第29話 小さな冒険家と海色と緋色の瞳
新たなる仲間、ウィアグラウツのラピスが仲間になりヨキ達は安心した。
実力があり、ヘルシャフトの事を知るラピスがいれば、これからの戦いがだいぶ楽になるからだ。
「リース、本当に左肩は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ兄さん。ラピスさんがちりょうして下さったおかげで、傷口はすっかりふさがりましたから、イテテ…」
「無理に動かすな。傷口は塞がったとはいえ、痛みまで消す事は出来ないんだ」
ラピスはヨキ達の中では一番最年長であり、最年少であり自分を庇って大怪我を負っていたリースを気遣っていた。
リースと同い年であるキールは三千年前に戦ったスピリットシャーマンの生まれ変わりと言う事もあって、子供のような性格ではないため気にかける必要はない。
必要はないが注意は必要だった。それはいつも夜に起こる。
いつものようにキールが寝言でヨキ達を起こし、ヨキ以外の全員が寝不足がちになってしまうため、ラピスはキールを怒鳴り散らした。
その寝言はどういう訳かキールの前世と関わっているらしく、ヨキはキールが起きている時に聞いた。
「グリフは前世のオイラの親友。フィービィーは今のオイラの親友だよ」
そう言っただけで、キールはグリフとフィービーの二人の事を詳しくは話さなかった。
それから数刻が経ち、ヨキ達は一つの遺跡に辿り着いた。
そこはかつてのスピリットシャーマンが作った遺跡らしく、キールが中に入って行き、ヨキ達は外で待たされた。
それからしばらくして中からキールが出てきた。
するとリルはキールが手に持っているもの気付いた。
「キール、それは何?」
「こいつは五月雨っていう、グリフの使ってた釵だ」
「あの無駄にでかくて突進してくる?」
「バン、それは動物のサイだ」
「釵は十手のような形をした武器の事で打つ、突く、受ける、引っかける、投げる等の技法によって用いられる。
いわゆる至近距離に特化した武器のような物だ」
不思議そうに見るリルに、五月雨という釵だというキール。
釵という武器がどんな物なのかを説明するラピスと、次々に言葉を言う仲間達。
しかしヨキとリースは、キールの言った言葉に驚いた。
キールが今手に持っている五月雨が、前世の親友の忘れ形見であるという事なのにバン達は気にせず五月雨を見ていたが、そんな中でキールは昔の事を思い出していた。
*****
舞台は戦場。あたり一辺炎が燃え盛り、ある物は炎を消そうとし、またある者は炎に焼かれ苦しみながら倒れ、またある者は襲い掛かる敵の攻撃を必死に防いでいた。
その炎に包まれた戦場の一部分、他よりも少しスペースが開いている場所で二人の青年が攻防を繰り広げる。
一人は樹を模した美しい緑の槍を、もう一人は血に染まった五月雨を手に互いに戦っていた。
『グリフ、目を覚ませ! 自分を取り戻すんだ!』
『黙れロジャー! 人はいずれ全ての自然を滅ぼす!』
ロジャーと呼ばれた緑の槍を手にしている青年は、グリフと呼んだ五月雨を手にしている青年を説得するように話しかけるが、グリフはロジャーの言葉に聞く耳を持たない。
自分の言葉に耳を傾けないグリフの様子を見たロジャーは、もう駄目だと感じ、悲しそうな表情でグリフを見つめた。
『だったら、お前は責めて俺の手で……グリフ、許せ―っ!』
『俺がお前を地獄に送ってやろう。覚悟しろ!』
『『はぁーっ!』』
ロジャーとキールは互いに向き合い、一気に走り出す。
二人がすれ違うと同時に、お互いの体から血飛沫が舞う。
血飛沫が舞っているのはお互いに急所であり、二人はそのまま倒れ、ロジャーは相打ちになったという事に気付き、自分は死ぬのだと自然と悟った。
《……相討ち…か…ごめんな…グリフ》
*****
(オイラが死んだ後に、五月雨はここに納められたんだな…グリフは、転生できたのか?)
