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第27話 現れしは仮面の男

 フォルシュトレッカーのレーヴェとシュタインボックはヘルシャフトの本拠地にいた。

 レーヴェとシュタインボックは、本拠地に用意されたフォルシュトレッカー専用の小さな屋敷の中に入った。


 エントランスにはヨキ達と別行動中のケイ達を襲ったクレープス、ユングフウラ、ヴァーゲ、シュッツェの四人、残る六人のフォルシュトレッカーが集まっていた。

 不機嫌そうなシュタインボックを見たヴァーゲはからかうような喋り方でシュタインボックに話しかけた。


「うぷぷっ。随分とコテンパンにやられたみたいだねぇシュタインボック♪」


「うるせぇ! お前こそこの間の任務しくじってたじゃねぇか」


「あれはクレープスの判断による戦略的撤退ってやつさ♪」


「どっちにしろしくじったって事だろうが!」


 ヴァーゲの口車に乗せられたシュタインボックは、苛立ちをぶつけるようにヴァーゲの両頬を摘まんで八つ当たりをし始めた。

 その様子を見ていた窓際の椅子に座っているネックウォーマー状のチュニックを着た少年は、見かねたように二人に声をかけた。


「二人共そうやってじゃれ合うのは良いけどさ、皆の迷惑だよ?

