第58話 法術が使えないスピリットシャーマン
二百人近くのヘルシャフトの襲撃を受け、四つのグループに分かれて戦うヨキ達。
マリはヒエン、レイア、スズの三人とグループを組み戦っていた。
常に旅をしてきたという事もあり、場数を踏んでいるヒエンは愛用のクロスボウを構え、降りて来たヘルシャフト達の翼に目掛け次々クォレルを打ち込んでいく。
「そっちに四人落ちた、すぐに封印しろ」
「わかったわ! チェック・ダ・ロック!」
ヒエンから落ちて来るヘルシャフトの人数を聞いたマリは、アーマーリング(氷の礎)の先端を向けると同時に素早く封印していく。
マリが落ちて来るヘルシャフト達を封印している中、レイアは香辛料を仕込んだ煙玉を投げつけヘルシャフト達を牽制し、その間に旅の合間に作っていた手作りの投げナイフで攻撃する。
レイアの動きに合わせてスズが風を起こし、攻撃力を上げていた。
マリのグループでの支援担当は香辛料を仕込んだ煙玉を使うレイア。
レイアが使う香辛料を仕込んだ煙玉がヘルシャフトにも有効である事は既に証明されており、多くのヘルシャフトを一気に怯ませる事ができる程だ。
煙という事もあり、レイアの護衛についているスズとの相性も抜群だ。
仮に外してしまったとしても、スズが風を操って調整し、必然的にヘルシャフト達が被害に遭うようにフォローできる。
おまけに煙玉の使用回数を節約できるため、万々歳だ。
「スズ、左上空に向けて風を起こして、そこにいるヘルシャフト達が逃げられないように周りを囲んで!」
「任された!」
スズはレイアの指示に従い、上空にいるヘルシャフト達を囲う様にして風を起こし、レイアはその風に乗せて煙玉を投げつける。
風と香辛料入りの煙に巻き込まれたヘルシャフト達は、目と鼻をやられ困惑した。
「ゲホッゲホッなんだっこのっ煙は⁉」
「うわぁッ! 目が、目が痛いぃいっ!」
「うっうぅ、鼻までやられてる…。この煙なんとかしろよ!」
「無理だ、風が邪魔して、煙を散らせない…っ!」
香辛料入りの煙にやられたヘルシャフト達は、その場で仲間割れを始めた。
仲間割れを始めたヘルシャフト達の姿を見たレイアは、投げナイフを数十本投げ、スズが風で投げナイフの軌道を修正する。
レイアが投げたナイフは香辛料入りの煙にやられたヘルシャフト達に次々命中し、落下していく。
その光景を見たマリは、素早く落下していくヘルシャフト達の真下まで移動し、チェック・ダ・ロックを唱えて封印した。
だが、ヘルシャフト達を封印するために移動したせいでヒエン達と離れてしまった。
「何してるマリ! 離れすぎるな!」
「ちょっと待って、すぐに戻るから!」
離れすぎた事を指摘されたマリは落ちて来たヘルシャフト達を封印した宝石を全て回収し、ヒエン達の元に戻ろうとした。
だが、離れすぎたのが良くなかった。
ヒエン達の元に戻ろうとしたマリの前に、無数の結晶の鏃を宙に浮かばせた四翼のヘルシャフトが現れた。
「グラデーション状に紫がかった白銀の髪、紅玉の如く赤い瞳、アイスアサシン、我らの同胞を葬って来た氷の暗殺者だな?」
「翼が四枚? もしかして、前に聞いた貴族級のヘルシャフト⁉」
マリは自分の前に四翼のヘルシャフトが現れた事に驚いていた。
それに対し、四翼のヘルシャフトはマリの容姿を見て、多くのヘルシャフトの命を奪ってきたトゥーランドットだと確信し、警戒していた。
「貴様の法術は我らにとって最も脅威だ。今この場を持って死んでもらうぞ、氷の暗殺者」
「反撃しなきゃ、スマッシュ……ッ!」
四翼のヘルシャフトが自分を狙っていると知ったマリは、アーマーリングの先端を四翼のヘルシャフトに向け、スマッシュ・スマッシュを唱え発動させようとする。
だが、何故かマリは発動を中断してしまう。
そんなマリに情けを掛ける事などせず、四翼のヘルシャフトはマリに向かって水晶の鏃を放つ。
このままでは危険だと判断したマリは、すぐさまベール・ベールを発動させ攻撃を防ぐが、水晶の鏃は氷のドームを貫通し、マリに襲い掛かる。
「嘘でしょう⁉ キャアッ!」
