第50話 治癒力の違いと魔障溜まり
その日の黒午時、ヨキとバンは夜の町を散歩しながら他愛のない話をしていた。
「それにしても今日は大変だったねぇ」
「って言っても実際の所、俺がやらかしたみたいなもんなんだよなぁ。
テーブルや壁から蔦生えるし、なんか無意識に説明できてたりするし」
「あははっ。あれ? バン、あそこにいるのって…」
ヨキが指さした先にいたのは、セルクと呼ばれていたウィアグラウツの青年の姿があった。
セルクは何やら人気のない場所で能力を使用していたようだが、その様子は何処か可笑しく、何やら上手くできないようでいたのだ。
その様子を見ていたヨキとバンは、セルクに近付いて声をかける事にした。
「こんばんは!」
「あっ、君達は確か…」
「黄昏ヨキです。こっちは仲間のバン・レイフォン。先日は幼馴染がお世話になりました」
「幼馴染って、あぁ。薬師ケイの事か、気にしなくていいよ。
僕はアソート=セルク。昼間はなんか凄い事になってたけど、あの小屋大丈夫なの?」
「大丈夫です。あの後皆で綺麗に直しましたから」
ヨキは苦笑いをしながらもセルクの質問に答えた。
その話しはすぐ横で聞いていたバンは、少し複雑そうな表情をしており口出しはしなかった。
セルク自身も苦笑いをしたのだが、その表情はどこか暗い物であった。
その様子に気付いたのか、バンはセルクにどうかしたのかと聞くと、セルクは少し動揺しながらも少しずつ話し始めた。
「こういうのもなんか変だけど、実は僕、上手く能力が使えないんだ」
「正確には自然エネルギーを取り込むのが、だろ?」
「どうしてその事を⁉」
ヨキとバンの二人に能力がうまく使えない事を打ち明けたセルクだったが、バンにはすぐに上手く使えないのが能力の方ではなく、自然エネルギーを取り込む事だと看破された事に驚いていた。
ヨキはそのやり取りを聞いて、前にキールが言っていたヘルシャフトの特徴を思い出していた。
キール曰く、ヘルシャフトは自然エネルギーを理力に変換し体内取り込む事によって、通常の理力を使う事で発動する能力よりも威力が上がり、より自然に近い状態の能力が使えるためかなりの威力が出るのだそうだ。
しかしセルクはその自然エネルギーを上手く取り込む事ができないというのだ。
「でも、どうして自然エネルギーが上手く取り込めないんですか?」
「…最初は他の皆よりも慣れるのが遅いだけなんだって思ってたんだ。
だけど時が経つに連れて、もうできてなくちゃいけない事もまだできなくて、空を飛ぶための翼も一回り小さいままだった。
それで初めて、自然エネルギーを上手く取り込めてない事に気付いたんだ」
「えっと、翼と自然エネルギーってどう関係してるんですか?」
何故空を飛ぶための翼と自然エネルギーが関係しているのかわからなかったヨキは、この二つがどう関係しているのかを尋ねた。
ヨキの疑問にバンが答えた。
「前にリルが髪や羽には傷を癒す力があるって言ってただろ?
つまりヘルシャフトやウィアグラウツは空を飛ぶための翼は、自然エネルギーをためる事によって成形し、初めて空を飛ぶ事が可能になるんだ」
「そうなんですか?」
「うん、僕らにとって翼の大きさっていうのは、個人の強さを表しているようなものなんだ。
これを見て」
そう言うとセルクは二人に背を向け、翼を出し広げて見せた。
その翼は通常の男性のウィアグラウツよりも一回り小さく、ラピスの翼よりも少し小さかった。
その翼はまるで子供のような翼であり、青年であるセルクにとってこの翼で飛行するのはかなりの困難を極める筈だ。
「僕の翼は他の仲間達よりも小さいだろ?
