第56話 小さな違和感、筆頭の企み
9/3(金)カクヨムにて投稿開始。
失われたヨキの記憶を求め、風神龍の大峡谷を目指すヨキ達は今、ヘルシャフトに襲われていた。
前回のように攻撃、防御、支援に分かれて戦い、襲い来るヘルシャフト達を封印していく。
中でも活躍しているのは、能力を開花させたバンだった。
「バン、今から一番上にいるヘルシャフトを何人か落とすから、そうしたら捕まえてくれる?」
「任せろ! ドンドンやれ!」
「行くよ、ゲイル・ゲイル!」
ヨキは一番上で飛んでいるヘルシャフト達に向かってゲイル・ゲイルを発動させ、強風を巻き起こす。
ゲイル・ゲイルによって起こった強風にあおられたヘルシャフト達はバランスを崩し、そのまま地上に落下する。
地上に落下したヘルシャフト達は慌てて空中に飛ぼうとしたが、飛び立つ前に吹雪を纏った紫色の弾幕が直撃し、翼が氷漬けになってしまった。
「なんだこれは⁉」
「翼が凍って、空に飛べないぞ!」
「誰でもいいから溶かしてくれ!」
翼を氷漬けにされてしまったヘルシャフト達は、周りに助けを求めるがその間にキールがチェック・ダ・ロックを発動させ、封印していく。
バンの手の中には以前ヘルシャフトの襲撃を受けた際に使った、結晶を纏ったフクシアパープルの美属性の弾幕ではなく、吹雪を纏った紫色の氷属性の弾幕だった。
「上手く行ったねバン!」
「喜んでる場合じゃないぞ! あと三十人は残ったままだ!」
自分達の予想通りの展開になった事に喜ぶヨキに対し、ヘルシャフト達を封印したキールは注意を促す。
キールが注意した通り、周囲では仲間達が残ったヘルシャフトと戦っている。
空中ではラピスがヘルシャフト達の理力を溜めている翼を狙い、氷の矢を射る事で弱体化を図っていた。
翼を射られたヘルシャフト達は高度を保つ事ができなくなり、遠距離攻撃が可能なディモルフォセカがトーチの炎で封印していく。
「今の所、順調に封印できてるわね」
「っていうか、ヘルシャフトは皆空からの襲撃が好きなのかよ⁉」
「そりゃあ翼があって飛べるから、自分達に有利な方を取るさ!」
ヘルシャフト達が毎度上空から襲撃してくる事に対し、ケイは不満をぶつける。
襲撃されるのはいつも上空からであるため、飛ぶ術を持たない側からすれば不満しかないのだろう。
いくら法術で遠距離攻撃ができるとはいえ、手段が限られてくるためその分カバーするのが一苦労なのだ。
少しでも有利な状況を作ろうと、レイアは近くにいたマリに声を掛けた。
「マリ、敵の動きを制限して! ほら、無意識に怖がらせる法術!」
「テラー・テラーの事ね、それなら任せて。テラー・テラー!」
マリはアーマーリングの先端を上空にいるヘルシャフト達の一部に向けると、テラー・テラーを発動させた。
テラー・テラーを受けたヘルシャフト達は、謎の悪寒を感じて困惑し、連携を乱す。
「敵の連携が乱れた、畳みかけろ!」
「マリ、ヘイル・ヘイルだ! この距離なら確実にアイツらに当てられるぞ!」
「わかったわ。ヘイル…っ!」
テラー・テラーの効果により、ヘルシャフト達の連携が乱れる様子を確認したラピスの号令に、近くにいた仲間達が一斉攻撃を仕掛ける。
マリも同様に攻撃しようとヘイル・ヘイルを発動させようとするが、何を思ったのか、途中でやめてしまった。
そんなマリの隙をついて、一人のヘルシャフトがマリに向かって鋼の矢を射る。
「マリ、危ない!」
「え? キャアッ⁉」
レイアの忠告を半分聞き逃し、鋼の矢が自分の方に飛んできている事に気付いていなかったマリだが、すぐ傍にいたヒエンに押し倒される形で助けられた。
