第35話 襲い来る執行人達
新たなるフォルシュトレッカー、リラと共に再びヨキ達の目の前に現れた四人のフォルシュトレッカー達。
ケイの先制攻撃により、フォルシュトレッカー達との激戦が始まった。
フォルシュトレッカー達は全員様々な才能と精霊石に宿る力を体内に宿しているため、スピリットシャーマンとは違う能力を操る事ができる。
スコルピオンは毒、シュタインボックは植物を操る能力を使う事ができ、全力を出さずともヨキ達を圧倒し、ヨキ達は何度も追い詰められた。
そのためその存在を知っているラピスから聞いたため、誰がどんな能力なのかを知っているのだが、新たなる星座、リラの才能と能力がどんなものなのかはわからない。
鎖鎌を持って襲い掛かるクレープスにスズとリースが攻撃、ヒバリとニヤトがサポートをしながら追い詰める。
リースは護符を投げつけ剣の先で切りつけた。
すると護符から白い煙が現れ、クレープスの視界を遮った。
その隙にリースは前にヘルシャフトから奪った剣を手に取り、クレープスめがけて振りかざした。
だがその攻撃をクレープスは二つの鎌の取手の先に繋がっている鎖で、リースの攻撃を受け止めた。
その攻撃はあくまで囮、四人の本当の目的はサポート側にいるヒバリの遠距離での攻撃とスズの至近距離での攻撃が目的だったのだ。
いざ二人のどちらかが攻撃されたとしても、その二人の近くにいるニヤトとリースが二人を守れば問題はない。
ヒバリは手裏剣をクレープスに投げつけるが、素早く躱されてしまい、そのままヒバリの目の前に現れ鎌を振り回す。
ニヤトはとっさにヒバリを庇い、右腕に軽傷を負った。
「ニヤト、大丈夫か⁉」
「ナッなんとか平気や! 今のは、なんなんや? ラピスの言うとった能力かなんかか⁉」
動揺する二人を見たクレープスは、大胆不敵にも余裕のある表情で言った。
「俺はあらゆる武器を扱う事ができてな、【瞬光】で光の速さでの移動、素早い回避行動ができる能力を得たのさ」
「光の速さ、という事は、目にとらえられない速さで移動ができるという事ですか⁉」
「せやったらさっきヒバリの目の前に現れたのも納得やけど、目に見えへんのはずるいやろう!」
「俺も早すぎて上手く感知できない」
クレープスの瞬光の仕組みを把握したスズ達は、目に捉える事ができない移動手段を持つクレープスの動きを予測する事ができず、動揺した。
加えてあらゆる武器を扱う事ができるとなると、変則的な攻撃手段を持っているという事にもなり、一瞬のスキが命取りになる。
「えぇい、こうなったら当たって砕けろや!」
「否砕けたらダメだからな⁉」
クレープスの予測不能な攻撃手段に対し、ニヤトは奥手にならずクレープスに突撃した。
スズ達もそんなニヤトにつられる形でクレープスへの戦いを続行した。
*****
ディモルフォセカ、カトレア、ラヴァーズの三人は槍を扱うユングフラウと戦っていた。
ユングフラウの能力はたいした事はないのだが、問題はその才能であった。
「スマッシュ・スマッシュ!」
「こんのぉ! 嫌な所ばかり狙ってしつこいわよ!」
「わっわわっ!」
ディモルフォセカは法術を唱えトーチの炎を振るい、カトレアは蹴り技でユングフラウに攻撃しながら、自身もユングフラウの攻撃を躱す。
ラヴァーズは水桜鏡でディモルフォセカとカトレアをフォローしようとする。
だが、ユングフラウの攻撃を躱す事で精一杯、正直二人の足を引っ張ってしまっていた。
ユングフラウはディモルフォセカ達三人の〝攻撃されたら困る場所〟に狙いを定め、的確に標準を合わせリーチのある槍で攻撃していた。
「ラヴァーズ大丈夫⁉ 無茶する必要はないからお姉ちゃん達に任せなさい!」
「ごっごめんなさーい!」
「ラピスから聞いてはいたけど、補助系統の能力持ちでここまで戦えるなんて…」
「そうね、【治癒】は戦闘で使えないけど、私の洞察力なら相手の弱っている部分、現時点での弱点を見抜く事ができる!」
そう言うとユングフラウは次々と三人の弱点となる部分を攻撃し始めた。
三人は自分達の弱点を攻撃され、思うように攻撃できず、ユングフラウにダメージを与える事ができない。
戦略を考える暇もなく、三人はユングフラウとの戦いを余儀なくされた。
