第60話 予定の変更、これまでの事
ケイのグループがメディアロルで助けたカンドゥーラを着た行商人が所属するキャラバンに助けられ、無事に臨時の目的地であるギョルシル村に着く事ができたヨキ達。
ギョルシル村についたヨキとマリは、馬車の中で眠っていたケイを起こし村に着いた事を伝える。
「ケイ、村に着いたよ。自分で動ける?」
「ごめん、まだ動けなさそう…」
「じゃあアタシがもっかい背負って運ぶよ」
「それなら私達が予約している宿に運ぶと良い。そっちの方が治りもよくなるだろう」
「かたじけない。ケイ、もう少しだけ頑張るでごじゃる」
キャラバンが予約していた宿の部屋を使用させて貰える事になり、ケイは再びフィービィーに背負われ、ヒバリに付き添われる形でギョルシル村宿に向かった。
馬車から降りたヨキとキールは、同じように馬車から降りた他の仲間達の様子を見た。
馬車の中で休んだとはいえ、これまでの疲れがどっと出て来たのか皆疲れて切った表情をしていた。
「皆、凄く疲れ切ってる…」
「今まで溜まった疲れが一気に出て来たんだな、ほとんどの連中は周りに支えられてる状態だな。
約二名見世物状態になってるな」
他の仲間達は疲れ切っているせいで移動がままならず、同じ馬車に乗り合わせたキャラバンの一員に支えられる形で立っていた。
キャラバンの面子の一部に至っては、マリに付き添うヒエンの姿を目撃し、信じられないといった様子だった。
そこへ、一人で動く事ができるラピスがヨキとキールの元にやってきた。
「お前達、一人で動けるか?」
「オイラはこの通り、問題なく動けるぜ」
「僕も杖を支えにしながらなら、問題ないです。それより、何かあったんですか?」
「先程、キャラバンのリーダーと話をしてきた。
今日から六刻後、国境の街まで移動するらしい。それまでの間、この村に滞在するそうだ」
ラピスはキャラバンを率いるリーダーと話をして来たらしく、本刻から六刻後に自分達が目指してい
るクロノ地方のアルティマ国とガイア地方のシャンテ国を隔てる国境の街に向かう事を告げた。
その報告を聞いたキールは、ケイの事もあり予定を大幅に変更する事にした。
「良し。それなら、オイラ達も暫くキャラバンに同行しよう。
国境の町までなら問題はない筈だ、オイラがそのリーダーに話をつけてくる。
ラピス、そのリーダーの所に案内してくれ」
「わかった。ヨキ、悪いがバンが言っていた二つの回復薬がないか探してくれ」
「わかりました」
国境の街までの間キャラバンに同乗するべく、キールとラピスはキャラバンのリーダーの元に話をしに行った。
ヨキはケイが発症した急性霊力欠乏症を治すために必要な、霊力回復薬と体力回復薬の二つの回復薬を探し始めた。
とはいっても、二つの回復薬の特徴などは分からず、必ずしも手に入るとは限らない。
見つけられなかった時の事を考えると、治療が遅れた事で後遺症が残ってしまうのではないかという不安がよぎった。
「すみません、霊力回復薬と体力回復薬という二つの回復薬を探しているのですが…」
「いや、ここにはないなぁ」
「霊力回復薬と体力回復薬という回復薬はありませんか?」
「回復薬となると、大きな町に行かないとないんじゃないかな?」
「すみません、お聞きしたい事が…」
ヨキは村の住民に聞いて回ったが、いまだに二つの回復薬を見つける事ができない。
そこでキャラバンの行商人達ならば、二つの回復薬を持っているのではないかと思い、行商人達に声を掛けて探し始めた。
「すみません、霊力回復薬と体力回復薬を知りませんか?」
「霊力回復薬と体力回復薬かい? だったら霊力回復薬ならあるよ」
