第54話 バンの弾幕
ヨキが突然可笑しくなり、力を暴走させるという想定外のトラブルは起こったものの、ヨキ達は予定通りに風神龍の大峡谷になった。
ヨキ本人は正気に戻っていたが、可笑しくなっていた時の事や爆発を起こした時の事、風神龍の大峡谷の事を忘れてしまっていた。
ケイとマリがもう一度風神龍の大峡谷に向かう目的を説明した時は、ヨキが可笑しくなる事はなかったが、キールの中では六翼という言葉が引っ掛かっていた。
(ヨキが呟いた六翼の正体が奴だとしたら納得できるが、そうだとしても色々と辻褄が合わなくなるのも事実。
風神龍の大峡谷にあるウィンドウセイジの集落に行けば、辻褄が合わない理由もわかる筈だ…)
「キール、昨夜お前が聞いてきた質問の事だが…」
「すまねぇラピス。ちょいと引っかかる事があってな、まだ確証がねぇから詳しく話せねぇんだ」
ヨキが可笑しくなった夜に、キールからある質問をされたラピスは真意を問うが、キールは書くしょうがないためまだ話せないといった。
一方、前方にいるヨキ達は地図を確認しながら風神龍の大峡谷まで最短ルートを確認していた。
「この地図を見る限り、今俺達がいるのはガイア地方の南南東、つまりはルーナ地方とクロノ地方の交差点的な場所近く。
で、風神龍の大峡谷の場所は…」
「真新しい地図だから、これまで訪れた社の場所と同様に記されていないみたいね」
「確かにそうですね、現に氷の社に至っては僕達の故郷の地下にありましたからね。
何よりそれぞれのスピリットシャーマンの力で守られていたのもあって、気付かれなかったのかもしれませんね」
「この辺りじゃないかな? ルーナ地方の中央付近。ほら、ここだけぽっかり空いた感じがするし」
地図を見ながら風神龍の大峡谷が何処にあるのか探していると、ヨキがルーナ地方の中央付近を示した。
ヨキが指摘した通り、地図に記されたルーナ地方の中央付近には人の手が入っていないのか、ぽっかりと空いている部分があった。
ディモルフォセカとカトレアが炎の古文書を使って風神龍の大峡谷の場所を確認し、地図と見比べてみると、ヨキが示した場所に風神龍の大峡谷がある事が判明した。
「確かにそこが風神龍の大峡谷みたいよ。よくわかったわね」
「言われてみれば、なんで僕、わかったんだろう?」
ディモルフォセカに指摘されたヨキは、自分が何故風神龍の大峡谷の場所がわかったのか不思議に思った。
わからないものは仕方がないため、ヨキはその疑問を一旦置いておき、ケイ達と一緒に風神龍の大峡谷へ行くための最短ルートを確認し始めた。
「あ~、俺もそろそろ新しいエアー・ガン欲しいんだけど…」
「そう言えばバンのエアー・ガン、四の月前から壊れたままだったね」
「何言ってんだ、お前弾幕使えるだろう?」
周りはすっかり忘れていたが、ヘルシャフトと交戦した際にバンのエアー・ガンは破壊されてしまった。
それ以降、バンは拳法のみで戦っていたのだが、空中戦を得意とするヘルシャフトとの戦いに限度があり、いい加減に遠距離攻撃のための手段が欲しいを考えていた。
それに対しキールは弾幕が使えるようになっていると言った。
弾幕という言葉を聞いたバンは、キールが何を言っているのかわからなかったが、バンが弾幕を使えると聞いたリースは、何かに気付いたようにキールに話し掛けた。
「もしかして兄さんの能力が開花した事で、だんまくを自在に使えるようになっているんですか?」
「あぁ、この間蔦を生やしたり木を生やしたりできたんだ。
間違いなく理力が目覚めている証拠だし、弾幕を出せるようになる筈だ」
「つまり、俺もヨキやお前らみたいにこうバーンって、ガーンって戦えるんだな⁉」
能力が開花した事で弾幕を使う事ができると聞いたバンは、ヨキ達のように戦う事ができると分かり、子供のように目を輝かせていた。
