第53話 トラブル続き
バンが突然能力を使えるようになり、紛失中の成長の吸盤から魔障溜まりが発生し更には小規模のスタンピードが起こるという想定外のトラブルが立て続けに続いたが、セルクの持つ浄化の力とスピリットシャーマンの浄化のピュアラファ・ピュアラファによって無事に解決した。
魔障溜まりから発せられていた瘴気の悪影響で体調を崩してたリース達年少組も、セルクの羽に宿る浄化の力で回復していた。
「大丈夫かリース?」
「はい、セルクさんからいただいた羽のおかげですっかり良くなりました」
「ワイらがぶっ倒れてる間に、とんでもない事になっとったみたいやなぁ。
現場に着いた途端、そのままぶっ倒れて、次に目ぇ覚ました時は全部終わっとったさかい驚いたで」
「僕らが倒れる原因になったショウキって言う奴のせいで、マリもこんらんしてあばれるぐらいだったんだろう?」
「アハハッ…。面目ないです」
瘴気が消えた事でようやく落ち着きを取り戻したマリは、混乱していたとはいえヨキ達に迷惑をかけた事を反省していた。
その横では疲れた様子にヒエンが壁にもたれかかっていた。
同じように混乱して暴れるマリを抑えていたヒバリも、疲れた様子で椅子に座り込んでいた。
「浄化の力が溜まらないわ、小規模だけどスタンピードは起こるは、アタシ達は動けないわ、ディモルフォセカは場違いなトキメキ発言するわ、本当に大変だったのよ」
「ちょっとカトレア、それは関係ないでしょう!」
言葉の訛りがなくなりいつもの口調に戻ったカトレアは、黒い巨木跡地で起きていた事を愚痴っていた。
エピン=カルマンの中にいる間、自分は外に出てサポートに回る事ができなかったため、思う所があったのだろう。
カトレアに場違いなトキメキ発言の事を指摘されたディモルフォセカは、焦ったように訂正を求めた。
するとカトレアの膝の上にいたラヴァーズが、トキメキ発言について尋ねて来た。
「ねえさん、トキメキはつげんってどんなことばなの?」
「ん~、ラヴァーズにちょっと早いかなぁ? もう少し大きくなったら、教えてあげるからね」
ラヴァーズにトキメキ発言の意味を知るのはまだ早いと思ったカトレアは、成長したら教えるといってはぐらかした。
一方ヨキ達は月の光に宿る自然エネルギーだけを取り込み、大量の理力を手に入れたセルクの翼を見ていた。
「セルクさんの翼、大きくなるだけじゃなく枚数が増えましたね」
「自分でも驚いてるよ、月の光の自然エネルギーだけで四翼になるとは思ってなかったから」
「四翼といったら貴族レベルだからな。平民の俺達じゃ比べ物にならないからな」
「浄化の力に月属性か…。雰囲気からして、恐らく呼び名のない最期のロアに属する属性だな。
おまけに四翼になったし、これって戦力としても期待値高くね?」
ルドゥウィンはセルクが四翼になった事に対して冷静に考えているのに対し、リッツは戦力としてかなり期待できるのではないかと興奮していた。
そんなリッツの考えに対し、バンは小屋で千機眼の時のように月属性について説明し始めた。
「いや月属性は確かに浄化の力が一番強いけど、月属性の霊力持ちや理力持ちは攻撃に特化していないから戦力としてはあまり期待できないと思うぜ?」
「あれだけの力を発揮してか?」
「あぁ、理力持ちだと必ず特定の別属性とペアになっていて、ペアになった属性の影響を受けて系統が限定される。
月属性のみもあるけど、どの系統に特化しているかは能力者によるからわからない。
霊力持ちで法術士はいるけど呪術師はいない代わりに、癒しと浄化に特化しているから、サポート、医療面では期待できると思うぜ。
魔力持ちなら、個人差に寄るけどジャンル問わずに魔法が使えるからな、戦力として期待するならそっちだな」
同じ月属性でも魔力、霊力、理力によって役立つことが違ってくるという、バンの説明を聞いたリッツはそこまで違いがあるのかと感心した。
ヨキとリースは、真剣な表情でバンを見つめた。
「バン…」
「兄さん…」
「ん? ヨキ、リース、どうしたんだ?」
「「また無自覚に知らない事を説明してる」」
ヨキとリースは、また無自覚に説明したバンに驚いていた。
二人に指摘された事でバンもその事に気付いたが、考えても仕方なかったのであまり気にしないようにした。
そこへ、魔障溜まりが発生していた黒い巨木の跡地の確認に言っていたキールとラピスが戻ってきた。
「キールおかえり。どうだった?」
「あぁ、かなりの人数で確認したが問題なさそうだ。
成長の吸盤は完全に破壊出来たし、魔障溜まりもスタンピードも起こる心配はないだろう」
