第48話 それぞれの変化
予想をはるかに上回る事態になりながらも、ヘルシャフトとフォルシュトレッカーの襲撃を乗り切る事ができたヨキ達。
ウィアグラウツ側から多数の負傷者が出たものの、復興中の町の建物など壊れている様子はなく町の住人達は奇跡的にも犠牲者はゼロだった。
後日、建物の洗浄や負傷したウィアグラウツ達の手当てが行われた。
黒い花粉のせいで意識を失っていたディモルフォセカも、無事に目覚め体調なども問題はなく、ケイ自身も花粉の影響を受けていたが、お構いなしに重傷者に当たるウィアグラウツの診察と手当てをしていた。
「ん~、ヒーリング・ヒーリングかけたけどこの様子じゃ全治四ノ月以上は覚悟しておいた方が良いかも。
翼で移動は他の人の邪魔になるから翼での移動は禁止。
松葉杖で我慢してくれ」
「松葉杖って老人でもないのに杖使うのは抵抗があるんだけど…」
「文句言うなよ。俺ら人間よりも治癒力高いらしいし、ちゃんと言った事守ってくれれば早く治るかもなんだからさ。
それじゃあギプス付けてもらえる?」
「それではあちらの方に移動しますので、私の肩に腕を回してください」
「次見た方が良い重傷者はこっちに来てくれ。
ちゃんと診察しとかないと大変な事になるかもだけど、順番抜かしはダメだぞ~」
ケイは足を骨折したウィアグラウツが移動したのを見届けると、順番を守るようちゅうこくしつつ次の重傷者を呼び寄せる。
ケイの助手をしている町の住人が重傷者の傷の具合をメモした紙を見ながら、説明を始めた。
「次の患者さんは二人いて剣で右肩を斬られはしましたが傷自体は浅かったものの、出血量が多かったらしく貧血気味のようです。
もう一人は攻撃が右目の瞼をかすったそうなのですが、調子が悪いそうです」
「それなら瞼かすった方の患者を先に診察する。
失明する危険があるかもしれない。
もう一人の方は傷口を消毒してくれしばらく安静にさせてくれ。(…ウィアグラウツの血液型って俺らと同じなのかな?)」
現在、この町には医者がいないため応急処置のような事しかできず、ヒバリとニヤトが町の電話で知人の資産家に連絡し、医者を紹介してくれるかどうかを確認してくれていた。
隣の部屋ではマリが薬草を調合しながら足りない分の傷薬を作っており、レイアも手伝って全員の治療ができるようにしていた。
その頃、先日の戦いで様々な問題に遭遇し、ヨキ達はケイ達がいる診察を行っている場所から少し離れた小屋で話し合いをしていた。
バンは黒い巨木の操作を行ったせいか、かなり疲れているらしくソファーで寝込んでいた。
「兎に角一度話を整理するぞ。
まず、この町に来る前にシュタインボックが言っていたバンが勝利の鍵、理由はまだ判明してないがその信憑性は確かだ。
その証拠にヘルシャフトとフォルシュトレッカーの連中との戦闘中に生えたあの禍々しい巨木は、バンの生命力をもとに生えたものであり、オイラ達の目の前で枯れたから間違いない」
「はい。兄さんはきょうぶに着けられたえんばんを通して、花粉を集めて巨木をからす事に成功したみたいですが…」
「そのせいか凄く体力を消費しちゃったみたいで、今もこうして寝込んじゃってるし。
それに巨木が枯れた時に、いつの間にかバンから外れたみたいで、あの円盤が今どこにあるのかわからないんだ」
ヨキとリースはバンに着けられていた成長の吸盤が何処にあるのかわからないと伝えた。
バンの生命力を吸っていたため、二人からすれば危険すぎる代物であると判断し、そのまま放置はせず回収してちゃんと処理はするべきだとキールに提案した。
キールもバンの生命力の影響で、バンに着けられていた成長の吸盤に変化が起きているのではないかと危惧し、既に対策を練っていた。
「成長の吸盤に関しては動ける連中に探させているから時期に見つかる筈だ。
見つけても触らないよう指示は出してある」
「その辺りは問題なさそうだな。
次に確認するべきは、行方をくらませていたリルがシュタインボックといたそうだが、それは間違いないのか?」
既に紛失した成長の吸盤の対策を取られていた事を確認したラピスが次に確認したのは、行方をくらませていたリルがシュタインボックと共にいた事。
その事に関してはヨキがわかる範囲で説明する事となった。
「残念ながら、本当です。ラヴァーズ君によるとリルさんは操られているそうなんです。
バンは洗脳って言ってました」
「洗脳か…。いや、催眠の類って可能性もあり得るな…」
「せめて原因がわかればいいんだけど。ヨキ、何か手掛かりとかない?」
カトレアにリルが操られている原因について何か手掛かりはないかと聞かれたヨキは、何かないかと襲撃された時の事を思い出しながら考えた。
そこで思い出したのは、ラヴァーズに魔属性の精霊石と呼ばれた、シュタインボックが持っていた赤黒い宝石の首飾りの存在だった。
「シュタインボック君が持ってた首飾り!」
「首飾り?」
「シュタインボック君が持ってた赤黒い宝石の首飾りだよ!