悲しそうに五月雨を見つめるキールの姿を見ていたヨキとリースは、五月雨に夢中になっているバン達を放っておき、やはり夜になると大声寝言で叫ぶ原因はキールの前世にあるのだと二人で話し合った。
すると突然、後ろの方から聞き慣れぬ少年の声が聞こえてきたのだ。
「まったく馬鹿な奴らだね」
「え⁉」
「誰だ⁉」
その声を聞いたラピスは誰よりも早く身構えた。
後ろにいたのは右目に眼帯をつけ、黒い半纏風の服を着た十代半ばの少年だった。
その少年を見たヨキ達はすぐにその少年が何者なのかが解った
「ラピスさん、あの人はもしかして…」
「あぁ、奴はフォルシュトレッカー・スコルピオン。八番目だ」
「久しぶりだね教官。ウィアグラウツだがなんだか知らないけど、五月雨を探すのには手間が省けて助かったよ」
ヨキ達は目を見開いた。スコルピオンが五月雨を探す手間が省けた、と言って驚いたのだろう。
それを聞いただけでも確信した。
理由はわからないがスコルピオンの狙いは前世のキールの親友、グリフの忘れ形見である五月雨だ。
「キール! アイツの狙いは五月雨だ、絶対に離すな!」
「言われなくても渡さねえよ!」
そう言うとキールは五月雨を腰にかけ、槍を構え、ヨキ達もすぐに武器を構えた。
スコルピオンの方は至って冷静でヨキ達とは違い攻撃態勢にならず観察するような感じでヨキ達全員を見ていた。
「ウィンドュ・ウィンドュ!」
「雷電衝破!」
ヨキはウィンドュ・ウィンドュ、リースは札を使った呪術で先手を打ち、スコルピオンに攻撃したが、スコルピオンはその攻撃を軽々と躱した。
リルとスズは力を合わせて強風を巻き起こし、スコルピオンを吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされたその先にはバンが先回りしており、バンは飛ばされて来たスコルピオンを思いっきり殴ったがうまく当たらず、スコルピオンはバンの首を思いっきり掴んだ。
余程圧力が強いのか、バンは首を掴まれた事で上手く呼吸ができない状況になってしまった。
「バン!」
ヨキとっさに杖を振りかざし、バンの首を掴んでいるスコルピオンの腕を振り払った。
解放されたバンはすぐにスコルピオンとの間合いを広げ、酸素を取り込み、ヨキもバンの傍に駆け寄り無事を確認した。
「バン! 大丈夫⁉」
「あっあぁ、助か…⁉」
ヨキのおかげで助かったバンはヨキに礼を言おうとしたが、喉に違和感を感じ黙り込んでしまった。
次の瞬間、急に息苦しくなり、苦しさの余りバンは両手で首を抑えそのまま倒れてしまった。
突然倒れてしまったバンに驚いたヨキは慌ててバンの元に駆け寄り、慌てふためくヨキと突然倒れたバンを見たリース、スズ、リルの三人も急いで駆け寄った。
「バン、バン⁉」
「兄さん!」
「ヨキ! バンはどうしちまったんだ⁉」
「解らない! 急に首を抑えてそのまま倒れちゃったんだ!」
突然バンが倒れた原因がわからず、ヨキ達は酷く混乱した。
後からラピスとキールも駆け寄り、二人は苦しそうな顔をしているバンを見て冷静に対処するべくヨキ達に聞いたが、ヨキ達は酷く混乱しているせいで上手く話す事ができていない。
すると混乱していたスズは、バンの首を見てある事に気付いた。
「皆、バンの首が変色してる!」
「「えっ⁉」」
それを聞いたラピスはバンの首を見た。するとラピは顔をあげてヨキに聞いた。
「ヨキ、まさかとは思うがコイツ、スコルピオンに首を掴まれなかったか?」
「そっそう言えばスコルピオン君に首を掴まれてた…」
「やはりか、原因はスコルピオンだ」
それを聞いたヨキ達は、バンが急に苦しみ始めた原因が、スコルピオンだと言われてもさっぱり解らない。
するとキールはラピスが前に言っていた事を思い出した。
「おい、もしかしてアイツの能力か⁉」
「あぁ、その通りだ」
それを聞いたヨキ達はラピスから聞いたフォルシュトレッカーの事を思い出した。
フォルシュトレッカーは全員、ヘルシャフトによって精霊石に宿っていた力を体内に宿しており、それによって能力を使う事が出来る。
