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第40話 負の感情

 心が氷のように凍ってしまったマリを本当のマリに戻すために、再びバンとリースのレイフォン兄弟の故郷、実りの街にやってきたヨキ達。

 ヒバリとニヤトも一度来た事があるらしく、始めてきたケイ達のグループは辺りを見回した。


 人気のない所に転移したため大事にはならなかったが、ヘルシャフトがいる可能性は否定できない。

 ヘルシャフトがこの街に来た最初の日にリースが攫われ、ヨキとバンが助け出したがその後とんでもない事になりかけて一時はどうなるかと思っていた。

 何はともあれ、キールに案内され氷の社がある所に案内された。


「まさかこんな形で実りの街に戻って来る事になるなんて…」


「確かにな。実りの街に氷の社があるって事自体かなり驚きだけ、それっぽい遺跡を一度も見た事ないし」


「それにしても、マリさんはどうやってヘルシャフト達の居場所を特定しているのでしょう?

 ヒエン、レイア君、何か心アタシはありますか?」


「多分氷の古文書を使って探してるんじゃないか?

 僕たちは炎の古文書を使えなかったから確認できてないけど、お前達が持ってる古文書はどうなんだ?」


「それは初耳だわ。炎の古文書を貸して、少し確認してみるわね。ケイとキールも確認してもらえる?」


 マリがヘルシャフトの居場所を探す術として、氷の古文書を使っているのではないかとレイアが伝えた。

 ディモルフォセカは確認のためレイアから炎の古文書を受け取ると、ケイとキールにもそれぞれが持っている古文書を確認するよう伝えた。


 三人が古文書を使ってヘルシャフトの居場所を特定できるか確認したところ、現在ヨキ達が持っている古文書ではヘルシャフトの居場所を特定する事は出来ないらしく、マリが持つ古文書のみのようだ。

 氷の社に向かっている途中、キールがヒエンとレイアからマリがトゥーランドットに豹変した原因を聞いて考えていた事を話し始めた。


「これはオイラが考えた事なんだが、トゥーランドット、マリがこの街で手に入れたっつうアーマーリング、オイラの考えが間違ってないなら氷の礎の可能性が高い」


「氷の礎?」


「それって俺が持ってる斧《水の礎》と同じって事か?」


「あぁ。服の袖のせいで聖痕(スティグマ)が見えなかったのもあるが、二人から話を聞くまでその可能性に気付かなかったがな」


「もしそうなら、小さすぎないか?

 お前らが普段使っている様子を見るからに、元の大きさってかなり大きい筈だけど?」


 マリが豹変した原因とされるアーマーリングが氷の礎の可能性が高いというキールの話を聞いたスズは、礎にしては小さすぎるのではないかと指摘した。

 そんなスズの疑問に答えたのは、ディモルフォセカだった。


「聖痕持ち限定になるけど、礎は触れた対象者に合った姿に変えるのよ。

 ケイの場合は斧出るように、私の場合はこのトーチの形。

 マリの場合は、アーマーリングが合っていたから必然的に大きさも変わったのかもしれないわ」


「一番の特徴としては聖痕持ちとアトラース以外は触れる事ができない事だな。

 そうでない奴が触れれば、礎が拒絶反応を起こす」


「拒絶って、なんやようわからんなぁ」


 ディモルフォセカとキールによる礎の説明を聞いたニヤトは、何のためらいもなくケイの斧に触れると、斧から電気のような光が放出されニヤトに襲い掛かった。

 斧から出た電気のような光に襲われたニヤトは、まるで雷にでも打たれたかのように痺れを感じ思わず悲鳴を上げ、その光を見たヨキは雷と勘違いして悲鳴を上げながらその場に蹲ってしまう。


 キールが目立たないように人通りの少ない通りを選んで進んでいたため、それ程大ごとになる事はなかったが、変に目立つような事はするなとキールとラピスに叱られたニヤトは痺れが残った状態で反省した。