能力も上手く使えないし、飛行するのもやっとで、そのせいで周りからは馬鹿にされたり無視されたり、ルディとリッツとは昔から仲がいいとはいえルディは容姿端麗で優秀で、リッツは不真面目な所はあるけど能力の扱いは僕らの世代でかなりずば抜けてる。
それに比べて僕は特別強くなければ優秀でもない、かなり引け目を感じるよ」
「そんな事ないですよ! ケイが動けなくなった時だって助けてくれたじゃないですか!」
「それでもかなりギリギリだった。
あのまま長時間飛び続けてたら、耐え切れずに花粉の中に道ずれにしてたかもしれない」
「セルクさん…」
自分の無力さを悲観するセルクに対してかける言葉が浮かばないヨキは、どうすればいいのかとわからない状態だった。
そんな中、バンはセルクの方をじっと見つめて観察するように見ていたのだ。
そしてバンはセルクに対してある事を聞いた。
「あのさ、もしかして夜間の方が目が良かったりするのか?」
「そういえば、ヘルシャフトやウィアグラウツは確か夜目はそんなに良くないってキール君が言ってたような…」
「確かにそうだよ。本来なら夜はそんなに出歩かないけど、どういう訳か僕はそんなに悪くなった事がないし、むしろその逆で夜目がかなり良いんだ。
一番夜目が聞かなくなる満月、半月、三日月の夜に至ってはかなり広範囲が見渡せるくらいに」
夜の方が視力が良くなると告げたセルクの言葉を聞いたヨキは、セルクが普通のヘルシャフトやウィアグラウツと明らかな違いがあるという事に気付いた。
本来なら夜の間はヘルシャフトもウィアグラウツも視野が狭くなり、いくら訓練した者であってもそれ程広がる事はなく、行動範囲がかなり制限されてしまう体質なのだ。
何よりも満月、半月、三日月の夜は尚更危険すぎるため、余程の事が無い限り建物の中からは出ないのだそうだ。
唯一、夜間でも外に出る時があるとしたら月明かりがない新月の夜くらいになるだろう。
「でも不思議ですね。それって昼間よりも夜間の方が相性が良いって事になる訳ですし…」
「言われてみれば、夜の方がまだ自然エネルギーを上手く集められてる気がする」
「他に何か気になる特徴とかはないのか?
どんなに些細な事でも良いから思い出してみればわかるだろ?」
「そんな急に言われても、あるとしたら僕の羽が他の仲間よりも治癒力が高いくらいだよ?」
「セルクさん、多分それが他のウィアグラウツとヘルシャフトの違いの条件に当て嵌まってると思いますよ?」
バンに他に気になる特徴はないかと聞かれたセルクは、あるとしたら自身の羽が他のウィアグラウツよりも治癒力が高い事しか思い浮かばないと答えた。
本人はただ治癒力が高いように思えただけであまり気にしていなかったらしいが、ヨキとバンからしたら、セルクが他のヘルシャフトやウィアグラウツと違う条件に当てはまっている気がしてならなかった。
試しに、軽い手当てを受けただけの状態であるヨキでセルクの羽の効果を確認してみる事にした。
実際に検証してみると、普通なら羽一枚で傷一つ治すのが限界である筈なのだが、セルクの羽は治癒の光が通常の羽よりも多く、ヨキの傷は一瞬で治ってしまった。
しかも実際に体験したヨキは、傷が治っただけでなく今まで溜まっていた疲れまでもなくなった感じがすると証言した。
それを聞いたセルク自身も信じられていないという表情をしており、明らかに他のウィアグラウツやヘルシャフトとの違いがある事が判明した。
「でも、僕の属性は愛属性じゃないし、何よりそれだけの治癒力を持っているのは王家の一族と力あるヘルシャフトだけの筈なんだ」
「それだけの治癒力があるって事は、実際はかなり凄い事になりますよ!