「ボサッとするんじゃねぇ、今は戦闘中だぞ!」
「ごっごめんなさいヒエン…。って、ベール・ベール!」
ヒエンに助けられたマリは、自分達の真上からヘルシャフトの攻撃が迫っている事に気が付き、とっさにベール・ベールを発動させ自分の身とヒエンを守る。
氷のドームが自分達を守っている間に、二人は体勢を立て直す。
「マリ、タイミングを見て敵にテラー・テラーを掛けろ。
相手が怯んでいる隙に俺が攻撃して、叩き落とした後はすぐに封印しろ、わかったな?」
「任せて、今度は失敗しないから! リベレー・リベレー!」
体勢を立て直したマリは、アーマーリングの先端を攻撃して来たヘルシャフトがいる方向に向け、氷のドームをリベレー・リベレーで解除すると同時にテラー・テラーを唱える。
その後にヒエンがクロスボウの先端をヘルシャフトに向け、間髪入れずにクォレルを射る。
テラー・テラーを受けたヘルシャフトは恐怖に襲われ、硬直すると同時にヒエンが射たクォレルが翼に突き刺さる。
「(今がチャンスだ!) チェック・ダ・ロック!」
自分達を攻撃して来たヘルシャフトが落ちて来た事を確認したマリは、素早くチェック・ダ・ロックを唱え、落ちてきたヘルシャフトを封印する。
ヘルシャフトが封印された宝石が落ちて来たため、封印されていないヘルシャフトに渡らない内にマリが素早く回収した。
それからしばらくして、これ以上戦っても勝ち目はないと悟った残るヘルシャフト達は、自分達のみを優先して逃げて行った。
「どうやら残った連中は逃げて行ったみたいだな」
「はぁ~、疲れたぁ~」
「流石に百人近く相手するのは無理があるでごじゃるよ」
ヘルシャフト達が逃げて行ったのを確認したヨキ達は、安心するとその場で座り込み、各々休み始めた。
先程ヒバリが言った通り、ヨキ達を襲ったヘルシャフトの人数は百人近くおり、十倍近くの敵と戦っていたのだ。
そこで活躍したのが、バンの弾幕だったのだ。
「それにしても、バンが氷属性の弾幕が使えるなんて驚きだよな」
「確かに、この前の美属性の弾幕もそうですけど、氷属性の弾幕も強力ですね」
「前に氷属性に変化してたかもしれないってのを思い出して、試しにやってみたら簡単に出せたからな」
そう言いながらバンは掌に氷属性の弾幕を発生させる。
そのままボールを使って遊ぶかのように弾幕をいじる様子を、キールは呆れながらも不安げな様子で見ていた。
「本当にどうなってんだお前の感覚は? それと弾幕で遊ぶな、危ないだろう⁉」
「やはりちゃんと安全かどうかはっきりさせてから出ないと不安ですね。
兄さんには申し訳ないですが、エアー・ガンを持っていてもらった方が僕としても安心できますね」
「それから能力を持ってない奴らやサポート担当の奴らの戦力強化だな。
これからの事を考えると、リンク・リンクを発動させるタイミングが取れない可能性が出て来る筈だ。
そうなった時のために、身を守らせる武器か何かが欲しいな」
弾幕をいじるバンの様子を見ていたキールとリースは、やはりバンにエアー・ガンを持たせておいた方が良いと思った。
現在制御ができていたとしても、突然暴走して制御不能に陥る危険があるため、そうならないよう訓練させる必要があると感じたのだろう。
それから一部の仲間のために武器が欲しいと聞いたカトレアは、地図を確認して武器を入手できそうな場所はないか探し始めた。
「武器、となるとクロノ地方にあるアルティマ国とシャンテ国を隔てる国境がある街の方が良いわね。
予定としては一週間と四刻後に到着できそうね」