「本当ですか⁉」
キャラバンの行商人達に声を掛けて回るうちに、霊力回復薬を持っている行商人を見つける事ができた。
念願の霊力回復薬を見つける事ができたヨキは、その行商人に霊力回復薬の値段を訊ねる
「その霊力回復薬、いくらで売ってくれますか⁉」
「私が取り扱ってる霊力回復薬は下級と中級だよ。
下級は一つ一〇〇〇メニー、中級は一つ三五〇〇メニーだね」
そういうと下級と中級の霊力回復薬を取り扱っているという行商人は、自分の積み荷から二つの小瓶を取り出し、ヨキに見せる。
下級霊力回復薬の小瓶の中身は透き通る水色の、中級霊力回復薬の小瓶の中身は艶やかな青色の液体が入っていた。
「一〇〇〇メニーと三五〇〇メニー、それなら少し多めに購入してもまだ余裕がある。
すみません、その霊力回復薬の下級を五つ、中級を二つ下さい、今すぐにでも必要なんです!」
「下級が五つに中級が二つだね? それなら合計一二〇〇〇メニーになるけどいいかい?」
「構いません!」
値段を聞いたヨキは旅の道中に薬草採取で得た資金でも十分払えると判断し、一つだけでは足りなかった時のために多めに購入した。
仮に一つで足りても、今後の旅で今回のようなトラブルが起きても対処できるようにしておきたかったからだろう。
指定された金額を渡すと、ヨキはすぐさまケイが運ばれた宿に走り出した。
その途中、キャラバンのリーダーと話をしてきたキールとラピスの二人と合流した。
「キール君、ラピスさん!」
「ヨキか。先程キャラバンのリーダーと話をつけてきた。
国境の街までの同行の許可を得られた。あちらは護衛が増える分は問題はないのだそうだ」
「前にケイ達のグループがメディアロルで助けた行商人の口添えもあって、難なく受け入れられたぜ。
そっちはどうだ?」
「こっちは下級の霊力回復薬を五つと、中級の霊力回復薬を二つ手に入れたよ!
でも、体力回復薬はまだ手に入れるどころか、見つける事も出来てなくて…」
ヨキ達はお互いの近況を報告し、ひとまずケイが運び込まれた宿に向かい、霊力回復薬を飲ませる事にした。
宿に到着していたキャラバンの護衛からケイがいる部屋を聞くと、三人はそのまま直行した。
「一〇三号室、ここだね。ヒバリ君、フィービィーさん、入るよ」
そう言ってヨキが扉を開けると、そこにはベッドに寝かせられたケイとそれを看病するヒバリとフィービィーだけでなく、自分達よりも先に駆け付けたであろうバンの姿があった。
バンがいる事に驚いたヨキは、バンにリースはどうしたのかと訊ねた。
「あれ? バン、どうしてここに? それより、リース君はどうしたの?」
「リースなら一旦スズ達の所に預けて来た。
俺はケイの容態が悪化してないかの確認に来て、二人から話を聞いてたところだ」
「その様子だと、悪化してる可能性はないんだな?
とりあえず、朗報だ。ヨキが下級を五つ、中級を二つ、霊力回復薬を手に入れた。
ひとまず必要な回復薬の内の一つは入手成功だ」
「じゃあ、それを飲ませればケイの霊力は回復するのでごじゃるな」
ヨキが下級と中級の霊力回復薬を手に入れたと聞いたヒバリは、下級霊力回復薬を飲ませればケイの霊力が回復し、急性霊力欠乏症を治す事ができると喜んでいた。
だが、それに対してバンは少し深刻そうな表情をしていた。
「霊力回復薬だけか…」
「どうしたの? やっぱり霊力回復薬だけじゃダメな感じ?」
「確かに霊力回復薬を飲ませれば霊力は回復するんだ。
でも、それだと霊力が回復するに伴って体力を持って行かれるから、先に体力回復薬を飲ませるのが理想的なんだよ」