「魔物達も成長の吸盤が破壊された時の衝撃で完全に掃討されたようだ」
キールとラピスからの報告を聞いたヨキ達は、もうこの町を脅かすものはないと分かり安心した。
キールとラピスの報告を聞いた後、ケイはこれからどう動くのかを二人に尋ねた。
「それで、これからどう動くんだ?」
「あぁ、今日の正午にクロノ地方にある『風神龍の大峡谷』へ向かう」
「「「風神龍の大峡谷?」」」
「風神龍の、大峡谷…」
キールの口から風神龍の大峡谷という次の目的地の名が出て来た時、ヨキは風神龍の大峡谷という言葉に反応した。
仲間達は聞いた事がないというような様子で、顔を見合わせながらキールに風神龍の大峡谷という場所がどういう所なのかを尋ねる。
「キール、風神龍の大峡谷ってどんな場所なんだ?」
「単刀直入に言うと、“ウィンドウセイジの集落があった場所”だ」
風神龍の大峡谷がウィンドウセイジの集落があった場所だと聞いた仲間達は、とても驚いていた。
スピリットシャーマンの中で最も強いとされた、今は亡きウィンドウセイジ。
そのウィンドウセイジが住んでいたとされる場所に、今日の正午から向かうと宣言されて全員が困惑していた。
「でも、なんでそこに向かうんだ?」
「その件に関しては私から説明させてもらう。
まず、これまでの旅で私達はあらゆる問題を抱えているという事は、おのおの自覚しているな?」
「ヨキの記憶喪失の事か?」
「もしかして、ぼくのことでしょうか?」
「俺がバンとそっくりすぎる事とかじゃないか?」
「ひょっとしてリンドウの事?」
「ヒエンがマリに抱き着かれて慌てふためいとるこっちゃあらへんか?」
「キールがアタシを置いてけぼりにした事だ!」
「私が正気をなくして暴れまわった事?」
「センノウされたリルさんをどうたすけ出すかですね?」
「俺が能力使えるようになった事か?」
ラピスに自分達が抱えている問題の事を指摘された仲間達は、自分が思いつく問題点を一斉に挙げていく。
中には全く関係ない答えまであったため、それを聞いたキールとラピスは思わず顔を歪めた。
「一斉に喋るな聞き取りずらいだろう! フィービィーの言った事はもう何度も謝っただろう!
それからニヤトが言った事は問題でもなんでもねぇよ!」
「スズの事は私達が気を付ければ問題ないし、ラヴァーズが気にしている事はウィアグラウツが増えた事で、次期解決するだろう。
マリがトゥーランドットとして暴れていた時の事はもう解決しているし、ツヴィリンゲの事は確かに想定外だったが、どちらにしても戦う事は避けれないのはわかっている以上、真っ向勝負でどうにかするしかないだろう」
「じゃあ、今二人がていせいしなかった事が僕達が今かかえている問題って事でいいんだな?」
キールとラピスの説明を聞いていたレイアは、二人が訂正しなかったヨキの記憶、洗脳されたリルの救出、バンが能力を使えるようになった謎の三つが問題だと理解した。
レイアの答えに、二人は首を縦に振った。
ヨキ達が抱えている問題は、聞いただけでは簡単に解決できそうではあるが、実際は解決するには難しい問題ばかりだ。
そのことがわかっているからこそ、手探りの状態で解決策を見つけていくしかないのだ。
「バンの問題に関しては少し訂正させてくれ。
バンが能力を使えるようになったのは完全に想定外、前例がない訳じゃねぇが魂の属性がそれぞれのロアを超えて変わるなんて聞いた事ねぇ。
そんな状態で能力を使ったらどうなるか予測不可能。
おまけにヘルシャフトに狙われている理由がわからない以上オイラ達でもお手上げだ」
「でも、ラピスさんは私と同じ氷属性とキールと同じ樹属性を使ってるわ」
「前にヘルシャフトに襲われた時、別々のロアに属する魂の属性を持っていると思われるヘルシャフトと戦った事があるでごじゃる」
バンが能力を使えるようになった事に関しては前例がない訳ではないそうだが、属性が増えるという事に関しては全く原因がわからないのだそうだ。
その事に関し、マリがラピスは氷と樹の二つの属性を使えることを、ヒバリは別々のロアに属する属性を同時に使うヘルシャフトがいる事を指摘した。
その事に関してはラピスが答えた。
「私とヒバリが言っていた者に関しては、生まれつき二つの属性を持っていたから問題はないんだ。
だが、スズから聞いた限り、バンの魂の属性は完全に雷属性から樹属性と魔属性の二つに変わっていたようだ。
仮に増えたとしても、一辺に増えるのはいささか可笑しい」
「つまり、ラピスはもともと二つの属性持ちだったから何ら可笑しくはないけど、バンは一つだけだった筈が突然二つ増えて、もともと持っていた属性が一時的に消えるという謎の現象を起こしたって事ね」