氷のドームを貫通して襲い掛かる水晶の鏃から逃げ出したマリは、もう一度スマッシュ・スマッシュを唱えようとアーマーリングを向けるも、やはり途中でやめてしまう。
四翼のヘルシャフト相手に法術を発動しないマリの姿を見ていたヒエン達は、マリに法術を使うよう進言した。
「なんで攻撃しないんだよマリ⁉」
「なんでもいいから、法術を使うんだ!」
「バカ野郎! 敵の前で立ち止まってんじゃ…⁉」
マリに法術を使うように進言していたヒエンは、青ざめたマリの表情を見て言葉を失う。
その表情を見たヒエンの頭の中に、ある可能性か思い浮かんだ。
「(アイツ、まさか…っ⁉) 逃げろ、マリ!」
ヒエンのその言葉に反応したマリは、ヒエンが言った通りに自分の向いている方向を変え逃げ出した。
逃げ出したマリの姿を見た四翼のヘルシャフトは、大量の水晶の鏃をマリに向けて放つ。
異変に気付いたヒエンは、逃げるマリの元に駆け寄ろうとするも他のヘルシャフトの妨害を受けてしまい、すぐに向かう事ができない。
その間にも、マリは自分に降りかかる水晶の鏃から逃げ惑う。
だが、大量の水晶の鏃から逃げ切る事などできず、水晶の鏃の一つがマリの左足にかすめ、そのまま転倒してしまった。
慌てて起き上がろうとするマリだったが、左足を負傷した事ですぐに立ち上がる事ができない。
その間に四翼のヘルシャフトは水晶の槍を作り出し、その矛先をマリに向ける。
「数多くの同胞を殺めて来たその罪、死して償え!」
四翼のヘルシャフトはマリに向けて水晶の槍を投げる。
自分に向かって飛んでくる水晶の槍を見たマリは、思わず悲鳴を上げた。
「キャアーッ!」
「マリィ!」
「スイング・スイング!」
水晶の槍がマリに迫る中、朱色の炎が水晶の槍の軌道を逸らした。
別のグループで戦っていたディモルフォセカが、とっさにスイング・スイングを発動させトーチの炎で水晶の槍の軌道を逸らしたのだ。
ディモルフォセカが逸らした水晶の槍は、ヒエンを妨害していたヘルシャフト達の方に飛んできたため、ヘルシャフト達は慌てて水晶の槍から逃げる。
連携が乱れた隙をつき、ヒエンは急いでマリの元に駆け寄る。
「マリ! 無事か⁉」
「ヒエン…。ごめんなさい、また失敗しちゃった…」
「その事は良い、それよりも確認したい事がある」
マリを立ち上がらせると、ヒエンは焦った様子でマリにある事を尋ねた。
先程のマリの様子を見ていたヒエンは、ある最悪の可能性に気付きすぐにでも確認しなければならなかった。
「まさか、法術が使えないのか、マリ⁉」
法術が使えない、その事を指摘されたマリは思わず目を見開き、視線をヒエンから逸らしながら措定した。
マリから答えを聞いたヒエンは、苦い表情をしながらマリを問いただす。
「なんでもっと早くに言わなかった⁉」
「ごめんなさい、使える法術もあったから、問題ないと思って…」
「御託は良い、今は俺から離れるな!
今のお前は攻撃ができないんじゃ敵連中からすれば格好の的だ、さっきので法術が使えないのがバレてる以上、お前に集中攻撃が向くぞ!」
ヒエンが言った通り、マリが法術を使えない事を看破した四翼のヘルシャフトは、周りにいるヘルシャフト達に指示を出し、マリに集中攻撃を仕掛け始めた。
ヒエンはマリを守るべくクロスボウを空中に向けると、ヘルシャフト達にクォレルを的確に射ち込んでいく。
ヒエン同様、マリの異変に気付いたレイアとスズもヘルシャフト達を二人に近づけさせまいと、お互いに連携してヘルシャフト達を牽制する。
ヘルシャフト達が法術を使えないマリに集中し出した事に気が付いたディモルフォセカのグループは、このままではまずいと判断した。
「あかん、ヘルシャフト達がマリに攻撃し始めた!」
「あの子、やっぱり法術が使えないんだわ。
その証拠にヘルシャフト達が次々に集まってきてる、今はヒエン達が対応してるけど、あの状況だといつクォレルと煙玉が尽きても可笑しくないわ!」
「やっぱり、あのキゾクの人をやっつけないとダメです!」
「ディモルフォセカ、リンク・リンクを使おう!