二つの国の国境を隔てる町があると告げたカトレアは、おおよその到着時期を予測し、キールに伝える。
国境という言葉に反応したキールは、ある事に気付いた。
「国境、となると身分証明書が必要になるな」
「確かにそうね。国境を超えるとなると必要になってくるわ。
特に、ウィアグラウツの三人なら尚更必要ね。何処かで発行できればいいんだけど…」
キールはウィアグラウツであるラピス達を見ながら、国境を超えるために身分証明書が必要になる事を指摘した。
ディモルフォセカもキールに同調し、ラピス達の身分証明書をどうやって手に入れるか悩み始めた。
身分証明書と聞いたスズとラヴァーズは、それがどんな役割を持っているのか理解しておらず、不思議そうな顔をしていた。
二人が身分証明書の意味を理解できていない事に気付いたカトレアは、身分証明書について分かりやすく説明し始めた。
「身分証明書っていうのは、その人が何処からきて、どんな人なのかを証明する物の事よ。
これがないと、病気になって病院で診てもらいたくても診てもらえなかったり、今回みたいに、国境を越えたくても越えられないわね」
「それってかなり大事な奴じゃないか!」
「ヨキさん達も、持ってるんですか?」
「ヘルシャフトから逃げる時に恵みの村に置いてきちゃって、僕は旅に必要になるからってリース君に進められて、実りの街で新しく発行したよ。
ケイとマリも発行してもらってる?」
カトレアの説明で身分証明書がいかに重要なのか理解したスズは、身分証明書を持っていない事に焦り出した。
恵みの村がヘルシャフトに襲われた際に置いてきてしまったヨキは、旅に必要になるだろうとリースに進められ、実りの街で新しく再発行した身分証明書をラヴァーズに見せた。
ヨキの手には自分の顔が写っているカードがあり、ラヴァーズは不思議そうにカードを見ていた。
ヨキがケイとマリの二人に身分証明書を再発行したか尋ねたところ、なんと再発行していない事が判明した。
「いやぁ、もともとキザミの里があったシャンテ国って広かったから、シャンテ国にいる間は問題なかったからいいかなぁって」
「私はヘルシャフトに狙われてる理由がわかってなかったから、怖くて再発行しなかったの」
「お前らそんな状態でよく旅を続けて来られたな」
「本当は再発行させたかったけど、マリの場合、逆にそれが功をそうしたみたいだよ…」
ケイとマリの二人が再発行していない状態で旅をしていたと知ったキールは半場呆れていたが、レイアはトゥーランドットとなって暴走していたマリが身分証明書を落としていたらと思うとぞっとしており、マリが今まで再発行していなくてよかったと心から思った。
キールはウィアグラウツであるラピス達と、ケイとマリの二人以外に身分証明書を持っていない仲間がいないか不安になったため、確認を取ったが全員持っていたため杞憂に終わった。
「身分証明書の発行となると、国境がある街でもできた筈よ」
「これからの事を考えると、間違いなく必要になるな。
よし、国境を超える前に身分証明書を持ってない奴らは全員、街に着き次第、身分証明書を発行するぞ」
「「「はーい」」」
「それじゃあ休憩は終わりだ。またヘルシャフトに襲われてもたまったもんじゃない、少しでも先に進んで、安全な場所を確保するぞ」
身分証明書を持っていない仲間のために、国境がある街に着き次第、身分証明書を発行する事が決まる。
次のヘルシャフトの襲撃が来る前に移動し、安全な場所での休息するために移動を開始した。