リンク・リンクを使おうにも、リンク・リンク状態で法術を使用すると体力の消耗が激しいというデメリットがある以上、不用意に使う事ができない。
ディモルフォセカはなんとか隙を作ろうと攻撃を試みるが、ユングフラウはディモルフォセカの攻撃を軽々と躱し、槍をディモルフォセカの右脇腹目掛けて横に振るう。
ベール・ベールを唱えている余裕はないと判断したディモルフォセカは、とっさにトーチの炎を構えて右脇腹を防御し、直撃を避ける事は出来た。
だが、ユングフラウのその攻撃はディモルフォセカの予想を大幅に上回り、その一撃はかなり重い物だった。
「うっくぅ…っ!」
ディモルフォセカは右脇腹を抑え、その場に蹲る。
右脇腹からは服越しに血が滲んでいるのがわかった。
「ディモルフォセカ!」
「残念ね。今ので胴体が真っ二つになる筈だったのだけど、ただ悪化させただけみたい」
そう言いながらユングフラウは槍を構え直す。
以前フォルシュトレッカー・ヴァーゲとシュッツェの二人の襲撃を受けた際、ディモルフォセカはシュッツェの攻撃を受けて右脇腹を負傷していた。
もともとかすり傷程度であったため、ケイに簡単な手当てをしてもらっていたが、先程の攻撃で悪化してしまったらしく、傷が開いただけではなく深くもなってしまったようだ。
痛みで蹲っているディモルフォセカに対し、ユングフラウは赦なく追撃する。
ディモルフォセカはもう一度トーチの炎で防御し、ユングフラウの攻撃を防いだが右脇腹の痛みに加え耐える事で精一杯であり、反撃する余裕はなかった。
カトレアは背後からユングフラウに蹴りかかり、ディモルフォセカから引き離すとラヴァーズに声を掛け、ディモルフォセカの治療を優先させる。
三人は徐々に、ユングフラウの才能に追い詰められていた。
*****
ラピスはフィービィーと共にスコルピオンの相手をしていた。
姿も性格も、自分に優しさを教えてくれた星火と同じであるリースはラピスにとってかけがえのない存在であり、守るべき存在となっていた。
そのリースがクレープスを相手にスズ達と共に四人がかりで戦っているのを知り、気にかけていた。
フィービィーの掛け声により、ラピスは素早く剣を構え、襲い来るスコルピオンの攻撃を躱しながら攻撃を続けた。
毒が塗られたナイフを手にラピスとフィービィーを相手に戦うスコルピオンは、このまま近距離での戦闘を続けても無意味だと判断し、自分の持つ能力で周りに毒の霧を張り巡らせていた。
毒の霧を作り出したスコルピオン自身には何の影響もなく、普通なら近づく事すらできないのだが、ラピスは堅い実の中に酸素が含まれている植物を六本生やし、半分を近くにいたフィービィーに渡した。
茎を切ると、それを加えてスコルピオンと戦い始めた。
「エアプラントを生やしたか…」
「これなら貴様の作りだした毒霧は通用せんぞ」
「ちょっと勝手に話を進めないでよ! ついてけないじゃない!
っていうかコイツの【毒生成】っていう能力、凄く厄介なんだけど⁉」
フィービィーはラピスとスコルピオンの間で簡潔に成り立っている会話について行けず、更にスコルピオンの毒生成の厄介さに苛立っていた。
スコルピオンが使用している毒生成という能力は、スコルピオンの体からあらゆる毒を生み出し、ラピスとフィービィーの周囲に広がる毒の霧もスコルピオンを中心に発生している。
そのため、発生源となっているスコルピオンが動けば必然的に毒の霧の範囲も移動してしまうため、距離を置いて新鮮な空気を吸う事は出来ない。
ラピスが生やしたエアプラントと呼ばれる植物を頼りに、酸素の供給をする必要があった。
(とはいえ、毒の霧が完全に広がる前に生やす事ができたのはたったの六本。
新しく生やそうにも毒の霧から出る必要がある。
半分はフィービィーに渡してしまっている以上、そう長くは持たないだろう)
エアプラント三本だけではそう長く戦闘を続けるのは不可能だろうと考えていると、ラピスの心臓目掛けて投げナイフが飛んできた。
ラピスは動じる事なく飛んできた投げナイフを叩き落す。
いつの間にかスコルピオンは近距離戦闘用のナイフから複数の投げナイフに持ち替えており、投げナイフの刃にはスコルピオンが生み出した毒が塗られていた。
「たったそれだけで、十分ではないだろう?」
「否、これだけあれば十分だ」