セルクさん自分の羽には気を付けて下さいね⁉
バレたら確実に根こそぎ取られちゃうかもしれませんからね⁉」
「傷だけじゃなく疲れも吹っ飛んだとなると髪の毛も普通より……」
セルクの羽にある治癒力は他のウィアグラウツやヘルシャフトとかなりの違いがあるという結論に至ったため、ヨキはセルクの髪の毛の治癒力も通常よりも高い可能性があるため、その事を知った誰かに狙われるのではないかと心配になっていた。
バンもその事について何か言いかけたのだが、急に黙ったと思うと何かを感じたように周りをキョロキョロと見まわし始めた。
「どうしたのバン? 急に周りを見て…」
「…なぁ、なんか変な感じしないか?」
「変な感じって?」
バンに変な感じがしないかと言われたヨキは、バンが言う変な感じというのが何なのかわからなかった。
周囲は特に変わった様子はなかったが、バンは未だにキョロキョロと見回していた。
「わからない。けど、なんだが凄く嫌な感じがする。
まるで何かに浸食されてるような…」
バンは周りをキョロキョロと見回して、自分が感じている違和感が何処からきて、その正体が何かを探した。
その表情はとても深刻なものであり、ヨキとセルクもこれは自分達がわかっていないだけで、かなり危険な状態になろうとしているのではないかと思い至り、町の住民には家の中で待機するように伝えケイ達やウィアグラウツを呼び集め、バンが感じた違和感の事を伝えた。
その話しを聞いたキールはその浸食されるような違和感という言葉に心当たりがあるようだが思いだせず、ラピス達ウィアグラウツに至ってはそのような気配は感じないという証言が出た。
単なるバンの思い違いでは?という結論になりそうだったのだが、スズとマリの二人は少し嫌な表情になっていた。
「マリ、どうした?」
「わからない。だけど肌が妙にピリピリしてる気がするのよ。
ヒエンはなんともないの?」
「俺はそんな感じはないけど、なんか風に乗ってなんかよくわからない感じがしたっていうか、もしかしたらこれがバンの言ってた違和感なのか?」
スズとマリからバンが言った違和感かもしれない可能性があると言う証言があり、コレは思い違いではない可能性が出てきた。
スズの風に乗って感じたという証言から、風が吹いている方向を確認してみると先日バンが枯らした黒い巨木があった方向である事が判明。
そこに違和感の正体があるかもしれないため確認するため、数名のウィアグラウツとともに黒い巨木があった場所へと向かう事にした。
最初は何事もなく黒い巨木があった場所に向かっていたが、リース、ラヴァーズ、レイアの年少組に異変が起き始めた。
「リース、顔色が悪いぞ? 体調が悪いのか?」
「なんというかその、急にきもちわるい感じが…」
「ちょっと待って、ラヴァーズも様子が変よ⁉」
「レイアもなんだか気分が悪そうや! 大丈夫か⁉」
「きもちわるい…」
「ぼく、なんだかはきそう…っ」
突然の体調不良に年少組は全員混乱しながらもなんとか持ち応えていたが、今にも倒れそうな様子であったため、明らかに何かが起こっている事が目に見えて分かった。
それは年少組だけではなく、ウィアグラウツの中にもちらほらと気分が悪くなり始めている者達が現れ始めていた。
ニヤトの足元にいるタメゴローに至ってはその場に伏せをした状態で一向に動く気配がないため、今起きている事は普通ではないというのが分かった。
体調不良を起こした年少組と気分が悪くなったウィアグラウツ数名を町に戻らせ、ヨキ達は先へと進む事にした。
だが、進むにつれて体調不良を起こし離脱する者がだんだんと増えて行き、自力で戻れそうにない者達は動ける者の付添のもと、町へ戻った。
黒い巨木があった場所へ着いた頃にはほんの数名しか残っておらず、中には顔色が悪い物もいた。
「なんとかついたけど、人数が一気に減っちゃったね」
「ラピスとバカ元気なニヤトまで顔色が悪くなってるくらいだぞ?
早いとこ確認して戻らねぇと、オイラ達もいつ体調不良で倒れるかわかったもんじゃねぇ」
「マリ、大丈夫かって凄い鳥肌立ってるじゃん!