ヨキ達もスコルピオンの能力でバンが苦しみ始めたのなら納得がいった。
「それは何かと問題だな、お前らの羽で治せるか?」
「この様子だと羽よりも髪を使った方が良い、私はこの前リースを助けるために髪を使ってしまった。
使えるのはリルとスズだけだ」
「リルさんスズ君、バンを何処か安全な所に連れて行って手当てを」
「解った!」
「任せて!」
二人はそう言うと、バンを連れてその場を離れた。ヨキ達はスコルピオンを見た。
「スコルピオンさん、一体兄さんに何をしたんですか?」
「…すぐにわかるさ」
スコルピオンはそう言うと何も持たずに両手を握り、ヨキ達に襲いかかってきた。
ヨキ達は攻撃しようとしたが、ラピスはそれを止めた。
「避けろ! 受ければ命取りになるぞ!」
ラピスが無意味な警告をする筈がないと思い、それを聞いたヨキ達は咄嗟にかわした。
スコルピオンはそのまま近くにあった岩の上に乗った。
するとスコルピオンが乗っている岩の一部が溶け始めたため、それを見たヨキ達は目を疑った。
「気をつけろ! 奴は毒を操る能力を持っているだけじゃなく、判断力に優れ頭のキレが早いぞ!」
「否今の毒というよりも酸か何かだろ⁉」
「酸でもある種の毒のようなものだ! 言いたい事はこの戦いが終わってから嫌という程聞いてやる!」
毒を操ると聞いてヨキ達は思わず身震いを起こした。
全ての生物にとって毒は恐ろしい存在、命を簡単に奪ってしまう物質なのだから恐ろしい。
しかもその毒を自在に操れるというのだから更に恐ろしい。
特に恵みの村で薬師であるケイの両親の手伝いをしていたヨキは、何度か毒蛇にかまれた村民の見た事があるため、毒の危険性を一番理解していた。
「そう、俺は毒を操る事ができる。毒は全ての生き物を蝕み、全てを奪う存在。
平穏を望んだ俺から全てを奪った奴らのように、全ての悪は毒によって全てを奪われる標的!」
スコルピオンは自分の過去の一部を詩のように話すと、再びヨキ達に襲いかかった。
ヨキ達はそれを躱してスコルピオンに攻撃した。
「スマッシュ・スマッシュ!」
「風華乱舞!」
「ヒット・ヒット!」
ヨキ達は次々と攻撃繰りだすが、どれもうまく当たらない。
スコルピオンの手には、手袋を通して液体化した毒が溢れていた。
スコルピオン本人はなんともないが、その毒は触れればなんでも溶けてしまう毒になっていて普通の人間が触れたらひとたまりもない。
今度はスコルピオンの方から攻撃を仕掛けてきたため、ヨキ達は咄嗟に応戦したが、スコルピオンは恐ろしい速さで次々とヨキ達を攻撃し、ヨキ達はそれを躱す事で精一杯になっていた。
だがヨキとリースがスコルピオンの攻撃をまともに受けてしまい、戦闘不能な状態になってしまった。
それを見たラピスは急いで二人を抱え空中に逃げ、今まともに戦えるのはキール一人になってしまった。
*****
スコルピオンの毒で呼吸困難に陥ったバンを、安全な場所まで運んだスズとリル。
バンはまだ呼吸ができず苦しそうな顔をしていた。
「物凄く苦しそうだ、俺達がわからないだけで、かなり強い毒を受けたのかも…」
「バン、待ってて。今助けるから」
そんなバンの様子を見たリルは自分の髪を二本程引き抜き、それをバンの首に軽く巻いた。
すると髪は光り、溶け込んでいくようにしてそのまま消えていき、しばらくして青紫色になっていたバンの首は元の状態に戻り、呼吸が安定しバンは目を覚ました。
「うぅ、ここは…」
「良かった、ちゃんと解毒できたみたい」
「大丈夫かバン? スコルピオンって奴の毒にやられて、呼吸困難に陥ってたんだぞ?」
それを聞いたバンは先程までの事を思い出し、今は何ともない事に少し戸惑っていた。
そんなバンの様子を見たスズはリルが助けてくれた事を説明した。
「ありがとな、リル」
「あっいやっお礼言って貰える程じゃないけど、兎に角よかったね」
「リル、なんか様子が可笑しくないようで可笑しいぞ」
そんなリルの様子に気づかないバンは足音が近づいてくる事に気付き、二人に言った。
