第59話 戦いの傷跡
辛くも二百近くのヘルシャフトの襲撃を退けたヨキ達。
だが、二百近くのヘルシャフトとの戦いのさなか、マリが攻撃系の法術全てが使えないという事が判明する。
連日から続くヘルシャフトの襲撃により、ヨキ達は体力を消耗しきっていた。
「皆、大丈夫か?」
足場として使っていた木から降りたキールは、仲間達の状況を確認する。
予想だにしていなかった数のヘルシャフトの襲撃を受けたため、自分達もかなりの被害を凍無っていると考えたのだろう。
そのため、すぐにでも状況を確認する必要があったのだ。
「全然大丈夫じゃないわ。もうくたくたよ…」
「ケイも戦い始めてすぐにリンク・リンクを使ったせいで、体力も霊力も底をついているでごじゃるよ」
「投げナイフの方は手作りだから材料があれば補充できるけど、スズのおかげで大分節約はできたけど、煙玉の残数の方は心もとないな」
「僕の方も護符がもう五枚しかありません、質は悪くてもいいので何処かで補充しないと」
「私の方も剣が刃こぼれを起こしている。
それにこれまでの戦いのダメージとメンテナンスを怠っていたせいで、剣自体が疲弊しきっていて限界だ」
ディモルフォセカやニヤト、地上で戦っていた仲間達は大丈夫ではないと申告する。
ヒュドール=オルニスを顕現させて戦っていたケイは、既に体力も霊力も底をついているためヒバリに支えられている状態だった。
リースは呪術を発動させる媒体となる護符の残りが五枚しか残っておらず、レイアも香辛料入りの煙玉の残数が心もとないと告げた。
それはクロスボウを使うヒエンも同じであり、今後の事を考え使用したクォレルを回収して回っていたが、ほとんどが破損しているか紛失しているかだったため、手元に残っていたものを含めてもたいした残数にはならなかった。
ラピスも使用している剣が刃こぼれを起こしているだけではなく、剣そのものが限界だと伝えた。
「キール、皆限界だよ。何処かで休まないと、国境まで持たないよ」
「予定を遅らせるしかないか。カトレア、ここから一番近い村か町はないか?」
「それなら、四重時程歩いた先に小さな村があった筈よ」
「良し、そこに行こう。問題なければ、二刻だけでも休んで、体力を回復させないと…」
フィービィーの進言で四重時程歩けばつくとされる村で、キールは予定を遅らせ二刻程休む事を仲間達に伝えた。
それを聞いた仲間達は、周囲に落ちているヘルシャフトが封印された宝石を拾い集め始めた。
体力を消耗していたため動く気力もなかったが、事の経緯を知らない一般人が拾い、何かしらの表紙に封印が解けてたりでもすれば、それこそ一大事だ。
宝石を拾いながら、キールはマリの事について悩んでいた。
「まさか戦力としてあてにしてたマリが戦えねぇとは、完全に誤算だったぜ」
「なんか、正気をなくていた時と全然違うね。
前に戦った時はアタシ達を圧倒していたのに、どうしてここまで違うんだろう?」
「恐らくだが、氷の社の試練を受けたのが原因だろうな」
「氷の社の試練が原因⁇」
フィービィーがトゥーランドットだった時と、今のマリの実力がここまで違う事に対して不思議がっていると、キールはレイフォン兄弟の故郷である実りの街、そして二人の幼馴染であるキバの実家が守り続けて来た氷の社で試練を受けたのが原因だといった。
キールの憶測を近くで聞いていたヒエンは、それがどういう事なのかとキールに声を掛けた。
「おい、実りの街にあった地下の遺跡が言ってのはどういう事だ?」
「正確に言えば、不安定な状態で試練を受けたのが原因、だな。
お前も知っての通り、マリは自分の両親がヘルシャフトに暗殺された事を知って、お前らを置いて飛び出す程ショックを受けてただろう?」
「えっと確か、それから実りの街にあった氷の社に行って、試練を受けて氷の礎に触った途端、豹変したんだったよね?」
フィービィーはマリがトゥーランドットに豹変するきっかけになった経緯を一つ一つ言いながら、キールに確認する。
「あぁ。今でこそ正気を取り戻したが、そんな不安定な状況で試練を受けたんだ。