そんな中、マリは自分の右手に装着しているアーマーリングを見つめながら、不安げな表情をしていた。
「……」
「マリ、どうしたの?」
「え? なんでもないわ、気にしないで」
「それなら良いけど…」
ヨキに声を掛けられたマリは、焦りながら返事をするとそのまま立ち上がり、ヨキの元に駆け寄った。
そんなマリの様子を見ていたヒエンとレイアは、ここ最近、違和感を感じていた。
「なぁ、マリの様子、少し変じゃないか?」
「今回だけじゃない、前にヘルシャフト共に襲撃を受けた時もそうだ」
「それだけじゃないぜ、マリが少し変なのは」
ヒエンとレイアがマリの様子について話していると、背後からケイが話しかけてきた。
ケイは何処か深刻そうな表情をしており、心配そうにマリを見ていた。
「ここしばらくマリを観察してたけど、ラヴァーズ達ウィアグラウツとの接触を避けたり、昨日ヒバリとニヤトが仕留めて来た猪の解体は問題なくやってたけど、自分で獲物を仕留めるのはためらってた」
「僕達が分かれる前は普通に自分で仕留めてたぞ?」
「……隣にいるヒョロヒョロは気付いてるのか?」
「多分気付いてる。けど、あえて気付かないフリをしてるんだと思う」
隣でマリと話しているヨキが、あえてマリに起こっている小さな異変に気付かないフリをしている時計は指摘した。
恐らく、その異変を指摘してマリを動揺させないように配慮しているのだろう。
原因がわからない以上、手の出しようがなかった。
「もう少し様子を見て、他に問題がないか確認しようと思う。
二人とも、もしまたヘルシャフトと戦闘になったらなるべくマリから離れないように頼めるか?」
「任せといてよ! マリを守りながらでも十分戦えるさ!」
(違和感の正体を突き止めるには、マリの傍に方が良さそうだな…)
他にも問題がないか確認するため、ヘルシャフトと戦闘になった時はマリの護衛をヒエンとレイアに頼むケイ。
レイアは快く引き受け、ヒエンも違和感の正体を突き止めるにはマリの近くにいたほうが良いだろうと考え、首を縦に振る。
そのまま三人は何事ものなかったかのように進み始めた。
*****
とある建物の一室で赤毛の娘がソファーの上でくつろいでいた。
フォルシュトレッカー・ヴィダー。
ヨキ達の前に現れ、追い詰めたヘルシャフトに仇なす者を葬る者にして、任務を忠実に遂行する執行人。
フォルシュトレッカー達の筆頭と言える存在なのだろう、ヴィダーはテーブルの上にある小型の卓上ミラーに映る人物と会話をしていた。
フォルシュトレッカー・ユングフラウ、ヨキ達の前に現れ、ディモルフォセカを追い詰めた少女だ。
《こちらユングフラウ。標的であるスピリットシャーマンと、その協力者達の移動開始を確認したわ。
ヴィダー、次はどう動く? 私としてはこのまま襲撃して殺して構わないのだけど…》
「事を急ぎ過ぎてはだめよ、ユングフラウ。
相手は聖痕を持ったスピリットシャーマン、内二人は既にリンク・リンクを習得していますわ」
《それに関しては猶予を与えなければ問題なく殺せるわ。
仮に猶予を与えてしまったとしても、それ以外の標的を仕留める事ができればこちらの勝算が上がる筈よ》
ヨキ達の同行を偵察していたユングフラウは、ヴィダーに次の指示の要求、ヨキ達の抹殺を提案した。
ヨキ達の抹殺を提案するユングフラウに対し、ヴィダーは先走らないよう、ユングフラウに釘を刺した。
釘を刺されたユングフラウは、どこか不満そうな表情をしていた。
「あらあら? 不満そうな表情をしていますわね」
《様子を見るだけなら、私よりもシュッツェの方が効率はいいんじゃないの?