「だから、勝手に話を進めないでってば!」
フィービィーは簡潔的に進むラピスとスコルピオンの会話に苛立ち続けながらも、エアプラント加えたままスコルピオンへ攻撃を仕掛けた。
ラピスもそれにならい、スコルピオンとの戦闘を再開した。
*****
ヨキ、ケイ、バン、リル、キールの五人はシュタインボックとリラの二人と戦っていた。
「ねえ、こいつ等全員縫い合わせてもいいんだよね?」
「桜色の小鳥ちゃん以外は良いぞ。俺は小鳥ちゃんを捕まえるから」
そんな二人の会話を聞いたヨキ達は思わず身震いを起こした。
特にリルは身震いどころではなく、小刻みに震えてバンの後ろに隠れていた。
実際の所、リルは相当シュタインボックに気に入られているらしく、前回襲われた時には何か恐ろしい事を考えているような発言を言っていたため、ヨキ達は思わず様々な事を考えてしまった。
「やばい、シュタインボックがリルに対してよからぬ事考えてやがる」
「ちょっと! 口に出さないでよ、考えないようにしてたのにぃ!」
「リルさんが危ないのもそうだけど、早くこの人達を倒さないとヒエン君とレイア君に追いつけないよ!」
ヨキ達にとってフォルシュトレッカーの襲撃は、足止めされているようなもの。
このままでは二人に追い付くまでに更に時間がかかってしまう。
一刻も早く二人に追いつかなければ炎の古文書も手に入れる事も、マリを見つける事も出来ない。
するとシュタインボックは不意に、バンの後ろに隠れているリルに声をかけた。
「そういや小鳥ちゃん、まだ主の命令の事こいつ等に話してないみたいだね。それはとっても偉いと思うぜ」
それを聞いたヨキ達は動揺したりはしなかった。
確かにその事についてはまだ知らないが、それはリルが話したがらないからであり、ヨキ達はリルが自分から話してきてくれるのを待つと決めているのだ。
「じゃあ、あの堕天が主様の大事な計画に背いた奴?
やっぱりユングフラウの言った通りに殺した方が良いんじゃない?」
「ダメダメ。俺は絶望させたいんだよ。どっかの馬鹿な髪長野郎をね♪」
それを聞いたヨキ達は目を見開いて驚いた。
シュタインボックの言う“髪長野郎”が誰なのかはすぐにでも解った。
その条件に当てはまるのは、すぐ傍にいるバンしかおらず、そしてその言い方からしてリルが背いた任務にバンが関わっている可能性があり、ヨキ達は一斉にバンを見に視線を向けた。
一方、やはりバンは気付くのが遅く、突然自分に視線を向けたヨキ達に動揺した。
「ナッなんだよ。それよりもリル、アイツらお前の任務についてなんか知って…」
バンは不意にリルの方を振り返ると、そこには震えが激しく、青ざめたリルの姿があった。
そんなリルの姿を見たバンはとてつもなく驚いた。
「リル?」
「あ……あ……」
リルの声はとても震えていた。
その尋常じゃない怯え方に、バンはようやくシュタインボックが言っていた髪長野郎が自分だという事に気付いたが、それだけでバンは自分が関わっている事には気づかない。
そんな中、キールはとても危険な状態に立たされていると思った。
(まずいな、これまで聞かずにいたが、それが仇になっちまったか。
オイラだけでも聞いときゃ何かしらごまかす事は出来たが、今はコイツらを倒す事は出来なくとも、この場からどう脱出するかだ。
リルから命令の内容を聞き出すのはその後だ)
そう判断したキールは周りにいるヨキ達に聞こえるように叫んだ。
「兎に角今はコイツらを片づけて、ヒエンとレイアを追うのが先だ!」
その声に反応したヨキ達は、視線をシュタインボック達に向け武器を構えて一斉に攻撃を仕掛けた。
シュタインボックは愛用の槌を構えると、ヨキに襲いかかる。
ヨキはそれを杖で受け止める、だがその背後から大量の蔦が生えてきた。
「ヨキ、危ない!」
「風よ、蔦を切り刻んで!」
「ウィンドゥ・ウィンドゥ!」
バンはヨキのもとまで行き、生えてきた蔦を蹴りまわして薙ぎ払う。
リルもバンの背後で風を起こし、蔦を切り刻んでゆく。
その隙にヨキはシュタインボックとの距離を取り、ウィンドゥ・ウィンドゥで反撃するが、シュタインボックは動じる事なく覇王樹を生やし、風を防いだ。
キールとケイは、どのような才能なのかもどのような能力を持っているのかもわからないリラを相手に戦っていた。