上空にいるヘルシャフト達はケイ達が対応してくれてるし、キールが生やした木の枝のおかげでヘルシャフト達の行動も制限されてる!
何よりアタシ達の事が眼中に入っていない今なら、隙をついて大ダメージを与えられる筈よ!」
カトレアはディモルフォセカにリンク・リンクを使うべきだと進言した。
ヘルシャフト達がマリ達のグループに集中攻撃をしている今、その隙を付けばヘルシャフト達に大ダメージを与えられると考えた。
どちらにしても、四翼のヘルシャフトを倒さない限り、ヘルシャフト達の統率は崩れない。
封印したヘルシャフトの数もまだ百に満たない状況だ。
「わかったわ。ニヤト、ラヴァーズ、私が一気にヘルシャフトを封印したら、すぐにマリとヒエンの二人の所に行ってあげて。
今一番危険なのは法術を使えないマリと、そのマリを守るヒエンだわ」
「任せとけ!」
「がんばります!」
「カトレア、お願い!」
「任せなさい!「リンク・リンク!」」
カトレアの進言を受け入れたディモルフォセカは、ニヤトとタメゴローを頭に乗せたラヴァーズに次の指示を出すと、リンク・リンクを発動させ、エピン=カルマンを顕現させた。
「《燃える熱情、エピン=カルマン! ラ・フラム・ロック!》」
エピン=カルマンを顕現させたディモルフォセカは、エピン=カルマンを振るいラ・フラム・ロックを発動させる。
マリのグループを攻撃する事に夢中になっていたヘルシャフト達は、ディモルフォセカの攻撃に気付くのに遅れ、ほとんどの者達がラ・フラム・ロックの炎に呑まれ封印された。
マリのグループを攻撃するヘルシャフト達の数が一気に減ったのを確認したニヤトとラヴァーズは、一気にマリとヒエンの二人の元に駆け出した。
「大丈夫かヒエン、助けに来たで!」
「僕が水桜鏡で、エンゴします!」
「すまねぇ、恩に着る!」
マリを守りながら戦うヒエンの元に辿り着いたニヤトトラヴァースは、襲い掛かるヘルシャフト達からマリを守るべく戦闘を開始した。
ディモルフォセカもエピン=カルマンを振るいながら、ヘルシャフト達を次々と封印していく。
マリはもう一度スマッシュ・スマッシュの発動を試みるが、やはり、発動する事ができなかった。
*****
木の上で戦うヨキは、地上で戦うマリが法術を使えない事に気付き困惑していた。
日頃のマリに対して違和感を感じていたが、マリが法術を使えない事に対しては完全に予想外の展開だった。
「大変、マリ達のグループが集中的に攻撃されてる。
早く助けに行かなきゃ! でも、キール君が四人一組で対応しろって言ってたし、どうしたら…」
ヘルシャフト達の集中攻撃を受けるマリのグループの救援に向かいたいヨキだったが、四人一組で対応しろというキールの言葉で、どう行動するべきかで迷っていた。
ヨキの周りにはかなりの数のヘルシャフトが残っている、ここで同じグループで戦っているバン達との連携を崩せば、あとから自分達が不利になる危険がある。
そこに、自分達と同じように木の上で戦っていたケイが、近くまで来てヨキに声を掛けてきた。
「ヨキ、大丈夫か⁉」
「ケイ! 僕よりも地上で戦ってるマリ達が、それにマリ、法術が使えないみたいなんだ!」
《それならセッシャ達も見たでごじゃる。
セッシャが知る限り、この戦いが始まってからマリ殿は一度も攻撃していないでごじゃる。
じゃが、完全に法術が使えない訳ではなさそうでごじゃるよ》
ヒュドール=オルニスの中にいるヒバリが、マリが一度もヘルシャフトに攻撃を仕掛けていない琴を証言した。
それと同時に、マリが完全に法術を使えない訳ではない事を証言する。
ヒバリからその証言を聞いたヨキは、どういう事なのか困惑した。
《攻撃こそできておらぬが、ベール・ベールで防御し、チェック・ダ・ロックで封印している。
