第57話 数の暴力下で判明した事実
風神龍の大峡谷に向かうべく、クロノ地方にあるアルティマ国とガイア地方のシャンテ国を隔てる国境の街に向かうヨキ達は、朝食を終えて再び移動を開始していた。
「んーっ! 昨日かなりの人数を相手にしたせいか、疲れが取れないわね」
歩きながら伸びをしたディモルフォセカは、前刻でのヘルシャフトの襲撃時の疲れが残っている事に不満を抱いていた。
国境がある街に向かっているとはいえ、無駄な体力を消費したくはないのだろう。
「この前もそうだったが、襲ってくる人数がだんだん増えてきてるしな。
相手もオイラ達を本気で潰しに来てる、風神龍の大峡谷に向かう以上ヘルシャフトの襲撃回数が増えて来るだろうな」
「やっぱりキールが言った通り、アタシ達自身身を守るための武器が必要なのは確かね。
ラピス、次の襲撃はありそう?」
「今の所、次の襲撃はなさそうだ。が、先程のキールが危惧している事もある以上、油断はしない方が良いだろう」
自分達に襲い掛かるヘルシャフトの人数が増えてきている事に気付いていたキールは、自分達が風神龍の大峡谷に向かう道中にも襲撃回数が増える事を危惧していた。
やはり自分達も武器が必要だと強く実感したカトレアは、次の襲撃を警戒しウィアグラウツの探知能力で周囲の経過に当たっているラピスに確認を取る。
次の襲撃の気配はないものの、油断するべきではないと言われたため自分も可能な限り周囲を警戒した。
「国境の街まであと一週間と三刻、まだまだ時間がかかりそうだね」
「進むペースを上げて、時間短縮すれば予定より早く着くんじゃねぇか?」
「確かにそうだけど、それだと逆に疲れちゃうんじゃないかな?」
ヨキとバンは国境がある街に着くまでに時間が掛かる事に対し、どうにかして時間を短縮できないかと話し合っていた。
バンは開花した自分の能力でどうにかならないか試そうとしたが、その様子を見ていたリースに見つかり、説教をされていた。
前刻のヘルシャフトの襲撃時の疲れが残っている状態で、予想外のトラブルを起こされたらひとたまりもないと考えたのだろう。
そんな何気ないヨキ達のやり取りを見ていたマリは、楽しそうに笑っていた。
「何笑ってんだよマリ?」
「ん? だってこうしてみていると、まるで何もないみたいに思えて和むんですもの。
ヒエンだってそう思うでしょ?」
「さぁな、俺の知った事じゃない」
平和的なやり取りを見ていたマリの質問に、ヒエンは素っ気ない態度で返答する。
そんな何気ないやり取りをしながらも時は流れ、時刻はまもなく白戌時を迎えようとしていた。
「! 前方上空からヘルシャフトの生命力が複数を感知!」
平和な時間は、唐突に終わりを迎える。
周囲を警戒していたラピスのその一言で、その場にいた全員に緊張感が走った。
ヨキ達は武器を構え、ヘルシャフトの襲撃に備えると同時に、スズがヘルシャフトの生命力をたんした。
だが、ヘルシャフトの生命力を探知した途端、スズの表情は青ざめた。
「どうないしたんやバン、顔がめっちゃ真っ青になっとるで?」
「ニヤト、俺はこっちでそっちにいるのはスズだ!」
「じゃがニヤトが言った通り、スズ殿の表情が真っ青でごじゃる。
スズ殿、一体どうしたのでごじゃるか?」
スズの表情が青ざめた事が気になったヒバリは、何が起きたのか説明を求めた。
説明を求められたスズは、全員が驚愕する事実を告げた。
「…だ」
「え?」
「俺達の方に、百人以上のヘルシャフトが向かってきてるんだ!」
百人以上のヘルシャフトが自分達の元に向かってきている、スズの口から告げられた事実にヨキ達は激しく動揺した。
それを聞いたキールはすぐさまラピスの様子を確認すると、ラピスの表情は強張っていたため、スズが言っている事は本当だと確信する。
「狼狽えてる場合じゃねぇ、四人一組で迎え撃つぞ!
