第52話 浄化の力、月属性(ソウル・ルナムーン)
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以前バンに着けられた成長の吸盤が原因で発生した魔障溜まりを消すため、キールの指示のもとヨキ達は動き始めた。
成長の吸盤は今も魔障溜まりの靄を出し続けており、その範囲は広がり続けている。
何より、魔障溜まりが広がる速度も上がっているため、町まで瘴気が広がるのも、魔物を大量発生させるスタンピードが起こりのも時間の問題だった。
「万が一に備えて待機する最後の一人はどうするんだ?」
「ディモルフォセカ、悪いが今すぐリンク・リンクを発動してくれ。
あの様子じゃあケイを最後の一人に回すのは無理そうだ、ケイには誰かに変わってもらい次第、オイラ達の方に加わってもらう。
リンク・リンクを発動した場合、ファイヤーファントムならピュリフィカ・ピュリフィカっつう浄化の法術が使えるようになるから、その点だけ注意してくれ」
「確かにあれは無理だね」
そういってヨキが視線を向けた方向には、魔障溜まりから発せられている瘴気が濃くなったことが原因で混乱しているマリと、それを二人掛かりで止めているケイとヒバリの姿だ。
気配に人一倍敏感であるというアイスアサシンの特徴があだとなり、その場にいる全員の足を引っ張っている状態になっていた。
「フィービィー、バン、そっちはどうだ?」
「こっちは順調に羽を配って回れてるぜ」
「瘴気に当てられ続けたせいですぐには目を覚ましそうにないけど、羽のおかげで皆顔色が良くなってるよ」
バンとフィービィーはセルクから羽を何枚か受け取り、瘴気の悪影響で倒れてしまったラピス達の耳元にセルクの羽を刺し、看病に当たっていた。
治癒力だけではなく、浄化の力を宿すセルクの羽は効力を発揮し、倒れたラピス達を癒していた。
ラピス達の誰かが意識を取り戻し次第、その誰かにマリを抑えているケイと後退させ、ケイを作戦に参加させる手順なのだ。
「ディモルフォセカ、アタシ達も準備をしよう!」
「そうね。カトレア、お願い。「リンク・リンク!」」
カトレアに促され、ディモルフォセカはリンク・リンクを発動させる。
カトレアがトーチに取り込まれた事で、エピン=カルマンに姿を変え、ヨキとキールの背後に回る。
「準備できたわ」
《いつでも魔障溜まりをぶっ飛ばせるわぁ! 大船に乗ったつもりで任せへん!》
「馬鹿野郎ぶっ飛ばすんじゃなくて消し飛ばすんだよ!
そっちの準備はどうだ⁉」
「こっちも準備完了だ!」
「いつでも成長の吸盤を破壊出来るようにしてある! これだけ理力を込めれば、問題ない筈だ!」
スズの頭上には細長い竜巻の槍が浮かんでおり、かなりの理力を込めたのだろう、竜巻の槍は強力な風を巻き起こしていた。
その左右でルドゥウィンとリッツがそれぞれ能力を発動し、スズが作り出した竜巻の槍にルドゥウィンが粒子を操り地面から金属を生み出し、リッツが両手から黒い稲光を出して纏わせていた。
リッツが出した黒い稲光を見たヨキは、自分が嫌いな雷を連想させて顔面蒼白になっていた。
「あばばばばばばばばばっ」
「落ち着け馬鹿、あの稲光は多分、闇属性だ。雷属性じゃねぇからびびんな!」
「彼、地属性か粒属性の使い手かしら?