 ヨキに至っては涙目になりながらカトレアとラヴァーズの二人に、小さな子供をあやすように慰められていた。

 そうして氷の社に向かっていると、バンとリースは声を揃えある事に気付いた。


「「あれ?この道は確か…」」


「バン、リース君。どうかしたの?」


 隣にいたヨキが二人の反応に気付いて話しかけた。

 すると二人は驚くべき言葉を口にした。


「いや、このままいくとキバの家に行くな~っと思ってさ」


「この先は確かキバさんの家がやっている道場があるんです」


「え、そうなの…?」


 それを聞いたヨキは顔を少し青ざめて驚いた。

 実際の所リースが攫われる数日前、ヨキがまともに戦うどころかすぐさま逃げ出してしまう程憶病だった頃、キバに棒術での戦い方を教わっていたのだが、最初の頃はとてつもない叫び声で逃げ回っていた。

 今思い出しただけでも背筋に寒気を感じた。


 そうこうしているうちについたらしく、目の前には立派な道場が立っていた。

 何処から聞いていたのか、キールは二人に中に入れてもらえるように頼んでもらう事にした。

 リースが扉付近にあるチャイム代わりの銅鑼(どら)を叩くと道場の扉は開かれ、中に入ると行き成り物凄い覇気がヨキ達を襲った。


 そのせいかラヴァーズとレイアはぶっ倒れてしまった。

 流石のヒエンとキールの二人もその覇気に驚き、バンとリースは平気で中に進んでいくため驚いた。

 慌てて二人を追うとヨキが立ち止まっている事に気付いたラピスはもしやと思い、ヨキを軽く押してみるとヨキはそのまま後ろに倒れてしまった。

 どうやら目を開けたまま気絶していたらしく、ラピスは仕方ないという顔でヨキを抱えて中に入って行った。



*****



 道場の中を進んでいる間、バンとリース以外全員が覇気に充てられて精神的に疲れ果てた頃、道場の客間に案内され、中に入るとそこにはキバと道場の主であるキバの父親が座っていた。

 ラピスは抱えていたヨキを下ろすと、顔を軽くはたいて気絶していたヨキを起こすと、敷かれていた座布団に座った。

 ヨキ達も敷かれていた座布団の上に座り、バンとリースがキバの父親に話しかけた。


「「お久しぶりです、先生」」


 それを聞いたヨキ達は思わず声を揃えて驚いてしまった。

 キール、ヒエンの二人はやはりという様子で納得しており、そうでなければバンとリースがこんなに覇気が満ちている場所を普通に通る事などできないからだ。


 つまりバンとリースは昔、この道場に通っていた事になる、という事をキールとヒエンがわかりやすく説明してくれたためヨキ達は納得できた。

 ラピスも気付いていたようだが、少しだけ放心していた。

 そこまで説明すると、キールは本題に入った。


「んな事より話を進めるぞ。どうしても知りたい事があるんだ」


「ここにアイスアサシンの女が来た筈だぞ」


「二人とも、ちょっと失礼よ!」


 キールは前世の記憶があるが故に、普通の子供とは違い大人びすぎているせいでヨキ達もフォローするのによく戸惑っている。

 今回は相手がキバの父親という事でヨキ達はとてつもなく焦った。

 するとキバの父親は鋭い目付きで二人の方を見て驚くべき事を言った。


「ヒエンと言ったな。其方はそこにいる少年とアサシンの少女について責任があると感じているな?