子供のようにはしゃぐバンの様子を見たキールとリースは、不安しかなかった。
前にキールが言った通り前例は少ないものの、突然一般人が何かしらの力が開花する事はあるらしいが、そう簡単に力を制御するのは間違いなく不可能。
何より何故かバンは能力を発動する時に魂の属性がロアを超えて変わるという謎の現象を起こすため、何が起こるかわからないという不安要素が残っていた。
「どうするんですかキール君、あの様子だとすぐにでもためすつもりですよ?」
「いや、確かに昨日蔦と木を生やしてたけど素人が弾幕を簡単に出せない筈、だと思う…たぶん…きっと…」
「やった出せた!」
「「出せたのかよ/出せたんですか⁉」」
バンの手には結晶を纏ったフクシアパープルの光球があった。
バンは弾幕を出せた事に喜んでいたが、キールとリースの二人はそうはいかなかった。
何が起こるかわからないという事もあり、その弾幕に何かしらの効果があるのではないかと不安しかない。
現にディモルフォセカやスズ、更にはヒエン、レイアと法術や能力の基礎知識を持つ仲間達はあり得ないといった様子で見ていた。
ラピスに至っては、バンの手の中にある弾幕が安全なものなのかと疑うような表情をしていた。
「すっげ―っ! 一発で成功させちゃったぞ!」
「弾幕って、こんな簡単に出るものなの?」
「そんな訳ねぇだろう! どうなってるんだお前の感覚はぁ⁉」
たったの一回で弾幕を出す事に成功したバンの感覚を疑わずにはいられないキールは、頭を抱えながら叫び、リースも兄の感覚がどうなっているのかと思わず疑った。
そうやって騒いでいると、ラピスが全員に声を掛けた。
「一々騒いでいても仕方ない。その弾幕に問題ないか確認すればいいだけの事だ。
丁度良い練習相手も来たようだしな」
そう言いながらラピスは視線を上空に向ける。
それにつられてキールも上空に視線を移すと、そこには数十人ほどのヘルシャフトの姿があった。
上空にいるヘルシャフトを目にしたヒエンはクロスボウの先端を向け、レイアは手に持つ煙球を握りしめる。
ヘルシャフトの存在に気付いたヨキ達も、それぞれ武器を構えて臨戦態勢に入る。
「また空から襲撃かよ⁉」
「簡単に数えただけでざっと六十はいるわね。三倍近くの差があるけど、問題なく対応できる筈よ」
「スズ、これからは常日頃からヘルシャフトの生命力を感知できるようにしろ。
最低でも七〇m内だ」
カトレアがヘルシャフトとの戦力と自分達との戦力差を分析し、十分対応できる事を仲間達に伝える。
ラピスは剣の柄に手を掛けながら、数十人のヘルシャフトが近づいていた事に気付けなかったスズに対し、日頃からヘルシャフトの生命力を感知できるようになれと指摘した。
最低でも七十m内と指定されたスズは、苦虫を潰したような表情をしていた。
その隣にいるバンは、手の中にある弾幕を維持したまま好奇心に満ちた様子でヘルシャフト達を見ていた。
遠距離攻撃の手段を得たからというより、自分が作った弾幕がどのように通じるかという方に意識が向いていた。
「よーし、さっそく試してみるか!」
「バン、他の皆には当てないように気を付けてね?」
「言われなくても、わかってる!」
ヨキが他の仲間達に当たらないようバンに注意を促すが、バンは何の迷いもなく手の中にあった弾幕をヘルシャフトに向かって投げつけた。
その攻撃に対し、一人のヘルシャフトがバンの弾幕に向け火の玉を数発撃つ。
するとその内の一つがバンの弾幕に触れると、バンの弾幕は爆発するような形で光を広げ、他の火の玉を巻き込むように広がった。
バンの弾幕の光に包まれた途端、火の玉は全て固まってしまうという現象がヨキ達の目の前で起こった。
「「「えぇーーっ⁉」」」