トゥーランドットに豹変したように、それ以外で悪影響があっても可笑しくない筈だ」
「……無自覚に殺す事を恐れてるって事か」
キールから話を聞いたヒエンは、マリが無自覚にヘルシャフトを殺す事を恐れている事を指摘した。
マリ自身はヘルシャフトを殺した時の記憶は残っていない。
だがトゥーランドットだった時に記憶はうっすらと残っており、ヨキ達を傷つけた時の事は覚えていた。
その事に対してマリ本人は今も気にしているが、仲間達はそれほど気にはしておらず、ヨキとケイに至っては戻ってきてくれただけで十分だった。
そんなマリは今、ヨキとレイアに付き添われながら宝石を拾い集めていた。
今回の戦いで攻撃系の法術を使えない自分が一番足を引っ張ってしまったという自覚があるため、複雑な心境だった。
法術が使えない事を仲間に伝えていなかった事もそうだが、実際に使えなければ意味がない。
邪魔者同然だ。
(私のせいで、皆に迷惑かけちゃった…。なんとかして、使えるようにしないと…)
「大丈夫、マリ?」
「うん、大丈夫よ。それよりも、ヘルシャフトの戦いでは足を引っ張ってごめんね…」
「マリが気にする事ないよ。僕らもマリの異変に気付いてたのに、聞かなかったんだから…」
「今は目的地まで無事に旅を続ける事だ。法術についてはこれからゆっくり考えて行こう」
マリは今回の戦いでヘルシャフト達との戦いで足を引っ張ってしまった事を謝罪したが、ヨキとレイアは気にするなと言った。
レイアは法術を使えるようになる方法はゆっくり考えればいいと進言し、焦る必要はないと伝えた。
そして宝石を全て回収し終えたのを確認すると、村まで移動を開始しようとした時、ラヴァーズが大声でカトレアを呼んだ。
「姉さん、ケイさんの様子がおかしいよ!」
「えっ? ちょっと待ってて…」
ケイの様子が可笑しいと連絡を受けたカトレアは、木にもたれ掛かるケイの様子を確認し始めた。
俯くケイの顔をそっと触れ、ケイの頭を上げると表情を見て思わず驚いた。
言葉が訛った状態でカトレアは散らばっている仲間達を呼んだ。
「皆ちいと来て! ケイが大変なの!」
「どうした、何があった⁉」
「なんや、また敵襲か⁉」
「落ち着くでごじゃるニヤト! カトレア殿は敵襲とは言っておらぬ!」
「カトレア、ケイが大変ってどういう事なの? 何があったの?」
カトレアが言葉を訛らせている時は大抵良くない事が起こっている場合が多いため、仲間達は良くない事が起こっているというのが嫌でもわかった。
カトレアが言葉を訛らせるのは怒っている時か、予想外の事が起こった時だ。
今回の場合は後者だと判断したディモルフォセカは、ケイに何が起きたのかカトレアに訊ねた。
「ラヴァーズからケイの様子が可笑しいって聞いて確認しようと顔を上げたら、ケイの顔色がぶち酷いのよ!」
「顔色が? ちょっと見せて」
「ケイ、ちょっと確認する……えっ⁉」
ケイの顔色が酷いと聞いたヨキとマリは、カトレアと場所を変えて容態を確認しようとする。
ヨキが容態を確認する事をケイに伝えようとした時、思わず言葉を詰まらせた。
ヨキとマリの目に入ったケイの表情は、ただでさえ青白い肌が普段以上に青白くなり、寝不足ではない筈が目の下には酷いクマができていた。
これはただの体調不良ではないと判断した二人は、すぐにケイの診察に入った。
「ケイ、僕の声聞こえる⁉ 自分がどんな状態かわかる⁉」
「ヨキ…、あぁ、聞こえてる。自分で言うのもあれだけど、ちょっと気分が悪いかも…」
「気分が悪いの⁉ 吐き気はする? 頭痛は?」
「肌が冷たい、体温が低いわ。それなのに脈拍数が早い、息切れはしてないけど呼吸が浅い、症状が色々矛盾してるのかしら…?」
ヨキとマリはケイに起こっている謎の体調不良の正体がわからず、どう対応すればいいかわからなかった。
ケイはヨキに質問された内容に対し、吐き気も頭痛もしない事を身振りで伝えた。
ヨキはヒバリとカトレアの方に向くと、目の下のクマについて訊ねた。
「ヒバリ君カトレアさん、ケイの眼の下にあるクマだけど、いつぐらいからあったか分かりますか?」