 これから大事なミーティングなんだから」


 チュニックを来た少年に言われたシュタインボックは、仕方なくヴァーゲの両頬を放し、近くのソファーに座る。


 シュタインボックに摘ままれていた頬をさすりながら、その様子を楽しんでいたヴァーゲだったが、隣に座っていたユングフラウに頭を叩かれ叱られてしまった。

 全員が揃った事を確認すると、その中の一人である少年が話し始めた。


「今の俺達はカトレア・シロップを捕え、十三番目のフォルシュトレッカーにする事だ」


「ですがあの女は私の矢を軽々と(かわ)していますし、このままでは脅威となります。

 やはり抹殺するべきでは?」


「それだけ危険だからこそ、逆に利用しようって事なんだよ。

 わかってないなぁシュッツェは♪」


「もともと最有力候補に挙がっていたΦV(ファイブイ)25が消息不明になった以上、戦力の強化が必須のだから仕方がないわ」


 カトレアを抹殺するべきだというシュッツェに対し、そんなカトレアを逆に利用するべきだというヴァーゲ。

 シュッツェと同様にカトレアを抹殺するべきだとは考えているものの、行方不明のフォルシュトレッカー候補がいるという事で、仕方がないというユングフウラ。


 そんな中、ただ一人離れた所で立っている前髪を横にかき分け毛先に赤いメッシュを入れている青年がこんな事を言った。


「そんな事よりも、その肝心なΦV25の行方はどうなっている?」


「今も変わらず、主がヘルシャフト殿達に探させているが見つからないらしい。

 全く何処行ったんだか…」


「死んでたりしてな!」


 ヴァーゲは冗談のつもりで言ったらしいが、他のフォルシュトレッカー達は(すさ)まじい殺気を放ち、一斉にヴァーゲを睨みつけた。

 睨まれたヴァーゲは怯んだ。



*****



 その頃、水の社を目指し、旅を続けているケイ達は幻影の砂漠を抜け、近くの木陰で休んでいた。

 炎の社で遭遇したフォルシュトレッカーとの交戦以来、ケイとディモルフォセカ、そしてカトレアの三人は水の古文書を使って何かを調べていた。

 そんな三人を見ていたヒバリ達は何を調べているのか気になり、見かねたニヤトは三人に何を調べているのかを聞いた。


「なぁ、お前ら何調べとるんや?」


「えぇ、ちょっと気になる事があって…」


「あっこれじゃないか⁉ アイツらの名前!」


 丁度その時、ケイが水の古文書を使って探していた者を見つけた。

 ディモルフォセカとカトレアは、ケイの隣から水の古文書を覗き込んだ。


________________________________________ 

クレープス=蟹座  ユングフラウ=乙女座  ヴァーゲ=天秤座  シュッツェ=射手座  

________________________________________


 水の古文書に浮かび上がった字を見て、三人が何を調べていたのか分からないニヤト。

 カトレアがニヤトに解りやすいように説明し始めた。


「ニヤト、この間の奴らの事覚えてる?」


「この間っちゅうと、ラヴァーズとタメゴローを(さら)った連中の事か?」


 ニヤトはラヴァーズとタメゴローを攫ったフォルシュトレッカーと名乗った黒ずくめの少年少女達の事を思い出し、カトレアに聞いた。

 ニヤトとしては大切な仲間に手を出された事や、自身もシュッツェの攻撃で腕に重傷を負った。


 負傷した腕は既にケイの法術によって治ってはいたが、そう簡単に忘れられるような相手ではなかった。

 それはカトレアも同じだったようだが、カトレアには個人的に気になる事があったようだ。


「そう、アイツらの名前が妙に引っ掛かってね、それでケイに協力してもらって調べてたのよ。

 水の古文書を使えるのは、アクアシーフの転生者であるケイしかいないからね」


 何を話しているのかと気になったヒバリとラヴァーズもケイ達の傍に集まり始めた。カトレアは話を続けた。


「それでディモルフォセカがそいつらの名前に聞き覚えがあって出て来たのがこれって訳」


 ケイは周りにいるニヤト達に見えやすいように水の古文書の向きを変えた。

 最初はどういう意味があるのかわからなかったが、ラヴァーズがある事に気付いた。


「あれ? もしかしてこれ、せいざのナマエ?」


 それを聞いたヒバリとニヤトは古文書に浮かび上がっている文字をよく見た。

 確かにそこに書かれているのは星座の名前であり、しかもその隣にはフォルシュトレッカーと名乗った黒ずくめの少年達の名前も書かれていた。


「確かに星座だけど、俺の知ってる呼び方と全然違うぞ?

 恵みの村ではここに書いてる通り蟹座は蟹座って呼んでたし」


「地域ごとで呼び方が違うのよ。アタシの住んでた村では蟹座はキャンサー、乙女座はヴァルゴって呼ばれていたもの。

 他の大陸では天秤座の事をビランチャと呼ぶそうよ」


「言われてみれば、キザミの里では黄道十二宮と呼ばれる星座のみ呼び方が違うでごじゃる。

 射手座は人馬宮と呼ばれていたでごじゃるよ」


「地域によって呼び方が違うのを利用して、それが名前だと誤認識させて素性を隠していたのね」


 話を聞いていたニヤトは、あまり理解できた訳ではないが、そうする事によって本名を隠し、情報を得られなくする事くらいは簡単できるというのだけは理解した。

 しかし、カトレアとディモルフォセカは何か困ったような顔をしていた。


「でも、星座となると沢山あるし、何人いるのかもわからないな」


「そうね、星座の数は八八。全てとは言わないでしょうけど、大勢いたら対策のしようがないわ」


 ケイ達はそれを聞いただけでも動揺した。

 あれほど強い相手が何人もいるとなると、戦うのは勿論、対策を取るのも難しい。

 それ以前に問題が多々存在しているのだ。


 世界は広いためスピリットシャーマンやヘルシャフト以外の種族でも、特殊な力を持っている者達はいるとカトレアから教えられていたが、カトレア曰く自分が聞いた事がある話とフォルシュトレッカーとでは少し違う感じがするとの事だ。

 どういう事かと考えていると、ケイ達の背後から声が聞こえて来た。


「彼らは全部で十三人、いや、十二人といった方が正しいのかな?」


 突然聞こえた声に驚いたケイ達は一斉に後ろを振り返ると、そこには仮面をつけた男とヘルシャフトの少年がいた。

 知らない内にケイ達の後ろにいた仮面の男とヘルシャフトの少年。

 ヘルシャフトの少年の翼は白いため、ラヴァーズと同じ堕天らしい。

 誰よりも先に我に返ったニヤトは仮面の男とヘルシャフトの少年に何者かを聞いた。


「お前ら何者や⁉」


「僕の名前はヨル、この子の名前はロリー。

 幾度となく掟を破り、堕天として追放され追われている所を僕が保護した子だ。

 苛めないであげてね?」


 ヨルと名乗った男とロリーという堕天のヘルシャフトの少年。

 ケイ達も硬直状態からようやく元の状態に戻り、敵か味方かわからないヨルとロリ―の二人に対する警戒心を高めた。

 するとディモルフォセカは、ヨルにフォルシュトレッカーの事について聞いた。


「それよりもさっき十三人って言わなかった? フォルシュトレッカーって何なの?