「誰か来る!」
それを聞いた二人はすぐに身構えた。そして三人の目の前に現れたのは海色と緋色のオッドアイの瞳を持つオリエンタルブルーの短髪の少女だった。
*****
スコルピオンに触れただけでも毒にやられてしまうため、至近距離で戦うのは非常に危険である。
遠距離戦で攻撃を仕掛けたが全く当たらない、それ所かだんだん追い詰められている。
キールは五月雨を渡すまいと必死になって戦っていた。
「リーフ・リーフ! ニードル・ニードル!」
別の法術を連続で発動させ、先端が尖った葉と植物の棘で攻撃するが、それすら簡単に躱されてしまう。
スコルピオンは一気にキールの目の前に近づき、キールの腹めがけて拳をぶつけてきた。
キールはとっさに防御したが、そのまま遺跡の壁に吹っ飛ばされてしまった。
「フレッシュ・フレッシュ!(毒を食らわなかった代わりに、足の方を軽くやらかしちまった。
回復、急げ…!)」
防御したおかげで毒にやられる事は無かったが、足を挫いてしまい上手く立つ事ができず、キールは挫いた足の方にフレッシュ・フレッシュをかけた。
「回復はさせない」
「っ!」
隙は与えないと言わんばかりにスコルピオンが攻撃してきたため、挫いた足を治していたキールは近くの木に槍を向け、ロング・ロングを唱えて攻撃を躱したがスコルピオンが攻撃した衝撃で遺跡の壁が壊れ、その破片が周りに飛び散り、キールは槍を回転させて身を守った。
(私の次に戦闘経験があるとはいえ、転生による弱体化とスコルピオンとの実力の差、ひいては足を負傷している。
二人を下ろして、加勢した方が良さそうだ)
キールが追い詰められている様子を見ていたラピスは、地上に降りヨキとリースの二人の周りを木で囲い、キールの援護に向かおうとした。
(重傷者二名を安全地帯において加勢する気か、そっちがその気なら…)
するとスコルピオンは地面に両手を突っ込んだと思いきや、突然キールがいた木が腐り始め、周りの木や草花、ラピスが生やした木さえもが腐りだしたのだ。
ラピスは危険を悟り、氷の台を作ってヨキとリースを抱えて飛び乗った。
周りは地面がほとんど腐敗しており、歩けばすぐにでも沈んでしまいそうな底なし沼状態になっていた。
するとヨキが目を覚まし、ラピスに今の状況を聞いた。
「ラピス、さん…一体、どうなっているん、ですか?」
「下を見ればすぐにわかる。強いて言うなら、絶対絶命に近い」
それを聞いたヨキはラピスに言われたように下を見ると、ラピスが作った氷の台になっており、更にその下を見た。
目に入ってきたのは腐敗している土、しかも徐々に沈んできている。
ヨキは体の自由が利かず、リースは意識が朦朧としていて、ラピスは二人の体温が下がらないよう、二人を自分に抱き寄せて動く事ができない。
キールは自分がいる木が完全に倒れる前に腐敗していない所に飛び降りた。
そこへスコルピオンが攻撃を仕掛け、キールは瞬時にベール・ベールを唱えて身を守ったが反応が遅れ間に合わず、吹っ飛ばされてそのまま腐敗した木にぶつかり、下敷きになってしまった。
腐敗して倒れた木の下敷きになったキールは身動きがとれず、スコルピオンはキールに近付いていく。
「キール・ロワイヤル、三千年前の英雄、ロジャー・リコルヌ。
お前の事は主から聞いている」
聞いたキールは目を見開いてスコルピオンを見た。スコルピオンは話を続けた。
「前世で親友と相討ちになって死に、その後お前は英雄として扱われ、親友は悪人として扱われた。
お前は立派な卑怯者だな」
それを聞いたキールの脳裏に前世の記憶が一気にフラッシュバックしてきた。
普通の人間であったグリフとは親友であり、ヘルシャフトとの戦いでは共に戦った戦友だった。
だがグリフは洗脳され、敵となってしまった。
傍にいたというのに助ける事ができなかった。
完全に自分を無くしていたグリフとそのまま相討ちになり命を落とし、その後前世の自分は英雄として、洗脳されていたとはいえ、グリフは自分を裏切った悪人とされた。