「固まっちゃった! 固まって落っこちちゃった!」
「あ、あれぇ~? なんか、イメージと違うような…」
「今の、どう見ても美属性の攻撃じゃねぇか⁉」
ヘルシャフトが放った火の玉全てを固めたバンの弾幕を見たキールは、またしてもバンの魂の属性が変わったのだと悟り困惑した。
ヨキ達やバン本人も目の前で起こった現象に困惑しており、それはヨキ達を襲撃しに来たヘルシャフト達も同じだった。
困惑するヘルシャフト達を見たヒエンは、レイアに声を掛けた。
ヒエンの声に反応したレイアは、すかさず持っていた煙玉をヘルシャフト達に投げつけた。
「今度はなんだ⁉」
「なんだこれ、目に染みる…」
「鼻が痛い、なんだよこの煙はぁ⁉」
「ゲキカラ香辛料入りのケムリ玉だ! 目にしみてまともに開けてられないだろう!」
「確かに効果抜群みたいやな、こっちまで鼻がツーンとなってきたわ…」
レイア投げた煙玉には香辛料が含まれていたらしく、煙に包まれた数名のヘルシャフトが目と鼻をやられ、怯んでいた。
その効果は煙に巻き込まれていない猫族の獣人であるニヤトと猫であるタメゴローにも及び、鼻を抑えながら悶絶していた。
ヘルシャフト達が怯んでいる内にラピスが翼を展開して上空に飛び、煙にやられたヘルシャフト達を氷の礫で叩き落とし、ディモルフォセカがトーチを振るいチェック・ダ・ロックで封印していく。
煙に巻き込まれなかったヘルシャフト達の一部は上空でラピスと交戦し、残りは地上にいるヨキ達に攻撃を仕掛けていた。
「他の奴らが来るぞ! レイア、さっきの煙玉はまだあるな⁉」
「もちろん! ほかの皆に当たらないようにすれば、有効的に使えるさ!」
「キール、足場作って! アタシが飛んでる奴らを叩き落すよ!」
「色々言いたい事はあるが、任せろ! グロウ・グロウ! バウリム・バウリム!」
ヒエンはクロスボウを射てヘルシャフト達を牽制しながら、レイアに煙玉の有無を確認する。
フィービィーはキールに足場を作るよう要求し、キールはポシェットから種を取り出しグロウ・グロウとバウリム・バウリムを唱え、足場となる木を生やす。
キールが生やした木を足場に、ヘルシャフト達目掛けてフィービィーは上へ上へと登って行く。
フィービィーに便乗し、ケイとヒバリも木を登り上空にいるヘルシャフト達と交戦を開始した。
三人と交戦しているヘルシャフトの中からダメージによって高度を保てなくなった数名が高度を下げ、地上にいるヨキ達に攻撃を仕掛けようとするが、そこへレイアが間髪入れずに煙玉を投げつける。
「ヨキ、煙がこっちに来ないよう風で調整できるか⁉」
「任せて! ウィンドゥ・ウィンドゥ!」
「ヨキの風に合わせて、そぅれ!」
「スズさん、サポートお願いします。閃光鳳花!」
「任された!」
レイアの煙玉の煙幕が流れて来ないよう、ウィンドゥ・ウィンドゥで調整するヨキ。
ヨキが操る風の流れを見極め、バンは先程と同じ弾幕を二つ作り出し、風に乗せるように弾幕を投げる。
バンの意図を悟ったリースはスズにサポートを頼むと、バンの弾幕より前に行くように三枚の護符を投げ、スズがヨキの邪魔にならないようにリースの護符がバンの弾幕より前に行くよう風の通り道を作る。
三枚の護符がバンの弾幕より前に行くと、同じタイミングで閃光の花を生み出す。
煙玉以外の目くらまし攻撃を受けたヘルシャフト達はとっさに目を瞑って閃光の花の光を回避するが、光が収まると同時にバンの弾幕が迫っていた。
仲間であるヘルシャフトの火の玉が固まるという現象を目にしていたため、直撃すれば自分も無事では済まないと思い慌てて旋回し、弾幕を躱す。
そのせいで連携が崩れ、動きがバラバラになる様子をヨキ達は見逃さなかった。
「連携が崩れた、今がチャンスよ!」
「スマッシュ・スマッシュ!」
「アイヴィ・アイヴィ!」