カトレアが言った通り、異なる属性が一気に増えるという現象は聞いたことがないらしく、そのためキールとラピスでも完全にお手上げ状態で現段階では解決できそうにない。
おまけにリルが背いた命令に深く関与している為、バンの問題に関しては現状維持するしかないようだ。
「バンが狙われる理由を知るリルも洗脳され今や体のいい人形状態だ。
洗脳を解く方法に関してはいくつか案があるが、救出するにしても、本陣に直接乗り込むかシュタインボックが連れてきている時を狙うしかない」
「敵の秘密基地とか、本拠地以外の拠点とかはないんか?」
「その件に関してはオイラがとっくに確認済みだよ。
フォルシュトレッカーは常日頃から、あちこち動き回っていて一か所に留まっている事は少ないみたいだ。
一か所に留まるとすれば長期任務による滞在か、本拠地以外ないらしい」
フォルシュトレッカーが常に動き回っている状態であるため、こちらから乗り込んでリルを救出するのが不可能であるのは明確だ。
ラピスが言ったように、確実にいるであろう敵の本拠地に乗り込むか、シュタインボックがリルを連れて目の前に現れる時を狙うしかなさそうだ。
「話が脱線したが、風神龍の大峡谷に向かう理由はヨキの正体を突き止める事ができるんじゃないかって考えたんだ」
「? 俺と同じスピリットシャーマンの生まれ変わりじゃないのか?」
「オイラも最初はそう思ったが、ヨキが取り戻した記憶の内容を聞く限り辻褄が合わない事が多いんだよ」
「どういう事?」
「社に関する記憶では建てられた時期が六百年近く違ったり、記憶喪失になる前に来た事がある筈のトゥーン・トゥーンでヨキの事を聞いても誰も見てないの一点張りだった」
「ヘルシャフトに襲われ、故郷の住人全員を皆殺しにされた可能性があるにも関わらず、私自身それらしい情報を一度も聞いた事がない。
可笑しい事だらけなんだ」
記憶の一部を取り戻したヨキから聞いた話をもとに、自分なりにヨキの事を調べたキールだったが手掛かりが一切なく、ラピスも大勢の人間が皆殺しにされたとは一度も聞いた事がないのだそうだ。
そのような事件があったのならヘルシャフトの間だけではなく、世界中に知られていても可笑しくない筈だったが、誰もそのような事件は聞き覚えがなかった。
社が立てられた時期の違いと、ヨキが訪れた筈の場所で幼い頃のヨキの知り合いもおらず目撃情報もない。
逆に謎が深まっていくばかりだ。
「こうも情報が定まらないとなると、記憶の手掛かりを見つけるのは不可能だ。
ウィンドウセイジと関わりがあるのなら、いっその事ウィンドウセイジ絡みの場所に行けば何か手掛かりが掴めるんじゃないかって思ったんだ」
「スピリットシャーマンに関する遺跡の大半は六百年の間に殆ど破壊されてしまっている。
それぞれの社が残っていたのが奇跡的なほどだ、ウィンドウセイジに関する遺跡も恐らく風神龍の大峡谷ぐらいだ。
風の社も発見されていない以上、恐らく風神龍の大峡谷にある筈だ」
「だってさ。ヨキ、もしかしたら記憶が戻るかも……ヨキ?」
未だ発見されていない風の社とヨキの記憶の手掛かりが風神龍の大峡谷にある可能性があると聞いたケイは、嬉しそうな様子でヨキに話し掛けた。
だが、肝心のヨキはブツブツと呟いた状態でケイの声に気付いていなかった。
そんな状態のヨキを見たケイは、キールとラピスが風神龍の大峡谷に向かう理由を説明している間、ヨキが一度も話に加わっていない事に気付いた。
更に顔色が悪く、真顔で反応がない事からヨキの様子が可笑しいのは明白だった。
その事に気付いたケイは、慌ててヨキの容態を確認し始めた。
「ヨキ、ヨキどうした? 俺の声が聞こえてるか⁉」
「どうしたケイ?」
「ヨキの様子が可笑しいんだ! 何度声を掛けても反応しないし、さっきからブツブツ訳わかんない事呟いて、精神的に極限状態になってるかもしれない!」
「どうして⁉ 極限状態になるような事、起きてないのに…」
ケイが焦り出した事で、ようやくヨキの異変に気付いたキール達も慌ててヨキの状態を確認する。
ヨキが精神的極限状態に陥っている可能性があると聞いたマリは、ヨキが精神的極限状態に陥るきっかけになる雷を真っ先に思い浮かべたが、現在の天候は晴れているため、何故ヨキが精神的極限状態になったのかわからなかった。
明らかに普通ではないヨキの様子から、マリもヨキの容態を確認し始めた。
「顔色が凄く悪いわ、ここまで蒼白になる程追い込まれているの…?」
「表情は真顔だけど、脈拍が早くなってる。それにこの脈の打ち方、動揺してるのか?