それに、テラー・テラーでヘルシャフト達を怯ませ、動きを制限していたでごじゃるよ》
「じゃあ、マリが使えないのは攻撃系の法術だけ?」
「逆に言えば攻撃系は使いない状況って事だ。
幸いディルカ達のグループが合流して持ち応えてる、俺達は最優先で空中にいるヘルシャフト達を片付けるってキールが言ってた」
「もしかしてキール君も気づいてる⁉」
ケイからキールの指示を聞いたヨキは、キールもマリが攻撃系の法術を使う事ができない事に気付いている事に驚きながらも、ケイから聞いたキールの指示に従う事にした。
ディモルフォセカのグループの奇襲が成功し、地上にいるヘルシャフトの数は既に七十を下回っている。
自分達が対応しているヘルシャフトをいかに地上に行かせないかが、今回の戦いの鍵だ。
その証拠に、空中で戦っているラピスがヨキに指示を出した。
「ぼさっとするな! 今私達を襲ってきているヘルシャフト達全員を封印するぞ!」
「ラピスさん!」
「ヘルシャフトを一人でも逃してみろ、マリに関する情報が渡り、これまで以上のヘルシャフト達が襲ってくる!」
「ラピスが言った通りだ。今は空中にいるヘルシャフト達を倒そう!」
「……わかった、ケイも気を付けて!」
そう言うとヨキはケイから離れ、バン達と合流しヘルシャフト達との戦いを再開した。
ヨキが戻って行くのを確認したケイも、ヒュドール=オルニスを構え空中にいるヘルシャフト達を見据える。
「ヒバリ、お前から見てどれくらい残ってると思う?」
《ざっと見た感じではようやく半分近く、と言っていいでごじゃろう。
先程せっしゃ達が放している間にも、キール殿が動いていた事を考えるとそれが妥当な人数でごじゃる》
「戦いが始まってから大体四十刻みくらい経つよな。
それならヘルシャフト達もかなり疲れてきてる筈だ、ここは一気に大技を喰らわせて体力を削ろう」
長時間の戦いでヘルシャフト達の体力が減っているとよんだケイは、木の上で一番高い位置まで移動し、空中から遠距離攻撃を仕掛けているヘルシャフト達の姿を確認する。
ヘルシャフト達は全体的に広がっていたが、大体均一の距離を保っていた。
その状態を確認したケイは、ヒュドール=オルニスの先端をヘルシャフト達に向け、全体攻撃に秀でた法術を発動させた。
「《アフロース・アフロース!》」
ヒュドール=オルニスの先端から無数の泡が溢れ出始め、ケイはヒュドール=オルニスを動かしながら泡の弾幕で全体的に攻撃を仕掛ける。
泡の弾幕はヘルシャフト達の弾幕に当たりると、泡の弾幕に取り込まれる形で空に飛んでいった。
弾幕に当たらなかった泡の弾幕は、遠距離攻撃を仕掛けるヘルシャフト達に当たると同時に、泡が割れてその膜が目に入り目潰しとしての役割を担った。
「グワッ! なんだ、目が染みる⁉」
「気を付けろ、アクアシーフが攻撃を仕掛けて来たぞ!」
「キール、法術で追撃してくれないか⁉」
「任せろ! シード・シード!」
ケイのアフロース・アフロースで視界を制限されたヘルシャフト達に向け、キールはシード・シードという法術を唱える。
すると足場として使っている木のあちこちから枝が伸び、その先端に蕾が人ずつ付き始めた。
そしてその蕾から、大量の種が発射された。
大量の種の弾幕に襲われたヘルシャフト達は、アフロース・アフロースを受けなかった者以外全員直撃し、徐々に高度を下げて行く。
高度を下げ始めたヘルシャフトを逃がすまいと、キールは次にテンドリル・テンドリルという法術を唱える。
大量の種の弾幕を発射する蕾を付けた枝から、子供の指程の太さをした蔓が伸び始め、高度を下げ始めたヘルシャフト達の足元に絡みつき、ヘルシャフト達は足元に絡み着いた蔓のせいで、思うように動けなくなった。