戻った方が良いんじゃないか?」
「気分が悪い訳じゃないから大丈夫よ。だけど早く戻りたいかも……」
「アイスアサシンはスピリットシャーマンの中じゃ気配に敏感な一族だからな。
場所の特定はできそうか?」
「多分だけど、あっちだと思う」
マリは自分自身を抱きしめるような形ではあるが、違和感を感じる方向を指さした。
その方向を確認すると、黒い巨木の中心部分であった方である事がわかり確認に行こうとしたが、ウィアグラウツ達の殆どがそこに行く事を拒絶した。
そこで動けるものだけで確認しに行く事になり、なんとか中央に辿り着いたがほとんどの者がそこに着いて初めて違和感を感じた。
それは違和感というよりも、寒気がするような毒々しい空気だ。
そして、中心部付近に近付いた途端、突然マリが悲鳴に近い声を上げた。
「やだやだ! もうこれ以上近付くのは無理!」
「いきなり叫ぶなよマリ。びっくりするじゃないか!」
「これ以上近付いたら気が可笑しくなりそうなのよ! わからないの⁉」
「気が可笑しくなるって、それどういう…」
「おい、なんだあれ⁉」
気が可笑しくなりそうだというマリの言葉に、どういう事なのかとキールが訪ねようとした時に同行していたウィアグラウツの一人が、何かを見つけ指さした。
ヨキ達はリッツが指さした方向を確認すると、中心部跡地の中央に黒紫の靄のような何かが発生していた。
しかもそれはだんだんと広がって行っているようにも見えたため、ヨキ達はそれがバンが感じ取った謎の違和感の正体なのだという事を理解した。
「何、あれ?」
「なんていうかその、不気味な感じね。カトレア、あれ何かわかる?」
「あんな現象見た事ないわ。私でもわからない」
「できればもう少し近付いて確かめる事ができればよいのじゃが、あれだけ怪しいとどんな悪影響があるかわからないでごじゃるぞ?」
目の前で起こっている現象が何なのかわからず、確かめようにも近付いてどんな悪影響があるかもわからないため、どうするべきなのかと立ち往生しているとヒエンの身に異変が起きた。
突然口元を抑え込んで激しく咳込み始めたのだ。
ヒエンだけではなく、ラピスや他のウィアグラウツも似たような状況に陥っており、フィービィーは全身から冷や汗が流れ、先程まで立っていたニヤトに至ってはいつの間にか倒れ伏していた。
現在何の問題もなくたっているのヨキ、バン、カトレア、ヒバリ、スズにスピリットシャーマンである仲間達だけになっていた。
次々と動けなくなっていく者達と、元凶と思われる黒紫の靄を見たキールはその正体を思い出した。
「しまった! 『魔障溜まり』か!」
「魔障溜まり? キール、あの靄がなんなのかわかったの⁉」
黒紫の靄の正体が魔障溜まりと呼ばれるものだとわかったキールは、かなり焦っていた。
ディモルフォセカは魔障溜まりと呼ばれた黒紫の靄がなんなのかをキールに尋ねるが、キールはディモルフォセカの質問に答える余裕がなかった。
「詳しい説明は後だ! 一旦距離を置くぞ!」
キールの余裕のなさを見た仲間達は自分が思っている以上に深刻な状況だという事を悟り、キールの言う通り魔障溜まりの悪影響を受けたラピス達を連れ、一旦その場から離れた。
魔障溜まりから一旦離れると、ディモルフォセカは再度魔障溜まりについて尋ねた
「キール、あの靄の正体がわかったのなら教えて。
正体がわかったのなら解決方法もわかるでしょう?」
「そういえばさっき、魔障溜まりって言ってたけど、何か知ってるの?」
キールは深刻そうな表情で魔障溜まりについて説明し始めた。
「昼間に話した魂の属性の説明の時に、魔法使いなら魔力を使うって話したのは覚えてるな?
あれは魔障溜まり。魔素と呼ばれる、わかりやすく言えばウィアグラウツで言う魔法使いにとっての自然エネルギー的存在が一か所に溜まった現象だ」
「つまり、魔力の源、みたいなものなの?」
「あぁ、本来なら"魔力溜まり〟と呼ばれる現象でそれ程害はないんだ。
けど、一か所に集まる魔素が一定の量を超えると人体や周りに害を及ぼす。
それが今目の間で起こってる魔障溜まりだ。
魔障溜まりと化した魔素は悪影響しかない、その証拠に、オイラ達以外の連中はこうして魔障溜まりから発生してる瘴気の影響を受けてる。
マリの感じた気が狂いそうな感じの正体は、きっと瘴気の気配だ」