マリ、体温の変化は?」
「特に変化はなさそうよ。だけど私達の声が聞こえていないどころか、私達に触れられている事にも気づいてないっぽい」
ケイとマリの二人に容体の確認という理由で体に触れられているにも関わらず、いまだにブツブツと呟いたまま反応を見せないヨキ。
動揺している理由も、精神的極限状態になる理由もわからず手の施しようがない二人が混乱していると、カトレアはヨキが呟いている内容を指摘した。
「ねぇ、ヨキは今何を呟いているの? そこから手掛かりは掴めない?」
「その手があった! マリ!」
「わかったわ」
ヨキが呟いている内容から、何か手掛かりが掴めるのではないかとカトレアに指摘されたケイは、ヨキの表情を確認していたマリにヨキが呟いている内容の聞き取りを指示しようとする。
ケイが言い切る前に何が言いたいのか理解したマリは、ヨキの口元に耳を近づけ、呟いている内容の聞き取りを始めた。
「えぇ、と…。風神龍の大峡谷、ウィンドウセイジ、大切、使命、怖い、ヘルシャフト、社、誇り…」
「さっき話した内容に関する言葉だな」
「大切、使命、怖い、誇りってどういう事や? ワイからすれば関係なさそうに聞こえるんやけど…」
「静かに、まだ続きがあるでごじゃるよ」
聞き取られたヨキの呟きの内容は先程まで話題に出ていた言葉だったが、その中には関係ないように思える言葉も交じっていた。
それらの言葉が何を意味しているのか分からなかったが、そのまま聞き取りは続けられる。
「風神龍の大峡谷、ウィンドウセイジ、大切、使命、怖い、ヘルシャフト、社、誇り、戦い、怖い、風、使命、嫌だ、雷、ヘルシャフト、怖い、使命、雷、怖い…」
「今度は戦いと風と、嫌だと雷って言葉が出て来たぞ?」
「っというか、なんか様子が可笑しくなってきているような…」
ヨキが呟いている言葉が増えて行くにつれて、ヨキの様子が可笑しくなっていく。
やがてヨキの呟きはマリが聞き取らなくても全員が聞き取れるだけの大きさになって行き、呟く速度もだんだん早くなっていくのがわかる。
周りにいるウィアグラウツや看病に当たっていた町の住人達も異変に気付き、何事かと集まり出すほどの騒ぎになっていた。
それと同時に、バンは左手の傷跡から今まで感じた事がない痛みを感じ、左手を抑え思わずその場に蹲った。
「兄さん⁉」
「今度はバンに問題発生かよ⁉」
(なんだこれ⁉ こんな痛み、今まで感じた事がないぞ⁉ それに断片的に流れ込んでくるこの映像、ヨキの記憶か⁉)
「風神龍の大峡谷、ウィンドウセイジ、大切、怖い、使命、怖い、嫌だ、ヘルシャフト、社、嫌だ、怖い、戦い、嫌だ、風、使命、嫌だ、怖い、雷、ヘルシャフト、使命、怖い、怖い、“六翼”、雷…!」
左手の傷跡から感じる感じたことがない痛みと同時に、頭の中に流れ込んでくる断片的な映像に混乱するバン。
ヨキが六翼と呟いた瞬間、六翼のヘルシャフトの影が流れ込んだのを最後に左手の傷跡から感じていた痛みは綺麗さっぱり消えてしまった。
だが、ヨキの方は未だに悪化の一途を辿っていた。
「怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ怖い嫌だ」
「ヨキ、落ち着いて。私達の声を聴いて!」
「このままじゃ過呼吸を、誰か紙袋持って来てくれ! 大至急!」
悪化していくヨキの容態を見ていたケイとマリの二人は、これ以上は危険だと判断してヨキを落ち着かせようと試みるがやはり二人の声はヨキには届いておらず、次第にヨキの周囲から風が起こり始めた。
このままでは建物にいる全員が危険だと悟ったラピスは、大声で建物内にいる全員に避難指示を出し、ヨキの周囲にいた仲間達に距離を取るように告げると、傍にいたリースを抱えてヨキから離れた。
ラピスに習い、キール達も慌てて距離を取り、ヨキから離れようとしないケイをヒバリが、マリをヒエンが引き離して無理やり距離を取らせる。