「チェック・ダ・ロック!」
カトレアの合図とともに、ヨキがスマッシュ・スマッシでヘルシャフトを直接攻撃し、攻撃を受け動きが鈍くなったヘルシャフトをキールがアイヴィ・アイヴィで生やした蔦で捕縛、ディモルフォセカが素早くチェック・ダ・ロックで封印していく。
するとヨキ達の攻撃から逃れた一人のヘルシャフトが、後方にいるマリに向かって攻撃しようとしていた。
「マリ殿、そちらに一人向かったでごじゃるぞ!」
「あっ! 本当だ! マリさん、ホウジュツでおうせんして下さい!」
木の上で上空にいるヘルシャフトと戦っていたヒバリがマリに警告し、飛んでくる弾幕の雨を水桜鏡で消していたラヴァーズが法術で応戦するようアドバイスする。
ヒバリの警告とラヴァーズのアドバイスを受けたマリは、アーマーリングを着けた手をヘルシャフトに向け、法術を発動させようとした。
「スマッシュ……ッ!」
スマッシュ・スマッシュを発動させようとした途端、何故かマリはスマッシュ・スマッシュの発動を中断してしまった。
その間にヘルシャフトがマリに迫っていた。
「死ねぇ! スピリットシャーマン!」
「あっ…」
「マリ!」
ヘルシャフト相手に応戦できないでいるマリの姿を見たヒエンは、ヘルシャフト達への牽制を一時的にやめ、マリに迫るヘルシャフトに射線を合わせクロスボウの引き金を引く。
ヒエンのクロスボウから赤褐色のクォレルが放たれ、マリに迫るヘルシャフトの右二の腕部分に深く刺さる。
「何してるバカ野郎! ソイツが怯んでいる内に封印しろ!」
「わっ分かったわ! チェック・ダ・ロック!」
助けられ、指摘されたマリはヒエンが言った通りに慌ててチェック・ダ・ロックを発動させ、ヒエンの攻撃を受け痛みに悶えるヘルシャフトを封印する。
その様子を見届けたヒエンは再び上空にいるヘルシャフト達を牽制し、連携を乱す。
連携を乱されたヘルシャフトの隙をついてキールが生やした木を足場に戦うフィービィーが素早く移動し、目の前まで接近すると五月雨でヘルシャフトの武器を叩き落し、勢いよく顎を蹴り上げる。
顎を蹴られたヘルシャフトは衝撃のあまりその場で硬直、意識を飛ばす。
「キール、今からそっちに一人落とすよ! ハァッ!」
そんなヘルシャフトに対し、フィービィーは蹴り上げた足をそのまま勢いよく落とし、ヘルシャフトの顔面に踵落としを打ち込む。
踵落としを打ち込まれたヘルシャフトはそのまま地上にいるキールの近くに叩き落され、ピクリとも動かない。
近くにいたキールは動じる事なくチェック・ダ・ロックで封印する。
「今のフィービィーの攻撃、凄かったな!」
「情け容赦のない攻撃でごじゃったな…」
「今、物凄い勢いでヘルシャフトが落ちて来たんけど…」
「フィービィーさんこわすぎ…」
フィービィーの容赦ない攻撃を見ていた仲間達の一部は、あまりの事に引いていた。
ヨキとラヴァーズに至っては、フィービィーの容赦ない攻撃に恐怖を覚え涙目になりながら身震いを起こしていた。
同胞の一人がスピリットシャーマンでないものにやられたと知ったヘルシャフト達は、自分達が馬鹿にされているように思え、自然とフィービィーに敵意を向ける。
フィービィーに敵意が向いている内に、視線から外れたラピスが更に上空へ舞い上がり、ヘルシャフト達に向けて次々と氷の矢を射る。
ケイとヒバリも足場になっている木の枝を利用してヘルシャフトの背後に回り、ケイはチェック・ダ・ロックで封印し、ヒバリは短刀でヘルシャフトを斬り伏せて行く。
ヘルシャフト達もそう簡単にはやられてはくれず、ヨキ達と相性がいいヘルシャフト、ヨキ達からすれば相性が悪い属性を使えるもので攻撃を仕掛け攻撃する。
ヨキ達も相性が悪かったとしても、抵抗する事をやめない。