 キール殿、途切れ途切れではあるがあなたは前世の記憶があるとお見受けします」


 それを聞いたヨキ達は目を見開いてキバの父親の方を見た。

 ヒエンとレイアがマリに対する責任感を感じている事、途切れ途切れではキールに前世の記憶があるという事まで見破ったのだから驚かずにはいられない。

 ヒエンも表情こそ変えてはいないが驚いており、キールは自分に前世の記憶がある事を看破したキバの父親に対して感心していた。


「あの、なんでわかったんですか?」


 ラヴァーズは何故分かったのか気になったのか、恐る恐るキバの父親に聞いた。

 すると意外にも答えたのはキバだった。


(ウチ)は昔アイスアサシンに仕えた武道家だったらしいんだ。

 俺もお前らが旅に出た次の日に聞いて、初めて知ったんだよ」


「衝撃の新事実!」


「でもどうしてキールに前世の記憶があるってわかったの?」


「雰囲気と態度、普通の子供とは全く異なるもの。おそらく前世の記憶があるという事になる」


 するとヒバリとニヤトが知らないうちに立ち上がっているケイが、勝手に後ろの方にある仏像に近づいている事に気付き、声をかけて注意しようとした。

 その時、いきなりケイが消えてしまった。


 それを見たヒバリとニヤトは驚きのあまりに声も出ず、何が起きたのかも理解できずケイが消えた場所を見ていた。

 その様子にカトレアが気付き、二人に声をかけると、二人は不安げにケイがいた仏像の場所を指さし、ケイが急に消えた事を言った。


 驚きの余り思わず大声で叫んでしまい、その場にいたヨキ達はすぐカトレアの方を見た。

 何事かと思ったディモルフォセカはカトレアにどうしたのか聞くと、ヒバリとニヤトがケイが行き成り消えたという話を聞くと、ヨキ達も急いで仏像の方に行った。


「おい! ここで消えたって言うのは間違いないのか⁉」


「間違いないでごじゃる! 確かにここで消えたでごじゃるよ‼」


「声かけようとしたらいきなり消えたんや!」


 戸惑いながらも二人は必死でヨキ達に説明している中、カトレラはヴァーズに仏像の周りを調べさせていた。

 何もないと確信したラヴァーズはすぐにその事をカトレアに伝え、それを聞いたカトレアは何かを確信した。


「皆、少し離れてて」


 それを聞いたヨキ達はすぐにその場を少し離れ、カトレアはラヴァーズに仏像の右腕を下げるように頼んだ。

 ラヴァーズはカトレアに言われた通りに仏像の右腕を下げると、その隣の床が行き成り開いたのだ。

 それを見たヨキ達は驚き、ヒバリとニヤトが言っていたケイが消えた理由はここから落ちたのだと悟った。


「こんな所に落とし穴があったなんて、今まで気付きませんでした」


「俺もだ。なんで客間に落とし穴なんてあるんだ?」


「違う、これは氷の社への入り口だ!」


「多分これはすぐ地下の方に行くための非常口、普通の入口は仏像の下にあるみたいね」


「なんと、そこまで見破るとは…」


 キールとカトレアは床を見て氷の社への入り口だと確信し、どうやらキバも知らなかったらしい。

 カトレアはそのままラヴァーズに仏像の額にあるホクロを押すように言った。

 最初は引いていたが、ラヴァーズも渋々応じ、ホクロを押した。

 すると仏像がいきなり震えだしたと思いきや動き出し、更にその下から階段が現れた。


 大分時がたっていて古くなってはいるがしっかりしているらしい。

 突然出現した隠し階段にヨキ達は呆然と立ち尽くすしかなかったが、どうやら氷の社は道場の地下にあり、この先にケイがいるらしい。

 そうと決まればヨキ達は階段を下り始めた。


 それからしばらくしてどこか広い場所にたどり着き、奥のほうに進んでいると何処からともなくケイの声が聞こえてきた。

 その声を聞いたヨキ達はすぐさま声の聞こえる方に走り出した。

 そこには見慣れたケイの姿あった。


「「「「「ケイ!」」」」」


「皆ー! 良かった会えた~、一時はどうなるかと思ったよ。それよりもこっち来てくれ!」


 ケイに案内されるがままついて行くと、目の前に遺跡が現れた。

 それは今まで見てきたスピリットシャーマンが建てたそれぞれの社と同じものであり、それは間違いなくアイスアサシンが建てた『氷の社』だった。


「出口探してたら見つけたんだ! 試しに中に入ったらここ最近できた新しい傷がついてて…」


「新しい傷? それ本当か!」


 氷の社の中に新しい傷と聞いたキールはすかさずケイに聞いた。

 行き成り聞いてきたキールに驚いたケイは確かにそうだと言った。

 それを聞くとすかさずキールはキバの父親の元に駆けより聞いた。


「おい、オイラ達が来る前にここで何が有ったんだ⁉」


「…とても信じられないと思いでしょうが、これから話す事を心してお聞きください」


 そう言うとキバの父親はマリが来た時の事を話し始めた。

 ある日、ヘルシャフトが攻めてきた時のために特訓をしていると、根元から紫がかった白銀の髪と紅玉(ルビー)のように赤い瞳の少女がやってきたのだ。


 その容姿を見てすぐに少女がアイスアサシンの血を引く者だと悟り、中に入れた。

 少女は自分の中に眠るスピリットシャーマンの力を目覚めさせる方法がここにあると氷の古文書で知り、ここまでやって来たのだ。


 詳しい話を聞いたキバの父親は少女をここまで案内し、『失われた誇りを取り戻す』というアイスアサシンの試練を与え、氷の礎が収められている広場で待っていると十分足らずで少女は広場に辿り着いたのだそうだ。