「確かセッシャがケイを休ませた時には、クマはなかったでごじゃる」
「アタシがケイの顔を見た時にはもうあったわ。
多分だけど、アタシ達が宝石を集めている間にできたんじゃないかしら?」
「短時間でクマができるなんて、聞いた事ない。
どうしよう、ケイの体調不良の原因がぜんぜんわからない…」
ヒバリとカトレアの証言から、ケイの眼の下のクマがヘルシャフトを封印した宝石を集めている間にできた可能性がある事は分かった。
だが、短時間でクマができるという事例を聞いた事がなかったため、ケイに起こっている体調不良の正体が全く分からなかった。
原因がわからず頭を抱えていると、ケイがマリに話し掛けてきた。
「マリ、古文書を使って体調不良の原因、探れないか?」
「そっか! 古文書にはいろんな情報が載ってるから、調べればわかるかも!」
「ヨキ、マリと交代してケイの事見てろ。オイラも樹の古文書使って調べてやる」
「私も炎の古文書で調べるわ」
ヨキ達はケイの考えから今手元にあるアーカイブのパーツである古文書を使い、ケイの体調不良の原因を探り始めた。
だが、バラバラになっているせいなのか、それとも水の古文書に記されているのか、それらしい情報を見つける事ができない。
マリと交代し、他の仲間達が見守る中、ヨキはケイの診察している内にある事に気付いた。
「あれ? このクマ…」
「どうしたんですかヨキさん?」
「リース君、ちょっとこのクマ、一緒に見てもらってもいいかな?」
ケイの眼の下にできたクマを見てほしいとヨキに頼まれたリースは、促されるままケイのクマを見た。
そしてリースもまた、ヨキ同様にある事に気付く。
「あれ? このクマの色、少し変ですね…?」
「やっぱり、気のせいじゃなかったんだ…」
「どうしたお前ら、何かあったのか?」
「計算にできてるこのクマ、青紫っぽい感じなんです。
最初に見た時は一般的な青クマかと思ったんですけど、近くで見たら紫がかっていて…」
クマが青紫色だと聞いた仲間達は、次々にケイのクマを確認する。
確かにリースが言った通り、ケイのクマは紫みのある青クマだった。
そのクマを見た仲間達は見た事のない色のクマに困惑する中、バンはただ一人だけそのクマが何を意味するのか理解した。
「これ、急性霊力欠乏症の症状だ」
「急性霊力欠乏症? 何それ聞いた事ないよ?」
「バン君、急性霊力欠乏症について説明して」
バンの口から急性霊力欠乏症という言葉を聞いたヨキは、そのような症状を聞いた事がなかったため困惑した。
ヨキとは逆に、それこそケイに起こっている体調不良の正体だと確信したマリは、バンに詳しい説明を求めた。
「急性霊力欠乏症は、霊力を持つ法術士や呪術師が起こす病気なんだ。
インターバルを挟まずに霊力を消費したせいで、霊力が上手く回復しない症状なんだよ。
命に関わらないけど、下手すると何かしらの後遺症が残るくらい危険なんだ」
「「「後遺症が残る⁉」」」
命の関わらずとも何かしらの後遺症が残るかもしれないと言われた仲間達は、酷く動揺した。
特にヨキとマリは、その後遺症がどのように出て来るかわからず、急性霊力欠乏症の事は今回初めて知ったため、治し方がわからず混乱していた。
「このままだとケイは後遺症が残っちゃうの⁉」
「いや、まだ中期段階に入ったばかりだから、ちゃんと治療すれば後遺症は残らない筈だ」
「これで中期段階⁉ それじゃあ私達、急性霊力欠乏症の初期症状を見逃してたって事⁉」
「そんな様子、今まで見た事ないで?」
「セッシャとしては、ケイが自分の体調不良を見逃すとは思えぬが…」
既にケイの急性霊力欠乏症が中期段階に入っていると知った仲間達は、自分達が気付かない内に初期段階を過ぎていた事に動揺した。
それと同時に初期症状に陥っている様子を見た事がなく、ヒバリが言ったようにケイが自分の体調不良を見逃すとは思えなかった。
「急性霊力欠乏症は滅多に起こらないし、初期症状は軽い胃のむかつきに似てるからケイも気づけなかったんだ」