金属の生成が上手だわ」
《ディモルフォセカ、トキメキ発言は後でええけぇ、今はもしもの時に備えとこう》
エピン=カルマンの中にいるカトレアは、ルドゥウィンが金属を生成している姿に見惚れているディモルフォセカを、呆れたように注意した。
カトレアに指摘されたディモルフォセカは、顔を赤くして目の前に集中し直す。
それぞれの準備が整った事を確認したキールは、最前線に立つセルクに声を掛ける。
「良し、始めてくれ!」
キールから指示を出されたセルクは、両手を魔障溜まりに向ける。
セルクの両手にはフィービィー達が羽と同じ蒼銀の光が発光し、自身に宿る浄化の力を溜め始めた。
浄化の力を限界まで溜め込み、一気に放出する事で魔障溜まりを消し去る。
魔障溜まりが晴れた一瞬の隙にスズに成長の吸盤を破壊させる。
順調に浄化の力を溜められているように見えたが、そこで問題が発生した。
最初に異変に気が付いたのはカトレアだった。
《ねぇ、ちいと様子可笑しゅうない?》
「どうしたのカトレア? 可笑しいって、何の事?」
《やっぱり変よ! あの光、全然強うなっとらん!》
カトレアはセルクの手元に集まる浄化の力の光を見て、全く強くなっていない事を指摘した。
それを聞いたキールはセルクの様子を確認すると、カトレアが指摘した通り、蒼銀の光が一向に強まる気配がなかった。
蒼銀の光が強くなっていないという事は、浄化の力が溜まっていないという証拠。
その光景を見たキールは非常に焦った。
「どういう事だ⁉ なんで浄化の力が全然溜まってねぇんだ⁉」
《重要な役割を担うとる事によるプレッシャーもあるじゃろうけど、あの様子じゃとそれだけじゃなさそうよ。
それに、焦っとるように見える》
「もしかして、魔障溜まりのせいで上手く溜められてないんじゃ…」
「違う、そうじゃない。自然エネルギーを取り込めてないんだ!」
浄化の力が溜まっていないという、予想もしていなかった緊急事態が発生しキールは酷く動揺し、魔障溜まりが原因で、上手く溜められていないのではないかとディモルフォセカは考えた。
だが、ヨキはセルクから聞いた他のウィアグラウツよりも、自然エネルギーを取り込む事ができない事を思い出した。
その言葉を思い出したヨキは、セルクが自然エネルギーを取り込む事ができないせいで浄化の力を溜める事ができないのではないかという事に気付いた。
「自然エネルギーを取り込めてないって、何か知ってるの⁉」
「魔障溜まりを見つける前、セルクさんから聞いたんです。
どういう訳か他のウィアグラウツよりも、自然エネルギーをうまく取り込む事ができないって。
だから、自然エネルギーを取り込めないせいで浄化の力が溜まらないのかも」
ヨキが言った通り、セルクは理力を作るための自然エネルギーを思うように取り込めないでいた。
浄化の力を使うには理力が必要となり、その理力を作り出すには自然エネルギーが必要になってくる。
魔障溜まりを消すならかなりの自然エネルギー量が必要になるのだが、思うように必要な自然エネルギー量を取り込む事ができず、セルクは焦っていた。
(どうしよう、どうしよう! やっぱり自然エネルギーを上手く取り込めない!)
セルクは重要な役割を担っているにも関わらず、自然エネルギーをうまく取り込む事ができないせいで、魔障溜まりを消すために必要な浄化の力を溜める事ができない事に不安になっていく。
そこで、ヨキ達が最も恐れていた事態が発生した。
「皆、前、前!」
成長の吸盤を破壊するためにセルクの背後で待機していたスズは、大声で異変を知らせた。
ヨキ達が前方を確認すると、魔障溜まりの中から緑色の肌をした、小鬼のような不気味な生き物が出てきた。
その生き物を見たヨキ達は恐怖した。
「あれって、魔物⁉」
「普通のゴブリンだけど、本当に魔障溜まりから出て来たぞ⁉」
「まずい、スタンピードが始まったんだ!」
魔障溜まりから一体のゴブリンが出て来る様子を見たヨキ達は、スタンピードが始まってしまった事を悟った。
それを皮切りに次々とゴブリンが魔障溜まりから出てきた。
このままでは町にゴブリンが押し寄せ、被害が出てしまう危険があったが、そのままゴブリンの対応をしてしまえば、成長の吸盤の破壊と魔障溜まりを消すために必要な霊力と理力が足りなくなってしまう。
何より前線にいるスズ達は成長の吸盤を破壊するため、既に能力を発動させているため動く事ができず逃げる事ができない状況下だ。
魔所溜まりから出て来たゴブリンは、最前線にいるセルクに気付き、真っ先に襲い掛かった。
「まずいぞ、ゴブリン達がセルクに襲い掛かろうとしてる!」
「セルクもういい! 翼を展開して逃げろ!」
ルドゥウィンとリッツがセルクに呼びかけるが、目の前で起きているスタンピードと浄化の力を溜めなければいけないプレッシャーから、セルクの耳に二人の声は届かない。
混乱しているセルクの元に駆け付けたのは、ラピス達の看病をしていたフィービィーだった。
フィービィーは五月雨を構え、セルクに襲い掛かったゴブリンの一体の頭に五月雨を突き刺し、そのまま力強く蹴り飛ばした。
「ゴブリン達はアタシが引き受ける! その間に皆は魔障溜まりをお願い!」
「よせ、フィービィー! 魔障溜まりと成長の吸盤を破壊しない限り、スタンピードは終わらないんだ!