 そして収められていた氷の礎に触れた途端、左腕に聖痕スティグマが現れ礎に選ばれし者となった。


 …までは良かったのだが、突如と無くして少女に異変が起き、その表情は氷の如く冷めきってしまっていた。

 取り戻したのは取り戻してはならない負の誇りだったのだ。


 まるで、今まで眠っていた本能が指示しているかのように、少女はそのまま氷の社を飛び出し、姿を消した。

 負の誇り、と聞きそれをどう理解すればいいのか戸惑っていると、ディモルフォセカが呟いた。


「恨み、憎しみ、妬み、一定の対象に対して抱く感情の事よ。私も経験があるから、わかるわ」


 ディモルフォセカの言った言葉を聞いたヨキとケイは、マリが負の感情を持つ筈がないと声を揃えて主張した。

 マリの事は幼い頃から共に過ごしてきたヨキとケイの二人が一番良く知っていたのだから自信はあった。

 だが隣からフィービィーがその言葉を不利にするような事を言った。


「でもお父さんお母さんは事故で死んだと思ってたんだよね?

 実際はヘルシャフトに殺された訳だから、許せないって感情を持ってたんじゃない?」


 それを聞いた二人は俯いてしまい、フィービィーは慌てて二人に謝った。

 自分の両親は事故で死んだと思っていたマリにとって、ヘルシャフトに殺されたという事実は信じられないものだったのだろう。

 その結果マリがヘルシャフトに対し、憎しみを募らせていても可笑しくはなかった。

するとキバの父親はある可能性を言った。


「光は闇に弱く、闇も光に弱い。それと同じく正の誇りもまた負の誇りに弱し」


 最初はその言葉が何を意味するのか理解できなかったが、スズがある事に気付いた。


「つまりが正の誇りは負の誇りに強いって事じゃないか?」


「えーっと、どういう事や?」


「つまり、俺達というか、ヨキとケイ、それからヒエンとレイア達のマリを思う気持ちをマリにぶつければ元に戻るんじゃないかって事だよ」


 それを聞いたヨキ達はマリを戻すには自分達が持つマリへの思いで凍り付いたマリの心を正せばマリに戻る、という事に気付いた。

 そうとなれば一刻も早くマリを見つけ出さねばならない。


 スズはヒエンからマリの髪飾りを受け取り、ウィンドウ・ハートでトゥーランドットの居場所を突き止めた。

 そこはラティアの近くですぐに行けば追い付く事ができる距離だったため、ヨキ達はそのままワープ・ワープで転移した。



*****



 その頃、一人ヨキ達と離れフォルシュトレッカーに捕らわれたリルはフォルシュトレッカー達専用の小さな屋敷の中、シュタインボック(山羊座)に割り当てられた部屋に閉じ込められていた。


「うーん、うーん! ダメ、やっぱり開かない…」


 シュタインボックの部屋に閉じ込められたリルは部屋からの脱出を試みたが、扉は固く閉ざされており、風を起こそうにも力を封じる首輪をつけられており、落ち込みながら部屋の奥に戻り、備え付けられていたベッドに座り込んだ。


(そもそも、逃げ出す事ができたとしても勝手にいなくなったのに、皆の所に戻ろうなんて、都合がよすぎるよね)


 フォルシュトレッカーに捕らわれてから、リルはヨキ達のみを案じながらもう一度会いたいと思うようになっていたが、自分からヨキ達の元を離れた手前、もう一度会いたいと思うのは都合がよすぎるのではないかとも思っていた。

 その事を考えながら俯いていると、ふと扉が開く音がした。

 顔を上げて扉の方を見ると部屋の主であるシュタインボックが戻ってきた。


 捕まってからというもの、シュタインボックは大きなスリッドが入ったドレスや露出の高いワンピース、挙句は着ぐるみといった服を持ち込んでは着せようとしてくるため、リルはかなり困っていた。