その直後に、ヨキが大声で悲鳴を上げた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁあああああああああっ!」
「力が暴走してる、全員伏せろ! ベール・ベール! ローゼス・ローゼス!」
身の危険を感じたキールはベール・ベールとローゼス・ローゼスを唱え、ヨキの周囲がウィスティリア(藤の花)のカーテンと茨で囲われていく。
ヨキが見えなくなるまで囲まれた直後、凄まじい爆発音と共にウィスティリアのカーテンと茨が、周囲にいた全員が吹っ飛ばされた。
爆風が収まると同時に、爆発の中心となったヨキはそのまま力なく倒れてしまった。
「「ヨキ!」」
「暴走したかと思ったら今度はぶっ倒れちゃったぞ⁉」
「ヨキ、しっかりして、ヨキ!」
「誰か来てくれ、さっきの爆風で人がベッドの下敷きになってるんだ! 早く!」
「セルク、気休めにしかならないだろうが浄化の力でヨキの治療をしてくれ!」
あまりの予想外の展開にその場にいた全員が混乱した。
ヨキが起こした爆発によって建物の中はめちゃくちゃになり、ヨキの周りにいたケイ達や非難する途中だったウィアグラウツや街の住人達も吹っ飛ばされてしまい、その衝撃で何人か怪我人も出たらしくキールやラピスですらすぐに対応はできなかった。
建物の外にいた者達も騒ぎを聞きつけ、ヘルシャフトの襲撃や魔障溜まりのような町全体を巻き込んだ騒動に発展してしまった。
*****
結局、ヨキが起こした爆発騒動が終息したのは真夜中だった。
立て続けに起きた騒動と対応に追われた事により、全員が疲れ切っていた。
「もう疲れた~」
「いくらなんでも立て続けにトラブル起こり過ぎやろう。もう夜中の黒丑時過ぎてもうたで」
「ヨキの様子は?」
「五刻み前に目を覚まして、今はケイさんとマリさんのお二人が付いています。
それからお二人がヨキさんのようだいをもう一度かくにんしたところ、何故か次のモクテキチである風神龍の大峡谷の事を忘れてしまっていたんです。
それどころか、様子が可笑しくなっている間の事や、ばくはつを起こした事も覚えてないようなんです」
目を覚ましたヨキが様子が可笑しくなっている間の事や爆発の事を覚えていなくても特に気にはならないが、風神龍の大峡谷の事を忘れてしまっているのか疑問だったが、疲弊した仲間達にその事を気にする余裕はなかった。
そんな中、キールは一人考え込んいた。
(可笑しくなっている間のヨキが呟いていた言葉の中にあった六翼…。
ヨキの故郷はヘルシャフトに襲われた可能性がある事を含めて考えると、俺の知る六翼は“奴”だけ)
キールはヨキが呟いた六翼という言葉に、心当たりがあった。
自分の今考えている事が正しいかを確認するべく、隣にいたラピスに話し掛けた。
「ラピス、少し確認したい事があるんだか良いか?」
「どうしたキール? この状況でまだ何かあるのか?」
「あぁ、オイラが聞きたいのはお前らの――、―――――――――が動いたとかいう話、聞いた事あるか?」
「そのような事ある訳ないだろう。あの方が直々に動くなどない事……、いや待て、過去に一度だけあった筈だ。
だがしかし…」
キールから問いかけられた質問に最初こそ否定的だったラピスだったが、一つだけ心当たりがあったらしく考え込んだ。
自分の質問に心当たりがあるというラピスの反応を見たキールは、ラピスが答える前に尋ねる。
「本当か? いつ頃かわかるか?」
「人伝に聞いた話のため自身はないが、あの方が直々に動いたのは――前の事だぞ?
何かあるのか?」
「いや、そうか…。悪いな、忘れてくれや」
ラピスの答えを聞いたキールは、当てが外れたと思い一人で外に出た。
自分の知る六翼の動きがわかればヨキの事が何かわかるのではないかと思っていたが、ラピスから聞いた答えは全く違ったものだったため、わからずじまいになってしまった。
だが、ヨキが呟いていた六翼という言葉がどうしても引っ掛かり、無関係とは思えなかった