近距離、空中、弾幕、法術戦が来る広げられる中、ディモルフォセカが発動させたフレア・フレアの炎がケイ、ヒバリ、フィービィーの三人が足場にしている木に炎が燃え移ってしまった。
「うわっ! 足場に炎が⁉」
「火事―っ! フィービィー、ディルカの炎で足場が火事だーっ!」
「何してるのディルカーっ⁉」
木の上で戦う三人は想定外のディモルフォセカのミスに困惑し、ヘルシャフトと交戦しながら必死に炎から逃げ回る。
普段ではありえないミスをしたディモルフォセカ自身も、取り返しがつかない事をしてしまったと自覚しており、非常に焦っていた。
「うっ嘘! どうしよう⁉」
「炎がどんどん燃え広がって…。三人とも早く降りて来て!」
「俺の風で消火、は無理か。逆に被害を広げるだけになるし、一体どうすれば…」
「任せろ! 威力を弱めて、イメージして、それ!」
ヨキ達が木に燃え移った炎がどんどん広がっていく様子を見守る中、バンは弾幕を炎に向かって投げつけた。
炎に直撃したバンの弾幕は光を広げ、ケイ達を巻き込む事なく燃え広がる炎と木を固めていく。
足場が固まり自分達も自由に動ける事を確認した三人は、炎を気にする事なく戦い続ける事ができた。
三人が動き回る様子を見て何かを確信したバンは、新たな弾幕を作り出すとヨキとリースに声を掛けた。
「ヨキ、ヘルシャフトの周りに纏わせられるか? 風を糸みたいに!
リース、お前の呪術で水を出せ! 水を出す時はヨキの風に乗せるんだ!」
「えっと、やってみる! ウィンドゥ・ウィンドゥ!」
「わかりました、流水道破!」
ヨキはもう一度ウィンドゥ・ウィンドゥを発動させ、リースが護符から水を出しヘルシャフト達の周りに紐で巻き付けるように纏わせる。
全体的に行き渡ったのを確認したバンは、水に向かって弾幕を投げつける。
バンの弾幕によってヨキの風とリースの呪術の水が固まっていく、それと同時に自分の周りを風と水を纏わされたヘルシャフト達は身動きが取れなくなった。
「嘘やろ? あの弾幕、風まで固められるんかいな⁉」
「どうなってんだ、あの馬鹿の弾幕は?」
「すごいです! バンさんのだんまくで風と水が固まって、とってもキレイです!」
「よく見て、風と水が固まったせいでヘルシャフト達が動けなくなってる!
今が封印するチャンスよ!」
ヘルシャフト達が動けなくなっているのを見たカトレアは、今が封印のチャンスだと伝える。
キール達もヘルシャフト達を封印するチャンスをみすみす逃すつもりはなく、一斉にチェック・ダ・ロックを唱え始めた。
「「「「チェック・ダ・ロック!」」」」
チェック・ダ・ロックを唱えると、それぞれの礎から光り輝く炎、水、蔦が、吹雪が溢れ出し、身動きが取れなくなったヘルシャフト達を次々に封印していく。
最後の一人が封印され、ようやく戦いは終わった。
「やっと終わった~」
「今ので全員だったみたいだな」
「うぅ、鼻が辛すぎる…」
「あぁ、ごめん、色んな激辛香辛料を入れてたからかなりきついかも」
襲撃して来たヘルシャフトを全員封印した事を確認したヨキ達は、安心したようにその場で気を抜き、安堵した。
ニヤトとタメゴローに至っては、レイアがヘルシャフト達を怯ませるために使った激辛香辛料入りの煙玉の被害を受けたのもあり、いまだに悶絶していた。
キールが生やした木を足場に戦っていたケイ達三人も、戦闘が終わって地上に降りてきた。
それを見たディモルフォセカは、すかさず三人に駆け寄り、気分のミスを謝罪した。
「三人ともごめんなさい! まさかあんなミスをするなんて思ってなくて…」
「いいよ、ワザとじゃないってのは分かってるから」
「うむ、幸いな事にバンのおかげでセッシャ達も無事でごじゃるからな」
「でもさぁ、これどうするの?」