「そうなの? 全然知らなかった。でも、体力回復薬の方は探しても見つからなくて…」
やはり体力回復薬は必須なものであると認識したヨキは、体力回復薬を手に入れられなかった事に対して落ち込んでいた。
体力回復薬をどうやって手に入れるかで悩んでいると、部屋の扉を叩く音が聞こえて来たため、ケイの看病をしていたフィービィーが扉を開けて対応した。
「はいはーい。あれ? ディルカ、どうしたの?」
「この宿にケイが運び込まれたって聞いて、これを届けに来たの」
そう言いながらディモルフォセカがヨキ達に見せたのは、透き通る黄蘗色の液体が入った小瓶だった。
その小瓶を見たバンは、目を見開いて驚いた。
「それ、体力回復薬じゃないか!」
「嘘! それ本当⁉」
ディモルフォセカが体力回復薬を持って来た事に驚いたヨキ達は、ディモルフォセカの手の中にある小瓶に視線を移した。
キールはディモルフォセカから小瓶を受け取り、それが本当に体力回復薬なのかを確かめた。
それから少しして、キールはディモルフォセカが持って来た小瓶の中身が、間違いなく泰路y区回復薬であると確信した。
「間違いない、下級ではあるが本物の体力回復薬だ」
「本当⁉ バン、下級だけどケイに飲ませてもいい?」
「あぁ、下級体力回復薬なら問題なく治せる筈だ!」
バンから問題ないと返答を聞いたヨキは、キールから下級体力回復薬を受け取り、ベッドで寝ているケイの元に駆け寄った。
先程のやり取りを聞いていたヒバリはベッドで寝ているケイを抱き起し、下級体力回復薬を飲ませやすい体制で支えた。
ヨキはケイに声を掛け、意識があるかを確認してから下級体力回復薬の蓋を開け、小瓶の縁をケイの口に当てて少しずつ飲ませる。
ケイは少しずつ下級体力回復薬を飲み、全て飲み終えると心なしか顔色が良くなったように思えた。
下級体力回復薬を飲み終えたケイは、再びベッドに横になりそのまま眠りについた。
「これで体力の方は順調に回復する筈だ。
あとは十刻み後に中級の方の霊力回復薬を飲ませれば完全に治せるな」
「良かった、今度こそ一安心でごじゃるな」
「それにしてもディルカさん、どうやって体力回復薬を手に入れたんですか?
僕が探し回っても霊力回復薬を見つけるのがやっとだったのに」
下級体力回復薬をケイに飲ませ、ようやく安心できる状況になったヨキはディモルフォセカにどうやって下級体力回復薬を手に入れたのかを訊ねた。
ヨキが村の住民やキャラバンの行商人に話し掛けまわっても、運よく下級と中級の霊力回復薬を手に入れるのでやっとだった。
そんなヨキの疑問に対し、ディモルフォセカはこう答えた。
「前にメディアロルで私達が助けた行商人の方が霊力回復薬と体力回復薬を探してるって知って、キャラバンの護衛をしてる冒険者に声を掛けて回って見つけてくれたの。
それで見つけた体力回復薬を譲ってもらって、私達の所に持って来てくれたのよ」
「それを我々の元に持って来てくれたのか、感謝する」
「そっか! 冒険者の人が持っているかもって事もあったんだ、全然気づかなかった!」
「後でその行商人と体力回復薬を譲ってくれた冒険者に礼を言っとかねぇとな」
ヨキ達が霊力回復薬と体力回復薬を探していると知ったカンドゥーラを着た行商人が、護衛として雇った冒険者達に声を掛けて回り、譲ってもらったのだそうだ。
そしてそれを休んでいたディモルフォセカ達の元に届けてきてくれたらしい。
ディモルフォセカが下級体力回復薬を手に入れた経緯を知ったヨキ達は、カンドゥーラを着た行商人と体力回復薬を譲ってくれたという冒険者に何かしらの謝礼をしようと思った。
「とりあえず、これからどう動くの?