今回の騒動の原因である魔障溜まりの危険性を聞かされたヨキ達は、リース達年少組やウィアグラウツ達はここまで来る道中に魔障溜まりから発生している瘴気の影響を受けた事が原因で体調不良を起こし、辛うじて持ち堪えていたラピス達も魔障溜まりに近付いた事で一気に体調が悪化したという事がわかった。
自分達が立っていられるのは、礎の力で異常耐性が高くなった事や、元々異常耐性が高い事が関係しているのだそうだ。
問題は魔障溜まりが何故起きたのかだ。
魔障溜まりが起こる条件は一定の場所に魔素が溜まり過ぎたり、魔力持ちが空気中に漂う魔力の流れを乱してしまう事が原因だ。
だがこの場に魔法と呼ばれる力を扱える人物は、ヨキ達の中にも町の住民達の中にもおらず、ウィアグラウツに至っては論外だ。
キールから魔障溜まりが起こる条件を聞いたカトレアは、鞄から双眼鏡を取り出して魔障溜まりの様子を観察し始めた。
「キール、魔障溜まりの危険性って人体に害を及ぼすって言ってたけど、周りにも害を及ぼすとも言ってたよな?」
「確かに、周りに持って事は魔障溜まりが起きた環境にも害があるって事にわね…」
「キール、周囲への害って具体的にはどんなものなの?」
ヨキ達は魔障溜まりが引き起こす周囲への害がどんなものなのか、具体的な詳細をキールに尋ねる。
その事を聞かれたキールは、頭を抱えながら説明した。
「スタンピードだ」
「「「スタンピード?」」」
体調不良以外で魔性溜まりによって発生する被害が、スタンピードと呼ばれる現象だと聞いたヨキ、ケイ、マリの三人は、不思議そうな反応を示した。
だが、三人以外の仲間達は、スタンピードと聞いて酷く驚いていた。
「嘘でしょう⁉」
「スタンピードって魔障溜まりが原因だったのかよ⁉」
「何人かは知ってるんだな?
魔障溜まりが引き起こす周囲への害となる現象の名前だ。
ディモルフォセカが言った環境への害に近いかもしれないが、わかりやすく言うなら〝魔物の大量発生〟だ」
スタンピードと呼ばれた現象がどのようなものなのかわからなかったが、その正体は魔物の大量発生である聞いたヨキ、ケイ、マリの三人は、顔面蒼白になりながら硬直した。
ヨキ達も魔物の存在は知っていたが、ヘルシャフトとの戦いの事を考えていたためこれまで魔物が出没するルートはなるべく避け、時々魔物と遭遇した事はあったが数も少なく問題なく倒していた。
だが、大量発生ともなれば話は別になる。
いくらヨキ達が強くても、魔物の数が多ければ対処しきれなくなってしまう。
スタンピードの事を知っていた仲間達の何人かも冷や汗をかきながら険しい表情をしていたため、スタンピードの事を知らなかったヨキ達に嫌という程伝わった。
「魔物の大量発生って、魔物が出て来るって事だよな?」
「出て来るって、あの魔障溜まりから? 想像がつかないわ」
「どれくらいの量の魔物、じゃなくて人数、でもなくて、あっあれれ⁇」
スタンピードの事を聞いたヨキ達は未だに信じられず困惑し、ヨキに至っては混乱のあまり何を聞きたかったのかわからなくなってしまった。
「一応自然消滅はするが、魔障溜まりにもレベルがあるからな。小さい奴でも五百体出てきたり、百体程度でも黄階級の魔物が出てきたり、一番最悪なのは五千体近くかつ上位階級の魔物だらけって展開だ」
「なんの前触れもなく起きるからわからなかったけど、魔障溜まりが原因なのは初めて知ったぞ」
「防衛で精一杯になるから、誰も確認できなかったのよ。
それよりも今はあの魔障溜まりをなんとかしないと、瘴気が町まで広がってしまうわ」
ディモルフォセカは一刻も早く魔障溜まりをどうにかするべきだと仲間達に提案した。
このまま放置していれば瘴気は町まで広がって行き、町に引き返したリース達や町の住民達も瘴気の被害に遭ってしまう危険があった。
幸いまだ発生したばかりという事もあり、早急に対処すれば被害を出さずに済むと考えたキールは自分が魔障溜まりの対処をすると言い、槍を手に魔障溜まりへ向かおうとしたその時だった。
「皆大変! あの魔障溜まりって靄、広がっとる!」
カトレアは悲鳴を上げるように魔障溜まりが広がっている事を仲間達に伝えた。
カトレアの報告を聞いたキールは魔障溜まりが急いで見える位置まで移動し、魔障溜まりの様子を確認した。
キールの目に映ったのは、最初に確認した時よりも靄が広がっている魔障溜まりだった。
魔障溜まりが広がっていると聞いたヨキ達の脳裏に、最悪の展開が思い浮かんだ。