スコルピオンの言う通り、自分は卑怯者だと思い、戦意を喪失させた。
「世の中には卑怯者ばかりだ。俺から家族を奪い、居場所を奪い、そして俺の右目を奪った奴らと同じような奴は、この世に一人としていらない」
スコルピオンはキールの目の前で止まると、懐から短刀を取り出した。
「消えろ、偽英雄」
そう言って短刀を振りかざしたその時だった。
「ちょぉおおっと待ったーっ!」
何処からともなく声が聞こえてきたため声を聞いた全員が驚いたが、一番驚いていたのはキールだった。
(この声、まさか、でも、そんな筈…⁉)
キールはまさかと思い、声のした方を見た。
そこにはバン、スズ、リルの三人がいたが、一人余分に多く、海色と緋色のオッドアイの瞳をもつオリエンタルブルーの短髪の少女だった。
四人は急いでヨキ達のもとに行き、リルは髪を少しちぎり、毒にやられてしまったヨキとリースに使った。
二人の容体はよくなり、リースも普通に話す事ができるようになった。
「兄さん、良かった。ぶじで…」
「お前こそ無事で良かった。ヨキ、大丈夫か?」
「うん、それよりどうしよう。スコルピオン君が毒で土を腐敗させたせいで歩くどころか、降りれないよ」
「俺に任せてくれ」
スズはそう言うと風の刃を作り、髪を少し長めに切り、髪は光に変わりスズはそれを風で周りにまき散らした。
すると腐敗していた地面があっという間に元の状態に戻ったのだ。
「よし、これなら走れるね!」
それを確かめたオッドアイの瞳をもつオリエンタルブルーの短髪の少女は、狼のような速さでキールの元に走り始めた。
少女はスコルピオンを思いっきり殴り飛ばし、そのまま近くにあった木の棒を使い、梃子の原理でキールの上に乗っかっている木を持ち上げてキールを引きずり出した。
少女を見たキールは大声で少女の名を言った。
「フィービィーーッ⁉」
キールの驚いている様子を見たヨキ達は、キールの今世での親友、フィービィーである事に困惑し、どうやら一緒に来たバン達もフィービィー本人だとは思っていなかったらしい。
するとフィービィーはいきなりキールにチョップをかましたのだ。
「こんの馬鹿キールー!」
いきなりチョップをかましたフィービィーに驚くヨキ達。
キールもフィービィーに攻撃された事に驚いてはいたが、何よりもフィービィーがここにいる事に驚いていた。
キールは迷わずフィービィーに聞いた。
「フィービィー! なんでお前がここにいるんだ⁉」
「アンタを探してたのよ! 置手紙残していなくなって最近になって大騒動起こすなんて、信じられないわよもう!」
「それはその、前世の事もあって…」
「どうでもいいわよー!」
そう言うとまたしてもキールにチョップをかまし、それからこんな事を言った。
「また二人で戦えばいいじゃない。あの日、アタシが始めてアンタと会った時に言ってくれたみたいに、さ」
そう言うとフィービィーは笑いながらキールに手を差し伸べた。
差し伸べられた手を見てキールは初めてフィービィーと出会った日の事を思い出した。
*****
今から数年前、キールはとある遺跡の探索をしているときに、フィービィーと出会った。
その時からすでに実力はあったのか、当時のフィービィーの周りには、自分より二回りも大きな大人達が何人も倒れていた。
その光景を見たキールは、好奇心からフィービィーに話し掛けた。
『お前スゴイな。こいつらゼンインやっつけたのか?』
『キサマはナニモノだ?』
虚ろな様子でフィービィーに話し掛けられたキールは、自分が何者であるかを放した。
『オイラはキール・ロワイヤル。スピリットシャーマン、ナチュラルトレジャーっていうイチゾクのシソンで、そんでもって『ロジャー・リコルヌ』の生まれ変わりさ。
ところでお前、なんていう名前なんだ?』
『…フィービィー、名字はない』
フィービィーは名前と苗字はないという事をキールに伝えた。
それを聞いたキールは、少し寂しさを感じ、考え始めた。
『う~ん、そりゃサビシイな。そうだ! 《シースカーレット》ってのはどうだ?