一つのグループに必ず支援担当の奴を入れろ、同じグループの支援担当の奴を死ぬ気で守れ!」
一刻の猶予もないと瞬時に悟ったキールは、動揺し切っている大声で仲間達に指示を出す。
キールの指示に従い、ヨキ達は四人一組のグループに分かれる。
そして時刻が白戌時を迎えた時、ヨキ達の目の前に百人以上のヘルシャフトの集団が現れた。
前もって知っていたとはいえ、実際に目の当たりにすると迫力があり、思わず立ちすくむ。
年少組に至っては目に見えて明らかな戦力差に怯み、ラヴァーズに至っては恐怖のあまりカトレアにしがみついている。
「なんて数や、これ。ほんまに百人超えてんで!」
「一切合切どれくらいいるんだ⁉」
「ねえさん…」
「百人以上、というより、二百人近ういるように見えるんじゃけど⁉」
迫りくるヘルシャフトの戦力は二百近く。
対してヨキ達の戦力は十六、戦力の差は明らかだった。
「カトレア殿、それ以上は言わなくてもよい。
こうなった以上、腹をくくるしかないでごじゃる!」
「だな。こうなりゃしょっぱなから飛ばしていくしかないな!」
「いざとなったら、ワープ・ワープで逃げよう!」
「目的地から遠のくけど、命あっての物種だからな。やれるだけやってやる!」
「ヘルシャフトが来るぞ、皆構えろ!」
全員が覚悟を決め、各々が武器を構える。
そして、二百人近くのヘルシャフトがヨキ達に向けて一斉に攻撃を仕掛け、ヨキとケイが二人掛かりでベール・ベールを唱え、風の障壁と水の膜で攻撃を防ぐ。
ヨキ達とヘルシャフト達の戦いが始まった。
「ヒバリ、リンク・リンクだ!」
「承知!」
「「リンク・リンク!」」
ケイは先程言った通り、リンク・リンクを発動させてヘルシャフト達との戦力差を縮めるつもりのようだ。
リンク・リンクを発動し、ヒュドール=オルニスを顕現させる。
「《自由に舞え、水と共に。ヒュドール=オルニス! ロエー・ロエー!》」
ヒュドール=オルニスを顕現させた直後、ケイはロエー・ロエーを発動させ激しい水流を起こす。
ロエー・ロエーにより現れた水流は、空中にいたヘルシャフト達の一部を巻き込み、空中から地上に叩き落した。
一部のヘルシャフト達が地上に叩き落されたのを見たキールは、間髪入れずにチェック・ダ・ロックを唱え、叩き落されたヘルシャフト達を一気に封印する。
だが、それだけではヘルシャフト達との戦力が縮まる事はなく、上空にはまだまだヘルシャフト達の姿があった。
キールはポシェットから種を数十個取り出し、グロウ・グロウとバウリム・バウリムを唱えると同時に種を周囲ばら撒く。
ヨキ達の周囲に数十本の木が生え広がり、上空にいるヘルシャフト達と戦う舞台が整ったのを確認したフィービィーは、五月雨を構えて木に駆け登り、上空にいるヘルシャフト達と交戦に入る。
フィービィーに続き、キール、ケイも木に駆け登り、空中にいるヘルシャフト達と戦闘を開始する。
ケイは自分の慎重を二回りも越えるヒュドール=オルニスを器用に振り回し、氷、土、結晶、金属といった系統の弾幕を弾き、炎の弾幕は法術で打ち消すなど、法術と物理を使い分けながら戦っていく。
ケイでも気付いていない攻撃が来た場合は、ヒュドール=オルニスの中にいるヒバリが動き、攻撃を躱し、上手く連携していた。
「この状態で木の上で戦うのは初めてだけど、敵の動きが鈍いお陰でうまく動けるな」
《足場の木から伸びてる枝のおかげで、ヘルシャフト達の動きを制限できておるようじゃ。
じゃが、敵のもそれがわかっていない訳ではない、気を引き締めて行くでごじゃるよ》
「ケイ、オイラの方には攻撃力を上げるズィナミ・ズィナミを、フィービィーには速度を上げるグリーロス・グリーロスを掛けてくれ!」