ケイの容体が回復するとはいえ、村を出たらまたヘルシャフト達に襲われて同じ事の繰り返しだよ?」
「そうだなぁ。いくら霊力回復薬を複数手に入れられたとはいえ、同じ事の繰り返しとなると面倒だな」
「それなら問題ない。キャラバンのリーダーと話をつけて、国境の街までの間キャラバンに護衛として同行する事になった。
話によると、このキャラバン、どういう訳かヘルシャフトに狙われているらしい」
ラピスからキャラバンに護衛として同行する事になった事を伝えると同時に、何故かキャラバンがヘルシャフトに狙われていると伝えた。
それを聞いたヨキ達は、全員顔をしかめた。
「ヘルシャフトに狙われてる? もしかしてキャラバンの人達の中に、スピリットシャーマンがいるという事でごじゃるか?」
「いや、それを聞いて試しに生命力を探知してみたが、キール達以外のスピリットシャーマンがいる気配はなかった」
「それってつまり、狙われてるのは積み荷の方って事?」
「可能性としてはあり得るわね…」
キャラバンがヘルシャフトに狙われている原因が、キャラバンの積み荷にあるのではないかという推測が出た。
その推測を聞いたディモルフォセカは、一人納得していた。
理由としては、ディモルフォセカには心当たりがあったのだ。
以前、メディアロルでカンドゥーラを着た行商人を助けた時に、ヘルシャフトは積み荷を乗せている馬車を集中的に攻撃していた。
積み荷の馬車にはヨキ達が今持っている水の古文書が乗っていたため、何かしらの方法でその事を嗅ぎつけたヘルシャフトが水の古文書を奪うために攻撃していたのだろう。
その事を考えると、ヘルシャフトにとって何か必要な物、もしくは不都合な物がキャラバンの積み荷の中に含まれている可能性がある。
ディモルフォセカは、話をしてきたキールとラピスに積み荷の確認はしたのかを確認した。
「ねぇ、積み荷の方か確認したの?」
「流石に護衛とはいえ新参者のオイラ達が確認できる訳ねぇだろう。
一応、キャラバンのリーダーが狙われてそうな物がないか確認して、目星を付けるそうだ」
「せめてどんな物が狙われているかわかれば、対応しやすいんだけど…」
「ヘルシャルシャフトが狙う物って、全然想像できないなぁ」
ヘルシャフトが狙う物がどんな物を狙っているのか見当もつかず、ヨキ達は頭を悩ませたが、そうやって話し込んでいる内に十刻みが経過していた。
その事に気付いたヨキは、中級霊力回復薬の蓋を開けると、眠っているケイに声を掛けて起こす。
ケイが起きた事を確認すると、ヨキはケイの体を起こして小瓶の縁を口に当て、下級体力回復薬の時と同じように、少しずつ中級霊力回復薬を飲ませた。
中級霊力回復薬を飲み干したケイは、ヨキに礼を言うともう一度眠りについた。
「見て、ケイの顔のクマ。少しずつだけど、薄れて行ってるよ!」
ヨキが言った通り、急性霊力欠乏症の中期段階を告げる症状である紫みのある青クマが少しずつ薄れていっている。
それは上手く回復できていないケイの霊力が回復し始めた証拠だった。
急性霊力欠乏症が治り始めた事がわかったヨキ達は、これでケイが治ると安心し、喜びあった。
「良かった、ちゃんと効果が出て治り始めてる」
「とりあえず、ケイが大丈夫って事と、今は他の皆にも護衛としてキャラバンに同行する事になった事を伝えた方が良いんかないかな?」
「早く他の皆にも伝えに行こう!」
「だな、てちょっと待て! お前他の奴らが何処にいるかわからないだろう⁉」
ケイの急性霊力欠乏症が治り始めた事と、国境の街に着くまでの間、護衛としてキャラバンに同行する事になった事を他の仲間達にも伝えた方が良いというフィービィーの言葉に反応したヨキは、そのまま部屋を飛び出していった。
キールは勢いよく飛び出して行ったヨキの後を慌てて追いかけ、そんなキールについていく形でフィービィーも部屋を出て行った。
飛び出して行った三人の様子を見ていたディモルフォセカ達は、二人のやり取りを見て呆れながらも少しほっとしていた。
「ところで、キャラバンに同行する事になったって言ってたけど、出発はいつ頃になるの?」
「予定としては四刻後の早朝、黒辰時には出発するそうだ。
麦季から白季への変わり目であるこの時期の時間帯ならばまだ月は出ているし、ヘルシャフトに襲われる危険は低いだろう」
「麦季から白季、いつの間にかそんな時期になってたんだなぁ…」
麦季から白季、そう聞いたバンはヨキと出会ってから既に半年近くという時間が流れたのだと実感がわいてきた。