それを見た途端、魔属性の精霊石って言って酷く驚いてて、原因があるとすればその首飾りが原因で間違いないよ!」
リルが操られている原因が、シュタインボックが持っている赤黒い宝石の首飾りではないかと考えたヨキは、首飾りの存在をその場にいる仲間達に教えた。
魔属性の精霊石と聞いたキール、ラピス、スズの三人は険しい表情でヨキが話した事を再確認した。
「それ、間違いないのか?」
「間違いないよ。その前にリルさんの魂の波長が別の力の干渉を受けて乱されてるとも、ラヴァーズ君が言ってた」
「その情報が正しければ、洗脳の類で間違いないだろう」
「こりゃあ厄介だぞ~」
ヨキから聞いた話から、リルが操られている原因が分かった三人の表情は険しいままだった。
その様子から、シュタインボックが持っていた首飾りがかなり危険な代物であるという事がヨキ達にも伝わった。
このまま考えていてもらちが明かないと判断したキールは、この問題は一旦後回しにして最後に確認するべき事に話題を変えた。
「この件は一旦保留だ。最後の確認だが、スズが森で遭遇した狙撃手のフォルシュトレッカーはケイと同じアクアシーフの転生者で、本人もその事を自覚していたんだな?」
「あの時の発言からして、間違いないと思う。
でも『自分はそんな類の存在じゃない』的な事を言ってた」
「ラヴァーズも狙撃されたらしいし、場所、位置からしてそのヴァッサーマンって子が狙撃しようとしてたのよ」
「私もヴァッサーマンと何度か接触していたが、いつもフードを被っていたせいで髪の色までは確認していなかったし、ツヴィリンゲ以外でスピリットシャーマンがあちら側にいるのは初めて知った」
スズからツヴィリンゲ以外のスピリットシャーマンがフォルシュトレッカーに存在している事を聞かされたラピスは、完全に想定外といった様子で顔をしかめていた。
リースはヴァッサーマンの能力について何か知っているかをラピスに尋ねた。
「能力はわからないんですか?」
「いや、能力についてはリサーチしていたからわかる。
ヴァッサーマンの能力は『千機眼』だ」
ラピスが言ったヴァッサーマンの能力、千機眼という聞いた事もない名前を聞きどういう能力なのか全く想像できなかった。
前世の記憶があるキールはどのような能力であったかを思い出そうとしているが、なかなか思いだせずにいた。
天才と呼ばれるカトレアや頭の切れるヒエンも、あまり想像できないらしく難しそうな顔をしていた。
その様子を見たラピスはヨキ達にわかりやすく説明し始めた。
「千機眼は見れる範囲が広く、視界の中に入る物全てを正確に見る事ができる眼力系統の能力だ」
「その話し方からして、シュッツェの千里眼と似ているのに対し自分が見ている光景に何があるか、何人の人数がいるかがわかるって事か」
「あれ? それやと千里眼と変わらないんちゃうか?」
「そうじゃないわよ。千里眼は遠くの物が見えるけど、千機眼は近くの物が全部見えるのよ」
「全然ちがいが分からないんですけど、もう少しわかりやすく説明していただけませんか?」
「それは、その、これってどう説明したらいいの?」
「いや急に俺に振るなよ!」
ラピスの説明が難しすぎ、一部のメンバーにしかわからず少しでもわかりやすく解釈したつもりでいるカトレアの説明ですら難しく感じたようでリーは思わずもう少しわかりやすく説明してほしいとカトレアに求めた。
その様子を見たカトレアは、言葉が足りなかったとはいえどうわかりやすく説明すればいいのか困ってしまい思わずキールに話を振った。
急に話を振られたキールも説明の仕方がわからない等様子であった。
するとその質問に答えたのは、意外にもソファーの上で寝込んでいるバンであった。
「つまり、千里眼は遠くの物を見れて建物内の物でも見通せるけど見れる範囲が狭くて、見ている対象が範囲外に出るとすぐに見つける事はできないし正確な数がわからない基本的には偵察向きの能力。
それに対して千機眼は“視界に入る物全てを見る事ができ”、千里眼と違って建物内や物陰の向こう側を見通せない変わりに見れる範囲が広くて範囲外から出るのは極めて難しく、どこかに隠れてもすぐに見つけられちまうし、見てる対象の数が正確に数える事も可能になる。
簡単に言えば至近距離型千里眼って感じになるな」
バンの説明は先ほどラピスやカトレアが言った時とは違い分かりやすかったのだが、それの説明を聞いたヨキ達は茫然としてバンの方を見ていた。
バンの弟であるリースやカトレアにヒエン、何より千機眼について説明した本人であるラピスでさえ面食らった様子でバンを見ていた。
いつものならもっと大雑把に説明する筈であるのに対し、今回はとても分かりやすかった事もが、実際の所バンは能力についての知識は全く皆無の筈だ。
「ラピス、俺何か間違った事言ったか?」
「いや、説明の仕方であれば今のが一番しっくりとくるが…」
「おい待てバン! お前いつの間にそんな知識付けた?