「わかった! ズィナミ・ズィナミ! グリーロス・グリーロス!」
ケイは自分の近くで戦っていたキールに攻撃力を上げるズィナミ・ズィナミを、フィービィーに速度を上げるグリーロス・グリーロスを掛ける。
攻撃力が増したキールは、ケイに近付くヘルシャフトを槍で叩き付け、地上に落とす。
速度が増したフィービィーは、枝と枝とを飛び移りながら、遠距離攻撃をしてくるヘルシャフト達に攻撃を仕掛ける。
走る一般人以上であるフィービィーだが、グリーロス・グリーロスで更に速度が上がり、ヘルシャフトと言えどもそう簡単に捉える事はできないらしく、目にもとまらぬ速さで動き回るフィービィーに翻弄されていた。
攻撃しようものなら先手を打たれるか、攻撃が当たる前に躱されてしまうのがオチだ。
「凄いなフィービィー! グリーロス・グリーロスを掛けた途端にとんでもない速さで移動してる!」
「当たり前だ、グリーロス・グリーロスはダッシュ・ダッシュの上位互換、何よりフィービィーじしんが速いんだ。
今のフィービィーはある意味無敵だ」
「キール、そっちに二人行ったよ!」
「任せろ! リーフ・リーフ!」
フィービィーに指摘されたキールは、リーフ・リーフを唱え、自分に向かってきた二人に向かって木の葉の弾幕を放つ。
二人のヘルシャフトはリーフ・リーフが直撃こそしなかったが、体中を掠めたため思わず怯み、その隙をついてキールが一気にチェック・ダ・ロックで封印する。
「今ので二人、地上に叩き落したのを含めても封印した数が五十に満たないか」
「まだまだ! ここから勝負なんだから!」
そう言いながらフィービィーは止まる事なくヘルシャフト達に攻撃を仕掛けていく。
ケイも自分の身を守りながら、攻撃に転じようとした時、ヒバリが慌てた様子でケイに声を掛ける。
《ケイ! マリ殿が…!》
「キャアーッ!」
ヒバリのその言葉とマリの悲鳴を聞いたケイは、思わず地上にいるマリの方を見る。
そこでケイは、信じられない光景を目の当たりにした。
*****
そしてケイ達のグループと同じように木に駆け登り、ヘルシャフト達と戦っていた。
バンは先日使った礫を纏う氷属性の弾幕をメインに攻撃していた。
以前使っていた結晶を纏う美属性の弾幕と同様、氷属性の弾幕はかなり特殊なようで、ヘルシャフトの弾幕に当たるとその弾幕事凍り、粉々に砕ける。
「良し、順調に敵の弾幕を落とせてるな」
「気を抜かないで下さい兄さん。敵の数はまだ二百近くいる状態ですから」
「わかってらぁ!」
弟リースに注意されながら、バンは氷属性の弾幕で次々にヘルシャフト達の弾幕を打ち落としていく。
そんな兄の様子を心配しながらも、リース自身も剣と護符を手にヘルシャフトと交戦していた。
そんな中、初めて木の上でヘルシャフトと戦うヨキは、まだコツが掴めないのか、ヘルシャフトの攻撃を躱しながらバランスをとる事で精一杯になっていた。
「こっちにスピリットシャーマンがいるぞ!」
「他の連中と違って動きが鈍いぞ、これなら楽勝だな」
「わっわっ! えと、どっどうしたら…」
上手く動く事ができない事から、ヘルシャフト達から集中攻撃を受けるヨキは、自分が使えるどの法術で反撃すればいいかわからず混乱した。
ヨキが戸惑っている事に気付いたリースは、集中攻撃を受けるヨキに向かって護符を投げた。
「霧海天蓋!」
ヨキの元に投げつけられた護符から、突然霧が発生する。
護符から溢れ出した霧はヨキを守るように包み込み、ヘルシャフトの攻撃をはじく。
「ヨキさん、その霧が五刻みの間だけヨキさんを守ってくれます。
その五刻みの間に、コツを掴んで下さい!」