それはヒバリも同じだったようで、ケイとの出会いを少し懐かしく思っていた。
ヨキ達との出会いはあまりにも突然で、そして自然とヘルシャフトとの戦い、離れ離れになった幼馴染を探すための旅に同行し、ここまで来た。
そして今、ヨキの失われた記憶を求めて風神龍の大峡谷を目指している。
「とりあえず、出発するまでに時間ができたんだ。
出発までの間、しっかり英気を養って絶対に風神龍の大峡谷に辿り着こう」
「そうね、問題は山済みだけど、一つ一つ解決していけばきっと道は開ける」
「油断は禁物だ。私達も含めキャラバンが狙われている以上、敵の襲撃は激しさを増すだろう」
「リンク・リンクを問題なく使えるよう、訓練するべきかもしれぬな」
ケイの急性霊力欠乏症が治り始めた事で余裕ができた事で、ディモルフォセカ達は出発までの間にできる事を話し合い始めた。
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同時刻、ケイの急性霊力欠乏症が治り始めた事を他の仲間達に伝えるために飛び出したヨキは、追いついたキールに腕を掴まれる形で仲間達の元に来ていた。
ヨキ達からケイの容態と国境の街に着くまでの予定を聞いた仲間達から、安堵と困惑の様子が見て取れた。
「それじゃあ後遺症が残る心配はないのね? 良かったぁ」
「旅の間ずっと歩くのを覚悟してたけど、馬車に乗れるのはありがたいわね」
「キャラバンがヘルシャフトに狙われているって、一体どういう事だ?」
「色々あったけど、なんとかなりそうで良かったでぇ」
「ヘルシャフトが狙う物、一体なんだろう…」
それぞれ思っている事を口にしていると、マリの隣に座っていたレイアがウトウトと舟を漕いでいた。
その事に気付いたマリは、優しくレイアに声を掛けた。
「レイア、大丈夫? 眠いなら先に眠っていいよ?」
「ごめん、そうする…」
マリに促され、レイアは四人部屋で空いているベッドの内の一つに入り、そのまま眠りについた。
それ以外のベッドでは既にリースとラヴァーズの二人が先に入っており、レイア同様ぐっすり眠っていた。
ヘルシャフトとの戦いで年少組は疲れ切っており、翌刻まで起きる気配はなさそうだ。
「リース君達、すっかり寝ちゃってるね」
「仕方ないわ。どうしても体力の差が出てきて、疲れも貯まりやすくなるのよ」
「さっきのレイアの様子からしてさっきの話はちゃんと聞けてなさそうだな。
年少組に関してはまた明日説明し直すか」
「オイラ達もそろそろ休もう、国境までの道のりを考えると、またヘルシャフトが襲ってくる可能性が高い。
それに、風神龍の大峡谷までまだまだ道のりは長いんだ」
ぐっすりと眠る年少組の姿を見たキールは、国境の街と風神龍の大峡谷までの道のりを考え、休める時に休んでおく必要があるといった。
風神龍の大峡谷に着くまでにまだ時間がかかるというのもあるが、キャラバンがヘルシャフトに狙われる明確な理由はまだわかっていない。
本当に狙われているのは積み荷なのかも怪しい。
ヘルシャフトの襲撃を危惧し、少しでも多く休んで消耗した体力と霊力を取り戻しておきたいのだろう。
「とりあえず今日はこれで解散、でいいわね?」
「俺はこれから紛失した分のクォレルの補充に向かう。
質は悪くとも、ヘルシャフトとの戦いでは十分役に立つ筈だ」
「俺はそろそろ寝るよ。理力を使い過ぎたのか少し眠いや」
一通りの話が終わったため、必要なものを手に入れに行く者、眠る者とに分かれてその場にいた全員が解散した。
宿の廊下を歩きながらヨキは風神龍の大峡谷について考えた。
(出発は五刻後、国境の街に着いたらいよいよ本格的に風神龍の大峡谷に向かうんだ…。
そこに行けば、僕が誰なのかわかるのかもしれない、でも…)
不意に立ち止まり、ヨキは廊下の窓越しに夜空を見上げる。
窓越しに移るヨキの顔は、何処か不安であふれていた。
(町を出る前、風神龍の大峡谷に向かう事が決まった途端に僕は一瞬だけ暴走した。
僕はきっと、風神龍の大峡谷の事を知ってる、知ってるのに思い出せなかった。
どうしてだろう、わからない。思い出したくない事、なのかな?
思い出したい、思い出したい筈なのに、今は、今だけは、思い出す事が凄く怖い…)
ヘルシャフトの襲撃、ケイが発症した急性霊力欠乏症、バンが能力を開花させた町で自分が起こした短時間だけの暴走。
立て続けに起きたトラブルのせいなのか、ヨキの精神は不安手になり、自分の記憶を取り戻す事に恐怖を感じていた。