いくらなんでも説明すらすらと説明できるか普通⁉」
バンに間違っている所はないかを聞かれたラピスは、間違った説明ではないと答えたがかなり混乱していた。
他のメンバーと合流するまでの間、ヨキのグループと行動していたためバンがどういう人間なのかはそれなりに判ってはいた。
が、その様子を見ていたキールは思わずバンにいつそれだけの知識を身につけたのかを聞いたのだが、バン自身もキールにその事を指摘されて初めて自分の違和感に気が付いた。
その様子に気付いたヒエンは渋い表情でバンに尋ねた。
「まさか、無意識に説明したのか今の説明?」
「あ~、多分?」
「「「えぇええええーっ⁉」」」
「無意識⁉ 今の無意識に説明してたのバン⁉」
「セッシャが知っているバンと全くの別人でごじゃるよこれは!」
「ありえへん、絶対ありえへん。ってか絶対認めれへん!
ワイと同じバカの部類な筈やのにぃ!」
「どうしちゃったんですか兄さん!
もしかして、昨日巨木をそうさしたせいでおかしくなっちゃったんですか⁉」
バンが無意識に千機眼について説明していたと知ったヨキ達は、明らかにバンが可笑しくなったと思い、一斉にパニックに陥ってしまった。
*****
その頃、ケイが診察に使っている建物の外では軽傷で済んだウィアグラウツ達の手当てや足りない包帯を裁縫で補う作業がされていた。
人手が足りないという理由で町の子供達も手伝っており、ラヴァーズも子供達に混ざり、包帯づくりに精を出していた。
一通りウィアグラウツ達の手当てを終えたディモルフォセカは、自分を助け出したウィアグラウツのルドゥウィンズの手当てを積極的にしており、周りの中年女性やディモルフォセカと年が近い少女達からからかわれたりしていた。
「ディルカちゃん随分と熱心だねぇ。
特にそのお兄さんの手当て、他の子らと違って念入りみたいだしねぇ」
「え? 別に普通だと思うんですけど…」
「もしかして、自分でも気付いてない感じ?」
「おばさんの言う通り、その人の手当ての仕方なんかかな~り丁寧だもんね」
「ひょっとしてひょっとしなくても、ちょっとタイプだったり?」
「そっそんな事ないわよ。他の人も皆同じやり方で手当てしてるもの!」
ディモルフォセカが中年女性や年の近い少女達にからかわれている様子を間近で見ていたルドュウィッグは、人間の事についてはよくわかっていないという事もあり、どうすればいいのかわからないという態度で同じように手当てを受けていた仲間に声をかけた。
「なぁ、これってほっといた方が良いのか? それとも助けた方が良いのか?」
「よくはわからないが、聞いた所人間達は今の状況を『コイバナ』ッという話し合いらしいぞ」
「コイバナって、なんだ?」
「何でも恋仲の相手の事や自分の好みに当たる異性について話したりするらしい。
何より女が話し合おう事が多いそうだ」
「要は世間話のような物か? ますますわからないな」
仲間からディモルフォセカの現在の状況が恋バナだという状況であり気になる異性についての話し合いをしていると聞いたルドゥウィンズは、何故そのような話し合いをするのか全く理解できなかった。
するとそこにケイの診察と手当てを受け終わったリッツと、その付き添いをしていたセルクの二人がルドゥウィンズと仲間の話し合いに割って入ってきた。
「普通の世間話じゃないみたいだぞ、コイバナって」
「リッツ。右肩の方はどうなんだ?」
「貫かれたとはいえセルクがとっさに傷口を応急処置してくれたおかげで、そんなに酷くはなかったよ」
「それでさっきの意味はどういう事なんだリッツ。
お前何か知ってるのか?」
ケイに先日の襲撃の際に受けた傷の様子を診察してもらった後に、治療を受け終わったリッツと付き添いのセルクはディモルフォセカが置かれているコイバナという話し合いについて何か知っているらしく、ルドュウィンズは二人にコイバナについて説明を求めた。
リッツは面白そうな顔をしていたがセルクは何やら真剣な様子で説明を始めた。
「コイバナというのは只の世間話ではなく、女性陣が自信の将来の番い候補について話し合うという会議の事なんだ」
「……待てセルク、俺はさっき恋仲の相手、自分の好みに当たる相手について話し合うと聞いたぞ」
「所がそうでもなさそうなんだよこれが。