「ありがとうリース君! ウィンドゥ・ウィンドゥ!」
リースの補助のおかげで余裕ができたヨキは、ウィンドゥ・ウィンドゥを唱え接近してくるヘルシャフト達を吹っ飛ばす。
巻き込まれる形でバランスを崩したヘルシャフトを素早く封印していく。
リースが得意とする護符を媒体とした呪術は、現在のように攻撃にも使用できれば、先程ヨキを守ったように身を守るための防御にもなる。
攻守両方に使用できるが、威力が低い。
その事はリース本人も自覚しているため、相手の視界を奪う閃光鳳花や、水を自由自在に操る流水道破といった補助系統の呪術をメインに使っている。
「閃光鳳花!」
リースは周囲にいるヘルシャフト達に向かって数枚の護符を投げつけ、自分の周りに閃光の花を幾つも咲かせる。
閃光鳳花でヘルシャフト達が怯んでいる隙に、次の行動に移るために新しい護符を袖から取り出す。
だが、閃光の花が消えた直後、閃光鳳花を防いだであろう一人のヘルシャフトがリースに斬りかかった。
しかし、ヘルシャフトの剣がリースに届く事はなかった。
何故なら、ラピスがリースの前に立ち塞がり、躊躇う事なくヘルシャフトを切り捨てたからだ。
ラピスに斬られたヘルシャフトはそのまま地上に落ちて行き、地上で戦っているディモルフォセカによって封印された。
「油断するな。いくら目潰しを喰らわせようともそれを逃れ、反撃してくるものはいる。
呪術を発動させる時は最低一枚でも護符は手に持っていろ。
万が一突破されてもそれで身を守る事ができる筈だ」
「ありがとうございます、ラピスさん!」
「バン、リースから離れすぎるな。
私達のグループでの支援担当はお前の弟だ、やられればこちらが不利になるぞ」
「すまん、恩に着る!」
バンとリースに適切な指示を出すと、ラピスはそのまま飛翔し上空にいるヘルシャフト達と交戦する。
空中での戦いを一番得意とするラピスは、弓での攻撃ではなく剣を使って戦っており、次々にヘルシャフト達を切り捨てて行く。
時折弾幕を使って攻撃を仕掛けて来るヘルシャフトがいれば、素早く弓に切り替えて相手を射落としていく。
最初こそ木の上での戦闘に手間取っていたヨキも、リースの霧海天蓋が消え始めた頃にはコツを掴み、上手く立ち回っていた。
(リース君がサポートしてくれたおかげで、なんとかコツが掴めて来た。
これなら霧が消えてもうまく戦えるかも…⁉)
「キャアーッ!」
リースが呪術で出した霧海天蓋が消えても問題なく戦う事ができると思っていたのも束の間、ヨキの眼に偶然地上にいるマリの姿が映る。
その時ヨキは、信じられない光景を目の当たりにし、その直後にマリの悲鳴が響いた。
*****
ヨキ、ケイのグループとは違い、地上に残りヘルシャフトと戦うディモルフォセカのグループはキールが足場として生やした木を上手く利用し、至近距離での攻撃をメインに戦っていた。
地上に降りて来たヘルシャフト達は、負傷した際に治療するべく上空に逃げようとする。
だが足場として生えている木の枝が広がっているせいで、そう簡単に上空へ逃げられなくなっていた。
「クソ、枝が邪魔して上空に逃げられないぞ!」
「誰でもいいからなんとかしろ! 早くしないと…」
「待たんかゴラァアーッ!」
「うわぁーっ! こっちに来やがった!」
ヘルシャフト達が上空へ逃げるのに手間取っていると、ニヤトが怒涛の勢いで迫ってきた。
ニヤトは獣人独特の身体能力で距離を詰め、一人のヘルシャフトに飛びつくと問答無用で顔を引っ掻き、次のヘルシャフトに飛びつくと頭に噛み付いた。
通常なら一般人はヘルシャフトに対して畏怖の反応を示すが、ニヤトは最初からヘルシャフトに対し畏怖の反応を示さない。