「ケイ、胃のむかつきはあった? もしあったとしたら、いつ頃からかわかる?」
「十刻前の夜くらいから、胃のむかつきはあった。
胃薬を飲んでも収まらなくて、でも腹痛が起こる訳でもないから、普通のむかつきじゃないかもって思ってた。
次に人がいる所に着いたら、そこにいる医者にちゃんと診てもらおうと思ってた。
けど、戦いが終わった後に、気持ち悪くなって…」
ケイ自身普通の胃のむかつきではない事を自覚していたらしく、万が一の事を考えれっきとした医者にきちんと診察してもらうつもりでいたようだ。
だが、ここにきて容態が悪化するとは思っていなかったらしく、相当参っていた。
どちらにしても一刻も早く村に行き、ケイを休ませる必要があった。
「すぐにでも村に向かいましょう。ここだとしっかり休めないし、ちゃんと治療もできないわ」
「それならアタシがケイを背負おっか? 結構動いたけど、体力はそれなりに残ってるし」
「だったら僕がケイの荷物を持つよ。ケイの事だから、色んな薬草入れてる筈だし…。
ヒバリ君は、ケイの斧を持ってもらってもいいかな?」
「うむ、この中で安全に持つ事ができるのはケイを除いてセッシャだけじゃからな。
任されよ」
ヨキ達の中で比較的に体力が残っているフィービィーがケイを背負う事になり、ケイの荷物をヨキが、斧をケイのアトラースであるヒバリが持ち、移動を開始した。
フィービィーに背負われているケイは、急性霊力欠乏症になったせいか何処か苦しそうだ。
「ケイさん、すごく苦しそう…」
「生命力が乱れてる…。霊力が回復しないせいで、体力も上手く回復してないのかも」
「だったら、ラビューズ・ラビューズで私の霊力を送れば…」
「いや、それだとケイの霊力が回復したとしても、今度はお前が同じ状況に陥ってしまう危険がある。
やめた方が良いだろう」
霊力が上手く回復していないのならば、霊力を与えれば治るのではないかと考えたディモルフォセカだったが、逆にディモルフォセカが急性霊力欠乏症を発症する危険があると危惧したラピスに止められてしまう。
ラピスに賛同するように、バンもケイが急性欠乏枯渇症を発症した原因を放し始めた。
「ラピスの言う通りだ。ここ最近、ヘルシャフト達の襲撃が多かった。
簡単に言うなら法術を連発してる状況が続いている。
ある意味インターバルを挟んでいない状況だ、そのせいで霊力の回復が追い付いていない状況になってしまった結果、ケイは急性霊力欠乏症を発症した。
それはヨキやディルカ達霊力持ち全員に共通してる筈だ」
「オイラ達も気付かない内に、発症してる危険があるって事か…」
法術を使い過ぎた事により、霊力の回復が追い付いていない状況が続いている以上、霊力仲間全員が急性霊力欠乏症を発症している危険がある。
それを聞いたキールは改めて自分達が違う面で危険な状況に立たされているのだと知った。
フィービィーに背負われているケイの様子を見ていたカトレアは、バンに急性霊力欠乏症の治療法を訊ねた。
「ねぇ、急性霊力欠乏症ってどうやって治療するの?」
「今の状況での確実な治療法としては、霊力回復薬と体力回復薬を使えば治せる筈だ」
「というよりも、なんでお前が治療法を知ってるんだよ?」
「なんていうか、ケイのクマを見た途端に思い出した感が強いんだよなぁ」
「それよりも問題は、さっき言った二つの回復薬を手に入れられるかどうかだ」
急性霊力欠乏症を治すには霊力回復薬と体力回復薬が必要だという事が判明したが、ヒエンが言った通り、その二つの回復薬を手に入れる必要がある。
現在向かっている村に着いたとしても、その村に回復薬があるとは限らないのだ。
一刻を争う実態ではあるが、ヘルシャフト達との戦いで消費した体力が戻る訳でもなく、満身創痍の状態で移動しているため、中々先に進まない。
その状態で移動した結果、最年少に当たるラヴァーズの歩みが遅くなり始めた。
「ラヴァーズ、大丈夫?」
「はぁ、はぁ…。もう、むりぃ…」
「ラヴァーズ!」
最年少という事もあり、移動速度が遅いため翼を展開し軽く浮く程度で移動していたのだが、体力を使い切ったのか翼を消えてしまった。