フィービィー!」
キールの制止もむなしく、フィービィーは一人ゴブリン達に突っ込む。
魔障溜まりから出て来たゴブリン達は、狙いをセルクからフィービィーに切り替え襲い掛かるが、フィービィーは動じない。
刺す、叩く、突く、引っ掛けて体制を崩すといった方法で一体一体対処していくフィービィーだったが、魔障溜まりから次々とゴブリンが湧いて出て来る。
挙句、魔障溜まりから全く別の魔物が出始めた。
「今度は大きな蜥蜴が出て来たわ!」
「あれは、グリーンロックリザード!
作物の収穫時期になるといつも畑を荒らして、恵みの村の人達を困らせてた魔物です!
キール君どうしよう、グリーンロックリザードの皮膚は岩みたいに固いのに…」
「どう考えてもフィービィーと相性が悪すぎる魔物だ! フィービィー、引き返せ! 早く!」
グリーンロックリザードと呼ばれた魔物が現れた事により、フィービィーが圧倒的に不利な状況になってしまった。
自分が不利でも果敢に立ち向かうフィービィーだったが、グリーンロックリザードの岩のように固い皮膚によって攻撃が弾かれ、突き刺す事に特化している五月雨ではグリーンロックリザードにダメージを与える事ができない。
五月雨による攻撃が効かないグリーンロックリザードだけでなく、最初に湧いて出て来たゴブリンも残っているため、一人で対処できる量ではない。
フィービィーの背後から一匹のゴブリンが襲い掛かって来た時、地面から無数の竹が生え襲い掛かって来たゴブリンを含めた複数のゴブリンとロックリザードを仕留めた。
「全く、お前の相棒は無鉄砲、だな」
「ラピス!」
一人で魔物の対処をしていたフィービィーの危機を救ったのは、瘴気の悪影響で倒れたラピスだった。
セルクの羽を耳元に刺したラピスは木の弓を構えながらキールの横に立つと、遠距離から氷の矢を射てグリーンロックリザードを攻撃し始めた。
ラピス以外にも、セルクの羽を耳元に刺した数名のウィアグラウツ達が魔物達の対応に当たり始めた。
「ラピス、お前平気なのか⁉」
「完全ではないが、セルクの羽のおかげでかなりましだ。
回復した者達から数名、町に避難を呼び掛けに戻らせている、今頃町の住人達を避難させているから問題ない。
まだ目を覚ましていない者も何人かいるが、時期に目を覚ますだろう。
詳しい事はバンから聞いた、お前達は成長の吸盤の破壊と魔障溜まりを消す事だけに集中しろ」
「すまねぇ、恩に着る!」
《そっちの問題は解決したけど、今の問題は浄化の力よ。
セルクが自然エネルギーを取り込めん理由がわからにゃあ、浄化の力を溜める事ができんわ》
カトレアの言う通り、セルクが自然エネルギーを取り込めない理由がわからない限り、魔障溜まりを消すために必要な浄化の力を溜める事ができない。
いくら回復したラピス達が加勢してくれているとはいえ、魔障溜まりが存在する限りスタンピードは終わらない。
ゴブリンとグリーンロックリザードだけではあるが、時間が経つにつれて魔物の種類も増えるだろう。
最悪の事に、今はウィアグラウツ達が夜目が効きづらくなる満月の夜だ。
どちらにしても、状況が更に悪化するのも時間の問題だ。
一方、一人でウィアグラウツ達の看病していたバンは回復した者達に状況を説明し、魔物達の対応に回らせていた。
「…ってな感じで、今かなりやばい状況なんだ。急いで皆の加勢に行ってくれ!」
「わかった、任せろ!」
バンから状況を聞いたウィアグラウツの一人は、魔物達の対応に向かった。