実際の所はどんな男が自分の番いに相応しいかを決める、いわば人気投票のようなもんらしいぜ」
「なんでも大勢いる男の中から女性陣は自分が将来添い遂げたい相手を見つけその事について仲間同士で話し合い、理想の相手が見つかればその相手にアピールという名の求愛をし、上手く行けばそのままくっつく=番いになるそうなんだ。
だがそれと同時に恋敵も現れて恋愛対決にもつれ込む事もあるらしい。
最悪の場合相手を巡って修羅場になる事もあるんだ」
真剣な様子でコイバナについて説明するセルクだったが、その内容はどうにも理解できなかった。
セルクが言っている事は違うのではないかと思われる節があり、その前にリッツが言っていた人気投票というのがあっているのではないかと思えた。
するとリッツはコイバナに巻き込まれているディモルフォセカを見ながら笑い、ルドュウィンズをからかうような言い方で話を始めた。
「そんな事よりもお前も罪な男だよなぁ、ルディ」
「何がだ?」
「お前なぁ、そういう所は本当に鈍いな。
あのシャーマンの女の子、お前に助けられて意識してるんだよ」
「つまりファイヤーファントムのあの子は、ルディに助けられてからルディの事が気になってるって事だよ。
自覚はないだろうけどルディはかなり美形だし」
ディモルフォセカは自分が助けた事で意識しているとリッツとセルクから聞いたルドゥウィンズは、ディモルフォセカがコイバナに巻き込まれた原因が自分にあると知ったのだが、何故助けただけで自分を意識するのかがあまり理解していなかった。
セルクが言った通り自分では自覚していないようだが、ルドゥウィンズは美形の部類に当たり他の町の女性達も何人か意識しているのだ。
兎も角自分が原因だと知ったルドゥウィンズは、ディモルフォセカを助けるために傍に言って話しかけた。
「おい、お前達その辺にしといたらどうだ? 相手も困ってるぞ」
「おや、噂をすればなんとやらだね」
「あっ、ごめんなさい手当の途中にすっぽかして」
「いや、お前がコイバナと以下言う会議に巻き込まれたのは俺が原因らしいから気にするな」
「もしかしてそちらさんもディルカちゃんを意識してる的な感じ?」
「いやなんでそうなるんだ? そうじゃなくて俺が言いたいのはだな…」
ディモルフォセカを助けるつもりが何故か女性陣達の話に巻き込まれてしまい、ルドゥウィンズは誤解を解こうと説明をし始めたが女性陣の方は全く聞く耳を貸さない様子であった。
ディモルフォセカの方もルドゥウィンズの口からコイバナという言葉が出て来るとは思ってもみなかったらしく顔を赤くしながら動揺し、ルドゥウィンズは周りから痛い視線を感じ先日の敵がまた来たのかと思ったがそういう感じはなく、妙に恐怖を感じた。
視線の正体は遠くの方にいる男性陣からであり、女性陣にモテているルドゥウィッグを羨ましく思ったのか、嫉妬の視線を向けていたのだ。
するとその時、近くから町の住人達が騒いでいる声が聞こえて来たためそちらに意識を向けると、ヨキ達が話し合いをしている小屋の周りに町の住人達や包帯づくりの作業をしていた子供達が集まっている事がわかった。
「おい、確かあそこの小屋はラピスたちが使っている小屋じゃないか?」
「え? 本当だわ。一体何の騒ぎかしら…?」
ヨキ達のいる小屋で街の住人達が騒いでいる事に気付いたディモルフォセカとルドゥウィンズはそれに乗じて女性陣からの対減から逃れ、近くにいたリッツとセルクの二人とともに小屋の方へと向かった。
小屋の周りに集まっていた住人達に話を確認し、ディモルフォセカが小屋のドアをノックしたのだが中からは応答がない。
小屋の窓周辺には子供たちが中の様子を覗き込んでおり、その中にはラヴァーズの姿もあったが、小屋の中を見て困惑していた。
「君達、勝手に中の様子を見るのは良くないよ?」
「あの、こやの中がたいへんなことになっちゃてて…。
どうしたらいいんでしょう?」
ラヴァーズから小屋の中が大変な事になっていると聞いたリッツは、窓から中の様子を確認してみると驚いた様子でディモルフォセカを押しのけて扉を開けようとした。
しかし扉はびくともせず、全く開く気配がなかった。
そこでルドゥウィンズが蹴破る形で扉を開け小屋の中に入ってみると、そこには驚くべき光景が広がっていた。