リラは縫い針のようなクナイを器用に操りながら、二人に襲いかかる。
クナイをケイの後ろの方に向けて投げつけた。
外したのかと思ったが、クナイは急に向きを変え、生きているかのようにケイの周りを動き回り始めた。
「なっなんだぁ⁉」
「ケイ、急いで離脱しろ!」
「なっうっうわぁ⁉」
クナイがひとりでに動いている光景を見て、リラが能力を発動している事に気付いたキールに言われ、ケイは急いで離脱しようとした。
だが、何故か体は動かず、そのまま倒れてしまう。
クナイは素早く動き、まるでケイを地面に縫い付けるかのような動きをした。
よく見ると、クナイの柄の先端に簡単に認識できないほど細いワイヤーが付いていた。
リラは走って棒が浮いている場所まで行き、クナイの方もリラのもとまで飛んできた。
リラはそれを手に取り、ワイヤーを思いっきり引っ張り、ケイは完全に動きを封じられてしまった。
そしてリラはそんなケイの頭を踏みつけながら言った。
「凄いでしょ? 主様がくれた能力【第三の手】と裁縫に優れた才能だからこそできるの♪」
「いや才能の使い方間違ってるよどう見ても⁉」
リラは嬉しそうな口調で言う。これが普通の少女がいう発言とは思えない。
リラの裁縫に優れているという言葉を聞いたケイは、その才能を殺しに使ってしまっているため使い方を間違っていると思わず口を挟んでしまい、それが癪に障ったのかリラはケイの頭を踏んでいる足に力を入れた。
頭を踏まれているケイは、痛みで顔をゆがめる。
「ケイ! てめぇ、オイラの仲間から離れやがれ!」
「待ってくれキール!」
ケイの頭を踏みつけるリラの好意を許す事ができなかったキールは、リラに攻撃を仕掛けようとした。
だが、そこにケイが待ったをかける。
いきなり自分を止めたケイにキールはどうかしてしまったのではないかと思った。
ケイはリラに目線を向けながらこう言った。
「コイツらはこうするしかないんだ。
こうする事でしか、自分の思いを伝える事も、恩を返す事も出来ないと思ってるんだよ!」
ケイのその言葉はどことなく説得力があった。
いくらキールといえどもその言葉に動かされたのか、いつでも動けるように身構えながらも、動こうとはしなかった。
そしてケイは語りかけるようにしてリラに話しかけた。
「君も、本当は寂しかったんだろう? 寂しくて、見つけてほしくて、ずっと泣いてたんだろう?
やっと見つけてもらえたから、恩返しがしたかったんだろう?」
それを聞いたリラは目を見開いた。
リラは今にも泣き出しそうな目をしていたが、後からその目に怒りが宿り、ケイを激しくけり始めた。
「何よ! 知ったような口きいて、なんなのよ⁉
リラの事をわかってくれるのは、主様だけなの! 主様だけが、リラの事わかってくれるの‼」
リラは小さな子供のように癇癪を起こしながら、ケイの体を蹴り続け、ケイは声を出す事なくそれに耐える。
ケイに待つように言われたが、このままではケイの命が危ないと判断してリラをケイから引き離す。
ケイを地面に縛り付けているワイヤーを槍の穂で切り刻み、そのままケイの腕を引っ張って立たせると走り出し、戦っているヨキ達に聞こえるように大声で叫んだ。
「皆逃げるぞ! 早く集まるんだ!」
キールの声に気付いたヨキ達は急いでキールのもとに集まった。
その言葉はヨキ達と戦っていたクレープス達フォルシュトレッカーにも聞こえており、ヨキ達を逃がすまいとキールの元に集まったヨキ達を囲う様に接近してくる。
ユングフラウの攻撃が原因で右脇腹の傷が悪化したディモルフォセカは、右脇腹を抑えながらベール・ベールを唱えて炎の障壁を作り出し、フォルシュトレッカーの進路を妨害する。
全員が集まった事を確認すると、キールはヨキにある法術を使うように指示を出した。
「ヨキ、ワープ・ワープっていう法術を使え。
ワープ・ワープは自分が一度言った事がある場所に移動する事ができる法術だ」
「僕がそんな重要な法術を使うの⁉」
「ちょい待て、それやったらキールが使えばええやろ?」
キールからワープ・ワープという法術を使うように指示を出されたヨキは酷く狼狽え、ニヤトはキールが使えば問題ない筈だと文句を言ったが、キールは顔をしかめながらワープ・ワープについて説明し始めた。