 何故自分がそのような格好をしなければいけないのかという嫌悪と羞恥心があったため、これまで何度も突っぱねてきた。


「あれ? 小鳥ちゃん起きてたんだ」


「そりゃ起きるわよ。死んでる訳じゃないんですもの。それよりもまた変な服を持って来たの?」


 リルはそっぽ向きながらシュタインボックにまた変な服を持って来たのかと尋ねたところ、予想と違う答えが返ってきた。


「いや? それより今日は良い物持って来たんだ♪

 今回の任務成功のご褒美って事である児が俺に贈呈して下さったんだよねぇ」


 シュタインボックの言う良い物が何なのかわからなかったが、どう考えても自分にとっていい物ではないという事はわかっていたリルはたいして興味を示さなかった。

 シュタインボックはコートのポケットから赤黒い宝石の首飾りを取り出した。


 最初こそただの首飾りだと思っていたリルだったが、赤黒い宝石を見ている内に、シュタインボックが持っている者が何なのかを理解した。

 首飾りの正体を知ったリルは顔を青ざめ、体が硬直した。


「嘘、それ、まさか…‼」


「ん? 小鳥ちゃんにはこれが何かわかったみたいだねぇ。

 やっぱり重要な任務を任せられた分賢いんだなぁ」


「イヤ、イヤッ! 来ないで‼」


 リルは首飾りを手に近付いてくるシュタインボックに怯えながら、ベッドの後方に後ずさる。

リルが壁際まで後ずさるの確認したシュタインボックは、そのまま言葉を紡ぎ始めた。


「黒き輝き抱く赤き石よ、其方の力を我に示し、目の前の御霊に従属のクビキを施し、主従の誓いをここに結べ」


 シュタインボックが言い切ると、首飾りの宝石は怪しく輝きだした。

 首飾りを見て怯えていたリルは、首飾りの宝石の怪しい光に見入り、その瞳は次第に光を失って行った。

首飾りの宝石の怪しい光が収まったのを確認したシュタインボックは、目の前のリルに話し掛けた。


「これからは俺の言う事、何でも聞いてね。小鳥ちゃん♪」


「……ハイ、ゴ主人様」


 リルは虚ろな様子でシュタインボックの問いに答えた。

 まるで、都合の良い操り人形になってしまったかのように見えた。



*****



 時は同じく、ケイのグループの前に立ち塞がったヨルとロリーの二人は、真剣な表情で話し合っていた。


「どうやら、彼らはアイスアサシンの少女元に向かったみたいだね」


「マスター、アイスアサシンの少女は負の感情に捕らわれた事で通常より強くなっています。

 奴ら、果たして勝つ事ができるのでしょうか?」


「ロリー、戦いというのは勝つ事が全てという訳ではないよ。

 敵を倒す事を含めると、相手を説得し止める事、何かに捕らわれた誰かを救う事といった形がある。

 今回の場合はアイスアサシンの少女を救う事、それが今回の彼らにとっての勝利になるだろう」


 ロリーはヨキ達の実力で正気を失ったマリ(トゥーランドット)に勝てるのかという不安を口にしていた。

 それに対し、ヨルは正気を失ったマリを倒すのではなく、救う事こそがヨキ達にとっての勝利になると説いた。

 その喋り方はこれから起こる事を見据えているような喋り方だった。


「さぁ、僕らも行こう。今の僕らにできるのは彼らを見守る事、直接介入するのはあくまで彼らの手に負えなくなった時だけだ」


「わかりました。マスターのその判断に従います」


 ロリーはヨルの判断に従う事を示し、ヨルの傍に近寄る。

 ヨルは手にしていた杖を前にかざすと、その周囲に風が吹き荒れ始める。

 そして吹き荒れる風はヨルとロリーを包み込み、そのまま二人は姿を消した。

 その様子を(ロウ)族の少年が見ていた。


「ここまでは問題ない展開だな。

 だけどここは分岐点の一つ、暴走したアイスアサシンのあの子を正気に戻せるかが勝負どころだ。

 さっきの二人は静観を決め込んだみたいだが、俺は妨害してくるであろう連中を迎撃するとしよう。

 絶対に邪魔させない、絶対に取り戻して見せる、俺が壊した事で失われてしまった未来を…!」


 狼族の少年はそう言うとそのまま姿を消した。

 マリを正気に戻すために動き出すヨキ達、捕えたリルに何かしらの術を掛けたシュタインボック、動き出したヨキ達を見守る事にしたヨルとロリー、その二人の後を追うように姿を消した狼族の少年。

 それぞれの思惑が交差し、動き出した。

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