その次に目を覚ましたウィアグラウツの男にも状況を説明すると、ウィアグラウツの男はセルクが重要な役割についている事に驚いていた。
「セルクって、あの下手くそセルクの事か?」
「下手くそって、自然エネルギーを上手く取り込めないだけでその言いようはないだろう」
「いや、アイツは本当に能力を使うのが下手くそなんだよ。
自然エネルギーを取り込めないせいで理力が足りてないくらいだ、碌に攻撃できないし翼を出すので精一杯だったから、いつも夜勤とか損な役回りになってたんだよ」
ウィアグラウツの男から、セルクがいつも夜勤の方に回っていたと聞いたバンは、セルクが夜になると視力が良くなるといっていた事を思い出した。
(そういえば、セルクは夜になると夜目がかなり効くんだっけか?
特に一番効きづらくなる、三日月、半月、今晩みたいな満月の夜だとかなりの範囲を見渡せるとも言っていたな…。
何より夜の方が自然エネルギーを取り込みやすくなる、もしかして、浄化の力と何か関係がある?
なんでだろう、セルクとラピス達の違い、そこに原因がある気がする…)
バンはラピス達とセルクの違いを考え始めた。
わかっている違いといえば、上手く自然エネルギーを取り込めない事、夜目が効く事、羽に宿る回復力が通常より強い事。
その違いを考えている内に、夢で出会う顔も名前もわからない少女の言葉がバンの頭をよぎった。
『浄化の力って基本的に愛属性と光属性と、意外な事に闇属性の三つがメインなの。
だけどぉ、その三つ以上にいっちばん浄化の力が強い魂の属性があってね、その属性の特徴はぁ…』
「そう、そうだ。浄化の力が一番強い属性は…!」
夢で出会う顔も名前もわからない少女の言葉から、バンは浄化の力が最も強い魂の属性に気付いたバンは、最前線にいるセルクに聞こえるように大声で叫んだ。
「セルク―ッ! 月の光だ、周りじゃなく月の光の自然エネルギーだけを取り込め!」
「バン⁉」
「月の光って、何訳の分からねぇ事言ってんだ⁉」
突然のバンの発言に、その場にいる全員が混乱する。
だが、月の光と指摘されたセルクは夜空を見上げ、当たりを照らす満月を見つめる。
月の光と聞いたセルクは、夜の間だけは自然エネルギーを取り込みやすい事を思い出し、今までの謎はバンが言った月の光という言葉で紐解かれた。
(僕だけ夜の間夜目が効きやすくなるのか、どうして夜の方が自然エネルギーを取り込みやすくなるのか、答えはずっとずっと、目の前にあったんだ…!)
答えを見つけたセルクは、バンに指摘されたように月の光に意識を向けて自然エネルギーを取り込み始めた。
すると全員の目の前で、セルクの驚くべき変化が起こり始めた。
これまでと違い、セルクの両手に集まっていた僅かな浄化の力が強い光を放ち始めたのだ。
「なんだこの青い光は⁉」
「物凄い理力の量を感じるぞ!」
「この光は誰が出しているんだ? あそこにいるのは、下手くそセルク⁉」
「下手くそセルクって、いつも夜間の警備に回されてるあの?」
浄化の力である蒼銀の光の発光源がセルクであると知ったウィアグラウツ達は、今まで感じた事がない理力の量に信じられないという様子だった。
それは成長の吸盤の破壊と魔障溜まりを消滅させるために待機していたヨキ達も同じだった。
「何が起きたんだ? アイツ、急に信じられない速度で浄化の力を溜め始めたぞ⁉」
「それって、自然エネルギーを沢山取り込めるようになったって事よね?