「ワープ・ワープはオイラじゃ使えねぇんだ。
オイラだけじゃない、ケイとディモルフォセカの二人もだ。だが、ヨキなら使える」
それを聞いたヨキ達は思わず目を見開いた。
それを聞いたヨキは狼狽えたままどうするべきか迷っていたが、そうしている間にもフォルシュトレッカーは炎の障壁を破り迫ろうとしてくる。
フォルシュトレッカーの動きを見張り時間がないと判断したリースは、ヨキに進言した。
「もう時間がありません! ヨキさん、使ってみて下さい!」
「わっわかった! ワープ・ワープ!」
リースに進言されたヨキはワープ・ワープを唱えた。
それと同時にフォルシュトレッカーが炎の障壁破り、ヨキ達に追撃しようとしたが、何処からともなく強風が巻き起こり、ヨキ達は風に乗って消えてしまった。
フォルシュトレッカーは驚いて辺りを見回した。
「いない、完全に逃げられたな」
「はぁ? 土壇場になって逃走ってずるいだろう!」
「ごめん、それなりに傷を負わせたつまりだったけど、逃げるチャンスを与えてしまったわ」
「むかつくむかつくむかつくむかつく…っ!」
「一度本部に戻ろう。主のため、ヘルシャフトの未来のために動いたとはいえ、俺達が勝手にリラを連れて行動を起こしたことがバレる頃だ」
完全にヨキ達に逃げられたと判断し、一度戻るべきだというスコルピオンの言葉に賛同したフォルシュトレッカーは急ぎ足で本拠地に戻って行った。
*****
その頃、ある町の外れでは自分の背丈よりも高いライフルを手に持つ、黒いロングコートと灰色の制服を着た黒いカチューシャの小さな少女と、二本の刀を片手に一本ずつ手に持つ、黒い和モダンの服を着た少年の姿があった。
少年少女は扱いなれた武器を器用に操り、次々と敵を薙ぎ倒していく。
黒いカチューシャの少女はライフルで標的を逃す事なく撃ち殺し、和モダンの少年は二本の刀を振り回しながら、喉をかっ切っていき、敵を皆殺しにし、小さな死体の山が作り上げた。
その上に黒いカチューシャの少女は座っていた。
黒いカチューシャの少女の容姿はケイと同じで髪も瞳も水色で肌は青白い。
和モダンの少年は黒いカチューシャの少女に話しかけた。
「今回の任務はこれで完了。そろそろ戻ろうか?」
「ヘルシャフト殿達が来るのを待たなくちゃいけないのです。
でないとヘルシャフト殿達が困るのですよ」
少年は面倒だという顔で空を見上げた。
空は自分達の着ている服と同じぐらいに黒く染まっていた。
するとそこへヘルシャフトが二人程飛んできた。
ヘルシャフトは地面に降り立つと、少年少女と周りの様子を見た。
「どうやら無事、任務を完遂したようだな。ヴァッサーマン、フィシュ」
ヴァッサーマンと呼ばれた黒いカチューシャの少女は死体の山から下りると、服に付いている砂埃を払い、ヘルシャフトの方を見た。
ヴァッサーマンは手渡された資料を手に取り、任務の内容に目を通した。
それを見たヴァッサーマンはフィシュと呼ばれた和モダンの少年を手招きして近くに呼び寄せた。
呼び寄せられたフィシュはヴァッサーマンから資料を受け取り、内容を読むと顔をしかめて困り果てたようにヘルシャフトに聞いた。
「あの、この任務の標的である堕天の生死は問わないとはどういう意味でしょう?」
「お前達の自由にしろとの事だ。我々も他のフォルシュトレッカーの元に向かう」
そう言うとヘルシャフトは空に飛び立ち、他のフォルシュトレッカーの元に向かった。
重要機密を知る堕天のヘルシャフトについて書かれている。
その情報が人間達に知れ渡れば今後思うようには動けなくなってしまう恐れがあり、まだ見ぬ脅威が一気に現れる危険が高い。
標的である堕天のヘルシャフトの生死を問わないという内容に関し、悩んでいたがその堕天のヘルシャフトの事で思い出していた。
「そういやこの堕天、シュタインボックが欲しがってたっけ?」
「じゃあ生け捕りにして連れて帰るのです」
ヴァッサーマンはそう言うとライフルを肩にかけ、フィシュに言った。
「さぁ、早く任務地に向かうのです。でないと夜が明けてしまうのですよ」
「わかった。早く終わらせよう」
そう言うとフィシュはヴァッサーマンの手を取り、集中した。
次の瞬間、二人の姿が突如消えてしまった。