ヘルシャフト達が動けなくなったのを見たケイは、すぐさまタラッタ・ロックを唱えた。
ヒュドール=オルニスから噴き出た光り輝く波は、キールが捉えたヘルシャフト達を次々のみ込み、封印していく。
ようやくヘルシャフトの数は半分を下回り、戦力の差が縮まった。
だが、二百近くのヘルシャフト達との戦いで、ほとんどの者が体力と霊力を消耗しきっていた。
「はぁ、はぁ、流石に、法術連発するのは、無茶だったかな?」
《大丈夫でごじゃるか、ケイ?》
「持ってあと一回が限界かも。できればタラッタ・ロック用に取っておきたいな…」
ヒュドール=オルニスを顕現させた状態で法術を連発した結果、体力をかなり消耗したケイはその場で蹲り息を切らしていた。
そこに姿を隠していた一人のヘルシャフトがケイの背後から襲い掛かったが、すぐさまフィービィーが割って入り、返り討ちにした。
グリーロス・グリーロスの効果が切れたのか、フィービィーの走る速度は既に元に戻っていた。
「ケイ無事⁉」
「助かったよフィービィー。でも法術を使うのはあと一回が限界で、もう一回グリーロス・グリーロスを掛けれそうにないんだ」
「いいよ、さっきヒバリと話してるの聞いたか、ら!」
ケイの事情を把握しているフィービィーは、振り返りながら襲い掛かって来たヘルシャフトを蹴り飛ばす。
ヘルシャフトが吹っ飛んだのを確認すると、
「タラッタ・ロックを使うとしたらどんな時がベスト?」
「そうだな、タラッタ・ロックってかなり広範囲だしな…」
《これはセッシャ個人の意見じゃが、今の状況ならばヘルシャフト達が一か所に集まっている状況の方が良いと思うでごじゃる。
なるべく多くせるシャフト達を一か所に集め、その状態でタラッタ・ロックを使えば取りこぼす心配はなかろう》
「わかった、その内容でキールに伝えて来る。もう少しだけ持ちこたえて!」
フィービィーはなんとかケイがタラッタ・ロックを発動できるタイミングを作るべく、そのままキールのもとに向かった。
ケイもタラッタ・ロックを使うタイミングが来るまでの間、ヒュドール=オルニスを振るいヘルシャフトとの戦いを続行した。
ヨキもバン達と合流し、ヘルシャフト達が地上に行こうとするのを阻止していた。
四十刻み以上戦い続けているせいでバンとリースも既に疲労困憊、リースに至っては呪術を使い過ぎたせいで霊力が不足しており、手持ちの護符も残り枚数十枚を下回っていた。
バンも疲労で集中力が切れ始めたのか、氷属性の弾幕をちょくちょく外すようになっていた。
「お前達、まだ持ち堪えられるか⁉」
「ぜぇ、ぜぇ、百人以下になったとはいえ、流石にきついぞ⁉」
「僕の方も、護符がもう六枚しかありません…」
ヘルシャフトだった頃、数多くの任務をこなして来たため戦い慣れているラピスは空中で実力のあるヘルシャフト達と戦っていた。
四翼ではないとはいえ、一般のヘルシャフトでもラピスのような実力者はいる。
そういった者達と空中で戦えるのは、ヨキ達の中ではラピスだけだ。
そのおかげで、空中にいるヘルシャフト達の中にいる実力者は四翼のヘルシャフトを除けば、ラピスが相手している者達だけだ。
「もう少しだ! 今残っているヘルシャフト達を倒せば、我々の勝ちだ!」
「リース、俺から絶対離れるなよ!」
「はっはい!」
ラピスは消耗し切った仲間達に激励し、実力者相手に獅子奮迅する。
バンも疲労困憊の状況でありながらも氷属性の弾幕を成形し、リースを背に庇いヘルシャフトの弾幕を打ち落としていく。
段々戦力の差が縮まっていくにも関わらず、段々と体力を消耗し余裕がなくなっていく仲間達の様子を見ていたヨキは、マリの事もあり非常に焦っていた。
「どうしよう、このままじゃマリや皆が…。
数は減ったけどヘルシャフトがあちこちにいるせいで、戦いにくいし、一体どうしたらいいんだろう、どうしたら…」