 何故貴女は、フォルシュトレッカーの事を知っているの⁉」


 ヨルに対するディモルフォセカの問いを聞いたソラ達も、ディモルフォセカと同じ疑問を抱いていた。

 確かにヨルはフォルシュトレッカーについて知っているらしく、全部で十三人と言っていた。

 しかしいくつか引っ掛かる点があった。


 一つ目は何故ヨルがフォルシュトレッカーの事を知っているのか、二つ目はどうして何人いるのかがわかるのか、それだけでも十分可笑しい。

 その時点でケイ達はヨルがヘルシャフトとつながりがあるのではないかと疑い、警戒し始めた。

その時、ロリーがヨルに代わって話し始めた。


「ヘルシャフトとは優秀な逸材を見つけ、自分達にとってまだ見ぬ脅威となるものを抹殺するために彼ら彼女らを鍛えた。

 それだけじゃない、彼ら彼女らは精霊石と呼ばれる鉱石に宿る力を体内に宿す事で、本来持つ事がない筈の力を持っている」


「それって、人工的に能力者を生み出すって事⁉」


 ケイ達はロリ―の口から伝えられたフォルシュトレッカー誕生の経緯を聞いただけで混乱し始めた。

 フォルシュトレッカー達の正体が優秀な一般人で、しかもヘルシャフトが持っていた精霊石と呼ばれる、特別な功績に宿る力を体内に宿しているというのだ。


 という事は、普通の一般人にはないスピリットシャーマンのような能力があるという事になるが、そんな事をすればただでは済まないという事は言われずともわかった。

 混乱するケイ達に構わず、ロリーは話を続けた。


「一番目の星座、フォルシュトレッカー・ヴィダー(牡羊座)から十二番目の星座、フォルシュトレッカー・フィシュ(魚座)までの計十ニ人。

 そして、ΦV25と呼ばれる十三番目の候補がいたが、現在居所がわからず、生死は不明だ」


「それって、行方不明っちゅうことか?」


「それでもあんなにこわいひとたちが、あと八人も…?」


 ロリーの話を聞いたケイ達は驚いた。

 ΦV25と呼ばれる人物が存在しており、ΦV25と呼ばれる人物以外を除けばフォルシュトレッカーは一番目から十二番目、最初に言われた通り十二人いる事になる。


 十二人いるだけでもこれからの事にかなり影響してくるが、ヨルが十三人といった後十二人と訂正したため十分な理由になる。

 そしてヨルはある事をケイ達に告げた。


「ヘルシャフトはΦV25がいなくなった分の戦力を補うために、優秀な人材を探しているみたいなんだ」


「優秀な人材って、あの時ユングフラウが言っていた言葉の理由は、そういう事だったの⁉」


 ヘルシャフトが優秀な人材を探していると聞いたディモルフォセカは、ユングフラウが言っていた事を思い出した。

 確かカトレアの身柄を拘束する、その時はどういう事なのか解らなかったが、ようやくその意味が解った。


 ヘルシャフトはカトレアを“新たなるフォルシュトレッカーにする”つもりなのだと気付いたディモルフォセカは、思わず青ざめた。


(あの時は、本当に運が良かったんだ…。

 仮に生き延びる事ができたとしても、カトレアがアイツらに捕まっていれば、待ち受けているのは…)


 もしラヴァーズとタメゴローを救出する時にカトレア以外が殺され、仮に生き伸びる事ができたとしてもカトレアがそのまま捕らえられていれば最悪の場合、親友であるカトレアと殺し合うかもしれないという。


 自分にとって恐ろしい事実に恐怖した。

 どうやらケイとヒバリもその事に気付いたらしく、ヨルに向かって答えが正しいかどうかを問いただす。


「おい! その人間ってまさかカトレアの事なのか⁉」


「カトレア殿は凄いでごじゃるが、他にもいる筈でごじゃる!」


「冗談じゃない!

