危険なものだと判断したのには、キールの目に映る二つの箱の様子と、使われている素材にあった。
木箱の材料である精霊樹は精霊と呼ばれる存在が生まれる特別な樹、神木の一種ともされるためその木材は滅多に出回る事はない。
超特殊合金の箱の材料、精霊銀は大地の精霊の力を強く宿し、金属を苦手とする森の妖精族でも扱う事ができる希少価値の高い銀鉱石、漆黒鉄は闇の精霊の力を強く宿し、希少性は低いが特殊効果があるため、魔除けとしてアクセサリーの材料に使われている鉄鉱石。
夜空鉱石は日差しを一度も浴びず、星と月の光のみを浴びた場所でしか取れない月属性の力を帯びており、魔法の媒体や魔道具の材料として使われる精霊銀以上に希少価値の高い黒鉱。
滅魔銀は以前ヨキ達が祓った瘴気を消し去るのに有効な代わりに、取り扱いが極めて危険な自然水銀だ。
錠前の材料となった御霊鋼は、特殊な方法で加工しありったけの自然エネルギーを注ぎ込み製鋼された鋼だ。
一見特徴を聞いただけではあまり関係なさそうに思えるが、これらの素材に共通しているのは“封印に特化した素材”という事だ。
「恐ろしく、危険な物? 中身を見ていないのに何故そう判断できる?」
「アンタには見えてないだろうが、箱全体に何重もの封印術が施されてる…!」
キールが超特殊合金の箱の中身を確認しなかった理由、それは超特殊合金の箱と精霊樹の木箱に施された厳重すぎるいくつもの封印術が原因だった。
キールが最初に精霊樹の木箱を見た時、恐ろしいくらい封印術の陣が張り巡らされている様子を見た時はおもわず目を疑った。
そして超特殊合金の箱にはそれ以上の封印術の陣が張り巡らされていたため、すぐにこれがヘルシャフトに狙われている原因だという事がわかった。
「具体的にどういったものかはわからない。
けど、これだけの希少で特殊効果を持つ素材と箱全体を覆いつくす程の封印術を使わないといけないくらいだ。
中身が出た途端取り返しがつかなくなる危険がある」
「そんなに危険なものなのか⁉ だったら尚更ヘルシャフトの手に渡れば大変な事になるぞ!」
「この箱を見張らせる時は、アンタが絶対に信頼できる奴にちゃんと説明して任せた方が良い。
新参者のオイラが見張りに着いたら、逆に周りの連中に妙な気を起こさせる危険がある」
「君の仲間達には?」
「……そこでアンタの専属と周囲を警戒してる奴以外には話さないつもりだ」
キールは目線をミザールの専属護衛と共に周囲を警戒するラピスに移しながら、そう答えた。
この謎に包まれた積み荷の中身は自分でさえ手に余る、そう判断した以上、むやみやたらに話さず情報を規制し事実を知る物を限定した方が良いという答えに至った。
確実に分かるのは、謎の積み荷の中身をヘルシャフトに渡してはいけないという事だけだった。
(超特殊合金の箱と精霊樹の木箱に施されたこの封印術の陣、見覚えがある。
確かこれは、あの一族が使う最高位レベルだった筈…。
これが何重にも、しかも二箱分使われているとなると中身は確実にヤバい物。
いや、それ以前に〝物〟なのか?)
謎の積み荷の中身が確実に危険な物であるという事だけは分ったが、次に浮かんだのは、謎の積み荷の中身が物なのかという疑問だった。
その理由は、超特殊合金の箱と精霊樹の木箱に何重にも施された封印術の陣だ。
二つの箱に何重にも施された封印術の陣の術式に、見覚えがあったのだ。
それは、三千年前のヘルシャフトとの戦いで同盟を結んだある一族のものだ。
その一族は霊術士の一族であり、個人差はあるが法術、呪術、巫術に精通していた。
スピリットシャーマン程ではないが、その一族の法術はかなり強力でスピリットシャーマンだけでは対応できない悪しき者に対し、一族独自の法術をよういて同盟を結んだ種族のサポートをし、悪しき者達を封印していった。
その強さを前世でよく知っていたため、封印術の陣を見たキールは謎の積み荷をバーナードキャラバンに預けた冒険者達が、自分の知る一族の子孫達だと直感で感じた。
そして前世で最高位レベルの封印術の陣が使用されていたのは、完全に倒しきれない不死身の敵、もしくはそれ以上に危険な存在、そういった敵が現れた時か、この世に残してはいけないような物が発見された時だけだ。
(超特殊合金の形と大きさからして、剣や刃物類じゃない可能性がある。
この封印術の陣が使われてるって事は、この中に入っているのは三千年に関わるナニカ。
一体何が封印されているんだ…)
謎の積み荷の中身が、前世での戦いに深く関わるナニカである可能性がある事に行き着いたキールだったが、心当たりが多すぎて特定する事ができない。
何より戦いの最中に親友であったグリフと相打ちという形で退場しているため、自分が知らないナニカの可能性もあった。
「なんとかして、オイラ達の戦力を強化しないと…。大変な事になるかもしれない…っ!」
謎の積み荷の中身が三千年前に深く関わるナニカ、そのナニカの正体が分らない以上、キールができる事は今の自分達の戦力を強化することだけだ。
だが、一番戦力として期待していたマリが戦えない状況であるため、それ以外での方法で戦力を強化する必要があった。
キールはそのまま積み荷から離れ、一人模索し始めた。