危うく地面に落ちそうになった所をカトレアがとっさに受け止め、疲弊しきったラヴァーズを抱き寄せた。
これ以上ラヴァーズが自力で移動できないと判断したカトレアは、そのままラヴァーズを抱きかかえて移動する事にした。
カトレアに抱きかかえられたラヴァーズ同様、同じく年少組であるリースとレイアも限界が近づいていた。
「思った以上に歩みが遅い、この様子だと四重時で村に着くのは無理だ」
「どうする? 一旦休む?」
「ダメだ、時間が経てば経つ程疲労が出て来る、中途半端な休憩は体を蝕む。
それにケイの容態が悪化する危険がある」
「一応ここは村に続く道のりやし、行商人とかなんか乗り物に乗った誰か通らんかいなぁ?」
「そんな都合よく…」
誰かが通らないかとニヤトが呟いていると、背後の方から馬車が動く音が聞こえて来た。
ヨキ達が背後の方を振り向くと、そこには積み荷を乗せた馬車を操作するキャラバンの姿があった。
都合のよすぎる展開が起こった事に対し、キールは言いかけた言葉をそのまま飲み込み、思わず黙り込む。
そんな中、キャラバンの馬車を操作する人物の一人がヨキ達に声を掛けてきた。
「おや? 君達はメディアロルの時の子達じゃないか」
「え? メディアロル⁇」
「あっ! この行商人さん、アタシ達がメディアロルで助けて竪琴と水の古文書をくれた人だわ!」
ヨキ達に声を掛けて来た人物を見たカトレアは、その人物がヨキ達と合流する前に立ち寄った、メディアロルでヘルシャフトから助けた行商人である事に気付いた。
行商人の方もキャラバンの仲間に自分を助けてくれたケイ達のグループと知り合った経緯を説明すると、嬉しそうな様子で話しかけた。
「まさかこんな所で再会するとは思わなかったよ。随分と大所帯になったね」
「行商人のおっさんも元気そうやな! 何処に向かってはるんや?」
「この先の村だよ。小さい村ながらにそこでしか取り扱っていない品物があってね」
「それ、本当か⁉ 頼む、オイラ達を乗せてくれないか?
一刻も早く、倒れた仲間を休ませたいんだ!」
行商人の一団が、自分達が向かっている村まで向かうと聞いたキールは、フィービィーに背負われているケイを指さしながら訴えた。
フィービィーに背負われているケイを見た行商人は、ケイの衰弱ぶりに驚いていた。
それだけではなく、カトレアに抱きかかえられているラヴァーズや、ボロボロのヨキ達の姿を見てただ事ではないと悟った。
「よく見ると君達、ボロボロじゃないか! 空きのある馬車があるから、早く乗りなさい!」
「ありがとうございます!」
行商人はキャラバンの仲間達に頼み、ヨキ達は空いている馬車に各々乗り込んだ。
そしてキャラバンはそのまま村の方に向かい始めた。
フィービィーは背負っていたケイを下ろすと、横たえさせて休ませた。
ケイは息苦しそうにしながら、顔を歪ませていた。
「ケイ、大丈夫? 水は飲める?」
「ヨキ、鞄の右外ポケット、赤いリボンの小瓶と、青いリボンの小瓶」
ケイは息苦しそうにしながら自分の鞄を持つヨキに指示を出した。
指示を出されたヨキは、持っていたケイのカバンを確認し指定された赤と青、それぞれの色が付いた小瓶を取り出した。
赤いリボンの小瓶には蜂蜜が、青いリボンの小瓶には乾燥した薄荷が入っており、それを見たヨキはケイの意図を察した。
ヨキは同じ馬車に乗っていた別の行商人から水の入ったコップを受け取ると、蜂蜜と乾燥した薄荷を入れると、横たえているケイを起こし、蜂蜜と薄荷を入れた水を飲ませた。
ケイは蜂蜜と薄荷を加えた水を少しずつ飲み、コップの中身を飲み干したあとに少しむせてしまったが、ほんの少しだけ気が楽になった気がした。
「ありがとう、ヨキ」
「今は眠った方が良いよ、少しでも体力を回復させないと…」
「マジでごめん、そう、させてもらうよ…」
ヨキに進言されたケイは、その言葉に甘えて眠りについた。
急性霊力欠乏症を発症したケイの衰弱ぶりをキールは、これまで立て続けに起きた戦いが乗り越える事ができたが、その傷跡を痛感させられた。