ヨキが現状を打開するための術を考えていると、不意に左手の傷跡が痛み出し、頭の中にどこか懐かしい光景が浮かび上がる。
その光景はバンの頭の中にも広がり、誰かの声が聞こえて来た。
『この法術は風邪の集まる力を利用して、一定の物を一か所に集める事ができる。
一見、ストーム・ストームに似ているけどそっちは逆に一定の物を別々の場所に飛ばす法術だから、使う時は気を付けるんだよ?』
「なんだ、今の光景⁉ なんだってこんな時にヨキの記憶の光景が浮かぶんだよ⁉」
「どうしたんですか兄さん、突然叫んで…?」
バンはヘルシャフトと戦う状況で場違いな光景が見えた事に思わず叫び、何が起きたのか知らないリースは、一瞬何事かと思った。
それに対し、先程の光景と会話の内容からヨキの頭に一つの言葉が浮かび上がった。
「ヴォルテ・ヴォルテ? 一か所に集める……っ! これを使えば……。
皆、近くにある物に捕まって、引き寄せられて、巻き込まれないように気を付けて!」
ヨキは木の上と地上にいる仲間全員に聞こえるように、大声で警告を促す。
ヨキの警告を聞いた木の上で戦う仲間達は近くに枝に、地上で戦う仲間達は木の幹にしがみつく。
警告を出したヨキ本人は、杖を高く掲げ頭に浮かび上がった言葉を発する。
「ヴォルテ・ヴォルテ!」
ヨキがヴォルテ・ヴォルテと言い切ると同時に、ヨキの杖から強風が吹き始めた。
杖から発生した強風は少し離れた所で竜巻を作り、更に強さを増す。
渦から発せられる強風は周囲にいるヘルシャフト達を引き寄せ始めた。
「キール見て、ヘルシャフト達が竜巻に飲み込まれていってる!」
「そうか、ヴォルテ・ヴォルテか! あれならヘルシャフトを一気に集められる!
なんでこの法術の事をすっかり忘れてたんだオイラは!」
ヴォルテ・ヴォルテの効果を知っていたキールは、その存在をすっかり忘れていた事に関して自分を責めたが、これでケイがタラッタ・ロックを発動できるタイミングを作る事ができるため、歓喜していた。
木の枝や幹にしがみつく仲間達は巻き込まれる事はなく、ヴォルテ・ヴォルテの風はヘルシャフトのみを引き込み、竜巻にのみ込んでいく。
「凄い、どんどんヘルシャフトが竜巻に巻き込まれていく!」
《あとは一気に封印すれば、この戦いもやっと終わるわね》
「流石に二日連続の戦闘はきついよ…」
地上にいるディモルフォセカ達は、竜巻にのみ込まれていくヘルシャフト達の姿を見て安堵していた。
だが、竜巻に引き寄せられる四翼のヘルシャフトは最後の抵抗と言わんばかりに、水晶の槍を形成する。
「己、このままで終わってなるものかぁ!」
「まずいぞ! アイツ、最後の力でヨキに攻撃する気だ!」
「させない! テラー・テラー!」
四翼のヘルシャフトはヴォルテ・ヴォルテを発動させているヨキに向け、水晶の槍を放とうとする。
それに気付いたレイアは周りにいるディモルフォセカ達に知らせると、その知らせを受けたマリは四翼のヘルシャフトに向かってテラー・テラーを発動させる。
テラー・テラーを受けた四翼のヘルシャフトは思わず怯み、そのまま竜巻にのみ込まれた。
「今ので襲撃して来たヘルシャフトが全員一か所に集まったぞ!」
「未だ、ケイ!」
「任せろ! 《タラッタ・ロック!》」
キールから合図を受けたケイは、最後の力を振り絞り、タラッタ・ロックを発動させる。
タラッタ・ロックの光り輝く波はヴォルテ・ヴォルテの風に乗り、ヘルシャフト達をのみ込んだ竜巻を包み込んでいく。
波と竜巻が完全に消えると、その中からヘルシャフトを封印した大量の宝石が雨のように地面に落ちる。
それは、一重時近くかけて行われたヘルシャフトとの戦いに終わりを告げた合図だった。