フィービィーの視線の先には、バンの弾幕によって固められたキールが足場として生やした木と、ディモルフォセカの炎、ヨキと風とリースが出した水があった。
ただ固まっただけならよかったのだろうが、どういう訳か全て宝石と化しており、ヨキ達がいる草原にあるのは明らかに不自然な状態だった。
「キレイなのはキレイだけど、明らかに不自然ですね…」
「頑張って壊して、持ち歩くか?」
「それは無理だろうな。試しに触れてみたが、ガラスのように脆くなく、鉱石のように固いのを含めると一刻では破壊しきれん。
何より、破壊出来たとしてもかなりの量になるのが目に見えている以上、どう考えても持ち歩くなど不可能、時間の無駄だ」
「……違う意味で大騒動になるな」
自分達で壊して持ち歩くという提案が出た所で、上空から宝石と化した木の様子を確認したラピスが時間の無駄であると証言した。
壊した破片を持ち歩けば、悪い意味で目立ってしまうのが目に見えていたため、ヒエンもラピスと同意見のようだった。
「こうなったら、無視だ無視。無視して先に進むのが一番だ」
「え˝っ、これ放置していくの⁉」
「オイラ達が関わってるってのがバレたら間違いなく、この上なく面倒になる!
悪い意味で目立つぐらいなら、シラを切り通した方がマシだ!
全員今すぐ、この場から離れるぞ!」
処遇を決めかねたキールは、そのまま放置してシラを切ると強引に決めるとそのまま先に一人で進み始めた。
それを見たヨキ達も慌ててキールの後を追い、その場を後にした。
*****
ヨキ達がその場から離れたのを確認した狼族の少年は、霧の中から姿を現した。
宝石と化した木に近付き、地面に落ちていた宝石と化した火の玉を一つ手にたりながら木の方を確認した。
「いやぁ、かなりチートなのは知っていたけど、まさかここまでの結果になるとはなぁ。
成長の吸盤の影響で使えるようになってるのは樹属性と魔属性の二つだけの筈が、実際に出したのは美属性の弾幕と来たもんだから、色々予想外だなぁ」
誰もいないその場所で独り言を話しながら、狼族の少年が拾い上げた宝石とかした火の玉を、法瀬戸化した気に向かって勢いよく投げつけた。
そのまま宝石とかした火の玉が直撃すると、宝石と化した木はいとも簡単に壊れてしまった。
狼族の少年はチェーンベルトに着けている蛋白石をあしらった宝箱型のチャームを手に取り、降り注ぐ宝石の破片に向ける。
すると、宝石型のチャームがあしらわれた蛋白石と同じ虹色の光を放ち、降り注ぐ宝石の破片が宝箱型のチャームに吸い込まれていく。
「これだけ素材があれば問題なく研究を進められる、何度失敗しても問題はないだろう。
上手く行けば、貴重な鉱石素材を作る事も、失われた技術の復活も、新しい道具類の発明だってできるかもしれない。
けど、素材が十分あったとしても時間は限られている、アイツらには急いで強くなってもらう必要がある」
再び宝箱型のチャームをチェーンベルトに着け直すと、ヨキ達が進んだ方向を確認しながら、ある事を心配していた。
「今の問題は、アイスアサシンのあの子か。
不完全な形で試練を突破したから何かしらの悪影響は出るとは思っていたけど、こんな形で出て来るとはな。
乗り越えてくれよ? 乗り越えてくれないと、困るのは俺の方だ。
積極的にとはいかないが、俺なりの方法でサポートはさせてもらうよ」
狼族の少年はマリの事を心配しながらも、ヨキ達とは逆の方向に向き直す。
「さて、巨木の残骸が全部撤去される前に少し採取させてもらおうか。
あれも立派な素材だ。次に作る予定の道具の材料候補にさせてもらおう」
そう言うと狼族の少年はヨキ達が滞在していた町へと向かった。
狼族の少年が目指すのは、魔障溜まりが発生した黒い巨木の跡地。
狼族の少年の行動が、ヨキ達の今後にどう関わってくるのかは、誰にも分らない。