お前の目とおんなじでさ』
『シー、スカーレット?』
『あぁ! 行くとこないならイッショに旅しようぜ』
キールは笑顔で目の前にいるフィービィーに手を差し伸べる。
しばらく沈黙を保っていたフィービィーも、無表情のまま差し伸べられたキールの手を取った。
*****
キールはその事を思い出しながら、差し伸べられたフィービィーの手を握り、先程待って失っていた戦意を取り戻した。
フィービィーは勢いよくキールを立たせると、フィービィーに殴りとばされたスコルピオンが起き上がった。
それを見た二人は身構え、攻撃態勢になった。
「フィービィー! こいつを使え!」
そう言うとキールは、腰にさしていたグリフの忘れ形見である五月雨を抜き、フィービィーに渡した。
フィービィーは五月雨を受け取ると素早く構え、一気にスコルピオンに近づいた。
スコルピオンは短刀でフィービィーの攻撃をとめ、もう片方の手でフィービィーを攻撃しようとしたが、フィービィーはもう片方の五月雨でそれを受け止め、思いっきりスコルピオンを押し出した。
それと同時に先回りしていたキールがロング・ロングを唱えた。
(この二人、思った以上に息の合った連携を取りやがる。
ここは一度、撤退して作戦を練り直すか…!)
ロング・ロングをもろに受けたスコルピオンはそのまま地面に着地し、自分が不利だと悟ったのかそのまま逃げていった。
それを見たキールとフィービィーはヨキ達の元に駆け寄ると、キールはラピスに向かってこんな事を聞いた。
「おいラピス、いつまで二人を抱き寄せてるんだ?」
それを聞いたバンとスズ、リルの三人は一斉にラピスを見た。
ヨキとリースは今の自分達の状況を見ると、ラピスに抱き寄せられている事に気付き、顔を赤くして大慌てでラピスから離れた。
するとフィービィーは鞄から緑色の石板を取り出し、それをキールに見せた。
キールは石板を受け取り、不思議そうに見つめていると、それを見たスズが驚いた声で言った。
「あぁ! アーカイブのパーツ!」
それを聞いたヨキ達は驚いた顔でフィービィーを見た。
まさかアーカイブの一部が見つかるとは思ってもみなかったのだから仕方がない。
そんなヨキ達の様子を見たフィービィーは軽く説明し始めた。
「キールを探している途中で見つけてね、これをアンタ達や他のスピリットシャーマンが探してるっていう噂を聞いたから」
それを聞いたヨキ達は他にもアーカイブのパーツを探している者達がいた事とスピリットシャーマンがいた事に驚いた。
キールはフィービィーにその者達の事について聞いた。
「フィービィー、そいつらの名前とか特徴、わかるか⁉」
「一人なら解るわ。確か、薬師 ケイっていって水色の髪と目と青白い肌が特長だそうよ」
「ケイ⁉ ケイは僕の幼馴染なんです!」
「やっぱりアクアシーフの生まれ変わりだったか。ソイツ今何処にいるかもわかるか?」
「確か水の社っていう所に行くらしいわ。もう場所は見つけといたし、案内するわ!」
偶然にもケイの消息がわかり、キールの予測通りシャーマンの生まれ変わりであり、他にもシャーマンやアーカイブのパーツの一部を探す者達の事を知ったヨキ達は、キールの今世の親友である少女、フィービィー・シースカーレットに案内されてケイ達が向かう目的地、水の社に自分達も向かった。
数刻というのは、現実で言う数日の事です。