彼女の千里眼なら、遠く離れた所から十分観察する時間ができるし、気付かれる危険だってない筈よ》
「クスクス、後先考えずに動くと急いては言を仕損じてしまいますわ。
シュッツェの方も、今は付き人としての人が忙しいんですもの。
偵察に向いている他の子達も皆任務で出払っているし、そうなると貴女以外、冷静に偵察できる子がいないのはおわかりでしょう?」
《まぁ確かに、本拠地に残ってた面子の組み合わせを考えると、命令無視して速攻動きそうね》
ヴィダーの説明を聞いたユングフラウは、心当たりがない訳ではないらしく、納得しながらも頭を押さえた。
そんなユングフラウの反応を見たヴィダーは、テーブルに置いていたワイングラスを手に取ると、次の指示を出した。
「そういう事ですわ。引き続き、スピリットシャーマン達の動向を探って頂戴。
翌刻の白戌時、また彼ら側の手の者達が襲撃する予定でいるみたいですの。
次の襲撃が終わり次第、一度武器のメンテナンスもかねて本拠地に戻ってきて下さいまし」
《了解したわ》
ヴィダーから次の指示を受けたユングフラウは、卓上鏡から姿を消した。
ユングフラウとの会話を終えたヴィダーは、ワインと同様にテーブルに置かれていたチーズを一切れ手に取り、口に含む。
口の中からチーズがなくなると、ワインを口にする。
「このスパークリングワイン、中々美味ですわね。何処の国で作られたのかしら?」
「任務中にワインだなんて、随分と余裕があるな」
優雅にくつろぐヴィダーに話し掛けたのは、ロイド・レッドジャスパル。
正気を失ったマリ(トゥーランドット)に命を狙われていた所を、成り行きでヨキ達に助けられたヘルシャフトの青年だ。
現在は目立たないように翼を収納しているが、強さの証明である筈の翼を隠さなければならない事に遺憾を感じていた。
ヴィダーはそんなロイドの反応を面白そうに見ていた。
「そんなに拗ねなくてもよろしいんじゃなくて? 綺麗な顔が台無しですわよ」
「そんな訳、ないだろう! こちらはただでさえ殺されかけるだけじゃ飽き足らず、シャーマンに助けられるという屈辱を味あわされたんだぞ⁉」
「加えて、ワタクシに迎えに来られたのがそんなに嫌でしたの?」
ヴィダーの発言に反論しようとするロイドだったが、ヴィダーに指摘された事が図星だったため、そのまま黙り込んでしまった。
ロイドの反応を楽しむように、ヴィダーは喋り続ける。
「一つ、例え話を致しましょう」
そう言いながら、ヴィダーは一つの例え話を始めた。
「下らない理由で二つに分かれた一族がおり、わかりやすく黒と白の勢力としますわ。
黒の勢力は掟を破った者を許さず、白の勢力は掟を破った者を許すという特徴がありましたわ。
相容れぬ勢力同士の筈でしたけど、いくつもの共通点がありましたの」
一人語りながら、ヴィダーは手に持っていたワイングラスの中身を飲み干しテーブルに置くと、備え付けのワインセラーから一本のシャンパンを取り出す。
「二つの勢力は巻き込まれた者、素質ある者、同じ血が流れている者達を勧誘して自分達の戦力を着実に増やしていましたわ。
だけど、実力主義と表面上で高らかに宣言していても、純潔こそが絶対、純潔の力こそが一番強い、純潔の血を持つ者こそが上に立つべき。
という下らない考えは古参の者達からは消えず、その古参から生まれた者達にまで受け継がれてしまったのですわ」
ヴィダーはどこか呆れた様子で話しながら、シャンパンの栓を開けると備え付けられていたシャンパングラスに中身を注ぐ。
シャンパンが注がれたシャンパングラスを手に取り、話を続けた。
「元は同じ穴の貉、根本的な本質は変わっていなかったんですのよ」
「なら、二つの勢力に分かれる原因になったくだらない理由というのはなんだ?」
一人語りを続けるヴィダーに痺れを切らしたロイドは、例え話の最初に出て来たくだらない理由がなんだったのかを問いただした。
ロイドの問いに、ヴィダーが出した答えはあまりにも意外なものだった。
「一人の子供が、里から勝手に出て外部の者と接触した」