 あがいな連中と同類になるなんて、死んでも嫌よ!

 そがいなもんになったら、一生後悔するに決まっとる!」


 自分がフォルシュトレッカーにされると知ったカトレアは、激しく拒絶した。

 ディモルフォセカ同様に自分にとって恐ろしい事実に気付き、死んでもフォルシュトレッカーになりたくないと叫んだ。

 そんな事実も、ヨルが言った一言ですぐに消えてしまった。


「確かに彼女以外にも候補となる人材はいるさ。けどね、理由はそれだけじゃない」


「え?」


「ねえさんがねらわれるりゆうが、それだけじゃない?」


 カトレアだけが狙われる理由が、凄いというだけではないというヨルの言葉に疑問を抱くケイ達。

 カトレアは生まれながらの天才だと、ディモルフォセカが前に言っていたためそれだけでも理由は十分の筈なのに、それだけでもまだ不十分だと言われると、どういう事なのかわからなかった。

 しかしヨルはディモルフォセカとカトレアを見て、更に謎を深めるような言葉を言った。


「Ms.シロップはMs.ガーネットと供に一つの可能性を秘めているんだ。

 その可能性は、君達にとってはヘルシャフトに勝つための切り札となりえる。

 だからヘルシャフトはその可能性を潰したいんだろう」


(アタシ達がヘルシャフトに勝つ切り札、もしそれが本当だとすれば、この先勝てる、ラヴァーズを守れるかもしれない…。

 でも、それってどんなものなの?)


(私とカトレアに秘められた可能性。

 関係があるとすればスピリットシャーマンの法術だけど、それらしい話は一度も聞いた事がない。

 ダメだわ、全然思いつかない)


 ヨルの言葉を聞いて驚いたケイ達は、一斉にディモルフォセカとカトレアの方を見た。

 二人に秘められたその可能性を、ヘルシャフトが恐れているのならカトレアを狙う理由十分な理由になる。

 自分達が切り札になると言われたカトレアは、切り札と言われた可能性が何なのか思いつかず、ディモルフォセカも全く心当たりがないようだ。


「アナタは、そのことを伝えるためにぼくたちのもとに来たのですか?」


「言われてみれば、確かにそうやな」


「アンタらは俺達の敵なのか、味方なのか⁉」


 カトレアの背後に隠れる形で身構えていたラヴァーズが、ヨルとロリーがそのために来たのかと二人に聞いた。

 一度攫われたラヴァーズとしては、ヨルとロリーが自分達の目の前に現れた理由をはっきりさせておかないと、不安だったのだろう。

 しかしヨルの返事は全く異なる答えだった。


「残念だけどそれは違うよ。僕達は“君達を止めに来た”んだ。

 敵か味方かで言われると、どちらとも言えないね」


 自分達を止めに来たという言葉に驚いたケイ達は、やはりヨルはヘルシャフトと繋がっているかもしれないと疑い、身構えた。

 それを見たロリーは地面から炎を出し、身を守るようにヨルと自分の周りを覆った。

 ヨルは何かを悟るかのように溜め息をついた。


「成程。君達はまだ若いし、これ以上“精霊戦争”に関わるのをやめさせたいとは思ったけど、どうやら強引にでも止めるしかないみたいだね」


 仮面のせいでヨルの表情は解らなかったが、その声だけでもヨルの今の感情は解った。


「ディルカ、どうする⁉」


「相手の実力がわからない以上、出方を伺いましょう。

 無暗にやたらに攻撃を仕掛けても、こちらの手の内をばらすだけよ」


「ラヴァーズは後ろに下がって。ニヤト、悪いけどラヴァーズの護衛、お願いしてもいい?」


「おう! 任しとけ!」


 ヨルとロリ―の実力が未知数である以上、下手に動くべきではないというディモルフォセカの提案に従い、ケイ達は武器を構えヨルとロリ―の出方を伺う。

 そしてしばらくの間、互いの睨み合いが続いたが、ついに戦いの幕が切って落とされた。

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