それどころか、堂々と攻撃してくるため、ヘルシャフト達からすればニヤトの行動に恐怖を感じていた。
それはディモルフォセカも同じで、ニヤトの行動力に驚かされていた。
「最初に会った時も思っていたけど、ニヤトの行動力って凄いわね」
「ぎゃあーっ! なんだこの黒猫は⁉」
「それはタメゴローにも言えるわね」
ディモルフォセカは悲鳴が聞こえた先に目線を向けると、そこにはニヤト同様にヘルシャフトに攻撃しているタメゴローの姿があった。
ヘルシャフト達はラヴァーズを集中攻撃していたようだが、ラヴァーズに攻撃が通る前にタメゴローがヘルシャフトに飛び移って攻撃し、攻撃し終えた後はラヴァーズの頭の上に乗った。
連携が乱れた後、ラヴァーズの傍にいたカトレアが素早く殴る、蹴るの方法でヘルシャフトに攻撃してダメージを与える。
ディモルフォセカのグループでの支援担当はラヴァーズだ。
ラヴァーズは水桜鏡を使ってヘルシャフト達の弾幕を取り込みながら消していき、守りに徹しており、水桜鏡でヘルシャフト達を怯ませる。
ラヴァーズが使う水桜鏡は封印術だ。
水桜鏡の水に一度触れてしまえば、いかに強かろうが、実力があろうが、たちどころに鏡に閉じ込められて封印されてしまう。
何よりウィアグラウツと名乗ろうとも、ヘルシャフト達にとってラヴァーズは堕天という名の裏切り者だ。
いくら幼くてもヘルシャフトの誓いの一つを破った以上、生かしておく訳にはいかないのだ。
しかし、そんな理由でラヴァーズが殺されるのを良しとしないのがカトレアだ。
「アンタ達、よってたかってラヴァーズを苛めるんじゃないわよ!
いい歳こいた大人がなさけないわね!」
「ねえさん、あまりシゲキしないで。
あの人たちにシジを出してる人、ヨンヨクだからキゾクの人だからすごくつよいし、かしこいかも!」
そう言いながらラヴァーズは、四翼と呼んだ四対の翼を持つヘルシャフトを指さす。
四翼のヘルシャフトは貴族と呼ばれる高いくらいにいるらしく、通常のヘルシャフト達に指示を出している。
バンが能力を開花させた町にいたウィアグラウツであるルドゥウィンも言っていたが、貴族と通常のヘルシャフトでは比べ物にならない力を持っているとされる。
ラヴァーズが心配するのも当たり前だ。
「キゾクの人はあまりげんばに出てこないってきいていたけど、ジッサイに出てくるなんて…」
「って事は、アイツを封印する事ができれば相手の統率が乱れて、こっちが有利になるっちゅうこっちゃな!」
「そういう簡単な話じゃないわ、四翼は私達の目の前にいる奴だけじゃないみたい」
ディモルフォセカが言った通り、四翼のヘルシャフトは目の前にいるヘルシャフトだけではない。
周囲を確認するともう一人、四翼のヘルシャフトの姿があった。
司令塔としての役割を担っているヘルシャフトが三人もいる、その内の一人が自分達の目の前にいる。
そうとなれば、やる事は決まっていた。
「まずは、目の前にいる四翼を倒しましょう。
司令塔の一角を崩す事ができれば、多少なりとも戦力を削ぐ事ができる筈だわ」
「そうね。ラヴァーズ、お姉ちゃん達から離れちゃダメよ?」
「うん!」
目の前にいる四翼のヘルシャフトを倒す事にしたディモルフォセカ達は、襲い掛かるヘルシャフト達の攻撃を躱しながら、封印を試みる。
四翼のヘルシャフトは光を操り、ディモルフォセカ達に向かって無数の光線を放つ。
ディモルフォセカ達は光線を躱しながら、各々攻撃を仕掛けるが迫りくる光線を躱すか、攻撃が通る前に光の障壁をはられて防がれてしまうのがオチだ。
「気を付けて下さい! 相手は光属性です!」
「確か光を自由に操れるんやったっけか?