なんで急に…」
《バンが言うとった月の光って言うとったわよね?
彼は今、バンが言うた通りに月の光の自然エネルギーだけを取り込みよるんじゃないかしら?》
「バンの言った月の光……っ⁉」
セルクが月の光に宿る自然エネルギーだけに絞り、そのおかげで浄化の力を溜めるのに必要な理力を作り出す事に成功したため浄化の力を溜める事ができたのではないかという、カトレアの仮説を聞いたヨキの左手に、一瞬だけ痛みが走る。
それと同時に、ヨキの頭の中にバンが夢で出会う顔も名前もわからない少女の声が響き渡る。
『その属性の特徴はぁ、月の出てる夜に月の光を浴びるとぉ普段の倍以上パワーアップできるんだぁ!
魔力、霊力、理力問わずに浄化の力が強いのは勿論、攻撃、防御、治癒、補助、いろんな系統がパワーアップ!』
「夜の間で、尚且つ月の光によって通常以上の力を発揮する。
それがその属性の最大の特徴…」
「『その属性の名は、月属性!』」
月属性と呼ばれたセルクの浄化の力はどんどん溜まって行き、次第にセルクの髪が長くなっていく。
セルクも自身の変化に気付いており、浄化の力だけではなく、自分の保有する理力も増えていっているのを感じた。
(浄化の力だけじゃないく、理力そのものが凄く増えてる!
このままじゃ理力が暴走して折角集めた浄化の力が散ってしまう、ここは翼を出して理力の流れを安定させないと!)
予想以上の理力の量を安定させるために、収納していた翼を出す。
セルクの翼も保有量が増えた理力の影響を受けており、ヨキとバンが見た時よりも二回りほど大きくなっており、何より翼の数が四翼になっていた。
「凄い! セルクさんの翼が大きくなってる!」
《増えとる! 翼が大きゅうなるだけじゃのうて数が増えとる!》
「うわーっ! セルクの翼が四翼になったーっ⁉」
「嘘だろう⁉ 四翼といったら貴族と同レベルだぞ!」
元々のセルクの翼の大きさを知っていたヨキは、セルクの翼が大きくなっているのを見て驚いており、セルクの翼が四翼になったのを見たウィアグラウツ達に至っては、動揺していた。
浄化の力が溜まって行っている事で良い方向に影響が出ており、魔障溜まりから発せられている瘴気が薄れていく。
それが功を奏したのか、瘴気の悪影響で意識を失っていたヒエンが目を覚ました。
「……っ。ここは…?」
「ヒエン! 目が覚めたのか!」
「バン、一体何が起きた?」
「詳しい説明はあとだ! 今すぐマリを抑えてるケイと交代してくれ!」
ヒエンが目を覚ましたのを確認したバンは、ウィアグラウツ達の時とは違い詳しい説明を省き、瘴気が薄れたにも関わらず混乱して暴れるマリを抑えているケイとヒバリを指さした。
バンが指さした方向を見たヒエンは、混乱して暴れまわるマリと押さえているケイとヒバリのやり取りを目の当たりにし、自分が意識を失っている間に何が起きたのかとしか思えなかった。
困惑しながらも周囲を確認し、状況を確認したヒエンは深刻な状況になっているという事だけは理解した。
ヒエンは立ち上がると同時にケイ達の元に駆け寄った。
「ケイ、代われ! 俺がマリを落ち着かせる!」
「ヒエン! 目を覚ましたでごじゃるか⁉」
「サンキュー! 恩に着るよ!」
意識を取り戻したヒエンと交代したケイは、斧を手に急いでヨキ達の元に向かう。
それと同時に、セルクが溜めていた浄化の力が魔障溜まりを消せるだけの量に達した。
それを見たキールは、間髪入れずにセルクに指示を出す。