「………はぁ?」
例え話に出て来たくだらない理由が、一人の子供が里の外に出て、隠れ里の外にいるものと接触した事だと聞いたロイドは呆気に取られた。
ロイドの反応を見たヴィダーは、当たり前かという表情でシャンパンを一口飲む。
「理解できなくて当然ですわ。
そのくだらない理由で黒と白の勢力に分かれ、長い時間が流れても引きずって、両者の勢力のトップは純潔の若者でしたけど古参の者達の言いなりで和解せず。
そんなに外部の者と接触したくなければ秘境にでも引きこもればいいものを」
例え話をしていたヴィダー本人は思う所があるのか、シャンパンが入ったシャンパングラスを見つめていた。
例え話を聞いていたロイドは、黒と白の勢力がその後どうなったのかをヴィダーに尋ねた。
「その後、二つの勢力はどうなったんだ?」
「第三勢力の加入によって破滅しましたわ、黒と白、両者共にね」
「何?」
黒と白の勢力が第三勢力の加入により破滅したと聞いたロイドは、驚いた顔をしていた。
二つの勢力の争いがあらゆる者達を巻き込む程、長期化していたのはなんとなくわかっていたが、まさか第三勢力の加入によって両者は破滅、共倒れする形で敗北していたともなれば驚かずにはいられないだろう。
「両者共に大勢の同胞を失い、生き残れた者達も第三勢力の捕虜、もとい奴隷に成り下がる事となりましたわ。
巻き込まれた者達からすれば、とんだとばっちりでしょうね。
古参の者達も、さっさと古い考えなんか捨てて和解していれば大勢の同胞を失う事も、奴隷になり下がる事もなかった筈ですのに、ね」
クスクスと笑いながら、ヴィダーは例え話を終えた。
例え話を聞き終えたロイドは、ヴィダーにこの話をした意図を尋ねる。
「俺にこの話を聞かせて、何がしたいんだ?」
「簡単な話ですわ、ワタクシ達側に来る気はありませんくて?」
ヴィダーがロイドに告げたのは、自分側の戦力としての引き抜きの話だった。
引き抜きの件を聞いたロイドは、驚きのあまり声を失い、目を見開きヴィダーの方を見た。
引き抜きの話をしたヴィダーは、自分が使っているシャンパングラスにシャンパンを注ぐと、からのシャンパングラスを一本取りそちらにもシャンパンを注ぐ。
「まだ当分先の話ですけれど、外部の勢力と手を組もうと考えておりますの。
他の子達にはまだ話してないけど、状況を打開するためにも彼と彼の忠臣達はそれがベストだという結論に至りましたわ」
「外部の勢力、だと? お前達、まさか…⁉」
「このままだと先程話した、例え話のような展開になる可能性がありますのよ。
あくまで可能性でも、それだと貴方も困るでしょう?」
外部の勢力と手を組むつもりでいると聞かされたロイドは、その勢力に心当たりがあったため問いただそうとしたが、先程の例え話の結末を話題に出され、口を閉ざす。
「幸いな事に、貴方は彼が求める人材としての条件を満たしておりますわ。
ワタクシから彼に持ち掛ければ、ワタクシ達側に着くのは簡単でしてよ?」
ヴィダーは新しいシャンパングラスの方をロイドに差し出す。
あくまで可能性の話だとしても、本当に実現してしまえばその先に待ち受けているのは、自分を含めた全員の破滅。
例え話の結末を想像しただけで、身の毛がよだった。
どうせそうなるのなら、自分に有利な方が良いと考えたロイドは、ヴィダーの提案に承諾する事にし差し出されたシャンパングラスを受け取った。
「交渉成立、ですわね」
「破滅するのだけは、嫌だからな。それより、お前達が手を組もうとしている連中の実力は問題ないのか?」
「現在進行形で調査中ですわ。もっとも、優秀な人材は問題を抱えた方々ばかりですけれどね」
そう言いながらヴィダーはロイドが手にしたシャンパングラスに自分が持つシャンパングラスをぶつけ、音頭を取るとそのままシャンパンを口にした。
翌刻、ヴィダーがユングフラウに伝えた通り、白戌時頃にヨキ達はヘルシャフトの襲撃にあった。
最初こそ問題なく対処していたが、そこでヨキ達にとって最悪なトラブルが発生した。