ずるいで! これやと攻撃するどころか、近付く事もできへんやないか!」
「ごちゃごちゃ言わない! 何がなんでもあの四枚羽を倒すわよ!」
「たかが人間如きにこの俺様が遅れを取るなどと思うなよ!」
ディモルフォセカ達と対峙する四翼のヘルシャフトは、ディモルフォセカ達に向かって無数の光線を放ち続ける。
ラヴァーズは水桜鏡をディモルフォセカ達の前に張り、鏡の反射を利用して光線の軌道をギリギリずらす。
光線の威力がかなりあるのか、ラヴァーズは自ら張った水桜鏡の壁を維持できず、解いてしまった。
「ごめんなさい、ずっとはムリです…」
「ラヴァーズ偉い! 今ので十分よ!」
「ブレイズ・ブレイズ!」
ラヴァーズが作った一瞬の隙を活用し、ディモルフォセカはブレイズ・ブレイズを発動させる。
四翼のヘルシャフトは自分に襲い来る烈火を躱し、もう一度光線を放とうとしたが、その上から体を斬り付けられたヘルシャフトが落ちてきた。
ヘルシャフトが四翼のヘルシャフトの翼に当たり、四翼のヘルシャフトは思わずバランスを崩してしまった。
「何している、この役立たずが…!」
「今や! おらぁあーっ!」
自分の邪魔をされた四翼のヘルシャフトは、激情して味方である落ちて来たヘルシャフトを攻撃しようとする。
だが、四翼のヘルシャフトが気を取られている隙に、ニヤトは問答無用で四翼のヘルシャフトに飛びつき、理力を蓄えている翼を自らの爪で引っ掻き回す。
翼を攻撃されている四翼のヘルシャフトは堪らず悲鳴を上げる。
「ギャアッ! やめろ、俺様の翼に爪を立てるな!」
「問答無用じゃボケェ!」
「ニヤト離れて! チェック・ダ・ロック!」
四翼のヘルシャフトがニヤトの攻撃で混乱している隙に、落ちて来たヘルシャフトを封印し終えたディモルフォセカが、トーチ(炎の礎)の炎を振るい、チェック・ダ・ロックを唱える。
ニヤトは地上に飛びおり、カトレアとラヴァーズの元に非難する。
赤い光を放つトーチの炎が四翼のヘルシャフトを包み、四翼のヘルシャフトは大粒の宝石に姿を変えて封印された。
「よっしゃぁ! 敵の司令塔を撃破や!」
「でも、まだもう一人のこってます。
もう一人をやっつけないと、ぼくたちがフリなジョウキョウはかわらないです!」
「もう一人の四翼は⁉」
二人いる四翼のヘルシャフトの一人を封印する事に成功したディモルフォセカ達は、残る四翼のヘルシャフトの姿を探す。
カトレアがもう一人の姿を見つけたが、そこでカトレアは驚きの声を上げる。
「皆あそこ、マリが四翼のヘルシャフトに襲われてる!」
カトレアが指さした方向を見ると、そこにはもう一人の司令塔である四翼のヘルシャフトと戦うマリの姿があった。
だが、どこか様子が可笑しく、マリは四翼のヘルシャフトが放つ水晶の鏃を躱すばかりだ。
「どないしたんや、マリの奴、なんで反撃せぇへんのや⁉」
「確かラピスの話じゃフォルシュトレッカーさえ圧倒できるくらい潜在能力が高いのよね?
それにしては全然戦えてないわ!」
「キャアーッ!」
「いけない! スイング・スイング!」
水晶の鏃を躱す内に、左足を負傷して転倒してしまったマリに水晶の槍が突き刺されようとしている事に気付いたディモルフォセカが、スイング・スイングを発動させて軌道を逸らす。
だが、マリが反撃できない姿を見ている内にある事に気付き、それは木の上で戦うヨキ達も同じだった。
マリの傍に駆け寄ったヒエンは、焦った様子でマリに問いただす。
「まさか、法術が使えないのか、マリ⁉」