「今だ! 魔障溜まりにぶっ放せぇええええええっ!」
「いっけぇええええええええええええっ!」
キールからの指示を聞いたセルクは、躊躇う事なくこれまでに溜めた浄化の力を魔障溜まりに向かって放った。
放たれた浄化の力は、月のように美しい蒼銀の光を発し、まるで巨大な流星のようになって魔障溜まりに進んで。
放たれた浄化の力が、魔障溜まりに激突する。
それと同時に、成長の吸盤を中心に広がっていた魔障溜まりの靄が一気に消えて行き、ゴブリンとグリーンロックリザードが出てくる事はなくなった。
「魔障溜まりの靄が消えたぞ!」
「あっ! あそこ見て! 成長の吸盤が見える! キール―っ!」
フィービィーは五月雨を持ちながら、成長の吸盤の位置を指す。
その先にあるのは、先程まで魔障溜まりを発していた原因である成長の吸盤があった。
成長の吸盤を見つけたフィービィーは、大声で成長の吸盤がはっきり認識する事ができる事を伝えようとした。
フィービィーが全て言い切る前に、キールはスズに指示を出した。
「スズゥ!」
「言われなくても、わかってる!」
スズは自分の頭上にとどめていた竜巻の槍を成長の吸盤目掛けて放つ。
竜巻の槍はルドゥウィンの金属を、リッツの黒い稲光を纏いながら成長の吸盤に向かって進んでいく。
自分達の方に竜巻の槍が向かってきている事を確認したラピスは、自分達も巻き込まれると判断し魔物達の対処に当たっていたウィアグラウツ達に避難指示を出した。
「全員上空へ避難しろ! 巻き込まれるぞ!」
ラピスの避難指示を聞いたウィアグラウツ達は一斉に上空へと避難し、ラピスもフィービィーを抱えて上空に非難する。
ラピス達が上空へ避難すると同時に、竜巻の槍が成長の吸盤に直撃する。
竜巻の槍が成長の吸盤に直撃すると同時に、その衝撃で魔障溜まりから湧いて出てきていたゴブリンとグリーンロックリザード達が一掃されていく。
そして、魔障溜まりを生み出している成長の吸盤が破壊された。
「やった! 成長の吸盤が壊れた!」
「うわぁっ! また魔障溜まりが出て来たぞ!」
「キールが危惧した通りか…。あとは任せたぞ、お前達」
破壊された事でキールが危惧していた通り、新たな魔障溜まりが発生した。
自分が危惧した通りの展開になったキールは、槍の先端を魔障溜まりに向け、ピュアラファ・ピュアラファを発動しようとする。
ヒエンと交代したケイが二人の元に駆け寄ってきた。
「ワリィ! 遅れた!」
「ナイスタイミングだ! このまま畳みかけるぞ!」
「「うん/わかった!」」
「「「ピュアラファ・ピュアラファ!」」」
三人は同時にピュアラファ・ピュアラファを発動させる。
白い輝きを纏った風が、水が、木の葉が、魔障溜まりを包み込むように消していく。
だが、思った以上の魔障溜まりの靄が残っており、三人がかりでも完全に消し去るまでには至っていない。
「ディモルフォセカ!」
「任せて! 《ピュリフィカ・ピュリフィカ!》」
このままではいけないと思ったキールは、万が一に備えて待機していたディモルフォセカの名前を呼んだ。
それだけで自分の力が必要だと理解したディモルフォセカも、ピュリフィカ・ピュリフィカを発動させる。
白い輝きを纏った風、水、木の葉に、白い輝きを纏った炎が加わる。
ヨキ達が発動したピュアラファ・ピュアラファに包み込まれ、魔障溜まりは完全に消滅した。
魔障溜まりが完全に消滅したのを見たその場にいた全員が、歓喜した。




